3D都市モデルを活用した延焼シミュレーターの高度化事業
実施事業者 | 国際航業株式会社 |
---|---|
実施場所 | 神奈川県相模原市 中央区/南区/緑区の一部 |
実施期間 | 2023年5月~2024年3月 |
3D都市モデルのデータを活用し市街地と中山間地を網羅したシームレスな延焼シミュレーションを開発。
効果的な消火・救助活動等による消防力の強化や一般市民への防災意識の向上を通じて災害に強いまちをつくる。
効果的な消火・救助活動等による消防力の強化や一般市民への防災意識の向上を通じて災害に強いまちをつくる。
本プロジェクトの概要
自然災害の激甚化・頻発化する昨今、消防の現場においては、大規模火災が発生した場合に備え、各自治体が保有している延焼シミュレーション等を用いて訓練を行っている。
しかしながら、現在流通している延焼シミュレーションにおいては、地形の考慮がなく、また、建築物の構造・高さ方向の考慮が単純化されており、シミュレーションの精度が高いとは言えない状況にある。
相模原市では、都市計画基礎調査等のデータが付与されている3D都市モデルのデータを活用し、地形や建築物の高さ、構造種別、建築年等の建築物に関する多様な情報を加味することにより、延焼シミュレーションの精度向上を図るとともに、地形を加味することにより山間地での活用可能なシミュレーションを開発する。
そして、本システムの汎用性を評価し、「3D都市モデルを活用した延焼シミュレーターの高度化事業」について社会実装可能か検証する。
実現したい価値・目指す世界
消防の現場において、大規模市街地火災や林野火災が発生した場合の被害軽減は、最重要課題のひとつである。
相模原市では、3D都市モデルの地形や建築物データを活用することにより、従来は困難であった市街地と山間部をシームレスにつなぐ延焼シミュレーションを実現することで、災害発生時の消火・救助活動などの消防業務を支援し、被害を最小限にとどめることを目的として検証を行っている。
具体的には、2023年度の「3D都市モデルを活用した延焼シミュレーターの高度化事業」(以下、本事業)では、単体建築物の火災進行モデルと建築物間の延焼モデルを用いた火災の燃え広がりに基づく市街地の延焼拡大予測を、地形や建築物における3D都市モデルのデータを活用することにより、市街地火災のシミュレーション精度向上を図るとともに、中山間地域でも使用可能なプログラム開発のための検証を行った。
日本国内では、中山間部における延焼シミュレーションの標準的な手法が確立されておらず、中山間部に隣接している建築物を考慮した、建築物から林野又は林野から建築物への延焼にかかる計算式の確立やパラメータの設定などの専門的な知識が必要となるため、地方公共団体等の実務現場での活用が広がっていない。
そこで本事業では、地形や建築物の高さ、構造種別、建築年等の建築物に関する多様な情報を保持している3D都市モデルを活用し、これに風向・風速、地震動の影響(被害率)、燃料(植生)等のデータを組み合わせることで、延焼範囲をより現実に近い状況から把握することを可能とした。
従来はシミュレーションに必要な建築物等のデータを用意することが容易ではなかったが、本事業では、データ整備から3Dによる結果の可視化を可能とした。中山間部を保有する全国の行政実務レベルで実装し、大規模災害時を想定した訓練や地元住民への防災訓練において、防災意識の向上や普及啓発に活用することができる。
このような市街地・中山間部をシームレスにシミュレーションできる汎用性の高いシステムを開発することで、日本全国での市街地火災及び林野火災への対応・対策が容易に行えるようになり、火災により生じる延焼被害を最小限に留めることに寄与すると期待される。
検証や実証に用いた方法・データ・技術・機材
本事業では、市街地延焼シミュレーションの手法として、国土技術政策総合研究所の市街地火災総合対策支援ツールの高度な市街地火災シミュレーション※1(以下、国総研延焼シミュレーション)を採用し、シミュレーションに使用する基礎データとして3D都市モデルを用いた。国総研延焼シミュレーションは、「火災がどの建築物を通じて拡がっていったかを推定可能」、「時系列変化の予測が可能」、「建築物一棟単位の予測が可能」である等、消防に役立つ機能を多く備えている。また、国総研延焼シミュレーションは高さ方向(建築物の高さ・階数)や建築物の構造等をシミュレーションの基礎データとして反映可能であり、3D都市モデルを用いることで、より精度の高いシミュレーションが可能となる。
検証結果を表示するための「簡易表示機能」を併せて構築し、検証で実施したシミュレーション結果の3D・時系列表示を可能とした。
※1国土地理院技術資料(2010)C・1-No.400「高度な画像処理による減災を目指した国土の監視技術の開発総合報告書」2024年7月3日閲覧
検証で得られたデータ・結果・課題
国総研延焼シミュレーションの基礎データとしての3D都市モデルが活用できるように、「建築物データへの標高反映の有無によるシミュレーション結果の差異」について検証を行った。
プロジェクト対象エリアの相模原市には、傾斜地にも多くの住宅が存在する。そのような場所では、建築物自体の高さのみならず、地盤の標高によっても延焼動態が異なることが想定されるため、標高反映の有無によるシミュレーション結果の差異を確認した。
今回検証したケースでは標高を考慮した場合の方が、燃え広がり方が大きく、延焼速度も速いことが確認された。
国総研延焼シミュレーションでは、標高データを反映したシミュレーションが可能であるが、「地面」が考慮できておらず、建築物底部から延焼する可能性が懸念される。追加検証として「地面」を想定した耐火構造の地物を基礎データとして追加し、「地面」考慮の有無によるシミュレーション結果の差異を確認した。
検証の結果、特に傾斜が急な地点において、地面を考慮した場合の方が、燃え広がり方が小さく、延焼速度も遅いことが確認された。「地面」を想定した耐火構造の地物の設定により、建築物底部への延焼を遮断できたものと推定される。
今後の展望
2023年度に開発したシステムを基礎としつつ、2024年度には林野部における住宅から林野又は林野から住宅への延焼にかかるパラメータの検証を進め、市街地・中山間地延焼プログラムを構築する。
また、ユーザーが任意の出火点からのシミュレーションを実施可能とするソフトウェア(延焼シミュレーターユーザインターフェース)を構築し、市街地と中山間地を網羅したシームレスな延焼シミュレーションを実現する。
プロジェクト対象エリアの相模原市の西部における中山間地において大規模災害が発生した場合には、市街地火災及び林野火災が同時に発生することや林野部における住宅から林野又は林野から住宅への延焼が想定される。
日本の国土の約7割は自然的土地利用であり、中山間地における延焼シミュレーションを実装することができれば、汎用性が高まり、火災による損害額や森林の焼失面積の減少へと繋がることが期待される。
防災分野以外にも、延焼遮断帯となる都市計画道路整備における効果検証、木造住宅密集地域における消防活動困難区域の解消に向けた住民との合意形成等、防災まちづくりの観点からも延焼シミュレーションを展開していく。