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どのように価値を創造し、顧客に届けるか――PLATEAUアクセラ採択8チームが挑戦。ビジネスモデル構築の基本とは?

PLATEAUの活用アイデアから新事業を創出する伴走支援プログラム「PLATEAU Accelerator」レポート

「Project PLATEAU(プラトー)」は、国土交通省が主導する都市デジタルツインの社会実装プロジェクトだ。2023年度は、PLATEAUから生まれたアイデアや技術シーズをビジネス化させるための伴走支援プログラム「PLATEAU Accelerator」を実施している。8チームが採択され、7月28日から9月29日までの2カ月間にわたり特別講義とワークショップ、個別メンタリングを実施し、PLATEAUを活用した新事業の創出を支援する。今回は、8月25日にオンラインで開催された第3回のプログラムの模様をレポートする。

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松下典子(Noriko Matsushita)
編集:
北島幹雄(Kitashima Mikio)/ASCII STARTUP編集部
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第3回のテーマは「ビジネスモデル」。オンライン講義とワークショップで事業計画書を作成

プログラムの参加者は全4回の講義&ワークショップ、計3回の個別メンタリングを受けて事業計画書を作成し、最終日の成果報告会イベントで発表する(参考記事:「PLATEAU Accelerator」参加者決定!「PLATEAU」を通じた新たなビジネスの創出を目指す)。講義は各4時間のオンライン形式で実施され、第1回の講義「DX戦略」では事業テーマを決定、第2回「基本フレーム」では顧客と提供価値を策定した。

8月25日に開催された第3回「ビジネスモデル」では、株式会社エンパブリック代表取締役の広石拓司氏が講師を務め、ビジネスモデルの考え方の基礎についての講義と、ビジネスモデルキャンバスを使ったビジネスモデル構築のワークショップを行った。

株式会社エンパブリック代表取締役、ソーシャル・プロジェクト・プロデューサー
広石 拓司氏
東京大学大学院薬学系修士課程修了。シンクタンク勤務後、2001年よりNPO法人ETIC.において社会起業家の育成に携わる。2008年株式会社エンパブリックを創業。ソーシャル・プロジェクト・プロデューサーとして地域・企業・行政など多様な主体の協働による社会課題解決型事業の構築に多数携わる。慶應義塾大学総合政策学部、立教大学大学院21世紀社会デザイン研究科などの非常勤講師も務める。

講義はZoomで実施され、最初に講師の広石氏がビジネスモデルの基本を解説し、チャットで参加者と意見を交わしながら理解を深めていった。

『ビジネスモデル・ジェネレーション ビジネスモデル設計書』(アレックス・オスターワルダー、イヴ・ピニュール著、小山龍介翻訳)によれば、「ビジネスモデルとは、どのように価値を創造し、顧客に届けるかを論理的に記述したもの」と定義されている。

世の中にはまだPLATEAUによるサービスやビジネスが十分に認知されておらず、使いたいと思っている人は少数だ。そこで、顧客が利用したくなるような価値をつくり、手が届きやすく、使いやすいことを効果的に伝えることが重要になる。

ほかのアプリやサービスで足りている場合、乗り換えてもらうだけの強い動機付けがいる。また顧客に届けるには、販路の確保のほか、価値を感じてもらうための実証実験や広報活動、安心して使ってもらうためのサポートや定期メンテナンスも必要だ。これらを実現するための具体的な方法や組むべきパートナー、費用を考えていくのがビジネスモデル構築の流れとなる。

商品・サービス開発から顧客に届けるために必要なコスト構造と収益化の方法を考える(講義画面より)

ワークショップ:ビジネスモデルキャンバスを使って事業のストーリーを考える

ワークショップでは、ビジネスモデルキャンバスを使ってビジネスの全体像を可視化する作業に取り組んだ。ビジネスモデルキャンバスは、顧客セグメントやチャネル、パートナー、コスト構造といったビジネスの構成要素を9つのブロックで表現するものだ。

事前配布されたビジネスモデルキャンバスのワークシート。①~⑨のブロックに要素を書き込み、ビジネスの構造を可視化する

まず各自でビジネスモデルキャンバスに要素を記入し、その後4チームずつ2つのブレイクアウトルームに分かれて、作成したビジネスモデルキャンバスをベースに、1)収益が増えるストーリー、2)投資をして競争力を向上させるストーリー、以上2つのストーリーを説明するグループワークを行った。

中間発表で、ほかの参加者と講師のフィードバックを得て、ビジネスモデルキャンバスをブラッシュアップ。再度、ブレイクアウトルームに分かれて、より具体的なストーリーを説明するワークを行った。

最後に、1チームずつ発表し、広石氏が講評を行なった。今回のワークショップを通じて、不足している要素、チャネルやマネタイズへの課題が明確になったようだ。ほかの参加者のフィードバックから当初想定していた顧客ターゲットや収益化の方法を見直すチームもあった。

通学路の危険度マップを開発する阿久津好太氏は、「当初は、自治体やカーナビなどに販売するモデルを考えていたが、転校先の治安、危険度があらかじめわかるサービスにすると不動産業者などにも顧客が広がるのでは、というアイデアをもらった」とコメントした。広石氏は講評として、「自治体や不動産業者へはどうやって営業するのか。販路として誰と組むべきか、そのための費用はいくらかかるのかまでを詰めることが必要」と述べた。

屋上の太陽光発電設備の3Dモデルを作成する「Rexplorer」を開発するエストニア発のスタートアップ企業Rexplorer社は、PLATEAUを活用することで日本への参入を目指している。顧客セグメントとして電力会社、地方自治体、屋根に設置する不動産会社などを想定しており、日本のパートナー企業を見つけることが大事だ。広石氏は、「PLATEAUと組み合わせるプラスアルファの価値、例えば、信頼性の高いPLATEAUの3D都市モデルを使うことで、顧客に対してよりインパクトのあるプレゼンができる、などをアピールするといい」とアドバイスした。

災害啓発シミュレーションゲームを開発する百武優一氏は「教育機関をターゲットにしていたが、売り込むにはどうすればいいか、という甘かった部分が明確になった」と話した。広石氏はアドバイスとして、教材の専門家とパートナーを組むことを提案した。

郡山市の地域ジオラマをカプセルトイ化するプロジェクトを提案する園田駿希氏のチームは、「学生規模の活動として考えていたが、他チームの意見を聞いて、将来的にビジネスとして広げられるのではないかと考えるようになった。若い世代が学ぶ場所をつくるのがプロジェクトの目的なので、それをまず満たしつつ、収益を得られる仕組みをつくることが大事」と話す。広石氏は、「カプセルトイのマシンを売るのか、景品のみを売るのか、PLATEAUを用いたジオラマ制作のコンサルをするのかによってビジネスが変わってくる。まずは商品を明確にすること」とアドバイスした。

地域活性化に向けてリアル世界と連動したメタバースを開発する武村達也氏は、「リアルなメタバースをつくるというぼんやりとした目標だったが、キャンバスを書いていくことで、何が不足しているのか、チャネルやマネタイズをどうするか、といった課題が明確になった」という。広石氏は、「わがまちの魅力がバーチャル空間で再現されるのが、このサービスの価値。土地の素材を生かしたイベント企画が得意な人とパートナーを組んでみては」と提案した。

最終講義の第4回「財務計画」では、コストと収益の金額を見積もり、財務計画を策定していく予定だ。それまでにビジネスモデルキャンバスを完成させ、収入とコストの流れを整理して具体的な金額を調べておくこと、各自のビジネスの想定業界規模を調査することを宿題とした。

講義後と個別メンタリングを経て作成した事業計画書は、成果報告会イベントにて発表される。成果報告会は、9月29日にオンサイトとオンラインのハイブリッドで開催され、オンラインで生配信する予定だ。PLATEAUの3D都市モデルを活用したビジネスアイデアに興味のある方はぜひ視聴していただきたい。

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