uc22-010

災害廃棄物発生量シミュレーション

実施事業者パシフィックコンサルタンツ株式会社
実施場所神奈川県横浜市
実施期間2022年4月〜2023年1月
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3D都市モデルを用いた精緻な災害廃棄物発生量のシミュレーションを実施することにより、円滑な復旧・復興を目指す。

実証実験の概要

大規模災害からの復旧・復興に向けては、倒壊建物等から発生する災害廃棄物の円滑な処理が重要な要素の1つである。そのためには、地震等の大規模災害発生時の被害想定に基づいた事前準備が必要であるが、データに基づく災害廃棄物の発生量計算やこれに基づいた仮置場の集積範囲を含む処理計画の立案の検討が十分進んでいない地方公共団体も多い。

今回の実証実験では、3D都市モデルを活用することにより、個別建築物の被害発生の有無に基づく災害廃棄物発生量を推計し、これに基づく都市全体での災害廃棄物発生量の把握及び処理計画の検討を行う。これにより、災害廃棄物処理計画を精緻化し、復旧・復興の迅速化に貢献することを目指す。

※掲載画像は実証実験の概要を示すために作成したものであり、検討成果ではございません。

実現したい価値・目指す世界

首都直下地震等の大規模災害が懸念されるなか、「復興まちづくりのための事前準備ガイドライン(国土交通省、平成30年7月)」においては、地方公共団体が取組むべき様々な事前準備のひとつとして、「復興事業に必要となる用地の事前検討」やそのための基礎データの事前整理・分析の必要性が示されている。

災害廃棄物の処理用地は、円滑な復旧・復興に必要な用地のひとつであり、地方公共団体においても災害廃棄物処理計画の策定が進められている。一方で、各地方公共団体の災害廃棄物処理計画においては、災害廃棄物発生量は建築物の床面積等を一定程度抽象化して行っている場合や、廃棄物の発生場所と仮置場用地の地理的関係が具体的に定められていない場合があるなど、より実効性が高い処理計画の立案に向けた対応が求められる。

今回の実証実験では、3D都市モデルが持つ建物ごとの属性(建築年・建物構造・建物階数・延床面積等)に想定震度などの被害要因の各種データを重ね合わせることにより、指定した任意範囲での災害廃棄物発生量のシミュレーションを行う。これらの算定結果を活用することにより、仮置場ごとの集積範囲の検討や、用地が不足するエリアにおける対策案の検討を行い、災害廃棄物処理計画の高度化を推進する。

対象エリアの地図(2D)
対象エリアの地図(3D)

検証や実証に用いた方法・データ・技術・機材

本実証実験では、3D都市モデルの属性(建築年・建物構造・建物階数・延床面積等) に横浜市において想定される地震等の外力データを重ね合わせることにより、精緻な災害廃棄物発生量の算定を行うとともに、算定結果に基づく仮置場の割当ての検討が可能なQGISプラグインシステムを開発した。

災害廃棄物発生量の算定については、これまでメッシュ単位での算定や、市・区における建物平均延床面積を用いることが一般的であった。これに対し、今回開発した災害廃棄物発生量をシミュレーションするアルゴリズムでは、3D都市モデルを活用することで、建物1棟ごとの建築年・建物構造(木造・非木造)・建物階数を被害判定のパラメータとして利用して、精緻な推定を可能としている。具体的には、揺れによる建物倒壊を行うため、建物構造別・年代別に設定されている全壊・全半壊の被害率曲線式に、想定される計測震度を入力することで、建物ごとの揺れによる被害率を算出している。その他の被害要因(液状化・急傾斜地崩壊・津波・火災)についても、被害発生条件に該当する建物を3D都市モデルの建物属性を用いて抽出し、建物ごとの被害発生状況を算定した。これらの建物被害状況に3D都市モデルから抽出した建物ごとの延床面積と、災害廃棄物の質量・体積に変換する原単位を乗じることで災害廃棄物発生量を算定した。

算定した建物ごとの災害廃棄物発生量を3D都市モデルから作成した建物の重心ポイントデータ(建物の重心位置)の属性情報として付与し、このポイントデータをQGISで集計可能なcsv形式として整備することで、施策検討に有効な範囲での集計を可能にした(本実証実験では、集計単位として町丁目を採用)。

また、発生した災害廃棄物の処理に要する仮置場の割当て判定に必要なデータについては、施策検討に必要となる仮置場候補地を抽出の上、災害廃棄物処理に使用可能な概略の有効面積を図上計測した。これらの仮置場の情報はGISポイントデータとして整備し、属性情報として仮置場名称や概略有効面積等を付与している。

これらのバックデータの整備方法については、QGISプラグインシステムとともに、各種マニュアル・災害廃棄物発生量の算定シートとして公開した。

QGISプラグインシステムは、これらのデータをインプットデータとして、仮置場割当てをユーザーがGUI上で検討できる仕組みとしている。ユーザーは、町・町丁目単位で地域を選択し、そこから発生する災害廃棄物発生量と指定範囲内の仮置場候補地の概略有効面積を集計するとともに、仮置場面積の過不足状況が確認できるよう、仮置場必要面積と仮置場概略有効面積との比較結果をグラフ表示で出力可能にした。これらにより、職員自ら仮置場の割当ての妥当性を確認しながら検討できるようにした。

災害廃棄物発生量等の算定の概要
施策検討(仮置場の割当て)の概要

検証で得られたデータ・結果・課題

3D都市モデルを活用した災害廃棄物発生量のシミュレーション結果に対して、横浜市における従前の算定値との差異の要因分析による精度検証を行った。本事業での算定方法は従前の方法を踏襲しているが、時点更新による建物棟数や建物延床面積の増加により、従前値よりも災害廃棄物発生量等が大きい結果となった。また、建築年不明建物を危険側(被害想定における建築年の区分のうち最も古いもの)に評価して算定したことも災害廃棄物発生量増加の要因となった。

このように施策検討に使用するデータとしての妥当性を確認した上で、横浜市全域での仮置場割当て検討を行った。結果として、市内の公有地約160箇所の仮置場候補地が必要となり、市街地特性によっては、他区との連携が必要となる地域の所在が明らかになった。

これらの結果を踏まえた横浜市との協議を通じて、公有地や民間用地を活用した新たな仮置場候補地確保や発災時の仮置場運営体制構築の必要性などの、今後の政策面の課題が明らかになった。本事業における災害廃棄物発生量シミュレーションの結果により、具体的な不足地域とその規模が明らかになったため、仮置場割当てに関する庁内や産業廃棄物処理事業者等の関係者との協議の際に、定量的な分析に基づいた説得力のある今後の用地検討が期待できる。

技術的な課題として、本事業で開発したQGISプラグインシステムは、仮置場割当て範囲を検討するにあたって、選択範囲での仮置場の過不足情報を確認する作業を都度試行しなければならないことが市職員を対象とした操作説明会において課題として挙げられた。そのため、各町丁目における仮置場必要面積が一覧で表示されるなど、手戻りを解消するようなUI/UX構築が必要である。また、収集・運搬の適格性を勘案する上で緊急輸送道路の表示のみならず、平時における交通渋滞発生箇所の表示や災害廃棄物処理に使用する焼却施設位置等の補足情報の表示が必要である。

QGISプラグインシステム(対象地の選択画面)※データはダミー化処理済
QGISプラグインシステム(選択範囲での集計結果画面)※データはダミー化処理済
QGISプラグインシステム(割当て結果の表示画面)※データはダミー化処理済

参加ユーザーからのコメント

操作説明会・意見交換に参加した横浜市の職員より、以下のコメントがあった。

・災害廃棄物発生量シミュレーション結果や、市全域における仮置場の割当て検討の結果により、大規模災害時における課題が明確となった。特に現在想定できる仮置場のみならず、新たに確保すべき用地の適切な位置・規模について明確になった。
・今後は開発したQGISプラグインシステムを活用しながら市全域の仮置場割当て結果を見直していくとともに、新たな仮置場候補地の確保に向けて取り組みたい。また、仮置場割当てを行うことで、災害時の仮置場運営についても予見される課題があった。市内産業廃棄物事業者と連携しながらこれらの運営面における対策や効率化についても検討を進めたい。

今後の展望

今後のQGISプラグインシステム拡張の視点として、仮置場が不足するエリアの災害廃棄物を他区の仮置場に運搬することを想定し、緊急輸送道路等の幹線道路を使用した場合の移動距離を計測するなどの広域輸送評価機能の開発が挙げられる。

また、本事業で対象とした首都直下地震等の大規模災害に加え、近年において激甚化・頻発化している水災害への活用が考えられる。具体的には、各河川氾濫による建物浸水による建物被害・災害廃棄物発生量・仮置場必要面積等のデータを整備することで、本事業同様に水災害のケースでも仮置場割当ての検討が可能である。

これらの円滑な復旧・復興に向けた事前検討に加え、発災後の活用を想定した機能拡張も重要である。被災直後に人工衛星データを用いて浸水範囲や浸水深を速やかに特定し、これらのデータと3D都市モデルの属性情報を掛け合わせることで、実際の建物被害の状況を踏まえた災害廃棄物発生量の算定が可能となる。この算定結果を踏まえ、事前に検討した仮置場割当てを見直すことで、災害廃棄物処理の初動期対応の円滑化への貢献が期待できる。