uc22-027

雪害対策支援ツール

実施事業者株式会社ウエスコ / 株式会社構造計画研究所
実施場所兵庫県朝来市
実施期間2022年4月~2023年3月
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3D都市モデルを活用した風雪・融雪シミュレーションを実施し、雪害による地域のリスクを可視化。雪による被害の予防や減災に役立てる。

実証実験の概要

近年、地域の少子高齢化等に伴い豪雪による災害が顕著化しており、改めて雪害対策が社会的課題として認知されている。高齢者の屋根雪下ろし作業中の死亡事故も多く、豪雪時の屋根雪の重みによる建物の損壊リスクの事前把握や効率的な除雪体制の確保の検討が必要である。

今回の実証実験では、3D都市モデルの屋根形状や属性情報を活用した風雪・融雪シミュレーションを実施し、建築物の積雪荷重に対する損壊及び落雪リスクの評価・可視化ツールを開発。さらに、この結果を3D都市モデル上でわかりやすく可視化することで、地域の雪害対策における有用性を検証する。

実現したい価値・目指す世界

豪雪地域では、高齢化や人口減少、建設業の衰退が進んでいるが、近年の地球温暖化を要因とした気候変動による降雪強度の変動も相まって、屋根雪下ろし中の事故や家屋損壊、長期的な都市機能の麻痺等の豪雪による災害が顕著化し、人命に関わる社会的課題として改めて認知されている。

今回の実証実験では、3D都市モデルの屋根形状を活用した三次元の風雪・融雪シミュレーションを行うことで、雪の吹き溜まりや屋根への積雪量の偏在などを把握するとともに、この情報に3D都市モデルの属性情報を組み合わせることで、積雪による建築物の損壊及び落雪のリスクを広域で評価するツールを開発する。

また、積雪リスクの評価結果を行政が活用できるよう、街区における屋根雪被害の発生リスク、除雪困難路地の状況、積雪量に応じた除雪作業量などをわかりやすく可視化する雪下ろし優先度マップを作成。路面の積雪量に応じた除雪作業計画の立案や除雪体制の検討、雪かき・雪下ろし支援等の幅広い地域の雪害対策に活用する。

こうした屋根雪被害リスク評価の体系的な手法や地域の被害リスクの可視化手法の開発を通じて、豪雪地域における屋根雪被害の軽減に貢献することを目指す。

対象エリアの地図(2D)
対象エリアの地図(3D)

検証や実証に用いた方法・データ・技術・機材

今回の実証実験では、3D都市モデルを活用し、風雪・融雪による積雪量の空間分布をシミュレーションするとともに、この結果に基づき、建屋の耐雪性や地域の脆弱性を示すデータ等を評価指標として算出し、都市が抱える雪害リスクを解析する手法を開発した。

風雪・融雪シミュレーションシステムは、オープンソースのCFD解析ソフトウェアであるOpen FOAMのソルバーをカスタマイズして開発し、これと3D都市モデルを組み合わせることにより街区レベルで吹き溜まりや日陰部分の残雪等の詳細な解析が可能となった。基にしたソルバーは非定常の圧縮性乱流解析ソルバーrhoPimpleFoamと凍結した流れ場での熱輸送解析ソルバーthermoFoamの2つであり、これに新潟工科大学富永教授が開発した3次元気流解析に基づく雪の浸食・堆積と雪面熱収支に基づく融雪の推定モデルを表現できるようにカスタマイズを行った。3D都市モデル(建築物モデルLOD1、LOD2、地形LOD1)はFME Desktopを利用してOpenFOAMに取り込み可能なSTL形式へと変換したうえでインポートし物理的な環境条件として利用した。その他、和田山観測所の気象データ(風速、風向、積雪量)等の環境情報(CSV形式)をインプットデータとした。

算出した風雪・融雪シミュレーション結果は、積雪重量分布データとしてCSV形式で出力した。これをインプットデータに、積雪に対するリスク評価を行うため、3D都市モデル(建築物モデル)が持つ個々の建物の構造及び建築年代を与条件とする被害関数を用い、屋根雪の積雪深による建物被害(小屋梁、垂木の損傷率)を算出し、建物のリスク評価とした。建物被害のアルゴリズムは既往研究(「北海道における在来軸組み工法住宅の耐雪性能に関する研究-小屋梁および垂木の損傷リスクについて-」(千葉ら, 2015,北海道科学大学研究紀要, 第39号))の被害関数を利用した。また、積雪量分布データと、建物被害リスク、地域ごとの高齢化率、建物密集度の情報をもとに、外部からの雪下ろし等の除雪支援・援助の必要性を把握するための雪下ろし支援優先度評価の手法を開発した。具体的には、積雪荷重による建物被害のリスクと、地域の脆弱性の評価指標である地域の高齢化率、地域の建物密集度のリスク値を足し合わせ、これらの合計値から、外部からの支援等の必要性を評価することとした。

加えて、積雪量分布データと道路幅員、沿道建屋の立地状況をもとに、大雪時に閉塞リスクの高い道路を抽出する道路閉塞リスク評価と、閉塞リスク箇所の閉塞解消に要する時間を算定する排雪時間評価の二つの評価手法を開発した。

以上の手法で算出した積雪量の分布データ、建屋リスク評価、雪下ろし支援優先度評価等の結果は、自治体職員が扱いやすいよう、QGISを用いた2次元のマップで表現するとともに、Unityのビルドアプリにより3次元空間上において分かりやすく可視化した。

風雪シミュレーション
雪下ろし優先度評価

検証で得られたデータ・結果・課題

3D都市モデル(建築物モデルLOD1,LOD2、地形LOD1)を用いた風雪・融雪シミュレーションにより街区レベルでの気流の再現、吹きだまりの状況、融雪による積雪荷重の増加などの推定が可能となった。今回は、令和3年12月豪雪による既往最大積雪シナリオと、100年に1度程度の年最大積雪による積雪深に、同規模の24時間最大降雪を加えた積雪シナリオ(最悪のシナリオ)の2ケースについてシミュレーションを実施し、この結果を可視化することで吹き溜まりなど積雪の偏在が表現できた。一方で、今回の風雪・融雪シミュレーションの外力条件は既知のものであったことから、今後の予測値を表現する場合は、リアルタイムの気象予測データを取り込んだ解析を計算資源の問題と合わせて検討していく必要がある。また、既知の外力設定を多段階に変化させる機能を実装することで、積雪量や重量分布の遍在状況とその発生頻度について、リスクマップなどにより街区の積雪特性の可視化が可能となる。

また、建屋リスク評価は、風雪シミュレーションの結果及び3D都市モデルの建築年や構造種別を用いて、建物一棟ごとに積雪荷重による建物倒壊リスクの評価を実施できた。一方で雪下ろしの優先度評価では、高齢化率等の社会情報は小地域のデータでしか得られなかったため、今回の雪下ろし優先度評価は小地域単位での評価となり、建物ごとの評価は実施できなかった。道路除雪については、3D都市モデル(道路LOD1)を活用することで、街路や路地等の細かな区間での積雪量や閉塞リスクの高い箇所を把握することが可能となった。これらの結果を3D可視化することで、大雪時に多様な関係者との意思疎通のためのリスクコミュニケーションツールとして活用可能であり、また、雪害への備えとして、地域防災計画や除雪計画等の行政計画作成への活用、雪害に対する様々な施策(大雪援助隊の派遣準備、ソフト施策等)検討への活用が可能であることが確認できた。一方で、道路LOD1は高さ情報をもたないため、道路の3D可視化は各ポリゴンを統合し、標高に道路高を合わせる表現とする必要が生じたため、立体交差部、トンネル部、橋梁部も標高に合わせた表現になり、表現上の課題が発生した。また、各ポリゴンを統合したことで、細かい区間で付与した評価結果を3D可視化できない課題が生じた。

大雪援助隊の必要性と積雪状況の可視化
建屋倒壊リスクの可視化(雪表示なし)

参加ユーザーからのコメント

現地実証に参加した朝来市職員から、コミュニケーションツール・行政計画への活用について以下のコメントがあった。

・大雪が降る場所が事前にわかれば、市民とのリスクコミュニケーションのツールとして活用でき、対策の優先順位など行政計画へ活用できる。
・独居老人などの情報は地域にヒアリングするとわかるので、そういった情報も属性として付与することができれば事前の雪害対策も立てやすい。
・色々なデータがまとめられて、庁舎内でも誰もが見られて活用できるようなプラットホームがあると良い。
・全市域でのシミュレーションができれば汎用性が広がる。建屋の倒壊は空き家等、老朽化が進んだ古い家屋に多く、都市計画区域外も注目する必要がある。
・現状の建物への評価とする場合は、3D都市モデルのデータ更新も重要。

今後の展望

風雪・融雪シミュレーションを用いた積雪状況の街区レベルでの3D空間分布を推定し、屋根雪被害リスクやエリアにおける雪下ろし優先度評価結果の可視化、積雪量結果による道路閉塞リスク箇所の抽出や排雪に要する時間の推定を行う試みは、全国的にも事例が少ない。本実証を通じて、街区レベルでの風雪・融雪シミュレータ(OpenFOAMソルバー)、積雪量・建屋属性情報・地区別の社会情報を用いた屋根雪被害リスク等の体系的な評価手法が開発された。さらに、本評価手法は、評価対象地域の日射量や風の影響も考慮できることから、北日本や北海道等の特別豪雪地帯にも適用可能である。特に3D都市モデルを用いた可視化は、雪下ろしの人手不足に対するボランティア支援等の地域マネジメントにおいて、直感的に扱える効果的な情報が提供できるものであり、今後の豪雪地域への水平展開が期待される。

また、風雪・融雪シミュレーションで開発したOpenFOAMのソルバーのソースコードもオープンソースとして公開対象となることから、今後、本ユースケースの成果の広い活用が期待される。