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MAPPLE法務局地図ビューアと3D都市モデルの連携による不動産各種業務の効率化

実施事業者株式会社マップル
実施場所3D都市モデル整備済の215都市
実施期間2024年9月~2025年1月
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登記所備付地図と3D都市モデルを重畳し、土地・建物の情報を確認可能な3Dビューアを開発。
机上での現地確認を実現することで、現地調査や資料収集の時間を削減し、不動産調査等の業務効率化を促進。

本プロジェクトの概要

不動産の調査や取引などの不動産関連業務では、オペレーション効率化やコスト削減の観点からオープンデータ活用による業務効率化が求められている。しかし、システムの導入による費用負担や、専門的な知識や技術を持つ人材の不足といった理由から、中小規模の不動産事業者は実務でのデータ活用によるDXを実現できていない。
本プロジェクトでは、「MAPPLE法務局地図ビューア」に、3D都市モデルを重ね表示できる機能を新たに開発する。これにより、登記所備付地図と3D都市モデルが重なり、土地と建物のデータを同時に確認可能とし、不動産事業者の業務効率向上・不動産取引の意思決定支援を目指す。
本ビューアを試験的に公開し、中小規模の不動産事業者や他分野の事業者に利用してもらい、Webアンケートを実施する。回答結果をもとに、不動産事業者や他分野の事業者が業務において、試験公開するビューアを有効活用できる可能性を把握し、3D都市モデルの活用可能性および今後のビジネスの可能性について検証する。

実現したい価値・目指す世界

近年、国・自治体が公開するオープンデータを始めとした様々な地理空間情報の整備が進んだことにより、紙からデジタルへの移行、手作業の削減、それによるコスト削減といった不動産分野のDXが可能な環境が整いつつある。
その一方、地理空間情報を新たに活用する際には、GISシステムの新規導入やデータ取り込み作業といった対応が必要となる。不動産事業者にとっては、システム導入によって発生する費用や、作業時にシステム・データを利用するうえで必要となる専門的な技術・知識が不足している。そのため、地理空間情報の活用が進まず、従来から行っている現地調査や資料収集に多くの労力と時間を費やしており業務効率化が進んでいない。
本プロジェクトでは、 Webブラウザ上で一般公開中の「MAPPLE法務局地図ビューア」に3D都市モデル(建築物・地形)を追加搭載し、登記所備付地図(土地)と3D都市モデル(建物)の重ね表示が可能なビューアを開発する。本ビューアを試験公開し、不動産事業者を始めとするビューア利用者にWebアンケートを実施する。
アンケートを通じて、3D都市モデルを手軽にWebブラウザ上で重ね表示できること、および土地データと建物データを連携することの有用性を確認することで、ビューアを業務において有効活用できる可能性を把握する。また、3D都市モデルの活用による不動産事業者の業務効率化や、3D都市モデル活用促進のために必要な情報や機能といった事業者のニーズを検証する。
MAPPLE法務局地図ビューアと3D都市モデルの連携を図りビューア形式でGISシステムを提供することで、不動産分野をはじめとする「事業者の業務効率の向上」や「取引者の意思決定支援」への貢献を目指す。

検証や実証に用いた方法・データ・技術・機材

本プロジェクトでは、2024年9月時点で整備されている215自治体の3D都市モデル(建築物モデルLOD0~2、地形モデルLOD1)を、Web配信用のベクトルタイルに変換し、既存のMAPPLE法務局地図ビューアに搭載した。これにより、利用者は専用ソフトをインストールすることなく、Webブラウザ上で土地と建物の情報収集や空間的な確認をスムーズに行うことを実現している。また、建物は用途に応じて色分けして見やすさを工夫したほか、ビューア上でのマウスのクリックによる土地や建物の情報の表示、利用用途に応じた2D/3Dの表示やコンテンツの表示/非表示の切り替えによる表示内容の変更が可能となっている。

MAPPLE法務局地図ビューア上での建築物の確認イメージ
MAPPLE法務局地図ビューア上での地形の確認イメージ

不動産事業者の調査業務等の効率化や、取引者の意思決定支援に3D都市モデルを活用する可能性を考察するために、本ビューアのユーザビリティー検証と利用者へのWebアンケートを行った。 

検証で得られたデータ・結果・課題

3D都市モデルのデータを追加したMAPPLE法務局地図ビューアの動作性を確認するユーザビリティーの検証を実施した。併せて利用者へのWebアンケートを実施し、不動産事業者の業務効率化に向け、ビューアに搭載した3D都市モデルの有用性、ビューアの表示機能の実用性を検証した。
ユーザビリティーの検証として、3D都市モデルを重ね表示することによる動作速度の変化の検証を実施した。具体的には、3D都市モデルの建築物、地形を表示する際の処理時間を計測した。その結果、建築物は約4秒、地形は約1秒で表示され、ビューアを利用するうえでおおむね問題ないことが明らかになった。ただし、地形の表示時に地図画面を傾けると上記以上に時間がかかる傾向が見られた。
この理由はビューア上で斜めから鳥瞰する場合に表示範囲が広域となり、広域の地形データの読み込みが発生するためと考えられる。ただし、こうした場面は不動産事業者などの通常業務ではあまり想定されないことを考えると、本ビューアのユーザビリティーが実務に耐えうるものであることは確認できた。
3D都市モデルを搭載したMAPPLE法務局地図ビューアは2024年10月31日から公開した。同日、画面上にアンケートへのリンクを掲載する形でWebアンケートも公開し、2025年1月7日まで回答を受け付けたところ、200件以上の回答が寄せられた。
他の地理情報コンテンツとの連携の可能性として、災害ハザードマップとの連携を望む声があった。これは不動産価値を評価するうえで、災害の要因となる地形や建物特性(高さや建物の種別)が重要であり、3Dでの可視化との親和性が高いと考えられる。本ビューアで災害関連情報を閲覧可能とすることで、不動産価値の評価業務の効率化や高度化にも貢献すると考えられる。
本ビューアの利用者の傾向として、アンケートの回答によると不動産および不動産関連業の小規模な事業主が多かった。利用シーンとしては、不動産調査における土地確認や建物の状況確認、森林や農業関係の業務での地形確認等に利用したという回答を得た。業務においては、時間や作業の削減効果や、不動産取引の意思決定につながる周辺把握がしやすくなったとの声が多く、中小の事業者に向けたサービス展開の可能性がある。具体的なニーズとしては、他の地理情報コンテンツとの連携や印刷(出力)機能等が挙げられた。ただし、これらのニーズは個別意見に留まり、実際にサービス展開を行うにあたっては不動産事業者の業務におけるニーズを深掘りした上での追加機能実装の検討も必要である。また、3D都市モデルの表示を「継続してほしい」と回答した割合は約8割と一定のニーズが確認された一方で、ビューアを「利用しなかった」と回答した主な理由として3D都市モデルの整備範囲外であることが挙がっており、3D都市モデルの整備範囲の拡大が本ビューアの利用拡大の前提となることが改めて確認された。さらに、現地を3Dで確認可能な類似したサービスと比べた際に本ビューアを利用するメリットが少ないという意見もあった。これは、現時点では業務で利用するうえでの機能やコンテンツの不足に由来すると考えられ、ビューアの利用促進に当たっては、ニーズを踏まえた地理情報コンテンツの追加及びマップル社が保持するコンテンツを用いた差別化が必要になると考えられる。

MAPPLE法務局地図ビューア利用者の3D都市モデル利用の意向

また、不動産分野以外でも建設・補償コンサルタント、官公署(土木・建設・造園)、損害保険会社、森林や農業関係といった業種において本ビューアの利用が見られ、他分野へのサービス展開の可能性も明らかとなった。

MAPPLE法務局地図ビューア利用者の職種

今後の展望

本ビューアの利用者から、「3D都市モデルを追加した本ビューアの利用により、現地確認や資料収集に要する作業時間が削減され、さらにビューアの確認には高度な技術が不要なため情報共有が容易であり、業務の効率化に寄与している」といった意見が得られた。これにより、本ビューアの業務での活用可能性が確認された。
一方、本ビューアの活用による業務効率化に向けては、他の地理情報コンテンツとの連携や印刷(出力)といった機能へのニーズも判明した。今回判明したニーズを踏まえ、来年度前半にビジネス化に向けた詳細な検討をさらに進める。そのうえで、実際のビジネス化の可能性がより高まれば、来年度末リリースを目指した準備を進める。
また、MAPPLE法務局地図ビューアでは引き続き3D都市モデルの表示を行い、ユーザーの需要や活用可能性の情報収集を継続する。将来的には、3D都市モデルの整備範囲の拡大による本ビューアの活用の裾野が広がりつつ、追加機能実装ニーズへの対応やビジネスモデルの具体的な検討を通じて、多様な業界において本ビューアの利用を通じた業務効率の向上が図られることが期待される。