画像の定量分析による眺望シミュレーションサービスの開発
実施事業者 | 森ビル株式会社 / PLATEAU Windows |
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実施場所 | 東京都港区 |
実施期間 | 2024年9月~2025年1月 |

3D都市モデルを活用し、建物全体からの眺望のシミュレーション結果を一括出力する機能を開発。
シミュレーション結果をもとに、建物全体から対象物の視認性を定量的に算出・ヒートマップで可視化し、効率的な眺望の把握・分析による不動産開発の検討段階の高度化を実現。
シミュレーション結果をもとに、建物全体から対象物の視認性を定量的に算出・ヒートマップで可視化し、効率的な眺望の把握・分析による不動産開発の検討段階の高度化を実現。
本プロジェクトの概要
不動産の開発計画において、周辺建物との視線関係や特定の対象物の視認性の評価は、重要な検討項目の一つである。しかし、眺望の検討手法としては精度の低い定性的な画像のみの確認が一般的であるほか、コストや時間がかかる高度なシミュレーションが行われる機会は限定的となっていることから、実態に近い高度な眺望検討が実現できていない。
本プロジェクトでは3D都市モデルから計画建物と確認対象物を選択し、計画建物に設置した各視点場での眺望画像を3D都市モデルが配置されたシーン上で生成しつつ、視認性指標の一括算出を行う。さらに計画建物全体での視認性指標の数値分布を確認できるヒートマップを生成する機能開発を行う。検証では、シミュレーションで出力された眺望画像の結果と実際の眺望写真を比較することで精度を確認する。あわせて不動産開発担当者にヒアリングを行い、眺望シミュレーションにおける定性・定量情報の有用性を検証し、眺望検討の高度化を図る。

実現したい価値・目指す世界
不動産の開発計画において、3DCG技術を活用したシミュレーションは、景観や日影、意匠検討などで広く活用されており、極めて重要な役割を担っている。そのなかで、眺望検討においてドローン撮影や3DCGの制作といった手法は機材の準備や製作に高額な費用がかかるため、計画の初期段階では現地写真や地図情報を利用した簡易的で精度の低い検証が主流となっている。また、従来の眺望シミュレーションは視点設定を1点ずつ手作業で行うため、建物全体でシミュレーションを行う際には視点設定の作業に時間と手間がかかる。そのため建物全体でのシミュレーションを行う機会が少なく、視点の数が制限され、シミュレーションを繰り返すことによる多様な比較は難しいという課題がある。そして、シミュレーションの結果の評価は出力された画像の定性的な評価にとどまり定量的な比較や分析が行われていない。
本プロジェクトでは、不動産開発初期の眺望検討に使用する眺望シミュレーションを開発する。3D都市モデルが配置されたシーン内で視点を一括で設定し、建物全体の眺望画像を出力することで多様な眺望シミュレーション結果を比較可能にする。また、それぞれの眺望画像から特定の対象物の視認性を指標として算出し、計画建物全体での指標の分布を色のグラデーションで可視化したヒートマップを出力する。これにより定性・定量の両面での比較や分析が可能となり、眺望シミュレーションにおける質と効率性の向上が図られる。3D都市モデルを活用することで、ドローン撮影や3DCGデータの作成が不要となり、従来手法と比べた作業時間や費用の削減が図られるとともに、将来的には3D都市モデルが整備された全域でのシミュレーションが可能となる。
これにより、不動産の開発計画において多様なシミュレーションを実現することで、より良い景観の検討や、より高い付加価値の不動産開発が可能になる。また、将来的に3D都市モデルの整備地域の全域でシミュレーションが行えるように適用範囲の拡大を目指すほか、数値を使ったデータ分析や眺望評価、新たなサービスの創出など、活用用途や分野を拡張して不動産開発の検討段階のさらなる効率化を目指す。



検証や実証に用いた方法・データ・技術・機材
本プロジェクトでは、眺望シミュレーションの効率化や定量評価を実現するPCベースのアプリケーションを開発した。本アプリケーションは、3D都市モデルが配置された3Dシーン内で眺望シミュレーションを行う対象となる「計画建物」と計画建物からの視認性を確認する「対象物」を選択し、シミュレーションを行う粒度(高さと水平方向の間隔)を決定すると、自動で計画建物に視点場を等間隔で設置して各視点場における眺望画像と対象物の視認性を表す「視認性指標」が一括で算出される機能を実装した。
さらに、計画建物全体での視認性指標の数値分布を確認できるよう、ヒートマップを生成し3D都市モデル上への表示を実装した。ビューワーではマウス操作で角度を変更し、様々な角度から確認可能とした。

視認性については、従来の都市開発の眺望シミュレーションで行われていた協議検討内容を踏まえて視点場からの対象物の「見える・見えない」「見える度合」を以下の通り定義し、アプリケーション内で一括算出した。
1.視野内率(=visibleVolumeScore)対象物が視点場の画角から見切れずに視認できる割合。
2.開放率(=clearViewScore)対象物が地物によって遮蔽されずに視認できる割合。
3. 中心度(=centralScore)対象物が視界の中心にどれだけ近いかを評価する指標。(左右中央評価×上下中央評価)
4. 視覚占有率(=visualOccupancyScore)視点場の画角全体において対象物が画角内に占める割合。
また、1.2.3.の指標はランドマーク等の建物を対象とし、4.の指標は空や水面、緑地などのランドスケープを対象とした。さらに、1.視野内率に2.開放率を乗じた数値を算出しランドマークの総合スコア(=landmarkTotalScore)とした。
検証では、既存建物を検証上の計画建物、東京タワー等を対象物と設定して眺望シミュレーションを行い、処理速度とシミュレーション精度の検証を実施した。
また、シミュレーション結果について不動産開発担当者へのヒアリングを実施し、画像のみで評価していた従来の方法からの拡充点や意義、活用シーンや展開可能性について議論し、サービス展開についての評価や将来的な可能性の検討を行った。
検証で得られたデータ・結果・課題
計画建物上に1178箇所の視点場を設定した眺望シミュレーションを実施したところ、処理時間は約2分で目標値の5分以内となり、十分な処理速度を達成した。また、シミュレーション精度を検証するため、シミュレーションにより生成された眺望画像と実際に既存建物で撮影した眺望写真を比較し、1)両者の画像としての差異(映っている建物の形状や面積等の違い)、2)両者から算出される視認性指標の差異の2点について検証を行った。3D都市モデルの整備から時間が経過しており、3D都市モデルと実際の街並みと異なることが要因で一部の差異が見られたが、目標値としていた1)5%以内、2)10%以内を達成した。
また、不動産開発担当者へのヒアリングにて上記の処理速度とシミュレーション精度の検証結果について確認したところ、処理速度については従来のシミュレーションより短時間で結果がでること、眺望画像が一覧で確認できることへの評価が高かった。また、シミュレーション結果と眺望写真の差異については、この指標が景観協議等の公的な判断や研究などの指標として用いられる場合はより厳密さを求められる可能性があるが、実務での使用に概ね問題ないという見解を得た。
不動産開発を行う部署(設計部門、オフィス事業部門、住宅事業部門)を対象に、本システムおよび得られた眺望シミュレーション結果を説明し、実業務における本システムの利用可能性についてヒアリングを行った。
その結果、視認性指標に関しては部門ごとに評価が異なり、住宅事業部門ではランドマーク性の高い対象物の視認性は価格設定において重要であることから、定量的に算出した視認性指標を業務で活用できる可能性があることが分かった。また、定量化された空の開放率も他物件と比較可能であるため、開発地域以外の物件との比較により開発物件の優位性を示す根拠としてオフィス事業部門の営業での活用に期待の声があるなど、不動産開発業務における有用性を確認することができた。このように実業務において有用であるという意見が得られたのは、本システムで眺望を定量化したことによるものであった。一方、設計部門からは、定義した指標では部分的な眺望評価を行うにとどまり、業務での活用は難しいという意見が出た。業務での活用に向けては、眺望全体を評価する指標の定義を検討する必要がある。
また本システムに関連した意見として、特定のものがどれだけ「見えるか」だけでなく、近隣から「見えない」ことを確認したいというニーズや、眺望以外の定量化として「日照時間」や近年オフィスに求められる要素として高まりを見せている「緑視率」などのバリエーションを持たせることで活用場面が増え、民間活用ニーズが高まるだろうといった意見も寄せられた。
これらの検証により、3D都市モデルを活用した眺望シミュレーションを実施することで、不動産開発の検討段階の業務を高度化できる可能性があることが分かった。また、定量的な指標を物件価格の設定や営業時の根拠資料に活用するなど、開発の検討段階以外でも活用機会があることが推察された。



今後の展望
本検証では、計画建物全体での眺望画像の一括出力による効率化、画像に指標・ヒートマップを加えることによるシミュレーションの定量評価を通じた質の向上を目指して開発を行った。この結果、指標のみで眺望の価値を評価するまでは至らないという指摘があったものの、指標を参考資料として不動産価格の設定や営業シーンで活用したいといった意見が得られ、不動産開発において眺望シミュレーションを業務で活用できる可能性が確認された。また、短時間でシミュレーションの結果が得られることや、これまでのように建物の一部で部分的なシミュレーションを何回も行う必要がなくなることによる、作業の効率化も実現した。
他方、指標の分布を色のグラデーションで可視化したヒートマップは、建物全体での視認性指標の傾向を把握し詳細確認すべき視点場をピックアップするためには有用な手法であったが、視認性指標の数値の差異が小さい場合は色の差異が分かりづらいため、グラデーションの変化幅や色の選択などデザインの観点での改良の必要性が明らかになった。また、整備済みの3D都市モデルの更新頻度に関しても指摘があり、シミュレーションを行う際には眺望に影響がある範囲の3D都市モデルが実際の街並みと同じ状態になっているか留意が必要である。
本検証の有用性ヒアリングにおいて、複数建物の眺望比較や開発案件でのシミュレーションなど不動産開発の実業務で活用する具体的なアイディアが出た。ビジネス創出においては、ヒアリングで提示された複合的なシミュレーションとして、複数建物の眺望比較、日照時間や緑視率などの定量化・可視化の機能追加検討を2025年度中に行い、不動産開発や不動産仲介など不動産関連業などを対象にした3D都市モデルを活用したシミュレーションによる業務の効率化と高度化を実現するビジネス創出を模索していく。