uc20-027

工事車両の交通シミュレーション

実施事業者株式会社竹中工務店
実施場所大阪府大阪市
実施期間2021年3月
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3D都市モデルのリッチな情報を取り込むことで、都市における複雑かつ多様な要素を考慮した工事車両の交通シミュレーターを開発。都心部の大規模開発における地域住民の安心と円滑な施工の両立を目指す。

実証実験の概要

都市開発における大規模な建設工事では、地域住民の安全・安心を確保しながら施工業者の円滑な資材搬入を実現することが課題となる。

今回の実証実験では、3D都市モデルを用いた工事車両の搬入経路のシミュレーションを実施し、施工業者と地域住民に与える影響・価値を検証する。

実現したい価値・目指す世界

大規模な建設工事においては、様々な地域から工事現場に向かって多数の工事車両や工事関係者の通勤車両が押し寄せる。そのため、工事現場付近の交通渋滞の発生や、地域住民が抱く安全や騒音に対する不安とそれらに起因するトラブルが課題となる。一方で、建設工事のスケジュール遅延防止のため、人員や資材を工事現場へ計画通りに搬入することも重要である。

今回の実証実験では、2025年大阪・関西万博の開催に伴い、再開発が活発化している大阪市において、3D都市モデルを活用して道路・橋・高架を考慮した工事車両が通行可能なルートをシミュレートする。さらに、地域住民の生活圏や通学路、騒音の発生といった工事施工業者が配慮すべき要素をシミュレーションに取り込むことで、地域住民の安心と円滑な工事を両立させる最適な工事車両ルートを導き出すことを目指す。これにより、複数の工事施工業者が同時並行的に参画する大規模なプロジェクトにおいて、複雑な車両搬入計画をスムーズに立案することが可能となる。

対象エリアの地図(2D)
対象エリアの地図(3D)

検証や実証に用いた方法・データ・技術・機材

3D都市モデルを活用して大阪市内の建物や道路、橋、高架等のオブジェクトをシステムに取り込むとともに、3D都市モデルが持つ「都市の属性情報」をアルゴリズムに取り込んだ工事車両のルートシミュレーターを開発した。

3D都市モデルには、学校、教育施設といった建物の用途に関する情報や住宅エリア、商業エリアといった地区の用途に関する情報が含まれている(セマンティクス)。これらの都市空間に関する属性情報とともに、工事車両の大きさや積載状態の有無等の情報とあわせてシミュレーターの変数として扱うことで、地域の住民の生活圏やスクールゾーンをなるべく避けるルートの算出を試みた。

さらに、3D都市モデルの持つ建物の壁面面積や高さといった形状情報(ジオメトリ)と道路の幅員、建物との距離等のデータを組み合わせ、ルート上の工事車両が発する騒音レベルが許容範囲内にあるかについてもシミュレート。その結果もルートシミュレータに取り込み円滑な工事計画の立案・調整に活用することで、施工業者や周辺住民等の多様なステークホルダーにとって最適なルートを導出できるかを検証した。

このサービスの効果検証として、複数の施工業者が同時並行的に参画する大規模な建設工事を想定した業務シミュレーションを実施。ルートシミュレータを活用することで業務改善・効率化が図られるかの検証を行うとともに、地域住民、施工業者、運送業者等へのヒアリング・アンケートを実施。延べ30名程度の被験者の協力を得て様々な観点でサービスの価値・効果を実証実験で検証した。

大型重機輸送専門事業者の方とシミュレータを使用して搬入計画を検討
建設工事現業部隊と交通影響解析への活用についてディスカッション

検証で得られたデータ・結果・課題

今回の実証実験により、3D都市モデルを活用した最適ルートシミュレーションサービスを利用することで、大規模な建設工事における複雑な搬入計画・調整業務の効率化を実現できることが確認された。また、住民・運送業者等に対して、従来の図面資料に比べわかりやすい情報提供が可能となり、地域住民の安心や工事に対する理解促進に資する新たなソリューションを提供できる可能性を認識できた。

また、3D都市モデルの建物データの利用によりシミュレータ構築がより簡便・迅速に行えるだけでなく、属性情報という3D都市モデルならではのデータもパラメータとして活用することで、より現実的な条件でルートをシミュレートすることができ、実際の工事計画の立案・調整に具体的に寄与し得るポテンシャルが示された。

一方で、今後のサービス拡大・社会実装に向けては、ルート上の交通量、混雑度、工事現場への関係者の通勤車両といった交通シミュレーションに影響を与える多様な変数の取得とアルゴリズムへの取り込みが必要である。また、シミュレーション結果を算出したうえで、これを現実の工事計画に反映し、円滑な施工に繋げるための方法論についても今後の深堀が必要である。

ルートシミュレーション結果の表示
騒音シミュレーション結果を踏まえ住宅街を走行
車両集中日の各車両通行ルートから交通影響箇所を特定
工程計画時の車両台数積み上げ、交通集中日を解析

参加ユーザーからのコメント

・大規模建設工事特有の搬入計画策定及び各社との調整業務において、大きな効率化に資することを期待できる
・住民目線では、自宅近隣の大きな建設工事に際し、どのような工事車両がいつ、何台通るのかといった情報提供や可視化により安全へ十分に配慮した計画であることを納得した
・運送業者としては、3D都市モデルを活用することで現場周辺の搬入ルート調査効率化が期待できる。また、車両待機所やその空き状況などが分かるようになれば、ドライバーの健康面や安全管理面に大きく寄与することになる

今後の展望

本実証実験の結果を踏まえ、シミュレータの精緻化、パラメータの拡充を行い、本シミュレータの実用化に向けた検討をさらに進めていく。特に、大阪府市のスーパーシティ構想ロードマップを念頭に大阪市の再開発工事での活用を想定した検証を行う。

検証ポイントとして、まずは実用化に向けたシミュレータ機能の改良を図るとともに、通行に際し綿密な計画が必要な大型車両への適用を重視する。この通行シミュレーションのために、道路・歩道・並木といった交通路の詳細化のみならず、信号・案内板・電柱・電線といった情報の付加も必要と想定している。詳細度の高い3Dコンテンツの充実により、実際の交通シーンを想定し、現実に耐えうる精緻な交通シミュレーションを実施する。

さらに、リアルタイムの工事現場で活用することを目指し、GPSやIoTと連携した工事車両のリアルタイムモニタリングや作業員輸送の運行管理といったサービスを構築する。それによりさらなる建設工事の効率化・高度化を進め、建設工事の最先端へと昇華させていく。

将来的には3D都市モデルを活用することで、大規模建設工事において地域住民の安心と円滑な工事の両立を可能とする「建設物流プラットフォーム」を構築し、全国の建設工事へ展開していくことを目指す。