3D都市モデルを基礎としたIDマッチング基盤
実施事業者 | 一般社団法人社会基盤情報流通推進協議会(AIGID) |
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実施場所 | 静岡県沼津市 |
実施期間 | 2022年12月〜2023年1月 |
3D都市モデルを基礎データとした地理空間情報の自動マッチング・ID特定基盤を開発。あらゆる建物関連のデータをIDで連携させることを目指す。
実証実験の概要
近年、地理空間情報の活用が活発になる一方、建物や土地に関する様々な情報が別個に存在し、統合が進んでいないため、総合的、複合的なデータ分析の課題となっている。
今回の実証実験では、3D都市モデルの幾何形状を基礎データとして多様な地理空間情報をマッチング処理し、建物IDを介したデータ結合を行う基盤を構築することで、様々な地理空間情報の統合を促進する。
実現したい価値・目指す世界
近年、建物を取り巻くデータとして商用地図、3D点群データ、航空写真等の幾何データや不動産情報や登記情報等のテキストデータなど様々な主体によるデータ提供が増えてきている。一方、これらのデータの活用に向けては同じ建物を示すデータであるかどうかの判別(マッチング)そのものが課題となっている。建物データを基礎として様々なデータを統合するためにはIDによるデータ連携が重要となるが、IDによるデータ連携を進めるためにも、幾何形状をベースとしたマッチングが重要となる。
今回の実証実験では、同一建物のデータ連携を行うために3D都市モデルを基礎データとして、建物の同一性を幾何学的な視点でマッチング処理を行った上で、3D都市モデルの建物IDを介したデータ結合を行うマッチング基盤の構築を行う。
本実証を通して得られた知見・マッチングデータをもとに幾何学的情報によるマッチング精度の向上を継続して実施し、公的機関だけでなく民間企業を含めた各種建物データホルダーとの連携により、建物に関するあらゆる情報を提供できる建物IDマッチング基盤の構築を目指す。また、Web APIの整備を進め、建物IDマッチング基盤と連携したBtoB、BtoC向けのサービス開発を行うことで行政サービスの高度化や民間サービスによる生活の質の向上や経済活動の活性化を目指す。
検証や実証に用いた方法・データ・技術・機材
本実証実験では、同一の建築物に関する2Dの建物図形データ(住宅地図及び航空写真から自動検出した建物外形)や3Dの点群データ(MMS:移動計測車両による測量及び航空レーザによる測量)と、3D都市モデルの建築物モデル(LOD0、LOD1、LOD2)とを識別してマッチングさせるシステム・API及びフロントエンドのUIをウェブシステムとして開発した。マッチングシステムは、PostGISおよびPythonプログラムにより構築した。
1) 2Dマッチングシステム
2Dデータのマッチングシステムとしては、ゼンリン住宅地図及び航空写真の建物ポリゴンデータ(建築物の外周線)をインプットデータとし、同一建物と識別された3D都市モデル(建築物モデル)の建物IDを検索し、GeoJSON形式で対応テーブルを出力するシステムを開発した。
マッチングの仕組みとしては、まず、ゼンリン住宅地図が持つ住所情報及び3D都市モデルが持つ緯度経度情報を用い、OLC(Open Location Code:Googleが開発した位置を特定するコード)を使って両者の大まかな位置を特定する。次に、抽出した3D都市モデルの平面ポリゴンデータ(建築物モデルLOD0)とゼンリン住宅地図の建物ポリゴンの幾何形状の重複判定を行い、同一の建築物を識別した。幾何形状の重複判定は、3D都市モデルの平面ポリゴンデータとゼンリン住宅地図の建物ポリゴンとが重なっている場合に、重なっている部分の面積の割合を閾値として、20%以上のものを同一の建築物として判定するアルゴリズムを開発した。
また、航空写真とのマッチングについては、AIによる建物形状抽出手法*(東京大学関本研究室)を用いて航空写真から建物の外周線を自動的に検出し、抽出された建物ポリゴンデータを入力データとして、前述と同じ仕組みにより同一建築物を識別するシステムとした。
マッチングの演算結果には、ゼンリン住宅地図のID、3D都市モデル(建築物モデル)のID、航空写真のファイル名、両データの建築物モデルが持つ属性情報(建物用途等)、同一建物判定の信頼性評価指標が出力される。
2)3Dマッチングシステム
3D点群データのマッチングシステムでは、点群データを入力データとし、3D都市モデルのLOD1-2建築物モデルに対応する点群データの範囲を抽出するシステムを構築した。マッチングの仕組みとしては、入力データである点群データの平面位置(座標)を用い、その範囲に含まれている建築物モデルを抽出する。その後、建築物モデルの持つ各壁面の近傍に位置する点群データを建物領域の境界として抽出し、別データとして出力する仕組みとした。
MMS等による建物壁面の計測によって生成された点群データと、3D都市モデルの建築物モデルLOD1及び2の壁面の形状情報は必ずしも一致しない。これは、建築物モデルLOD1及びLOD2では壁面の形状が詳細に再現されていないことや、双方のデータが誤差を持つことなどによるものである。特にLOD1建築物モデルではそれが顕著となり、3D都市モデルと点群データの重複を抽出するだけでは建築物に対応する点群データを過不足なく抽出することは難しくなる。このため、抽出した点群を1mグリッドに間引き、建築物モデルの壁面面積の合計と点群の点数から算出した壁面面積の合計を網羅率として算出し、抽出範囲を最適化する機能を組み込んだ。
3) テクスチャ生成
3Dマッチングシステムによって抽出した点群データを用い、建築物モデルの壁面テクスチャを生成するシステムを開発した。テクスチャ生成の仕組みとしては、3Dマッチングシステムと同様のアルゴリズムを用いて、抽出した点群データを建築物モデルの壁面単位に再抽出し、建築物モデルのサーフェスID情報を点群データと紐づけた。壁面単位で抽出された点群データは別ファイルとして出力される。
点群データからテクスチャを生成するに当たっては、 数値解析ライブラリのSciPy と 画像処理ライブラリのPillowを利用した。この際、点群データの欠損部の画質を向上させるため、欠損部に最も近い点群を用いて補間する最近傍補間を行う仕組みを構築した。
建築物モデルに含まれる壁面サーフェス、再抽出された点群データ、生成されたテクスチャ画像を関連付けるため、テクスチャ情報ファイル(mtl)を出力する仕組みとしている。テクスチャ情報ファイルには、アンビエントカラー(オブジェクトの影を塗りつぶす色)、ディフューズカラー(拡散反射光の色)、スペキュラカラー(鏡面反射光の色)、スペキュラ指数(鏡面反射指数)、テクスチャ名といった情報が含まれる。その他、建築物モデル(obj)とテクスチャ(png)が出力される。
これらのシステムについて、3D都市モデルを作成している大手航空測量会社4社に対し、実データを使用したデモンストレーションを行い、結果についてのヒアリングから実務における有用性を検証した。
*Deep-learning based approach for building extraction and usage classification from fused DSM and satellite images. (2022).Deep-learning based approach for building extraction and usage classification from fused DSM and satellite images,第31回地理情報システム学会講演論文集, CD-ROM
検証で得られたデータ・結果・課題
1) 2Dマッチングシステム
2Dマッチングシステムの検証では、住宅地図・航空写真ともに90%以上のマッチング精度が得られた。ただし、マッチングできなかった建物は概ね入力データと3D都市モデルの建物データの作成時期の違いによる不一致であり、本システムが様々な建物データのマッチングに有用であることが確認できた。また、マッチング率が低い場合はサジェスト機能により同一建物と思われるものをユーザーに提案することで、実務上のマッチング精度をさらに高めることができた。
2)3Dマッチングシステム
3Dマッチングシステムの検証では、道路に沿って計測されたMMS点群データを用いた結果、対象の建築物を点群データが十分に網羅している場合は76%のマッチング率が得られた。一方、マッチング処理速度については、当初の想定より処理時間がかかる結果となり、Webサービスとして実用化するにあたっては、ハードウェア性能の向上、対象データ分割による並列処理化などの工夫が必要であることがわかった。また、道路から離れている建物や道路から見て別の建物の背後にある建物など、計測した点群データが対象の建築物を完全に包含していない場合にはマッチングができないことがわかった。
3) テクスチャ生成
テクスチャ生成システムの検証では、3D都市モデルの建築物モデルに対して、ある程度正確な範囲のテクスチャを生成できることが確認できた。一方で、道路上の植栽等の遮蔽により点群が適切に取得されていない場合などは、テクスチャ生成時の補間処理を行っても適切なテクスチャを生成できず、入力する点群データの品質が生成テクスチャの品質に直結することがわかった。また、3D都市モデルと点群データの形状が大きく異なる場合(特にLOD1)に適切な範囲でテクスチャが作成されないことがあった。
参加ユーザーからのコメント
・ゼンリン住宅地図とのマッチングシステムは、3D都市モデルを作成する際の建物の属性付与に役立つ
・航空写真のテクスチャでは粗いという自治体からの意見があったため、品質の高いテクスチャが作成できるため有用である。さらに高品質のテクスチャ作成のために、車載全方位カメラ画像などにも対応してほしい
・建て替えや新築等で建物が変更になった場合の一部データの更新時のテクスチャ作成に有効である
・データ容量を小さくするためにUVマップ化、CityGMLへの直接出力、複数の建物へのテクスチャ作成の一括処理を検討してほしい
・業務利用だけでなく、3D都市モデルの一部のテクスチャを精緻化するというユースケースに有効である
・将来的なサービス化に向けては、建物に関する情報として不動産IDも出力されるとよい
・マッチングを通じてデータ同士の経年変化の確認にも使えるのではないか
今後の展望
本システムを3D都市モデル整備・更新に利用できるよう、並列処理化やクラウド化等による利用環境の改善、ユーザインターフェースの改良などを進めていく。さらに、マッチング精度を高めるために属性データの活用や、テクスチャの生成に有効と考えられる車載全方位カメラ画像などへの対応について検討し開発を進めていく。これらのブラッシュアップを通じ、本システムを3D都市モデル整備事業者向けのサービスとして実装していくことを目指す。
さらに、この仕組みを単なる建物データのマッチングシステムとして展開するだけでなく、自治体や民間企業との連携により、各社が保有するデータを一元的に集約する仕組みとすることで、建物に関するあらゆる情報を集約するプラットフォームとして活用していく。用途・構造・階数などの建物現況情報、間取り・価格・取引履歴などの不動産情報、テクスチャ生成による建物外観の情報などの建物に関する基盤的なデータを住居表示や地番などのベースレジストリと紐づけてデータベース化していくことにより、行政サービスの高度化や民間サービスによる生活の質の向上、経済活動の活性化への寄与を目指していく。