公園管理のDX
実施事業者 | 国際航業株式会社/Pacific Spatial Solutions株式会社 |
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実施協力 | 国営越後丘陵公園事務所/越後公園管理センター |
実施場所 | 国営越後丘陵公園 |
実施期間 | 2023年10月〜12月 |
3D都市モデルを活用した公園管理システムを構築。管理業務をDXし、効率的なインフラ管理の実現を目指す。
実証実験の概要
現在の公園管理業務では、施設の点検・調査等の管理業務がアナログ主体で進められており、データ収集・管理方法が標準化されていない。そのため、公園設備の実態や履歴の正確な把握が難しく、データに基づく意志決定の実現にはハードルがある。
今回の実証実験では、3D都市モデルを活用した公園管理用のリレーショナルデータベースマネジメントシステム(RDBMS)を構築し、公園管理における管理者から現場担当者への方針伝達や点検記録、「公園施設長寿命化計画」に基づく方針立案や維持保全活動の情報共有に活用する。また、RDBMSに紐づく管理用アプリケーションを開発し、施設の管理類型や健全度・緊急度判定等を把握しながら点検や計画立案・更新等の管理業務を効率化・高度化することを目指す。
実現したい価値・目指す世界
近年、高度経済成長期に集中投資した社会資本ストックの老朽化が急速に進行しており、厳しい財政事情の下で適切にインフラの維持管理を行っていくことが施設管理者にとって重要な課題となっている。公園施設においても、老朽化が進む中で財政上の理由などで適切な維持保全・補修、もしくは更新が困難となり、利用禁止、施設自体の撤去といった事態に繋がるなど、安全で快適な利用を確保するという都市公園の本来の機能発揮に関わる根幹的な問題となっている。
今回の実証実験では、公園施設の効率的な管理のための3D都市モデルを活用したリレーショナルデータベースマネジメントシステム(RDBMS)及び管理用アプリケーションを開発することで、公園管理のDXを目指す。
公園管理の現場では、公園施設台帳や点検・修繕記録、図面、写真等の多岐にわたる資料がそれぞれ存在し、一部は紙資料によって管理されていることなどにより、点検施設の類型や点検時期の設定が不明瞭となったり、事務負担の増大などにつながっている。そこで、3D都市モデルの標準データモデルに準拠した公園管理用の地理空間情報(GIS)標準仕様を定め、これに基づくRDBMSを新たに構築することで、施設の位置、ボリューム、ID、施設現況、施設ごとの管理方針、点検実績等を統合管理可能とする。また、データベースと連携した管理用アプリケーションを開発することで、現場担当者が過去の履歴等を確認しながら点検・巡視業務を行えるようにし、点検結果をコメントや写真で効率的に共有できるようにするなど、日常的な管理業務の効率化を実現する。
これらの統合された管理システムを活用することで、公園管理者が公園全体の状況や健全度・緊急度判定等を正確かつタイムリーに把握し、公園管理における適切な方針検討や効果的な長寿命化計画の立案を行えるようにする。
これらの新たな管理システムのフィジビリティスタディを行うことで、公園の安全性の向上と業務効率化を実現する新たな管理手法を開発し、公園管理における慢性的な人材不足への対応や生産性の向上等を目指す。
検証や実証に用いた方法・データ・技術・機材
今回の実証実験では、日常的に巡視員によって実施されている園内の巡回点検を支援するモバイルアプリ(以下「巡回点検アプリ」という。)と、この巡回点検アプリから報告されるインシデント及び各公園施設の情報、3D地図を併せて確認できる公園管理支援ウェブアプリ(以下「公園管理アプリ」という。)を開発した。
「巡回点検アプリ」は、「異常対応時の記録など、必要時以外はモバイルに触らない」をコンセプトに、巡視員が園内の公園施設等に異常がないかの点検・報告・記録をする作業の効率化を目的とした。規定様式の巡回報告書へ異常対応箇所・内容、巡回時間、水温記録等を手書きで記録・転記する手間を省き、短時間でミスなく巡回報告書を作成できることを目指した。
具体的には、異常対応時に、巡視員が巡回点検アプリによりモバイル端末のGPS情報により公園施設テーブルを検索することで、最も近い公園施設名を取得し異常対応内容を登録する機能を実装した。これらは、位置情報を扱うPostgreSQLの拡張機能であるPostGISにより、ユーザーの現在地から最も近い公園施設を検索するために地理空間クエリを実行し、JavaScriptフレームワークであるReact.jsにより検索結果の公園施設名を表示するUIを作成した。また、Cesium ion、CesiumJSで構築された3D地図にGPSで取得した情報をもとに現在地を表示することで、スムーズに任意の位置に異常対応内容を登録する機能を開発した。これらのアプリのUIは音声入力及び写真登録を基本とし、スマホでの文字入力作業が生じないような工夫を行っている。
巡回点検アプリから取得されたデータは公園管理アプリ側へ送信され、PostgreSQLを用いたRDBMSにおいてデータベース化し、音声(mp3形式)、画像(jpg形式)も併せて格納する機能を開発した。
通常巡回時については、スリープ状態であっても、巡回点検アプリが現在位置と最も近接する公園施設を数秒ごとに記録し、PostgreSQL上で巡視中の移動履歴を管理する機能を開発した。これにより、点検を実施した公園施設及び点検時間を推定し、指定された公園施設の点検の有無を確認する作業を効率化した。
「公園管理アプリ」は、「各施設情報等と3D地図の集約・一元化」をコンセプトに、公園管理業務全般に活用可能な基礎的な電子台帳として開発した。公園施設長寿命化計画の対象施設や植物管理台帳の樹木など、従来バラバラの台帳やデータ形式で管理されていた公園施設のデータを3D都市モデルの形式によって一元化・標準化し、これをデータベース管理することで、様々な用途で利用することができるようにした。公園施設は「公園施設長寿命化計画策定指針(案)(改訂版)」に基づく施設コードで管理され、3Dデータや表形式の複数のデータベースと関連付けられるようにした。これにより、公園施設等管理のための電子台帳機能を持ちながら、「巡回点検アプリ」など外部アプリケーションからの情報入力と管理が可能となり、公園施設に関する様々な情報を一元化することができる。
「公園管理アプリ」を用いて前述の「巡回点検アプリ」から取得される情報の確認や巡視員への情報伝達を行うことで、公園管理業務における伝達ミス防止や対応の即時性向上を図ることを目指した。具体的には、異常対応時において担当マネージャーが状態を確認しながら対応方針等を巡視員に伝達できるよう、巡回点検アプリにより登録された異常対応内容と3D地図が一画面に表示されるUIを開発した。これにより巡視員から、巡回点検アプリ内の電話機能で連絡を受けたのち、担当マネージャーが自席のPCで公園管理アプリを立ち上げ、異常対応として登録された内容を相互に確認しながら対応方針を伝達することが可能となった。
通常巡回時については、担当マネージャーが、公園管理事務所や公園管理センターに戻ってきた巡視員に対して、公園管理アプリ内の「報告書」タブに一覧で表示される当日の点検結果を見ながら、表示内容と実態に差異がないか確認し、差異がある場合には修正した上で内容を承認する機能を開発した。これにより、巡視員が規定様式の巡回報告書に点検内容を手書きで記録・転記する時間や転記によるエラーのリスクを減らすとともに、紙媒体での管理からデジタル上での管理を実現した。
本アプリのユーザビリティの検証のため、想定ユーザーである巡視員及び公園管理事務所や公園管理センターの担当マネージャーを対象として、実際に国営越後丘陵公園の2日間の点検の全工程にわたって本アプリのテスト利用及びヒアリングを実施し、機能や使いやすさ等についての評価を行った。
検証で得られたデータ・結果・課題
検証の実施に当たっては、公園管理センターの担当マネージャーや巡視員に対して、本検証の目的、巡回点検アプリ・公園管理アプリの機能等を説明の上、プロトタイプ版の巡回点検アプリをインストールしたモバイル端末(Google Pixel 7a)を1か月程度使用してもらい、端末操作自体に慣れてもらいながら、巡回点検アプリを試験的に使用した感想や要望等をヒアリングし、これらを基に巡回点検アプリのUI・UX等の改善を行った。
また、巡回点検アプリの改善と並行して、公園管理事務所や公園管理センターの担当マネージャーに対して、公園管理アプリ側で管理する公園施設のデータベースや巡回点検で発見された異常等のデータベース等を確認してもらいながら、対応方針を伝達する業務において期待する利用方法等を聞き取り、公園管理アプリの改善を行った。
これらの改善後の巡回点検アプリと公園管理アプリを用いて、巡回点検を行う巡視員2名(73歳、71歳)において、日常の巡回点検(巡回報告書にある既定の巡視ルート、エリア)を2日間(早番・遅番を1日ごとに交代)、異常対応として、巡回点検時に倒木や遊具の破損等を仮定した点検をそれぞれ実施した。その上で、当該巡視員や担当マネージャー(1名)に対してアプリの有用性・代替性やユーザビリティ等についてのアンケートとヒアリングによる調査を実施した。
検証後のアンケート調査では、「①日常点検全般の効率化」、「②異常時対応の効率化」、「③システムの使いやすさ」の観点から、「1.とてもそう思う」から「7.全くそう思わない」の7段階で評価いただいた。また、効率化できた場合の短縮時間(分)を記入いただいた。
「①日常点検全般の効率化」に関しては、「これまでの点検方法と同等の内容を報告できているか」や「点検の記録作業・手順が省力化できているか」という設問に対して、「1.とてもそう思う」又は「2.そう思う」との回答を得た。また、日常点検時の作業時間の短縮に関して、これまで実施していた点検時の手書きメモ作業や報告書への転記作業がなくなること、巡回点検後に事務所で担当マネージャーと一緒に公園管理アプリ内の「報告書」タブに表示される点検結果内容を閲覧・確認できることにより、1日当たり10分から15分程度の作業時間の短縮が期待できるとの回答を得た。これに基づき年で換算すると、巡視員2名で年当たり120時間から180時間程度の短縮効果が期待できる(日当たり20分から30分程度、月当たり10時間から15時間程度)。
「②異常時対応の効率化」に関しては、「これまでの点検方法と同等又はそれ以上の情報量をもって報告できているか」、「連絡対応にかかる所要時間が短縮されたか」、「異常時の修繕対応において、これまでの点検方法と比べ修繕対応完了までにかかる所要時間が短縮されたか」のいずれの設問においても「1.とてもそう思う」又は「2.そう思う」との回答を得た。また、異常対応時の作業時間の短縮に関して、3D地図、写真、音声を活用しリアルタイムでのやりとりや位置情報の確認ができることで、修繕対応に係るコミュケーションの円滑化により手戻り(工具・部品が合わずに事務所に取りに戻るなど)の発生抑止、現地における巡視員の待機時間の短縮などにより、修繕対応1回当たり10分から15分程度の時間短縮が期待できるとの回答を得た。このように、異常時対応に当たっては、情報量の増加やリアルタイム性の向上に対しての評価が高く、具体的には、漏水が生じている場合、これまでは事務所に戻り、保管されている過去の書類・値との照合を行うまで異常値の把握が遅れていた問題の解消や、使用禁止・修繕・更新等といった現地対応の正確性にもつながっており、重大な事故や損失の防止につながっているとの評価を得られた(近年の遊具での事故事例では、損害賠償の請求額が数百万円から数千万円規模の訴訟につながっている事例もある)。
「③システムの使いやすさ」に関しては、「ボタン等の表示が見やすい・分かりやすいか」や「点検記録が入力・登録しやすいか」という設問に対して、「2.そう思う」又は「3.ややそう思う」との回答を得た。
自由回答では、トレイルランニングコースの一部など通信環境が悪いエリアにおいて写真のアップロード時間が掛かる点、巡回点検アプリの3D地図表示機能における初期表示までの時間が長い点、新しい端末やアプリに慣れるまでに時間を要する点などが挙げられ、通信環境がない又は悪い場所に対応するオフライン機能やiOSへの対応を求める意見があった。また、日常点検アプリの一部欄(録音入力後の文字起こし表示・長文)の文字が小さいという意見があり、高齢者に配慮したUIを心がけたつもりであったが、部分的な課題が浮き彫りになった。
参加ユーザーからのコメント
【巡視員視点】
⚫ 現場の状況説明が簡単にできて便利。写真を用いた説明がとても分かりやすく、迅速に状況を共有できる。
⚫ 位置情報をシステムが追跡しているため、相手に現在地を共有しやすく便利。
⚫ 巡回点検アプリに状況を記載することで、日報を記入する手間が省けてよい。
⚫ 写真を活用することで状況を理解し易くなったため、遊具等の不具合が起きている場所の修繕等にすぐ対応できることが多く、次の作業に早めに移れるので助かる。
⚫ 巡回点検アプリは、現時点では操作が覚束ない場合もあるが、慣れてしまえば徐々に使いやすくなると思う。
⚫ マネージャーに遊具の不具合等の状況報告がし易く、一度現場確認してから必要な工具等を取りに戻るといった二度手間にはなりにくいと思うし、個々の遊具等の点検業務の時短にもなると思う。
⚫ アップロードの時間がまちまち。場所によっては電波が入らないところもある(特にトレイルランニングコースの谷部分等)。
【管理者視点】
⚫ 巡視員から写真等で報告を貰えるので、現地確認の二度手間が減った。
⚫ 巡視員には高齢者が多いため、ボタンを高齢者向けに大きくしていただいて助かった。
⚫ 点検時間は変わらないが、報告書の作成時間が省略された。
⚫ 開園時間中に「キケン」の報告を受けて現地に出向き、再度、対応道具を取りに戻るケースが過去には存在したが、本システムにより音声・画像で報告内容を正確に把握することができるようになり、必要な道具を持った状態で現地に出向くことが可能となり、確認・修復業務の時間短縮につながった。
⚫ 水道メーターの値について、これまでは巡視員が点検中に手書きでメモし、事務所に戻った後転記していた。これらが巡回点検アプリ上で手入力・登録した数値を公園管理アプリでいつでも閲覧できるようになった点はよいが、撮影した写真から数値を自動登録できるとなおありがたい。
今後の展望
巡回点検アプリ及び公園管理アプリを使用することにより、公園内の巡回点検、個別施設の情報管理・利用等において一定の有用性があると認められ、本システムの対応範囲の拡張により公園管理業務のDXの促進が期待できる。
他方、本検証において、巡視員・管理者双方の視点から課題や機能向上への期待が明らかになった。
具体的には、要望のあった電波が悪いエリアでの巡回点検アプリ利用を想定した改修等を実施する他、巡回点検、個別公園施設の管理を補助する機能として、AR等の技術を活用することで、地上・地下の公園施設について、多角的に情報を可視化することにより、より正確にかつ容易に、そして楽しく管理できるUI・UXの改善の検討を進める。具体的には、地下埋設物の敷設ルートの一部確認、現地において樹木の特定補助や修繕が未対応の施設の点検データ・申し送り事項等の情報の表示、新設・改修時などにおける将来イメージの共有など、ユーザーに寄り添った機能を検討する。
また、公園内の工事等により移設・撤去等が生じた場合に、工事中に取得したデータ(施設の移設・撤去等のデータや発見された地下埋設物のデータ等)や新規取得した計測データを用いて公園施設等3Dデータの整備を行うとともに、本システムで活用するリレーショナルデータベースに組み込む仕組みの検討を進める。これにより公園施設等3Dデータの新規整備や既存施設の位置補正のための測量等の一部を効率化でき、データ整備のコストダウンや現場管理者側での更新仕組み等のユースケースの拡がりを見込むことが可能である。
将来的には、これらの機能、仕組みを含め、システム利用者からの声に基づき優先度を定めてバージョンアップを重ねることで、全国における公園管理業務のDXを促進し、公園管理における生産性の向上、慢性的な人材不足への対応や生産性の向上等を進め、全国の公園の安全性の向上と業務効率化の実現を図る。