uc23-05

地下街データを活用したナビゲーションシステム

実施事業者JR東日本コンサルタンツ株式会社
実施協力一般社団法人大手町・丸の内・有楽町地区まちづくり協議会/東日本旅客鉄道株式会社株式会社/株式会社JR東日本クロスステーション
実施場所東京駅エリア/品川・高輪エリア
実施期間2024年2月~3月
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駅周辺の地上・地下を統合したデジタルツイン基盤を構築し、エリア全体をシームレスに繋ぐナビゲーションシステムを開発。駅とまちを繋ぎエリアマネジメントの更なる高度化を目指す。

実証実験の概要

駅、市街地、地下街など都市の各セグメントの三次元構造に関する情報は、それぞれの管理者が様々な形式の地図や設計情報として整備・管理しており、統合的なデジタルツインの実現には課題がある。このため、まちづくりや防災といった分野の政策立案者や来街者に対する一元的な情報共有は実現されていない。
今回の実証実験では、地下空間を構成する地下通路や建物地下階、駅構内等の各管理者からGISデータ、BIMモデル、3D駅構内地図等のデータ提供を受け、これらを統合することでターミナル駅を中心とした地上・地下の統合デジタルツイン基盤を3D都市モデル(地下埋設物モデル等)として構築する。さらに、これを活用した3Dナビゲーションシステム及び平常時/災害時を想定した来街者への情報配信システム等を開発する。これにより、統合デジタルツインを活用した一元的な情報管理・共有を実現する。

実現したい価値・目指す世界

地図情報、店舗情報、運行情報、店舗・施設の利用情報など、ターミナル駅を中心とした複雑な都市内の情報は各施設管理者が個別に管理しており、これらを統合したプラットフォームは存在しない。このため、来街者やまちづくり主体などは一元的に情報を取得できず、情報取得や、政策立案に関する合意形成のコストが高くなっている。

今回の実証実験では、3D都市モデルを活用することで、駅、地上部、地下通路等をシームレスにつなぐ三次元地図基盤を整備する。駅構内及び地下通路については、東京駅周辺の各施設管理者からGISデータや3D駅構内地図、BIMモデル等のデータ提供を受け、これを3D都市モデルの地下街モデルとして再構築する。また、東京駅の地下通路から接続する周辺ビル7棟についても、各施設管理者からBIMモデルの提供を受け、これを活用した建築物モデルLOD4を整備する。さらに、地上部については既存の3D都市モデル(建築物モデル等)を利用する。これらのデータを統合し、施設情報などの情報を付加することで、地下街を含むエリア全体の三次元地図基盤を整備する。
整備した三次元地図基盤は、東京駅及びその周辺を対象にした既存のナビゲーションアプリ「東京ステーションナビ」の基盤データとして活用する。このため、「東京ステーションナビ」の改修を行い、三次元ルートナビゲーション機能、ARナビゲーション機能、平常時/災害時を想定した情報配信システム等の追加開発を行う。
加えて、運行情報、店舗/ロッカー満空情報、災害時一次避難場所・帰宅困難者受入施設情報等を管理できるようにすることで、来街者への情報配信や、まちづくり関係者への情報共有などを行えるようにする。

将来的には、新しい「東京ステーションナビ」が、エリア滞在者にとって平常時/災害時いずれにおいても利便性の高い統合的情報発信ツールとなり、まちづくり・エリアマネジメント活動のDXに寄与することで、安全・安心・快適なエリアを実現することを目指す。

東京駅エリア図(2D)出典:地理院地図 東京駅エリアを示す赤枠を表示(JR東日本コンサルタンツ株式会社)
高輪・品川駅エリア図(2D) 出典:地理院地図 品川・高輪ゲートウェイ駅エリアを示す赤枠を表示(JR東日本コンサルタンツ株式会社)
東京駅エリア図(3D)
高輪・品川駅エリア図(3D)

検証や実証に用いた方法・データ・技術・機材

今回の実証実験では、東京駅のナビゲーションアプリ「東京ステーションナビ」(JR東日本コンサルタンツ提供)をベースに、①3D都市モデルを利用した3Dナビゲーション機能と②3D都市モデルを利用したARナビゲーション機能を追加実装した。また、利用する3D都市モデルとして、3D都市モデル標準製品仕様書3.0版で新たに策定された地下街モデル(LOD4)を作成、対象エリアの代表的な建物の建築物モデル(LOD4)はBIMモデルから変換し生成を行った。建築物モデル(LOD4)は、建築物モデル(LOD3)により表現される建築物の外側の形状に加え、建築物の内側の形状(屋内空間)を表現したモデルであり、屋内ナビゲーションに利用できるデータである。

東京ステーションナビに追加実装を行う3Dナビゲーション機能は、地下通路等の地下街モデル(LOD4)、ビルや駅の建築物モデル(LOD4)を利用して構築した三次元地図基盤上で、目的地までの経路案内を行う機能である。この3Dナビゲーション機能は、可視化表現を得意とするUnity WebGLを用いて実装した。作成した三次元地図データをUnity WebGLで利用可能となるよう変換し、三次元地図基盤を構築した。
経路案内には、「東京ステーションナビ」で運用中のPOI(Point of Interestの略。建物、施設、店舗、設備などの各地物を代表する点のデータで、経路案内における目的地となる。)とネットワークデータ(移動経路に関するデータで、経路の起点・終点や交差点などの地点を示すノードデータと、ノードとノードを結ぶ線分を示すリンクデータからなる。)を利用した。ここに、3D都市モデルを用いて地下街、ビル、駅の各地点の床の高さ(標高)情報を取りまとめた「建造物マスタ」(JSON形式)から抽出した高さ(標高)情報を付与し、三次元の経路検索結果を3次元地図の上に表示可能とした。さらに、対象エリア内の施設として大丸有エリアのビル7棟、品川駅、高輪GW駅のPOIとネットワークデータを追加整備することで平時のナビゲーションアプリとしての有用性を高めた。また、エリア内の避難施設を検索できるよう避難場所等のPOIデータを整備し、検索できるようにすることで、災害時のナビゲーションアプリとしても活用可能とした。なお、POI及びネットワークデータはPostGIS及びPostgreSQLによって管理している。
経路検索機能は、既存の「東京ステーションナビ」で利用しているロジックを改良することで実現した。具体的には、ネットワークデータを利用し、ダイクストラ法をベースとした最短経路検索のロジックを基本としつつ、独自の重み付けを行ってエレベーター、スロープ等の段差解消設備を通過する「バリアフリー段差解消ルート」の検索ができるようにした。
自己位置の表示機能については、「東京ステーションナビ」で利用している屋内測位技術と後述する建造物マスタの情報とを組み合わせて実現した。なお、iOS版「東京ステーションナビ」で利用している屋内測位技術は、Apple社の提供するCore Locationによるもので、緯度・経度と階(フロア)の情報により屋内においても高精度に自己位置が推定できる仕組みである。また、Android版「東京ステーションナビ」で利用している屋内測位技術は、Android OSが提供するFused Location Provider Clientにより取得可能な緯度・経度と、現地に設置したBeaconからの情報から取得する階(フロア)の情報とを組み合わせた独自のロジックによるものである。なお、Beaconは、「東京ステーションナビ」のために既に設置されているもの、施設管理者が既に設置しているもの、本実証のために追加で設置したものを組み合わせて利用した。

ARアプリは、地下空間にいながらにして地上のビルや目的地がどの方向にあるかを直感的に理解できるという体験をアプリユーザーに提供することを意図したアプリである。地下空間にいるアプリユーザーがスマートフォンを天井にかざすと、AR表示により天井の一部がくり抜かれたような演出がされ、その中に作成した建築物モデル(LOD4)・地下街モデル(LOD4)が表示される。これによりユーザーは、地下街に滞在中でもスマートフォンの画面から地上建物の3Dモデルと目的地のPOIを見て、自己位置から目的地までの方向を確認することができる。
このARアプリは、ARkitを用いて開発した。ARkitは、Apple社が開発したiOSに対応したARフレームワークのことで、これによりiPhoneやiPadのカメラで映し出された現実空間にARオブジェクトを配置することが可能となる。ARアプリで表示する建物は、建築物モデル(LOD4)・地下街モデル(LOD4)をOBJ形式に変換した上で、さらにReality Composerを利用してUSDZ形式に変換したものを利用した。

これらのアプリケーションで利用した三次元地図基盤は次の①~④のデータを基に地下街モデル(LOD4)及び建築物モデル(LOD4)として作成した。

① 「東京駅周辺屋内地図オープンデータ(令和2年度更新版)」(国土交通省高精度測位社会プロジェクト作成、G空間情報センターにて公開、データ形式:Shapefile)

②「公共的な屋内空間(地下)大丸有地区 3Dデジタルマップデータ(令和2年度及び令和3年度)」(東京都作成、データ形式:3D都市モデル(CityGML))

③「大丸有エリア7棟のBIMモデル」(一般社団法人大手町・丸の内・有楽町地区まちづくり協議会より受領、データ形式:Revit)

④「駅構内図及びそれを利用して作成している3D駅構内地図データ」(JR東日本コンサルタンツ保有、データ形式:Revit(国土地理院「3次元屋内地理空間データ仕様書」に準拠))

地下街モデルは、データ➀②から作成した。具体的には①のShapefileに含まれる床、部屋、柱等の2D情報からBIMモデル(Revit形式)を作成した。但し➀は階層の情報を保有しているが、地下階の高さ(標高)を保有しないため、階段の段数から地下階の床の高さを算出した。また、①には地上出口部分のデータが含まれていないことから、地上出口部分を測量した座標情報を用いて階段の出口等の位置合わせを行い、座標情報を付与した。さらに、②の3Dデジタルマップデータを参照しながら細部の形状修正を行った(②のデータの方が新しいデータのため、①のデータと比較して部屋等の形状が異なる箇所は、②のデータを参照して情報を更新した)。③の7棟のビルのBIMモデル、④の3D駅構内地図データもそれぞれ座標情報を保有していることから、その座標情報を正として地下街モデル側のモデルデータをビル、駅とシームレスに接合するよう図形を編集した。これらの編集作業はいずれもAutodesk社のRevit2021を用いて実施し、作成したRevit形式のデータをIFCファイルに出力。これをProject PLATEAUが公開している変換スクリプトを用いて3D都市モデル化(CityGML化)した。
建築物モデル(LOD4)は、③と④のBIMモデルをAutodesk社Revit2021によりIFCファイルに出力し、同様にFME Desktopを用いて3D都市モデル化(CityGML化)した。
上記の過程により、BIMモデルの情報量を削減し、3D都市モデルとして扱えるように処理しているが、スマートフォン用のアプリで利用するため、更なる情報量の削減を行った。具体的には、手作業により地物の削除やポリゴン数の削減等のデータの軽量化を行ったうえで、Unity WebGLで利用できるよう変換し、3Dナビゲーションの三次元地図基盤として利用した。

開発した3Dナビゲーション機能、ARアプリについて、エリアマネジメント団体へのヒアリングや一般ユーザーへのアンケート調査を実施した。この調査結果を基に、本実証で構築した三次元地図基盤を活用したナビゲーションアプリについて、その有用性の評価を行い、まちづくり・エリアマネジメント活動のDXに寄与し得るものかを検証した。

3Dナビ 東京駅エリアの地下街とビル7棟含む全景
3Dナビ 東京駅における経路案内の例
ARアプリ 丸の内ビルの表示例
地下街データ
3Dナビ 品川駅1F
3Dナビ 品川駅3F
3Dナビ 品川駅における経路案内の例
3Dナビ 高輪GW駅2F

検証で得られたデータ・結果・課題

今回の実証実験では、一般ユーザー向けの有用性検証として3Dナビゲーション機能を組み込んだ「東京ステーションナビ」とARアプリ(iOS版のみ)を一般公開し、アンケートによる評価を行った。また、事業者向けの有用性検証として施設管理者向けに、「東京ステーションナビ」とARアプリおよび三次元地図基盤に関するアンケートおよびヒアリングによる評価を行った。

一般ユーザー向けの有用性検証の結果は以下の通りであった。
3Dナビゲーション機能は、多くのユーザーから、既存の階層別2D地図に比べて「分かりやすい」「使いやすい」との回答から、コンシューマサービスとしての有用性が確認できた。現在提供している階層別2D地図では階段、エスカレーター、エレベーターなどの昇降設備が平面のポリゴンとアイコンで表示されている。一方で、今回開発した3D地図の場合にはそれらが立体的に表示され、地物に沿って上下方向の経路が表示されることで、特に階層を跨ぐ移動が理解しやすくなった点が評価されたと考えられる。また、3D地図の表示スピードは「初回の表示に時間がかかる」という声もあったが、アプリの利用においては8割以上のユーザーから「スムーズに利用できた」といった好評価が得られ、実用性も確認できた。加えて、掲載情報については、「コインロッカー」「ATM」「ベンチ」「ゴミ箱」「自動販売機」「受付・インフォメーションデスク等のカウンター」等の情報も追加してほしいとの要望があった。
避難施設情報検索機能は、約半数から「分かりやすい」と評価を受けた。普段使いのナビゲーションアプリを災害時でも使えるようにすることで、来街者に対する防災系の情報発信の促進が見込み設計をしたものの、エリアマネジメントDXを支援するという観点では、防災系の情報の検索しやすさ、情報の拡充に向けたさらなる改良の必要性が明らかになった。
ARアプリは、体験したほぼ全てのユーザーから「面白い」と好評価を得た。3D都市モデルの建築物モデル(LOD4)を利用し、地下街から目的地のビルが透けて見える体験の目新しさが高評価に繋がったと考えられる。一方で安全面や他人にカメラを向けてしまっていることへの抵抗感があるという意見もあり、屋内空間におけるAR利用についての課題が明らかになった。

事業者向けの有用性検証の結果は以下の通りであった。
3Dナビゲーション機能、ARアプリ及び今回構築した三次元地図基盤に対してアンケートとヒアリングを実施した。3Dナビ、ARアプリともに一般ユーザーと同様に高い評価が得られた。三次元地図基盤について、まちづくり・エリアマネジメントの観点で、「道路下などの公共空間と各施設管理者の管理する空間がシームレスにつながっている価値は高い」とのコメントがあった。一方で、提供する情報については、情報が多すぎると混乱する、データが多いとパフォーマンスが落ちる等のUXに対して懸念するコメントもあった。また、三次元地図基盤に関する今後の利用、他エリアでの活用余地についても好意的な意見を頂き、複数の施設管理者が共用できる地図基盤の有用性を確認できた。「通行可能ルート・人数のシミュレーション」「マーケティング」「人流密度・混雑度の可視化」「バーチャル空間を創出」「ロボットの活用」「まちづくり協議で活用」「防災計画・ハザードマップ等に活用」といった領域で三次元地図基盤を活用したいとの声も得られ、複数の用途で利用の可能性があることが明らかとなった。

実証実験の様子
ナビゲーションのための目的地設定

参加ユーザーからのコメント

3Dナビゲーション機能に対する一般のアプリユーザーからのコメント

・直感的で分かりやすい。拡大表示の時も自動でスクロールしてくれるとありがたい。
・3D表示の場合は上に行く必要があるのか、下に行く必要があるのか、分かりやすかった。
・2Dマップとは別次元だと思った。ARメガネなどでスマホなしでも利用できると嬉しい。
・店舗アイコンの文字が小さく見えづらい。年配の人にはハードルがやや高い。
・3Dナビゲーションの画面を見ていると人にぶつかりそう。

ARアプリに対する一般のアプリユーザーからのコメント

・屋内から屋外の世界を見られるのはARとして発想が面白い。
・地下にいても、自分が目指したいビルの方向がわかるのはとても便利。
・見上げた時だけでなく、自分の足元に何のモデルがあるのかなどを見られたら面白そう。
・ARでのカメラ映像の歩行ナビは、人や物にぶつかるので利用者にも危険。周りからもカメラを向けられていると思われるため、スマホを正面に向けるのは使いづらい。

三次元地図基盤、3Dナビゲーション機能、ARアプリに対する施設管理者からのコメント

・3Dナビゲーションの「ウォークスルー」は画面に集中して(既存の階層別2D地図と比べて埋没感が高く)、歩きスマホという観点では危険だと思った。
・簡略化しすぎるとどこを歩いているのか分からなくなり、リアルに近づけると複雑化しすぎて、迷いやすくなるのでなかなか難しい。
・空間情報の鮮度が落ちてきたときに、混乱度が増し、満足感が下がる可能性はあると思われる。その辺りをどのように補うか(情報の維持管理をどうしていくか)がカギになる。
・複雑な空間である施設では便利。都心部の複合施設は総じて利用可能性が高いと感じた。

今後の展望

今回の実証実験で開発した3Dナビゲーション機能及びARアプリについては、ユーザーからは総じて高い評価を頂き、ターミナル駅とその周辺のまちを屋内外、地上地下を3D地図でシームレスにナビゲーションすることに対する社会的需要を確認できた。駅とまちという異なる施設管理者が共通して利用可能な三次元地図基盤を構築することで、まちづくりのDX推進、エリアマネジメントの高度化に寄与できることも確認できた。

今後はユーザーからの要望を踏まえ検索のしやすさなど、ナビゲーションアプリとして必要なUI/UXの改善を継続的に検討していく。さらに他エリアでも展開し実績を重ねることで、必要な情報量の最適化を進めていきたい。

また、3D都市モデル及び施設管理者が保有するBIMデータを活用した三次元地図基盤の構築手法を確立し、さまざまなエリアで簡易的にサービス提供できるような仕組み作りを目指す必要がある。各地での3D都市モデルの整備とオープンデータ化の広がりに合わせて、この取り組みも加速させることで、様々なエリアにおいてまちづくりの事業者と来街者の双方が情報共有できる三次元地図基盤の普及拡大を進めていきたい。