ぼうさいきょういく防災教育ポータルサイト

防災教育ポータルサイト


防災教育コラム

第4回


防災や河川のメカニズムを学ぶ上での”比較“や”関係づけ“の重要性

認定NPO法人かわさき市民アカデミー 事務局長 葉倉 朋子

Column


【今、求められていること】


私たちが暮らす大地は、長い間、火山、河川などの様々な働きにより造られてきた。それは、私たちが多くの自然災害と共に生きてきたことと繋がる。そのような中、2030年国連が掲げた世界の目指す達成目標としてSDGsが掲げられた。新学習指導要領にも示された、持続可能な開発目標をどのように達成していくことが、これからの世界を生き抜いていくために必要なのか。今、社会が求めている「能動的に防災に対応することのできる人材育成」を、具体的にどのようにすればよいのか、ここでは、学校の授業レベルで考えていきたい。


【学校教育で進めること】


防災教育の中で子どもたちの避難行動を進めるために大切なことは、(1)事象の特性を捉え(2)予測し(3)行動することである。その中で、事象の特性を捉えることについては、「諸感覚で捉え、事象や様子を感じる」ことの大切さが唱えられている。また、「災害が起こるメカニズムを捉える」ことの重要性も言われている。


学校教育において、特に教科の授業においては「事象の特性を捉えること」、特別活動においては、避難訓練として「行動すること」を積み重ねていくことが重要である。「事象の特性を捉えること」を基盤に「行動すること」に繋げていくために、知識や能力を用いて「予測する」習慣を身につけさせたい。以上に述べた資質能力の育成を、授業ではどのように具体化すればよいのだろう。


【教科の授業における具体】

事象の特性を捉えるための資質能力の育成を目指した授業の根幹が、「比較」「関係付け」にあると考える。そこで、「比較」「関係付け」を取り入れた授業の在り方を述べていく。


(事例)第4学年理科「雨水の行方と地面の様子」

単元の目標:
雨水の行方と地面の様子について,流れ方やしみ込み方に着目して、それらと地面の傾きや土の粒の大きさとを関係付けて調べる活動を通して、次の事項を身に付けることができるよう指導する。


ア 次のことを理解するとともに、観察、実験などに関する技能を身に付けること。

(ア)水は、高い場所から低い場所へと流れて集まること。

(イ)水のしみ込み方は、土の粒の大きさによって違いがあること。


イ 雨水の行方と地面の様子について追究する中で、既習の内容や生活経験を基に、雨水の流れ方やしみ込み方と地面の傾きや土の粒の大きさとの関係について、根拠のある予想や仮説を発想し、表現すること。



この単元では、従前の教師による与えられた課題からの授業ではなく、子ども自らが問題を発見できる力を育てる授業として「比較」の場を設定し、次のような流れで行っていく。


■(1)雨上がりの校庭の様子と砂場の様子の【比較】の場面を提示する。

雨上がりの校庭の様子と砂場の様子

■(2)2つの場面を【比べ】て、気付いたことを話し合う。

2つの場面を比べて、気付いたことを話し合う

■(3)2つの場面の【比較】を受けての気付きから、「しみ込み方(みずたまりの有無)は、何が【関係】しているのだろうか」という学習問題が生まれてくる。

■(4)学習問題について、既習や生活経験などから予想が生まれる。
・しみ込み方の違いは、校庭と砂場なので、土と砂の種類の違いが原因かもしれない。
・土と砂は、粒の大きさが違うから、粒の大きさが原因かもしれない。
・土と砂は、色が違うから色の違いかな。

■(5)個々の予想をもとにした集団での話し合いから、「粒の大きさが【関係】しているのではないか」という実験につながる学習問題が生まれる。
予想をもとに、土と砂の【比較】を諸感覚を用いて観察をしてみる。

「粒の大きさが関係しているのではないか」という実験につながる学習問題


土と砂とを【比較】した観察をもとに気付いたことの話し合いから、「粒の大きさが関係しているのではないか」という学習問題が生まれる。

比較の板書


(比較の板書)


土の粒の大きさと砂の粒の大きさを比較し、しみ込み方の違いと関係付けながら、違いの要因を予想し説明している場面


(土の粒の大きさと砂の粒の大きさを【比較】し、しみ込み方の違いと【関係付け】ながら、違いの要因を予想し説明している場面)


■(6)水のしみ込み方に着目し、粒の大きさを変えた【比較】実験を行う。


しみ込み方の違いでみる


(しみ込み方の【違い】でみる)

粒の大きさの違いと、しみ込み方を「関係付け」し、考察を行っている場面


(粒の大きさの【違い】と、しみ込み方を「【関係付け】」し、考察を行っている場面)


この授業では、「比較」の場面を位置づけていくことで、子ども自らが問題を発見し、視点をもって観察、実験を行っていくことができた。さらに、「比較」の視点を明確にすることで、事象の違いの要因ではないかと予想したものと「関係付け」していき、思考を深めていくことができた。

以上のように、「比較」「関係付け」を授業の根幹にすることで、明確な視点をもって事象をみつめ、自然災害のメカニズムを捉え、自然現象を感じながら予測していく資質能力が育成されていくと考える。


多面的に考え、判断して行動できる人間を育成していくためにも、このような授業を積み重ねていくことが重要である。


【令和3年3月25日掲載】