国土交通省

防災教育ポータルサイト

戻る

コラム

顔写真

理科教育に流域の視点を取り入れた防災教育の実践

北九州市立木屋瀬小学校 校長 渕上正彦

本校は、理科教育をベースとした防災教育のあり方を模索しています。理科3年「ものの重さ」、4年「雨水の行方」、5年「流水の働きと土地の変化」、6年「土地のつくりと変化」の学習を、災害発生のメカニズムと学習内容と関係付けて学ぶようにしています。本校区には自然豊かな一級河川遠賀川が流れています。災害の歴史もあります。遠賀川を、防災教育につながる理科学習の軸ととらえて教材化して防災教育に役立てているのです。

また、災害の起こりそうな状況の際に、学校での学習を活かして自分がおかれた状況を「知る」、最善の行動を「決める」、家族と共に「行動できる」人を育てようとしています。緊急時に正しい避難指示を受けていても、実際に行動ができなければ避難においては何の価値もないからです。
そこで、本校では、人から指示されて避難するのではなく、自ら「知る」「決める」「行動できる」防災教育を目指し、日常の学習中においても、自分で考える場面、自分で決める場面、行動する場面を重視して取り組んでいます。

さて、防災教育で見逃されやすいのは、「流域」の概念です。豪雨災害は、自分の住む地域だけでなく、山の傾斜が大きく流水速度が増す上流域、本流に注ぎ込む数多くの支流が存在する中流域、堆積物により氾濫がおこりやすい下流域などの影響も含めて考えなくてはなりません。本校では、理科教育の中にも、流域概念を含んだ単元展開を構想します。


3年生は、地域の遠賀川に集まる雨水の量を意識して、水の量と重さの関係を学習します。

活動の様子11

活動の様子12

活動の様子13


4年生は、校庭に降った雨水が低いところへ集まって流れ、遠賀川に注ぐ学びを意識して、あえてフラットな舗装地面に水を垂らして、わずかな高低差でも雨水が低いところへ流れることを学んだ後、全長60キロメートル以上ある地域の遠賀川を水源から海に至るまでバスを使って見学し、流域の範囲や各流域の様子を肌感覚でつかませます。

活動の様子01

活動の様子02

活動の様子03


5年生は、流水の浸食・運搬・堆積の働きを学習後、流水の働きと遠賀川の災害を関係付けて学びます。具体的には、(1)遠賀川の流域構造(2)遠賀川洪水の原理と歴史(3)洪水を防ぐ治水の取組という3つの課題のどれを追究するか決めて大グループに分かれ、遠賀川河川事務所の3名の方からそれぞれレクチャーを受け、さらに19個の課題に細分化して小グループを決めた子どもたちが、モデル実験等を通して3つの課題を追究し、他へ説明できるようにします。

活動の様子04

活動の様子05

活動の様子06

活動の様子07

活動の様子08


6年生は、さらに時間的・空間的概念をもって遠賀川流域全体の土地のつくりと働きの学習で、数億年前まで遡り土地形成・変成の歴史を学ぶ中から時間と空間との広がりを認識すると共に、現代に起こる様々な災害の要因を探ることからSDGsの視点を学びます。

活動の様子09

活動の様子10


最後に、小学生にとって流域概念は、広く、長く、深く、時間のずれも生じるため小学生の想像の域を超えます。直感的に流域をとらえやすくするためには、流域全体を見て回るバス見学や国土交通省作成の流域立体縮小モデルの活用地域河川事務所職員・博物館学芸員の協力(レクチャー)が効果的でした。各校に準備されることを期待します。