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コラム

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防災教育・河川教育を進める上での、評価手法について

日本河川教育学会 会長 金沢緑

学校教育には、子供たちが様々な変化に積極的に向き合い、他者と協働して課題を解決していくことや、様々な情報を見極め知識の概念的な理解を実現し情報を再構成するなどして新たな価値につなげていくこと、複雑な状況変化の中で目的を再構築することができるようにすることが求められています(小学校学習指導要領 2017)。

 河川教育は「目標を実現するにふさわしい、生物多様性、水質保全、土地の成り立ち、気候変動、河川防災などの探究課題を内包しており、各課題に取り組んで育成できる資質・能力を具体化することが容易であるため、総合的な学習の時間の中核に据える価値があります。実際、河川教育に取り組んでいる学校の多くは総合的な学習の時間を用いています。特に、理科の単元「流れる水の働きと土地の変化」との教科横断的な取り組みでは、流れる水の働きを理解させ、流域概念に導くことができ、流域防災につながる新たな価値を見いだすことができる良い教材と考えられているからです。

 しかし、この学習の評価は、教師による観察記録、児童による評価カード、レポートや作文、ポスターなどの制作物、ポートフォリオなどであり、評価の基準は曖昧で概ね「良い」評価を行い、児童の探究的な側面への支援のための評価は十分ではないのが現状です。

 評価とは、子供たちが学習内容をどの程度理解したかをはかるだけではなく、その変容を捉えて、さらに向上させるために行う営みであり、教師が子供たちの探究課題を把握し、適切に指導をするために行うものです。



1 理科の評価

 理科では、問題解決の過程で、比較、関係付け、条件制御、多面的に考えるといった、「考え方(思考)」を用いて「深い学び」を実現することを目指しています。

 表1は、5年生における思考のレベルを評価する際に用いる「評価マトリクス」です。5年生の思考・表現のレベルを単元の内容に応じて変化させ、児童の反応を想定して授業設計と評価のために用います。

 たとえば、理科「流れる水の働き」の実験場面であれば、マトリクスの基準に則って思考・表現のレベル毎にそのとき見られるであろう児童の反応を想定して学習指導案を作成し、授業時には教師が子供たちのノートやワークシート、つぶやきなどからレベルを見取って(評価して)、一段上のレベルに上げるためどんな手立てを行うかを想定しておくことが大切です。



表1 理科「流れる水の働きと土地の変化」実験場面の「評価マトリクス」
目標:条件を制御して流れる水の働きを調べる実験を行い、予想をもとに考察する。


表1 理科「流れる水の働きと土地の変化」実験場面の「評価マトリクス」





2 河川教育の評価

 河川教育では、「感じ」、「考え」、「行動する」事を目的とし、その目標は、「「探究的な見方・考え方」を働かせ、総合的・横断的な学習を行うことを通して、よりよく課題を解決し、自己の生き方を考えていくための資質・能力を育成する。」と考えられます。そのため、目標を実現するにふさわしい探究課題として河川教育を設定した場合、育成を目指す具体的な資質・能力を設定しなければなりません。また、各教科等で育成する資質・能力を相互に関連付け、教科等横断的なカリキュラム・マネジメントの軸とする必要があります。

 河川教育では、理科「流れる水の働きと土地の変化」の単元との教科横断的な取り組みが多く見受けられます。理科では、土の山に水を流したり流水実験装置を用いたりする実験で、水の流れを川に見立てて侵食、運搬、堆積の働きがあること、川の上流域と下流域ではその作用に違いがあること、雨が短時間に多量に降ったり,長時間降り続いたりしたときの土地の変化の様子から防災意識の涵養を行います。

 しかし、多くの児童は川を蛇行する1本の水の流れと捉え、複数の川が集合して本川になっているという河川概念を育成できていません。河川概念を形成しないまま大人になった場合、自分の考えを持たず、大勢の人の意見に追随するなど、適切な避難行動が取れず、危険に遭遇するするという事態を招きかねません。大雨で河川氾濫の危機が訪れる事が予測されたとき、どのようなメカニズムで、危険が迫るのかという科学的認識をもち、自分で判断して行動する事の大切さを学ばせる必要があります。

 防災意識は、理科の学習だけでは実感が持ちにくい内容ですから、模擬的に体験できるアクティビティを組み入れ、流域の概念理解を進める工夫があります。河川教育の好教材として用いられているプロジェクトWETのアクティビティ、「動いて行く水」、「流域さがし」「塵も積もれば」等を単元の導入前、授業と同時、単元の終末に組み入れての指導すると、体験を伴って学びますから、身近な川を想定して自分事として考える上では有効であると言えます。

プロジェクトWET「流域探し」のアクティビティを行っている児童

プロジェクトWET「流域探し」のアクティビティを行っている児童





 自分ごととする学習は、自分の持った課題を「探究する」事であり、自分の内面の意識から起こす行動です。内面から起こす行動は、「主体的、対話的で深い学び」の「主体的」と同義で、子供の立場から言えば興味を持って自分ごととして関わりたいと思うことです。

 では、興味・関心をどのように評価すれば良いのでしょう。「流れる水の働きと土地の変化」の授業を例に紹介します。

 本時の目標「前回の授業で出た新たな疑問を解決するための実験を考え、その予想を自分の言葉で表現することができる」と設定した授業において、レベル3のA君は以下のような言動を見せました。
「前回の実験の結果から流れる水の働きには侵食、運搬、堆積、の三作用があることが分かったので次は水の流れが速くなると三作用は大きくなるのかまた、流れが緩やかになると小さくなるのかを調べる実験は山の高さを変えて比べてみる必要があると思います。結果は高い山の方が水の流れが速くなり三作用が大きくなると予想します。」。
 これは、実験を行った状況をよく表現しており、本時の目標レベル3を達成していますが、単元が終われば興味は薄れていくため状況における興味の段階といえます。

 一方で、B君は「前回の実験の後、雨の日に、川以外にも雨が山に降るときも三作用が起きるんじゃないかと考えました。なので、水の量を雨に例えて雨の多い日と少ない日を高い山と低い山で比べてみたいです。結果の予想は山が高くても低くても、雨の量が多いところでは少ないところに比べて三作用は大きくなるだろうと思います。」のように思考レベルはA君と同じですが新たな疑問を抱き、授業外でも追究しようとする言動が見られました。B君は主体的に学ぶ個人的興味の段階と言えます。やってみた結果が予想通りでなかった場合は、さらに条件を変えて調べるなどの追究が行えるよう、教師は「あの後どうなったかな」と声かけをして興味を持続させました。教師は本時の目標を達成したレベル3の子供を育てるだけでなく、学び続けようとする積極的関与の意欲や態度のレベルを同時に見取って、児童を評価し指導することが求められています。



表2 態度面の評価マトリクス

表2 態度面の評価マトリクス




 教科学習でも河川学習でも、教師は、
①児童の反応を想定して指導案を作成する。
②想定した反応が見られたとき「その考えが出たわけを教えて」などさらに追究するよう促す声かけを行い、想定した反応が見られないときには「○○を見てみたら」と視点を与える声かけを行う。
③児童の想定外の反応には共感し、共に学ぶ喜びを感じる。
など教師も河川概念を持って学習の深まりへ導く声かけをするなどの介入をすることが大切です。



参考資料 理科評価基準表

参考資料 理科評価基準表