国土交通省

防災教育ポータルサイト

戻る

コラム

顔写真

巡回展示を活用した防災教育

東京学芸大学 環境教育研究センター 教授 吉冨友恭

防災教育は学校における重要な課題となっているため、国土交通省は文部科学省と協力して、関連科目や特別活動、避難訓練を含め、様々な活動において実践する方法を検討しています。一方、現場の先生方は忙しく、防災教育の時間を確保することがなかなか難しいと聞きます。 「時間」を取れない中、学校にある「空間」を活用して、防災教育の機会をつくることはできないか、その可能性を考えてみました。学校の中にある空きスペースを上手く使って、防災教育を多くの学校に広げていこう。そんな発想から生まれたのが、巡回展示「備えよう!親子で学ぶ防災展」です。

 「備えよう!親子で学ぶ防災展」は、最初は巡回展示ではなく、内閣府沖縄総合事務局が主催する夏休みのイベントとして始まりました。用意されたパネルには詳細な情報が掲載されていたのですが、情報がぎっしりと詰め込まれたパネルを並べても、 それを実際に利用してもらうことが難しいとわかりました。展示には「ひきつける力」と「とどまらせる力」が大切だと言われます。せっかく作っても、見られない、読まれない、では、もったいない。見学者の興味をひき、理解を促すには、様々な工夫が必要になることに気づきました。 また、展示パネルはイベントだけで活用されていましたが、じっくり見てもらうために、子どもの身近な場所に置ける状況をつくりたいと考えました。

 そこで注目したのが、学校にある空きスペースです。例えば、空き教室があればその場所を有効に活用できます。図書室なら防災月間などに関連書籍と一緒に展示コーナーをつくって置くこともできます。他にも、理科室の一角に置いて、自然の成り立ちを学ぶ授業と関連づける、図工室やコンピュータ室では防災をテーマにしたポスター等の作品づくりや情報収集など、様々な場面が想定されます。このように校内の余裕のあるスペースに上手く展示を設置することで、防災に関する学習活動を充実させることができるのではないかと考えました。

巡回展示チラシ1


巡回展示チラシ2



 展示は学校への巡回を前提として、沖縄総合事務局総務部防災・危機管理課の方々と協働で制作しました。出来上がったのは、展示パネルのセットと動画コンテンツです。展示パネルは、災害に対する理解、危険予測と備え、的確な思考・判断を促すことを目的に、以下のような構成となっています。

【巡回展示「備えよう!親子で学ぶ防災展」】

導入
…「はじめに」(展示の紹介)
災害が起きるしくみ
…「地球の内部はどうなっているの?」「世界の地震の分布」「どんなタイプの地震があるの?」「どうして津波は起こるの?」
これから心配される災害
…「地震の大きさ」「沖縄で地震が起こる可能性」「沖縄における津波被害想定」
自分たちで出来る備え
…「いざという時のために備えよう」「地震が起きました!!あなたは大丈夫?」

 上記のすべての項目は、パネル2枚で1組(10組、合計20枚)となっています。これらのパネルに加え、タイトルを記した大きなバナーには、ハザードマップを眺める親子のイラスト、沖縄総合事務局のヘルメットを被ったシーサーが登場します。各パネルは、文字情報でいっぱいにならないように配慮し、見出し、解説、グラフィック、それぞれ1/ 3程度の配分になるようにレイアウトしました。地震や津波が起きるしくみ等、科学的なテーマについては、シンプルな図解を多用し、文字数をできるだけ減らしました。「災害が起きるしくみ」「これから心配される災害」のパネルのイラストやグラフについては、土台をつけて取り付けて浮かせ、立体感を出して印象づけるようにしました。「自分たちで出来る備え」については、 身近に感じてもらうために、家族の中でのやりとりの場面をイラストで表現しました。クイズの選択問題には、家の中の安全度を見直す様子、親子が話し合う様子などの場面を描き、防災グッズのミニチュア等も使って、児童に防災活動のイメージが伝わるよう工夫しました。

 パネルは50cm×50cmの正方形で、素材には軽くて強いペーパーハニカム(2枚の厚紙の間に六角形の構造がはさみこまれた素材)を使用しています。そのため、パネルは軽量で持ち運びやすく、児童でも簡単に設営ができます。背面には折りたたみ式のスタンドを取り付けてあるため、学校にある長机や教室の机などに立てたり置いたりして、並べて展示できます。2枚で1組をくの字に配置すると立体感も生まれます。

 これらのパネルと併用する動画コンテンツとして、過去の災害の記録映像や写真、ナレーションによる状況の解説で構成した「沖縄防災ムービー」も制作しました。

沖縄防災ムービー





 巡回展示「備えよう!親子で学ぶ防災展」は、沖縄県内の小学校を対象として南城市立知念小学校からスタートしました。展示を見学した児童からは、「全国的に見て沖縄は大きな地震が起こる可能性が高いことを知って驚いた」 「自分の家は津波の影響がないのか」「最寄りの避難所はどこなのか、どのルートで避難すれば安全なのか」「家族で非常時持ち出しセットをそろえてみたい」 などの声が聞かれ、生徒どうしでデータや防災グッズを確認する姿もみられました。

 これから多くの学校への巡回を続けていくと、ひとつの展示を様々な場面で有効に活用することができます。その過程では学校と協力して一緒に展示をつくり、追加・更新していくこともできそうです。防災教育においては、学校の空間を活かした展示も大切な取り組みの一つになると考えています。



---------------------------------------------------------------------------




 筆者がかかわっている巡回展示には、他にも全国を巡る企画展「雨展-あらぶる雨・めぐみの雨-」があります。これは「水の巡回展ネットワーク」が企画立案・制作した展示のセットで、川の資料館や博物館など、社会教育施設を中心に巡回しています。
興味のある方は以下のサイトをご覧ください。
http://www.a-rr.net/jp/jawanet/