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コラム

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災害犠牲ゼロを目指して
協働が拓く未来

宮城教育大学 防災教育研修機構 副機構長・准教授 小田 隆史

「インフラだけで乗り切るには限界」。国土の保全、防災対策の一線で活躍する技術者たちが焦燥感を口にする。気候変動の影響からか、近年、施設の整備基準を超えて被害をもたらすほど自然現象が激甚化している。犠牲者をゼロにするためには、ハード面の更新だけでなく、人々の備えと避難行動に関する意識改革が不可欠、との認識が深まっている。

国土交通省の地方機関と教員養成大学が協働する接点を見いだした背景には、そんな想いがあったのだ。「自分の命は自分で守り、大切な人と共に生き抜く」という防災マインドを醸成するには学校教育が重要だ。質の高い防災教育がなされれば、子どもはもちろん、保護者を通じて地域社会にも浸透させられる。学校での防災教育は、ソフト面での社会の防災に対する「先行投資」とも捉えられる。教員の防災指導力の底上げが、その鍵となる。

2019年7月、国交省東北地方整備局と宮城教育大学は連携協定を締結し、教員を志す大学生や現職教員を対象に防災の授業づくりに関する共同研究を実施した。その成果の第一弾が、「教員のための防災教育ブックレット(風水害編)」である。

一般に教育現場において「防災」という科目は存在しない。防災教育を既存の教科・単元のどこにどう位置づけ、資料はどこから入手し、どんな問いを立てればよいか、最初から検討する時間もないのが現実だ。

そこで、宮城教育大学教職大学院で学ぶ現職教員の2名の院生が勤務する小学校(社会科)と中学校(理科)において実践した授業をもとに「どの学校、どの教員でも実践できる」教員目線を意識した手引書を完成させた。整備局職員の防災や治水に関する専門的知見も取り入れた。

ブックレットには、単元構成や授業全体の概要、モデルケースとなる公開研究授業例、指導計画、使用教材、実験器具などから、実際に授業を行った際の子どもの反応や、教職大学院での振り返りの議論を収録した。現場の授業で役立つ図解・イラスト・データ・資料に加え、地理院地図、ハザードマップなどの確認法、実際の台風災害の対応記録も載せている。

刊行後、「授業づくりが手にとるようにわかる」と現場の教員から好評を得た。現在、他県の教員免許状更新講習や地域の自主防災組織の勉強会での活用も検討されている。今後は、読者からのフィードバックや、他教科・特別活動等での実践例を募り、さまざまな事例を掲載することで内容をさらに充実させたい。

「これまでに経験したことのない」自然現象の激甚化、さらには、パンデミックという難題に人類がどう向き合うかが、いま問われている。刻々と変化する環境に適応し、持続可能な社会を創るには、異なる専門性や特長を持つ個人や組織が手を携え、知恵を出し合う必要がある。国交省と教育大との協働は、その一歩といえよう。



総括防災調整官による特別講義
総括防災調整官による特別講義


院生や整備局職員が参加した学校での授業の振り返りワークショップ1 院生や整備局職員が参加した学校での授業の振り返りワークショップ2
院生や整備局職員が参加した学校での授業の振り返りワークショップ


ブックレットと関連ウェブサイト ブックレットと関連ウェブサイト
ブックレットと関連ウェブサイト
ブックレットと関連ウェブサイト
http://drr.miyakyo-u.ac.jp/eduport/