標記の4水系の河川整備基本方針の策定につきましては、河川法第16条第3項に基づき、国土交通大臣から社会資本整備審議会会長へ意見を求め、同審議会から河川分科会に付託されました。その後、社会資本整備審議会河川分科会河川整備基本方針検討小委員会において審議を行ったのち、平成18年10月6日に開催した社会資本整備審議会河川分科会(第21回)の審議を経て平成18年11月1日付けで、河川整備基本方針を策定し、同日付で官報に公表されることとなりました。
<北上川・大井川・佐波川・嘉瀬川の河川整備基本方針の概要>
平成9年に河川法が改正され、豊かでうるおいのある質の高い国民生活や良好な環境を求める国民のニーズに的確に応えるため、制度を見直し、それまでの工事実施基本計画に代え、新たに、河川整備の基本となるべき方針に関する事項『河川整備基本方針』と具体的な河川整備に関する事項『河川整備計画』に区分されました。
河川整備基本方針は、各水系における治水、利水、環境等に関する河川管理の長期的な方針を、総合的に定めるものであり、河川整備の基本となるべき事項等を定めます。
今回策定した4水系についても、各水系の地形、降雨、環境等の特性を踏まえた治水・利水・環境に関する整備の方向性を示しています。また、治水計画の基本となるべき事項として、目標とする洪水の流量である基本高水のピーク流量(計画の基本となる洪水の流量)と計画高水流量(河道での分担流量)を最新の水文データ等も加えてその内容を検証した結果、大井川、佐波川、嘉瀬川の3水系は既定計画と同様とすることとしました。北上川水系については、上下流の安全度のバランスや流域の開発の進展から、基本高水のピーク流量を増加させました。
流水の正常な機能を維持するため必要な流量については、北上川水系の狐禅寺地点では既定計画を踏襲し、また新たに明治橋地点を設定しました。大井川、佐波川では必要流量を期別に定め、嘉瀬川水系は、既定計画では定められていなかったものを新たな検討を行い設定しました。
【河川整備基本方針・河川整備計画について】
・https://www.mlit.go.jp/river/basic_info/jigyo_keikaku/gaiyou/seibi/index.html
【社会資本整備審議会河川分科会について】
・https://www.mlit.go.jp/river/shinngikai_blog/past_shinngikai/shinngikai/shakai/index.html
今回策定する4水系の河川整備基本方針の主な特徴的内容は次のとおりです。
●北上川(きたかみがわ)水系(流域面積:10,150km2、幹線流路延長:249km)
北上川は、その源を岩手県岩手郡岩手町御堂(みどう)(標高375m)に発し、北上高地、奥羽山脈から発する猿ヶ石川、雫石川、和賀川、胆沢川等幾多の大小支川を合わせて岩手県を南に縦貫し、一関市下流の狭窄部を経て宮城県に流下する。その後、登米市(とめし)柳津(やないづ)で旧北上川に分派し、本川は新川開削部を経て追波湾(おっぱわん)に注ぎ、旧北上川は宮城県栗原市栗駒山から発する迫川(はさまがわ)と宮城県大崎市荒雄岳から発する江合川(えあいがわ)を合わせて平野部を南流し石巻湾に注いでいる。 その流域は、岩手県の県都盛岡市や宮城県東部地域における第一の都市である石巻市などからなり、沿川には東北新幹線、JR東北本線、JR仙石線、東北縦貫自動車道、三陸縦貫自動車道、国道4号、国道45号等が位置し、東北地方の基幹交通ネットワークが形成されている。また、古来より中尊寺、毛越寺等の奥州藤原文化に見られるような東北独自の文化を育んだ大河であり、現在も豊かな自然環境に加え、イギリス海岸、展勝地(てんしょうち)、猊鼻渓(げいびけい)、鳴子峡(なるこきょう)など優れた景勝地が随所に残されている。
昭和22年のカスリン台風、昭和23年のアイオン台風によって浸水家屋等がいずれも6万戸を超えるなど水系全体にわたり甚大な被害が発生している。近年では、平成14年7月洪水により、未だ多く残る無堤区間や狭窄区間、砂鉄川などの支川、旧北上川河口部等において家屋浸水被害が生じている。
このような状況等を踏まえ、それぞれの地域特性にあった治水対策を講じることにより水系全体としてバランスよく治水安全度を向上させるため、流域の豊かな自然環境や史跡に配慮しながら、堤防の新設、拡築及び河道掘削により河積を増大し、計画規模の洪水を安全に流下させる。また、気象予測や情報技術の進展、水文観測や流出解析精度の向上等を踏まえた、より効果的な洪水調節の実施と総合的な運用により既設洪水調節施設の治水機能向上を図るとともに、流域の開発の進展、洪水調節施設を整備する。さらに、治水対策を早期かつ効果的に進めるため、河道や沿川の状況等を踏まえ、住民との合意形成を図りつつ、連続した堤防による洪水防御だけでなく輪中堤や宅地の嵩上げ等の対策を実施する。なお、河道の整備にあたっては、自然環境や史跡等に配慮する。
(基本高水のピーク流量及び計画高水流量)
北上川の基本高水のピーク流量は、既定の工事実施基本計画において基準地点狐禅寺で13,000m3/sと定められていたが、治水安全度を見直し13,600
m3/s に増加させ、河道と洪水調節施設への配分はそれぞれ8,500 m3/s 、5,100 m3/s とした。 旧北上川の基本高水のピーク流量は、既定の工事実施基本計画と同様に基準地点和渕で4,100
m3/s とし、河道と洪水調節施設への配分についても工事実施基本計画と同様にそれぞれ、2,500 m3/s、1,600 m3/s とした。
●大井川(おおいがわ)水系 (流域面積:1,280km2、幹線流路延長:168km)
大井川は、その源を静岡県、長野県、山梨県の3県境に位置する間ノ岳(あいたけ)(標高3,189m)に発し、静岡県の中央部を南北に貫流しながら寸又(すまた)川、笹間(ささま)川等の支川を合わせ、島田(しまだ)市付近から広がる扇状地を抜け、その後、駿河(するが)湾に注ぐ。流域は、中流部では「鵜山(うやま)の七曲(ななまが)り」に代表される穿入(せんにゅう)蛇行を繰り返す地形が形成され、下流部は典型的な扇状地が広がる。
急流河川で土砂流出の多い大井川では、流路が安定せず、洪水時における河岸侵食や河川管理施設の局所洗掘等の被害が多いことから、河岸崩壊を防止するため護岸、水制等を施工し、計画規模の洪水を安全に流下させるとともに高潮対策を実施する。なお、牛尾(うしお)山の開削を含む河道掘削による河積の確保にあたっては、掘削による河道環境等への影響をモニタリングし、河道の安定、維持及び河岸等の良好な河川環境に配慮する。河口閉塞については、砂州が樹林化等により固定化されないようモニタリングを行い必要に応じて対策を実施する。
また、これまでの相次ぐ発電ダム等の建設により、河川に水がほとんど流れない状況となったことを受け、維持流量の放流による改善措置等、発電による減水区間の流況改善に向けて熱心な取り組みがなされていることから、関係機関の協力のもとに継続していく。
(基本高水のピーク流量及び計画高水流量)
基本高水のピーク流量は、既定の工事実施基本計画と同様に基準点神座(かんざ)で11,500m3/sとし、河道と洪水調節施設への配分についても工事実施基本計画と同様にそれぞれ、
9,500m3/s、2,000m3/sとした。
●佐波川(さばがわ)水系 (流域面積:460km2、幹線流路延長:56km)
佐波川は、その源を山口・島根県境の三ツヶ峰(みつがみね)(標高970m)に発し、山間峡谷部を流れ、野谷川(のたにがわ)、三谷川(みたにがわ)、島地川(しまちがわ)等の支川を合わせ、防府市(ほうふし)市街地北部を流れ、周防灘(すおうなだ)に注ぐ一級河川である。
その氾濫域の面積は防府市街地を中心に約58km2にも及び、干拓で広がった河口域では大規模自動車組立工場を頂点とする輸送用機械器具製造業が集積するなど、周南(しゅうなん)工業地帯の一翼を担っている。また上流域には滑山(なめらやま)国有林、長門峡(ちょうもんきょう)県立自然公園など自然豊かな環境にめぐまれ、山口・防府と周南地域における社会・経済・文化の基盤を成し、本水系の治水・利水・環境についての意義は極めて大きい。 このような状況を踏まえ、河川整備の現状、水害の発生状況、文化並びに河川環境の保全等を考慮し、また、水源から河口まで一貫した計画のもとに、段階的な整備を進めるにあたっての目標を明確にして、河川の総合的な保全と利用を図る。
治水・利水・環境にわたる健全な水循環系の構築を図るため、流域の水利用の合理化、下水道整備等について、関係機関や地域住民と連携しながら流域一体となって取り組むものとする。
(基本高水のピーク流量及び計画高水流量)
基本高水のピーク流量は、既定の工事実施基本計画と同様に基準点新橋において
3,500 m3/sとし、このうち流域内の洪水調節施設により600 m3/sを調節して河道への配分流量を2,900 m3/sとする。
●嘉瀬川(かせがわ)水系 (流域面積:368km2、幹線流路延長:57km)
嘉瀬川は、その源を佐賀県佐賀市三瀬(みつせ)村の脊振(せふり)山系(標高912m)に発し、神水川(しおいがわ)、天河川(あまごがわ)、名尾川(なおがわ)等の支川を合わせながら南流し、石井樋(いしいび)で多布施川(たふせがわ)を分派し、その後下流で祗園川(ぎおんがわ)を合わせて佐賀平野を貫流し、有明海(ありあけかい)に注ぐ。
流域は、上流部は脊振山等の1,000 mを越える急峻な山地に囲まれ、中・下流部は干拓により拡大した低平地の佐賀平野が広がり、佐賀市を中心とする市街地が形成されている。
沿川地域を洪水から防御するため、本川上流部において洪水調節施設による洪水調節を行う。また、祗園川から下流の洪水流量を低減させるため、官人橋下流において洪水調節施設により洪水調節を行うとともに、嘉瀬川の豊かな自然環境や河川の利用等に配慮しながら、堤防の整備や質的強化、河道掘削、護岸整備等を実施し、計画規模の洪水を安全に流下させる。国、県、市等の関係機関と連携・調整を図りつつ、排水ポンプや流況調整河川等により内水被害の軽減対策を実施する。洪水等による被害を極力抑えるため、広域支援ネットワークや広域防災情報ネットワークの構築に向けて、関係機関と連携・調整しながら地域一体となって取り組む。
新たな水資源開発を行うとともに、広域的かつ合理的な水利用の促進を図る等、都市用水及び農業用水の安定供給や流水の正常な機能を維持するため必要な流量の確保に努める。
良好な河川景観や豊かな自然環境を保全するため、河川環境の整備と保全が適切に行われるよう、地域住民や関係機関と連携しながら地域づくりにも資する川づくりを推進する。また貴重な文化遺産である石井樋の保全・再生・活用を通じて、嘉瀬川の自然豊かな水辺環境とふれあえる地域の交流拠点の創出を図る。
(基本高水のピーク流量及び計画高水流量)
基本高水のピーク流量は、既定の工事実施基本計画と同様に基準地点官人橋において3,400m3/sとし、洪水調節施設と河道への配分についても工事実施基本計画と同様にそれぞれ、900
m3/s、2,500 m3/sとした。
<流域図>
<河川整備基本方針>
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