豪雨や台風、地震、津波など、自然災害による被害は多発している。地域の大切な交通網である鉄道も例外ではなく、被災時における地域交通の安全確保は喫緊の課題だ。
国土交通省は、国土強靱化の取り組みの一環として、鉄道の安全・安定輸送を確保するため、鉄軌道施設の浸水対策や耐震対策、豪雨や異常気象を想定した事前防災の推進に取り組んでいる。
こうした取り組みの中では、施設そのものの対策に加え、災害発生時に被害状況を迅速に把握し、的確な復旧につなげる体制づくりも重要となる。特に、限られた人員で運行を担う地方の鉄軌道事業者にとっては、専門的な知見を要する初動対応や復旧計画の策定が大きな課題となっている。
その課題に対応する仕組みとして創設されたのが、「鉄道災害調査隊(英語略称:RAIL-FORCE)」である。
本記事では、災害からの復旧にとどまらず、未来を見据えて「鉄道を守る」ために取り組む鉄道災害調査隊の役割や活動についてスポットライトをあてた。
鉄軌道事業者、地域のために――「鉄道災害調査隊」創設の背景とその目的
被災直後の初動対応は、被害状況の把握と復旧計画の策定のスピードが重要。それは鉄道インフラの被災も同様だ。しかし、復旧のために重要な復旧計画の工程が、地方の鉄軌道事業者ではままならないこともある。
限られた人員で運行しているため、土木・軌道・電気の専門技術者が不足。復旧作業を迅速に行うことが困難な状況下にあり、長期運休が生活や地域経済に影響を与える恐れもある。
この難題に応えるべく創設されたのが「鉄道災害調査隊(英語略称:RAIL-FORCE)」(以下、「調査隊」と称す)。令和5年4月独立行政法人鉄道建設・運輸施設整備支援機構(以下、「鉄道・運輸機構」と称す)が創設した、鉄道建設に関する専門的な知見を有する職員で構成される組織だ。
調査隊の役割は、被災した鉄軌道施設の早期復旧を支援すること。鉄道・運輸機構が、これまで新幹線の建設等で培ってきた技術力を活用し、現地調査を実施する。
その中では、被災現場の全体像を把握するとともに、応急復旧や恒久復旧に対する助言など、専門的な知見を集約して初動から本格復旧に向けてサポートする。
調査隊の活動は、令和5年6月の大井川鐵道大井川本線への派遣を皮切りに始動。能登半島地震で甚大な被害を受けた、のと鉄道や、令和6年4月の降雨により施設の一部が被災した、しなの鉄道の復旧支援にも携わっている。
調査隊を所管する、国土交通省 鉄道局 施設課 鉄道防災対策室 専門官 鈴木丈智氏によると、「私が知る限り、海外に同様の組織は把握していない」とのこと。
さらに、鉄道・運輸機構 鉄道企画調査部 担当課長の髙橋直人氏によると、鉄道災害調査隊には令和7年11月末現在で約150名の職員が任命されており、自然災害の発生時には、鉄道建設で培った技術力やノウハウを有する職員が在籍し、災害時に備えているという。
被災調査支援活動に派遣する職員は、主に鉄道・運輸機構の本社の技術系職員(設計、土木、電気等)、および事務系職員(広報等)から選任される。
技術系職員は、これまで機構が携わってきた鉄道建設プロジェクト(整備新幹線・都市鉄道等)において計画・調査・設計・施工管理等の実務経験を有する職員たちなので、要員不足・技術者不足で困難な状況に置かれている鉄軌道事業者に、技術的助言を行うことが可能だ。
派遣の際、人数、体制、期間等に関しては、実際の被災状況等を踏まえて決定。これまでの調査では、10名程度の体制で数日間の期間で派遣し、活動を行っている。
鉄道建設で培った技術で復旧を後押し――支援の仕組みと専門知見の活用
ここからは調査隊の活動内容に、深く迫っていく。
調査隊の最大の特徴は、災害発生直後の現場へ技術者を派遣し、さまざまな角度から調査を行う点である。
では、どのようなプロセスを経て災害現場へ派遣されるのか?
国土交通省 鉄道局 施設課 鉄道防災対策室の鈴木氏によると、国土交通省では、鉄道・運輸機構との連絡体制を構築するとともに、災害による鉄軌道施設の被害状況について情報共有を行っているという。
その上で、被災した鉄軌道事業者から、路線を管轄する地方運輸局へ鉄道災害調査隊の派遣要望が行われ、運輸局から国土交通省本省を経て、鉄道・運輸機構へ要請がなされる仕組みだ。
要請を受けた同機構は、災害内容に応じた職員を選定し、災害現場へ派遣する流れとなっている。
現場に派遣された調査隊は、以下の活動に着手する。
- 初動の支援
被害の正確な把握のため現場踏査を行い、目視により状況を確認。さらに小型無人機(ドローン)等を活用して被災現場の全体像を迅速に把握。二次災害発生防止のための、技術的な助言を実施。 - 応急復旧の支援
被災した鉄軌道施設について、個別施設ごとに被害状況の調査を実施。鉄軌道事業者等が実施する応急復旧に対して、技術的助言を実施。 - 本格復旧の支援
早期復旧に向けて必要な追加調査項目や本格復旧策について助言を実施。さらに、これらの助言や調査結果を「調査報告書」として取りまとめ、鉄軌道事業者に手交する。この報告書は、復旧計画の基盤となり、鉄道ネットワークの安全性を長期的に確保するための重要な資料となる。
一連の調査隊の活動は、鉄軌道事業者に費用の負担を求めない仕組みで、初動から本格復旧に向けてバックアップしている。
派遣活動において特に重視しているポイントについて、実動を担う鉄道・運輸機構の髙橋氏は「災害前の設備に復旧するだけではなく、現地の状況に即して、効率的・迅速に復旧ができ、復旧した構造物周辺にも被害が拡大しないように、予防保全や事前防災の観点からも助言することを念頭に置いています」と述べている。
また現場での活動を支えているのは、新幹線建設などで培われた知見と技術力だ。近年では北陸新幹線金沢-敦賀間(令和6年3月開業)、相鉄・東急直通線(令和5年3月開業)など新線建設に携わってきた。
ビッグプロジェクトを成し遂げたことにより得ることができた技術・経験値をもって、幅広い支援ができると、髙橋氏は語る。「構造物の技術基準に沿った助言だけであれば、われわれ鉄道災害調査隊でなくてもできると考えています。復旧方法だけではなく、施工計画まで見据えた助言ができると考えております」
こうした考え方のもと、現地の状況に応じた柔軟な復旧支援が行われている。
また、派遣要請に迅速に対応するべく、常にアンテナを張り巡らせている。
今年度(令和7年11月末時点)は派遣要請がないが、平素から情報の収集には余念がない。
今年の8月から9月にかけて台風や大雨が発生した際には、鉄軌道事業者のホームページや国からの被災情報を収集し、派遣要請があった際に迅速に派遣できるよう準備していたという。
平時からの情報収集や訓練が、災害発生時の迅速な対応につながっている。
