スウェーデン(Sweden)

概況

スカンディナビア半島の東側に位置するスウェーデンは、南北に細長い国であり、国土の約7分の1が北極圏内にある。国土の大半は森林地帯であり、主に中部以北に広がる。南部は肥沃な平野である。国土の大部分は冷帯に属するが、南部は北大西洋海流の影響を受け、温帯であり、高緯度にもかかわらず比較的温暖である。冬季はシベリア大陸の気候に支配され、寒さが厳しい。高緯度にあるため、夏期は昼が長く、冬は夜が長い。

スウェーデンの総人口は約960万人(2013年)で、その約90%は国土の南半分に住んでいる。また、総人口の約40%は3つの大都市圏に住んでいる(ストックホルム都市圏約210万人、ヨーテボリ都市圏約100万人、マルメ都市圏約70万人)。

第二次世界大戦後、スウェーデンの人口は急速に増え、2011年現在、総人口のうち約20%は、海外で生まれた、または、少なくとも両親のうちの一人が外国人、という移民で占められている。

スウェーデンは1995年にEUに加盟したが、共通通貨ユーロは採用していない。

国勢概要

国名 スウェーデン王国Kingdom of Sweden
国土面積 約45万km²(日本の約1.2倍)
人口 約988万人(2016年3月:スウェーデン統計庁)
人口密度 22人/km²
都市人口比率 85.8%(2015年)
GDP 4,926億ドル(2015年:IMF)
一人当たりGDP 49,866ドル(2015年:IMF)
産業別
就業人口比率
第一次産業1.7%
第二次産業34.2%
第三次産業64%(2016年推計)
経済成長率 4.1%(2015年:IMF)

(情報更新:2017年3月)

スウェーデンの行政制度

スウェーデン政府は首相及びその他の国務大臣から成り、政府及び国務大臣の活動を補助する政府事務局が置かれている。政府事務局は、首相府、各省(現在11省)、総務局によって構成されている。各省は、所管事項に関する各政策の基本方針や予算、法律等の基本的な事項を取り扱い、各省の職員数は各々数百名程度で比較的少ない。他方、具体的な行政事務の実施を担当する国の行政庁が約360あり、多くの職員数を抱える。

スウェーデンの地方自治体は、20のランスティング*(Landsting=県)、290のコミューン(Kommun=市)である。

基礎的自治体であるコミューンの所掌事務は、教育と福祉をメインに、雇用、インフラ整備、文化など多岐にわたる。ランスティングは複数のコミューンを含む広域的な自治体であるが、所掌事務はコミューンに比べて種類が少なく、ほぼ医療に特化している。コミューンとランスティングは、管轄する地域の広さと人口規模によって行政事務を分担している対等な関係の地方自治体であり、ランスティングはコミューンの上位団体でない。

各ランスティングの行政区域であるレーン(Län=県)には、国の地方支分局であるレーン府(Länsstyrelse)が一つづつ置かれている**。レーン府はそのレーン内の国の事務を行うとともに、国、コミューン及びランスティングの活動を、包括的な環境政策及び地域政策上の目的に従って調整する責務を負っている。

  • *ランスティングに代替する広域自治体として、1997年以降導入実験が行われ、2009年に恒久化されたレジオン(region)を含む(今日、スコーネ、ヴェストラ・ヨータランド、ハランド、ゴットランドの4つが存在するが、例外的にゴットランドはコミューンとして計上されている)。通常のランスティングの任務に加え、レジオンは地域開発に関する責任を担う(地域開発政策の立案、地域交通インフラ投資の決定、開発イニシアチブに対する資金配分等)。
  • **ゴットランド市(スウェーデン最大の島ゴットランド島と周辺の島々で構成)はその行政区域がゴットランド県(Län)に一致しており、市がランスティングの役割を兼ねている。この県にもレーン庁が置かれているため、全国のレーン府の数は、ランスティングより一つ多い21である。なお、ゴットランドにおいては、2011年、市がレジオン・ゴットランドと名称変更した。

スウェーデンの行政システム

スウェーデンの行政システム

資料:Ministry o Swedish Association of Local Authorities and Regions

土地利用や建築行為の規制権限は、「計画・建設法」の規定により市にあり、国は5つの限定された場合(後述)のみ、レーン府を通じて介入できる。「計画・建設法」の規定は、複数の市に関係する計画課題に対応するために地域計画を策定することを可能としているが、現実にこの法に基づく地域計画を定めているのは、ストックホルム地域とヨーテボリ地域のみである。

一方、計画・建設法体系とは別系統に位置する「地域開発業務に関する政令」(2003:595)は、全国21のレーン各々の地域開発に係る調整業務の責任機関(ランスティング、市の連合、あるいはレーン府)に、地域開発プログラム(RUP)を策定することを求めた。そして、国は、この各地域のプログラムにおける戦略の重点化を支援するツールとすると同時に、EUが結束政策(地域政策)に従って各国に作成を求めた「国家戦略基準枠組み」(NSRF)のスウェーデン版に該当するものとして、「地域の競争力、起業、雇用のための国家戦略2007-2013」を作成した。この国家戦略は、NSRFとしての役割に応じ、EUの地域開発基金(ERDF)の配分単位に合わせて全国を8ブロックに分けた「地域の競争力、雇用のための地域構造基金プログラム」を示している。

スウェーデンの計画体系

スウェーデンの計画体系

資料:Swedish National Board of Housing, Building and Planning

地域成長政策の主要な戦略とツール

地域成長政策の主要な戦略とツール

資料:Ministry of Enterprise, Energy and Communications

国土政策に関わる政府機関等

政策分野 担当機関 ホームページ
フィジカル・プラン
(都市・地域計画)
保健・社会省
Ministry of Health and Social Affairs
http://www.government.se/sb/d/2061
スウェーデン住宅・建設・計画庁
Swedish National Board of Housing, Building and Planning
http://www.boverket.se/en/start-in-english/
地域成長(開発)政策 企業・イノベーション省
Ministry of Enterprise and Innovation
http://www.government.se/sb/d/2067
スウェーデン経済・地域成長庁
Swedish Agency for Economic and Regional Growth
https://tillvaxtverket.se/english.html

国土政策に関わる主要な施策

フィジカル・プランニング(土地利用計画)

スウェーデンのフィジカル・プランニングは、「市による計画独占」と言われるほど、市の権限が強い。国が市の計画に介入しうるのは、国益が損なわれるなど、ごく限られた場合のみである。この「市による計画独占」の伝統は、1907年に「都市計画法」が制定されて以降今日まで続くが、その間、国と市の権限の調整に係る数度の制度変更が行われてきた。国益の観点の導入は、そうした制度変更の最たるものであり、これは、1960年代の経済の急成長と工業の拡大への対抗措置として、1965年から議論され始めた国家フィジカル・プランニングという概念が結実したものである。この概念を巡る議論は、はじめて国益について規定した1987年の自然資源法と、この法を発展的に包括したスウェーデン環境法典(1998:808)の制定を以て、終焉した。

ここに、国益とは、生態、歴史的遺産、レクリエーションなど様々な社会的利益にとって、あるいは、農林漁業やトナカイ飼育など特定の産業にとって国家的に重要な地理的範囲をさし示すものである。道路、鉄道、発電所等、将来のインフラ整備が行われる場所も含みうる。こうした国益は、国の各政策部門の担当官庁が述べる。

国益に相当の損傷を与える場合には、提案された土地利用変更が許可されないというのが重要なルールであり、国益に係る場所の重要性と明確な区域設定は、レーン府と市の合意に基づいて、都市基本計画に定められる。ここに、レーン府は、国益に対する全般的な責任を持ち、政府の利益を調整し、それらを都市基本計画作成時に市に伝える役割を有する。

国益のほかに、市の計画に制約を与えるものとしては、環境基準と海岸保護制度がある。環境基準は、大気の質、水質、環境騒音について定められており、多くはEUの要求に基づくものである。海岸保護制度は、海岸の乱開発防止、及び、海岸へのパブリック・アクセスと水域レクリエーションの確保を目的に1950年代に導入され、1994年には、生物多様性の確保も目的とするものとなった。この保護制度は、海岸線から100mの土地(300mまで適用拡大される場所もある)と水域に適用され、保護ゾーン内では、建築物の新設や用途変更が認められない(ただし、都市基本計画に基づいて、市が規制の適用除外区域を設けることがある)。

市の計画策定(都市基本計画、詳細開発計画、地域規制)に、国がレーン府を通じて介入しうるのは、①国益が考慮されない、②複数市間の計画課題が調整されない、③環境基準が守られない、④海岸保護の適用除外が紛争を生じさせる、⑤規制あるいは計画建築物が健康・安全・災害・洪水・浸食リスクの問題を生ずる――のいずれかの場合に限られる。

なお、計画・建設法に基づくフィジカル・プランとして地域計画を定めているのはストックホルム地域(=ストックホルム県の範囲)とヨーテボリ地域(ヴェストラ・ヨータランド県の一部の範囲)の2地域だが、両地域の計画は、策定組織が異なり、前者ではランスティング、後者では市の連合である。計画・建設法が地域計画の主体と規定しているのは市の連合であり、前者は、それと異なる。ストックホルム県を対象とした特別法(「ストックホルム県内諸市の地域計画に関する法律」(1987:147))が、ストックホルム・ランスティングに地域計画策定の権限を与えているためである。

地域開発政策(国、地域レベル)

国レベル
企業・エネルギー・通信交通省が作成した「地域の競争力、起業、雇用のための国家戦略2007-2013」は、スウェーデンを対象としたEU地域構造基金プログラム(国内全域を8ブロックに分割して適用されている)、及び、国家資金による国家構造基金プログラム(EUプログラムに対応した8つのブロックの地域計画を伴う)の実施の枠組みとなる政策文書である。この国家戦略は、地域開発に関する国の重点づけを示すことを通じ、国、地域、市レベルで行われる地域開発関連業務のための指針を提供することを目的としており、「イノベーションと再生」「技能の供給と改善された労働力の供給」「アクセスの良さと戦略的な国境協力」を、国家戦略の重点に定めている。
地域レベル
「地域開発業務に関する政令」に基づき、全ての県は地域開発プログラム(RUP)を作成しなければならない。このプログラムは、レーン府がランスティング、県内の市や企業・組織、関係政府機関と協議して作成する、すなわちレーン府に作成責任があるというのが基本である。しかし、この作成責任は市の連合に移譲することが可能であり、今日、レーン府が責任を保持しているのはわずか4県のみである。加えて、その責任を市の連合からランスティング(レジオン)に移した県が4あり、さらに複数のカウンティで、ランスティングへの移譲に向けた申請が行われている。
ストックホルム地域の現行地域計画(RUFS 2010)は「地域開発計画」と呼ばれ、計画・建設法に基づく地域計画と、「地域開発業務に関する政令」に基づく地域開発プログラム(RUP)の双方に該当するものとして、公式に認められている。このような双方の役割を果たす計画の作成に向けた動きは、スコーネ地域(ストックホルム地域、ヨーテボリ地域とともに三大都市地域を構成する)をはじめ、複数の地域にある。
このように、地域計画や地域開発を巡る国内各地域での動向は多様であり、「地域計画や地域開発のモデルはひとつもスウェーデンに存在しない」 (Jhonson, G (2013) 'Regional Planning in Sweden', in Lundstrom M S, C Fredriksson and J Witzell (eds) Planning and Sustaibable Urban Development in Sweden)といった見解が存在する。

地域計画-ストックホルム地域

ストックホルム地域(県)には26の市があり、200万人超の人口が住む。この地域では、地域計画が6度作成されてきた(1958、1973、1978、1991、2001、2010の各年)。

RUFS 2010の目標年次は、①2050年(スウェーデン東中部の空間構造形成の目標年次)、②2030年(この計画の公式の目標年次、また、各市の都市基本計画の計画期間との関連を考慮した年次)、③2020年(インフラ整備や構造基金プログラムに関わる国の投資計画との関連性を考慮した年次)――の3時点である。

RUFS 2010は、経済開発とフィジカルな開発の双方の課題に対する総合的アプローチを採用したことに特徴がある。経済的・生態的・社会的・文化的に持続可能な地域づくりを行うこと、及び、アクセスのしやすさとイノベーティブな環境に重点を置いて地域の成長性を高めることを目指している。

ストックホルムの通勤・通学圏(がストックホルム県を超えて広がっていることから、従前の計画より、スウェーデン東中部(7県で構成)全体への注目度を高めていることがひとつの特徴である(東中部の現在の人口は約350万人)。

スウェーデン東中部への関心を強めつつも、計画の主対象は、ストックホルム県の範囲である。2030年までに30~50万人と予測される人口増加分は、既成市街地の近隣に誘導し、公共交通でアクセス可能な高密な都市環境を形成することを目指している。地域の国際競争力向上、スウェーデン東中部の結びつき強化、交通部門による環境負荷の軽減といった観点から公共交通の充実を重視するとともに、ダイナミックで魅力的に地域を発展させる成長の核として、ストックホルム都心部以外に、8つの都市拠点を育成するものとしている。

2050年を展望したスウェーデン中東部の開発像とストックホルム県内の都市拠点(右上)

2050年を展望したスウェーデン中東部の開発像とストックホルム県内の都市拠点(右上)

資料:Stockhokm County Council (2010) "RUFS 2010"

その他空間・地域開発上、影響が大きい施策の例

リージョンレベルの行政制度改革

広域行政システムのあり方について、スウェーデンでは長い期間議論されてきた。例えば、ランスティングの役割をレーン府に統合すべきか、逆にランスティングに統合すべきか、という議論があった。1997年、レーン府の業務の一部をランスティングに移譲する実験がスコーネとヴェストラ・ヨータランドで開始され、その結果、今日のスコーネ・レジオン(従前の2つのランスティングを統合)、ヴェストラ・ヨータランド・レジオン(3ランスティングを統合)が誕生するとともに、地域開発の業務が国からレジオンに移譲された。その後、ハランドとゴットランドもレジオンとなり、地域開発業務も移譲された。(下左図の紫色部分がこれら4地域)

地域開発の権限を、レジオンでなく、市の連合組織が担っている県も多くある(下左図の黄色部分)。一方、選挙民とは直接関係がない国の出先であるレーン府が地域開発を担っているのは、今日、ストックホルムを含め、4県だけある(下左図の青色部分)。

地域開発の責任の所在による地域類型

地域開発の責任の所在による地域類型

資料:Swedish Association of Local Administration and Regions (スウェーデン語PPTを和訳)

政府はランスティングの統合、レジオンへの転換などについて、何も主導しない。各地域での発意に応じ、ボトムアップで決めることになる。2015年以降には、ランスティングからレジオンへの以降が更に進む見込みである(上図左右の紫色部分の変化)。

当面はランスティングの統合は行われないが、統合を検討している地域もあり、2018年以降にはランスティング数が今日より減る可能性もある。

スウェーデンの人口希薄・農村地域(国家農村開発庁の定義による)

スウェーデンの人口希薄・農村地域(国家農村開発庁の定義による)

資料:Government offices of Sweden (2008) Rural Development Program for Sweden

農村部や人口希薄地域の地域振興への取り組み

人口希薄地域はノールランド(北部9県)の内陸部やスヴェアランド(中部6県)の西部に広がり、これらの地域に居住する人口は50万人に満たない。この他、離島など類似の条件不利地域に約3万人が住む。これらの地域は、大部分、人口減少している。

「地域の競争力、起業、雇用のための国家戦略2007-2013」は、地域間格差が拡大しつつある状況を課題と認識し、3つの国家戦略の重点(前掲)に加え、北部スウェーデン特有の状況を踏まえた振興を促したいとの政府の意向を表明した。一方、この戦略文書は、農村部に特有の経済的・社会的・環境的発展条件を踏まえた戦略は、主に「農村開発プログラム」(2007-2013)で取り扱うべきものとしている。

「地域の競争力、起業、雇用のための国家戦略2007-2013」は、地域開発の取り組みにおいて、①都市と人口希薄・農村地域の結びつきの強化、②観光や観光関連産業(体験産業等)の振興、③ブロードバンド・インターネット環境の整備継続、④EUの結束政策との連携強化(北欧諸国の人口希薄地域に対するEUの特別の支援策を含む)、⑤地域の基幹産業(科学技術とサービス開発に関するものを含む)の発展の機会拡大の継続、⑥地域の発展に向けた公共セクター、大学、地場産業の緊密な連携の一層の推進――等が述べられている。

「スウェーデン農村開発プログラム2007-2013」には、地域開発のためのイニシアチブが含まれ(たとえば、農村部における農林企業、食品産業、スモールビジネスの競争力、起業、成長、技術革新について)、これらは、農村部に存する産業の競争力強化と同時に、農村部の産業の多様化を促すことにより、地域の所得創出や雇用の機会を増進することをめざしている。また、持続可能な農村部の自然資源活用に寄与することも企図されている。「リーダー・プラス共同体イニシアチブ」(Leader+ Community Initiative)など、EUの農業政策との連動も図られている。

島嶼部を対象としたローカルイニシアチブや、サーミ地域(スカンジナビアの先住民族サーミ人の居住地域)の開発(トナカイ牧畜産業の振興を含む)なども、農村開発プログラムの対象とされている。サーミ人の課題が充分考慮されるよう、農村開発プログラムの実施戦略作成の責任はサーミ議会(行政庁の位置づけを持つ公選議会)が有する(他地域ではランスティングがその役割を担う)。

(情報更新:2014年3月)