タイの国土は、インドシナ半島の中央部を占め、西から北にミャンマーとの国境線が延び、北東はメコン川を境にラオスと接し、南東はカンボジアに、南はマレーシアに接する。
バンコクはタイにおける首位都市として圧倒的な地域を保っている。
都市と地方の所得格差が大きいこともあり、バンコクへの1極集中問題は長くタイ当局において政策課題として認識されている。
表国勢概要
国名 | タイ王国Kingdom of Thailand |
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国土面積 | 514,000km²(日本の約1.4倍) |
人口 | 6,595万人(2010年:タイ王国統計局) |
人口密度 | 128人/km² |
都市人口比率 | 50.4%(2015年) |
GDP | 3,952億ドル(名目、2015年:国家経済社会開発庁(NESDB)) |
一人当たりGDP | 5,878ドル(2015年:NESDB) |
産業別 就業人口比率 |
第一次産業8.9% 第二次産業35.9% 第三次産業55.3% (2016年推計) |
経済成長率 | ▲0.9%(2015年:NESDB) |
(情報更新:2017年3月)
図地方ブロック図
資料:国土交通省国土計画局(2009)「平成20年度国土政策セミナー報告書」
タイの行政体系は、国の行政(central administration)、国による地方行政 (provincial administration)、地方自治行政 (local administration)の三層構造となっている。国の行政を構成するのは省庁である。国による地方行政は権限分散化の方針のもとで行われており、国の権限が県や郡のレベルで働く国の職員に一部委譲されている。国による地方行政は県、郡、支郡、行政区(タンボン)、村で構成されている。地方自治行政は地方分権化の方針を土台としており、関連法規制の下で、地方的事項(local affaires)に対する現地の人々の参加が可能となっている。地方自治行政組織には、通常の形態のもの(県自治体、自治市町、行政区自治体)と特別な形態のもの(バンコク都とパタヤ特別市)の二通りがある。
国家経済社会開発庁所管の国家経済社会開発計画が、国土政策に係る諸計画の最上位に位置づけられてきた。地方別の取り組み方針を含む空間開発政策も、この計画に内包されてきたが、近年はこの計画における空間開発政策記述が弱まる一方、内務省公共事業・都市農村計画局が全国、広域地方(region)、下位地方 (subregion)、県、都市(town)、特定地区の各レベルの空間計画づくりを開始した。
表タイの計画体系
計画レベル | 計 画 | 所轄官庁 |
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全国 | 政策プラン:国家経済社会開発計画 | 国家経済社会開発庁 |
空間プラン:国家空間開発計画 | 内務省公共事業・都市農村計画局 | |
地方 | 地方空間開発計画(6地方) | 内務省公共事業・都市農村計画局 |
下位地方 | 下位地方計画 | 内務省公共事業・都市農村計画局 |
県 | 総合計画 | 内務省公共事業・都市農村計画局 |
市 | 総合計画 | 内務省公共事業・都市農村計画局 |
特定地区 | 詳細計画 | 内務省公共事業・都市農村計画局 |
資料:Department of Public Works and Town & Country Planning, Ministry of Interior, Thailand (DPT) (2013)
図空間計画の階層と特徴
資料:DPT(2013)
図タイの行政制度
計画名又は行政分野 | 担当機関 | ホームページ |
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社会経済計画 | 国家経済社会開発庁 | http://www.nesdb.go.th/ |
空間計画 | 内務省公共事業・都市農村計画局 | http://www.dpt.go.th/ |
国家経済社会開発計画の目的は国家政策のフレームワークとして機能することであり、政策担当者及び政府諸官庁が特定の開発政策を策定・改定する際の指針として使われる。最初の開発計画は六ヵ年計画であったが、第二次以降は五ヵ年計画となった。
国家経済社会開発計画は国家経済社会開発庁が作成し、内閣により承認され、政令として発布される。
現行の第十一次計画は2012-2016年を計画期間とし、「平等、公平、活気ある幸福な社会」を目標に掲げている。
かつての計画書は、地域開発というタイトルや目的が明確にあり、空間開発について多くの記述がなされていた。しかし、第九次の計画以降は、地域開発にほとんど触れなくなった。現行の第十一次計画でも、空間的な国土・地域政策についてまとめて述べた項目はないが、①産業集積地におけるエコロジカルな都市の形成、②首都圏や地方主要都市におけるクリエイティブな都市の形成、③経済区(貿易・工業・物流区等)の整備などによる国境地域の開発、④低所得層の生活・生計の向上を考慮した既存の都市や経済区の再整備、⑤経済に偏重せず、社会・文化的側面を考慮した環境にやさしい都市の形成――が、都市・地域開発に関係する5つの柱を構成している。
以前のタイの空間開発は、国レベル・地方レベルともに、都市と地方の開発を先導・監督・調整・統合する系統立った枠組みとしての公式の空間政策のもとで行われたものでなかった。また、開発計画体系には各部門間の一体的・効率的な協調が欠けており、その結果、土地利用・社会・経済の不均衡な開発、不適切な天然資源管理、無秩序な都市・コミュニティの拡大、危険地帯への居住、居住地域への工業プラントや危険な倉庫の進出、天然資源・環境の悪化、貧困問題、成長と利益の分配格差、都市・地方の両方における公共サービス・施設不足など、数多くの問題を引き起こした。これらの問題は、国民の生活の質に直接的な影響を及ぼすとともに、開発コストの高騰をもたらし、国全体の競争力と経済システムに負の影響をもたらした。
2002年7月9日、内閣は公共事業・都市農村計画局(DPT)に、国内の全エリアを対象とした都市計画の策定を急ぐよう命じた。この決議に従って、DPTは、あらゆるレベルの空間開発・計画の枠組みとして、各エリアの特徴や能力に応じた開発についての方針・戦略・施策を立てるため、全国―地方計画を策定した。この全国―地方計画の意図するところは、国がグローバリゼーションへの時代の変化に備え、国民の要求に応え、国際競争力を高め、人々の生活の質を向上させ、国内の芸術文化遺産を維持し、強く快適なコミュニティを築き、自給自足の経済のもとで持続可能な開発を実現する動きを支援することである。
国家空間開発に係る方向および方針は50ヵ年計画(~2057年)となっており、同時に5ヵ年(~2012年)、10ヵ年(~2017年)、15ヵ年(~2022年)の緊急戦略計画が示されている。国家空間計画はタイの76県全てを対象としており、その中には、特別な地方自治行政組織であるバンコクとパタヤも含まれている。
「タイは、農業、農産工業、食品技術、医療サービス、観光の各分野において、世界を先導する国となる。タイ国民は心地よい環境の中で質の高い生活を送る。タイは持続可能な成長をしっかりと確立する。」というビジョンの50年後(2057年)の達成に向けた開発フレームワークとして、①経済的に潜在力の高い地区の開発、②全ての地方への成長の分配、③他のASEAN諸国との連携――が設けられている。
タイの戦略的ポジションおよび将来の開発方向の見通しは、全体として、①都市間の均衡化促進とともに、都市相当の経済活動と成長性を備えた都市クラスターの開発を優先する、②第二階層の農村拠点の活力増大、自立性の確保、地方間連携による利益獲得を推進する――といったかたちで、国家開発方針に反映されている。その土台となっているのは、国家開発政策は中心的課題、すなわち①人口・労働力の分配、②経済発展、③役割・機能面での都市と農村の適正な関係の構築、④土地利用の最大効率化、⑤交通システム・技術・通信・エネルギーの開発――の解決を後押しするものでなくてはならないという認識である。
50年間の国家空間開発方針は、全国計画と広域地方の双方を含む構成(全国―地方計画)となっており、広域地方の区分は、バンコクとその周辺部、東部、中部、北東部、北部、南部の6地域となっている。また、この方針の対象分野は、①土地利用開発、②農業、③都市・農村開発、④工業、⑤観光、⑥社会サービス、⑦交通・エネルギー・IT・通信、⑧自然災害防止――となっている。
「国家空間開発計画」は5年毎に見直すこととなっており、2015年アセアンの経済統合を控え、また、2011年の大洪水を踏まえた防災の視点が重要となった今日、見直しが必要となっている。2013年中に改訂される見通しである。
広域地方の開発については、国内の全ての地方がお互いを支え、協調する方向で自らの力を最大限活用できるよう、また全国計画の実施が目標を達成できるよう、各地方の開発の枠組みが以下のように定められている。
タイにおける国・地方計画の作成は始まったばかりであるため、明瞭に、そして、系統立て、効率的に計画を実施完了させるには、関連法規制の整備・運用と、国家として真剣に計画を推進する姿勢が求められる。そのためには、①国土計画関係諸法を施行すること、②国家的重要政策課題として「都市計画」を取り上げるよう政府に求めること、③政策の実施状況を監視すること---について、定期的なモニタリング・評価の仕組みを開発し、関連する全ての機関、そして全ての社会的部門が協調的に国の計画を推し進めることが必要がある。
図持続可能な空間計画
資料:DPT (2013)
図タイの開発フレームワーク
資料:DPT (2009) "Thailand National Spatial Development Plan 2057"
図国家空間開発戦略の実行
資料:DPT (2009) "Thailand National Spatial Development Plan 2057"
バンコク圏は国の行政と統治の基礎としての役割を果たしている。これまでバンコク圏では、インフラ・社会サービスの開発からとりわけ経済活動の開発まで、様々な開発が活発に行われてきた。この地方への開発の集中は、所得と雇用機会における他地方との不均衡拡大につながった。あらゆる活動の急速な成長を伴って開発が進展することにより、この地方は、居住、産業、商業、社会サービスを含むサービスの中心地となった。こうした開発の進展の様相は、この地方が他地方から労働力と人口を誘引する主因となっている。
この地方の都市スプロールは不適切な土地利用につながっており、種々の都市問題を引き起こしている。都心部と都市外縁部をつなぐエリアで急速な成長が起こり、開発の面的拡大と高層化の双方により、経済、商業、産業、居住拠点が出現している。こうした開発形態は、不十分なサービス・設備、都市外縁部と郊外エリアの交通ルートに沿った都市コミュニティの形成といった問題を生じさせるものである。これらエリアの大半は住宅地として開発され、大規模なデパートや産業クラスターが主な交通ルートに沿って、また、幹線道路の交差する場所に形成されている。これがインフラの不均衡な分配や土地価格の高騰につながっている。 同時にバンコク圏は人口の稠密さ、雇用の場、交通において過剰化してきている。また、都市環境問題、無秩序な都市計画、天然資源の過剰利用、生産性の高い農地での開発の進行、職・住のバランスの問題、交通問題といった課題も生じている。これらの問題が全て無計画に進められた開発によって引き起こされており、不適切な土地利用だけでなく、今後も問題の連鎖が続くことは明白である。この地方の住民に対して生活の質の向上をもたらすには、土地利用の問題に、まず歯止めをかけなければならない。バンコク圏地方計画の策定は、一体的な開発の枠組みを規定する土台となるもので、空間の管理・開発のタイミング、将来性、問題解決戦略についての検討が策定過程で行われてきた。検討に際しては、戦略的な政策・計画とあらゆるレベルの国際協調を分析することを通じ、外部からの影響も考慮されてきた。環境、人口、エネルギーといったグローバルかつ国内的な要素も加味されている。開発の方向性と可能性を明確に描くためには、外部要因だけでなく、空間の制約や将来性といった内部要因も考慮されなければならない。バンコク圏地方計画には、このように情報を総合的に分析したものが用いられ、この地方に住む人々の生活の質を反映させている。
タイ投資委員会は、1988年から、国内を3つのゾーンに分け、企業の立地先がバンコク圏から遠方になるほど恩典が厚くなる地域別区分(ゾーン制)を採用し、企業の地方部への進出を促すことで地方振興をめざしてきた。しかし、2012年に至り、この地域別区分の廃止の検討が始まった。ゾーン制により地方への投資を推奨してきたものの、その効果に限界があったとの現政権の評価により、地域別区分に基づく恩典付与制度に替わり、新たに業種別区分を導入し、タイに必要な産業を優遇する方針を打ち出す検討である。バイオテクノロジーやナノテクノロジー、グリーン産業、代替エネルギーなど、創造的産業や環境産業、高付加価値産業等が優遇対象候補となっている。新制度に移行するか否かの結論は、2013年早々にも出される、との見通しである(2012年12月現在の情報による)。
地域別区分廃止の検討の他にも、最低労働賃金の全国一律化の検討、アセアン経済統合、インドシナレベルの国際交通回廊整備に合わせた各国の国境地域の経済開発構想など、タイ国内の産業立地に影響を与える可能性を有する諸要素があり、産業立地分散を軸としたタイの地方振興政策(地域格差是正政策)は一つの節目を迎えている。
図表タイ投資委員会のゾーン区分とゾーン別恩典
恩典 | ゾーン1 | ゾーン2 | ゾーン3 |
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法人所得免税 | 3年間 | 7年間 | 8年間 |
免税満了から5年間50%減税 | × | × | ○ |
機械・設備輸入税減税 | 10%以上のものに限って 50%減税 |
免税 | 免税 |
輸出製品用原材料輸入免税 | 1年間 (延長可) |
1年間 (延長可) |
5年間 (延長可) |
外資系企業に対する土地所有 | ○ | ○ | ○ |
資料:図はバンコク投資委員会ホームページ、表は日本貿易振興機構バンコク事務所提供資料