j008-Report

新たに国土交通省が整備した全国56都市の3D都市モデルから、ビジネスのプロトタイプを作り上げるハッカソンを開催した。

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重森 大
編集:
北島 幹雄 (ASCII STARTUP)
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PLATEAU Hack Challenge 2021

「3D都市モデル」の整備・活用・オープンデータ化を推進し、全体最適、市民参加型、機動的なまちづくりの実現を目指すProject PLATEAU(プロジェクト・プラトー)では、プロジェクトの一環として、「PLATEAU Hack Challenge 2021」と題したハッカソンを7月17日・18日に実施した。

同ハッカソンは3D都市モデルを活かしたビジネスアイデアのプロダクト化がテーマ。開催にあたっては、チーム参加と個人参加の両方を受け付け、個人参加者に関しては、初日の午前中に即席でのチーム編成を実施。単にアイデアを形にするというだけでなく、初対面に近いメンバーとスムーズにコミュニケーションを取りながらプロジェクトが進められるかどうかも、プロダクトの完成度に直結し、見どころのひとつとなった。

結成されたチームは、株式会社ライゾマティクス 代表取締役社長でパノラマティクス主宰の齋藤 精一氏、アジア航測株式会社 事業戦略部 技術戦略室の黒川 史子氏、株式会社ホロラボ ソフトウェアエンジニアの於保 俊氏らのコーチング、アドバイスを受けながら、アイデアのプロダクト化を目指した。

2日目の夕方には成果発表を迎え、下記14チームが参加し、プロダクトを競った。審査員は、川田 十夢氏(AR三兄弟長男)、ちょまどこと千代田まどか氏、石丸 伸裕氏(OGC CityGML仕様策定WG設立委員)、内山 裕弥氏(国土交通省)、遠藤 諭氏(株式会社角川アスキー総合研究所)の5名が務めた。

チーム名成果物
ベベルTreeD Map ~桜と紅葉のデジタルツイン化~
通学路のガードレール通学路の安心・安全 〜通学時の交通事故発生を減らす〜 PLATEAUに必要インフラ、情報が書き込める
ナイスガイズARライブ配信
Doodle doDoodle City
巨災対わりと本気でゴジラ対策してみる
街の歴史と語りと噂街の歴史と語りと噂
CoumarinYour 15-minute City Viewer
ムササビまち風シミュレーション
ユニバーサルツーリズムデスクホイールプラトー
プラトーフィルムコミッションフィルプラ!
LOOVICLOOVIC Treasure
CityGML完全に理解したPlateau Painter
RED HIROSHIMANIGERUN~次世代型防災無線デバイス~
リヴァイアさんVR津波体験アプリ

ハックチャレンジ審査結果

本稿では参加チームの中から、入賞したチームのプロジェクトを紹介する。

アワードチーム名作品名
グランプリ巨災対わりと本気でゴジラ対策してみる
準グランプリナイスガイズARライブ配信
奨励賞ベベルTreeD Map ~桜と紅葉のデジタルツイン化~
審査員特別賞 演技賞RED HIROSHIMANIGERUN~次世代型防災無線デバイス~

▼審査員特別賞 演技賞

当日急遽設けられた審査員特別賞 演技賞に選出されたのはRED HIROSHIMAの「NIGERUN~次世代型防災無線デバイス~」だ。同チームは、「平成30年7月豪雨」の際、避難勧告等避難行動を促す情報が出されたおよそ860万人のうち、実際に避難所に避難したことが確認された人数の割合は、0.5%であるとのデータを引用し、正常性バイアスによって適切な避難の機会が失われることを指摘。そのような悲劇が再び起こらないようにするためのプロダクトをPLATEAUを活用して開発した。

成果物は、将来起こりうる土石流の堆積状態を3Dデータでビジュアル化し、現在地の危険度を把握したり、安全な避難ルートを表示したりできるIoTデバイスとアプリケーション。デモ動画として上映された中での参加者の演技が受賞のきっかけでもあるが、土石流の状況を「Unity」など3Dアニメーションを生成・試算するため、河川解析ソフトウェア「iRIC」を活用するなどPLATEAU以外のソリューションとうまく組み合わせた点も高く評価された。

▼奨励賞

奨励賞には、ベベルの「TreeD Map ~桜と紅葉のデジタルツイン化~」が選出された。PLATEAUを用いて、桜や紅葉マップのビジュアライズシミュレーションをするという試みで、建物だけではなく植生情報もデジタルツイン化しようとするものだ。PLATEAUのCityGMLデータをプレビューするため、PLATEAU VIEWを模したビューワーをUnityで作って、杉並区の桜の開花情報を3Dデータで見せた。

同チームは、従来はSNSなどを辿らないと把握しづらかった開花状況を地図上の3Dデータで見られるようになれば、集客や認知度向上につながるだけでなく、街路樹付近の賃貸相場や人流への影響を分析でき、都市計画にも活用できるとプロジェクトの趣旨を説明。結果的に、情緒的価値を経済的価値に置きかえることにつながると話した。

▼準グランプリ

準グランプリとしては、ナイスガイズの「ARライブ配信」が選ばれた。街中に巨大なARアバターを出現させてライブ配信を行うというもので、配信者がVRヘッドセットを装着して動くことで、視聴者はリアルタイムでのAR映像を視聴できるという仕組みを取り入れた。PLATEAUは、VR空間上に仮想的な街を出現させるのに用いられた。

視覚的に高いエンターテインメント性を持っている点に加えて、従来は人が密集しなければ見られなかったようなパフォーマンスを、好きな場所で見られ、よりパーソナライズされたかたちで楽しめる点が評価された。

▼グランプリ

そしてグランプリには、巨災対の「わりと本気でゴジラ対策してみる」が選ばれた。「映画『シン・ゴジラ』をもとに、実際にゴジラが東京に上陸した場合のシミュレーション」をテーマとし、PLATEAUのデータを活用して、ゴジラが本当に東京に現れた際の建物被害数やその被害額を試算しようという試みだ。

ハッカソンでは、実際に映画で巨大不明生物(ゴジラ)が歩き、破壊して回った軌跡をベースに、被害状況を算出。独自のアルゴリズムを用いて、ゴジラからの距離に応じた建物のダメージを試算し、「被害係数」という数値で被害の深刻度を表現。

審査員の内山氏は、「一見エンタメにも見えるが、ゴジラは災害のメタファーでもある。被害シミュレーションやアルゴリズムの面では、防災政策という部分のある作品で、PLATEAUの使い方としても王道」と評価した。

PLATEAUそのものは、日本全国を3D都市モデル化し、オープンデータ化するというプロジェクトだが、今回のハッカソンを通じて、「そこにどのようなアイデアを掛け合わせるか」によって、いかようにも持ち味を変える点が、PLATEAUの意義であり同時に面白みでもある。

巨災対の「わりと本気でゴジラ対策してみる」のように、大災害のシミュレーションにも使えるし、ナイスガイズの「ARライブ配信」のようにエンターテインメントにも転用できる。ベベルの「TreeD Map ~桜と紅葉のデジタルツイン化~」のように、分析しにくかったものを容易に分析できるようにしたり、RED HIROSHIMAの「NIGERUN~次世代型防災無線デバイス~」のように、災害対策をより身近なものにブラッシュアップさせたりすることもできる。

日本全国の都市が3Dデータ化されることは、それ自体が、日本のDXにおける大きなインパクトであると評価できるが、さまざまな専門領域からのアイデアが集まり、実現されていくであろうことも、「新しい世界を創る」につながっていくだろう。