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XRを活用した観光バスツアー

実施事業者観光庁 / 京浜急行電鉄株式会社 / 株式会社シナスタジア / 株式会社ネイキッド
実施場所神奈川県横浜市 みなとみらい周辺
実施期間2021年12月〜2022年1月
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3D都市モデルをベースにメタバースを構築し、XRコンテンツを開発。オープントップバスと組み合わせたXR観光バスツアーによるデジタル社会における新たな観光体験サービスDXを目指す。

実証実験の概要

現在、観光産業は厳しい状況にあるが、ポストコロナを見据えた地域経済の活性化に向けて文化・自然等の既存の観光資源とデジタル技術の掛け合わせによる体験価値の向上や観光消費額の増加に向けた取組が行われている。

今回の実証実験では、3D都市モデルをベースに横浜・みなとみらいエリアのメタバースを構築し、これをオクルージョンとして利用したXRコンテンツを開発する。さらに、XRコンテンツをオープントップバスと組み合わせた観光バスツアーとして提供することで、そのサービス価値の検証を行う。

実現したい価値・目指す世界

観光庁では、旅行者に対する消費機会の拡大や旅行者の消費単価の向上を目指し、これまでの態様に捉われない新たな観光コンテンツ・価値を生み出すべく、デジタル技術と観光資源の融合による「DX(デジタルトランスフォーメーション)の推進による観光サービスの変革と観光需要の創出事業」を行っている。

今回の実証実験では、観光庁と国土交通省都市局が連携し、横浜・みなとみらいエリアで3D都市モデルを活用したXR技術および高精度位置認識技術によるXR観光バスツアーという新たな観光体験アトラクションを提供し、そのサービス価値を検証。屋外を走行するバスという特殊な環境下において、スケジューリング技術・予測技術・プランニング技術などを用いて、交通状況ごと変化する走行状況の「間」に自動チューニングされたElastic(弾力性のある)な観光コンテンツを造成するとともに、3D都市モデルを活用した横浜一帯のメタバースを構築や没入感を高めるため現実世界の物体の前後関係を反映するオクルージョン技術の開発を行った。

今後、自動運転社会が到来すれば、移動中の非消費時間がさらに発生することとなる。新たに生まれた時間を活用した新たな消費への先駆けとして、モビリティ架装型XR機器を普及させ、乗り物に乗る時間を単なる移動から楽しい体験へと昇華を目指す。

対象エリアの地図(2D)
対象エリアの地図(3D)

検証や実証に用いた方法・データ・技術・機材

今回の実証実験では、株式会社シナスタジアが開発を行った特別仕様の精密機器を含む独自キット『Ride Vision Kit』をヘッドマウントXRデバイスとし、株式会社ネイキッドが制作した新規XRコンテンツを「NAKED XR TOUR」として造成。これを京急電鉄が所有する『KEIKYU OPEN TOP BUS横浜』に搭載して提供するサービスを開発した。2021年12月~2022年1月の定期運行ツアーとして3社で販売実証を行った。

また、横浜・みなとみらいエリアのメタバースは、3D都市モデルと独自に取得した高精度三次元点群地図データを位置合わせすることで構築。移動体・屋外という特殊環境下においてAR・VRコンテンツを提供するため、3D都市モデルをオクルージョンマスクとして利用する技術検証を実施した。

未来のみなとみらいの街並みをイメージしたシーン
XRバスツアーの運行ルート

検証で得られたデータ・結果・課題

実証実験として実施した定期運行ツアーは、9割近い予約率となり、約380名が参加し、XRによる観光コンテンツの集客力及び注目度の高さが明らかになった。

今回の実証実験により、高精度三次元点群地図データと3D都市モデルデータの位置合わせをすることにより、XR映像内の未来都市や海底都市世界といったバーチャル空間データとして利用可能であることが確認できた。体験品質の向上にあたっては、オリジナルの3D都市モデルデータより高いLODへの加工を行い、世界観に合わせたテクスチャ等の演出を施したが、映像制作コストの低減や、より没入感の高い体験へつなげることができた。また、PLATEAUデータの活用を含む4つのオクルージョン技術の開発は順調に進み、顧客満足に充分な精度でのオクルージョンを実現。他方で、天候不良や機器の接触不良などのトラブルもあり、モビリティ内でのXR体験の総合的な満足度向上に対しての課題も明確化された。

バスツアー全体のイメージ写真
開放的なオープントップバスと密集を避けた席配置で、感染症リスクを軽減
手に魚が寄ってくることで、海の中にいるかのような体験ができるシーン
新規開発した4つのオクルージョン技術の解説

参加ユーザーからのコメント

・現実とXRの融合を初めて体験して、感動した。
・自分の手の動きを検知して映像に反映されるのが面白かった。
・オクルージョン技術によって、同様の体験よりも見え方がよかった
・交通状況によってコンテンツ内容にズレが生じない技術の高さを感じることができた。
・さらに横浜らしさのあるプログラムになると、バスを降りた後に周辺に立ち寄りたくなる。

今後の展望

本実証実験の結果を踏まえ、5G技術を用いたデバイスのシンクライアント化、キャリブレーションソフトウェアのフルオート化、ゴーグルなどハードウェアの無線化・軽量化等のさらなる技術開発を目指す。また、3D都市モデルを活用することで、低コスト化とコンテンツ力を両立させ、実際に一般の乗客を動員して収益を上げることに成功したツアー事例は数少なく、他の地域や乗り物でのXRを活用した観光ツアーを行い、事業の水平展開を図っていきたい。さらに、最新技術を惜しみない活用と映像コンテンツの内容を工夫することで、チケット代としての収入のみならず地域周遊への誘因となる様な未来の観光事業を切り開いていきたい。