ドローンショーやバーチャルマラソン、グルメ散歩に迷路・パルクールゲームまで、金沢の街を3D都市モデル化することで生まれる可能性
「PLATEAU HACK CHALLENGE 2024 in KANAZAWA」レポート
2024年10月26日と27日に金沢市で「PLATEAU HACK CHALLENGE 2024 in KANAZAWA」が開催された。開催地の金沢市を中心に3D都市モデルやプログラミングに興味を持つ人やエンジニアらが集まり、2日間を通じて3D都市モデルの基礎知識や活用事例、アプリケーションの操作を学び、講師やメンターのサポートを受けながら作品の開発に挑戦した。
- 文:
- 貝塚 怜(Kaitsuka Rei)
- 編集:
- 北島 幹雄(Kitashima Mikio)/ASCII STARTUP

3D都市モデル活用事業に向けて取り組みが進む金沢市
イベントの冒頭には、開催地である金沢市の都市整備局 牧野真人氏が、金沢市における3D都市モデルについての取り組み概要を紹介した。

金沢市では「市街化区域」と「津波浸水想定、洪水浸水想定区域」を合わせた1万3604ヘクタールの範囲をLOD1で、金沢市の中心部である「中心市街活性化区域」841ヘクタールをLOD2で整備している。
ユースケースの例としては、「土地の高度利用の状況を踏まえた都市計画情報の可視化」を実施。3D都市モデル上で「用途地域」や「防火・準防火地域」、「景観形成区域」をベースマップとして表示し、建物を高さに応じて色分けすることで、都市計画と建物高さの関係の可視化を行った。
3D都市モデルによる可視化によって、都市計画と各地域の建物の高さの関係性を把握しやすくなったほか、同じ商業地域においてもエリアによって高さの利用に差があるなどの地域特性を捉えやすくなったという。
3D都市モデルの活用に向けては、令和3年度から毎年、市庁内で職員を対象に研修会を実施。3D都市モデルの基礎的な操作や全国の活用事例を共有するなどの研修を行っているという。さらに、研修を受けた職員を中心に、3D都市モデルの活用で解決できる課題の抽出や必要なデータ類の検討を行っていることを紹介。「3D都市モデルを活用した事業化に取り組み、業務の効率化および市民サービスの向上を図っていく」と牧野氏は話した。
続いて1日目には、「Project PLATEAU とは」と題して、PLATEAU ADVOCATE 2024の久田智之氏がProject PLATEAUの取り組みやユースケースの紹介を行った。

午後の「ハンズオン」では、久田氏とともに株式会社シナスタジアの崎山和正氏と大西宏和氏がメンターとして参加。UnityでPLATEAUの3D都市モデルを表示するための基本的な操作などについて、参加者たちは各自のPCで実際に操作しながら学んでいった。

その後、久田氏のファシリテーションのもと、ハッカソンに向けたアイデア出しとチームビルディングを実施。参加者一人ひとりが3D都市モデルを使ってやってみたいことをまとめ、互いに企画を見せ合うなどして自由にチームを形成しハッカソンに望んだ。

最終的に成果発表を行ったのは4チーム。ここからは、成果発表における各チームの発表概要を紹介していこう(発表順)。
チームC「新宿駅でのドローンショー シミュレーション」

チームCは個人チームとして参加。東京・新宿周辺の3D都市モデルを使い、空に浮かぶドローンショーが新宿の街中からどのように見えるのかをシミュレートした。
シミュレーションでは新宿御苑からドローンを飛ばしたと想定し、ドローンが空に模様や文字を描く様子を、新宿駅付近の道路から眺めることができる。作成してみての感想として、「実際に自分が新宿御苑からドローンを飛ばしたり、道の真ん中でその様子を眺めたりするなんてできないからこそ、現実ではできないことをPLATEAUの中で『こんなふうに見えるんだ』と試すことができた」と、作成した手ごたえを語った。

チームD「仮想の金沢市で金沢マラソンのコースを走ろう!」

チームDは「仮想の金沢市で金沢マラソンのコースを走ろう!」として、金沢マラソンのコースと同一のルートを3D都市モデルで作成し、ランナーの追体験ができるものを作成した。今回作成したのは、主に街中のエリアである香林坊から金沢駅(鼓門)までだ。
工夫した点として、道路上に赤いフェンスを作成してコースをわかりやすくしたことや、道路の勾配情報を画面上に数値で表示したほか、意図せずルートを外れないように「透明な壁」を設置するなど、バーチャルならではの機能を加えたという。また、「もっとやってみたかったこと」として、コース全域を体験できるようにしたかったことや、坂道や終盤など「ツライ」シチュエーションを画面演出で表現したかったと語った。

チームE「金沢グルメ散歩 ~猫と鳥の食探しアドベンチャー~」

チームEは、猫の視点と鳥の視点で金沢の街をグルメ探訪しようという「金沢グルメ散歩 ~猫と鳥の食探しアドベンチャー~」を披露した。
3D都市モデルで再現した金沢市を舞台に、猫と鳥が食べ物を探しながら街を散歩するイメージで、食事の画像が貼り付けられたマップで金沢の”おいしい場所”を案内しながら、猫と鳥の視点で街を冒険する楽しさも伝えようというもの。街を見上げるような猫の視点と、空から広く街を見下ろす鳥の視点の双方から、金沢の街を冒険しつつ目当ての食事を探すというアイデアだ。制作途中での発表となったため、パーツごとの紹介となった。


チームA「金沢城を体感する迷路ゲーム/市街の建物上を駆け回るパルクールゲーム」
チームAでは、3D都市モデルを活用してアトラクション要素を押し出したゲームを作ろうと、チーム内で2作品を作成した。
1つ目は「迷路」がテーマ。3D都市モデルで金沢城周辺の地形を再現し、金沢城の歴史を知ってもらおうというコンセプトのゲームだ。現在は埋められてしまった堀も3D都市モデル上で復元することで、かつての金沢城を体感できるという。広い城郭はまるで迷路のよう。今後の展望として、ほかの地域の城でも同じように作品を作ってみたい、と語った。

2つ目は「パルクール」がテーマ。浸水被害が想定される地域を対象に、3D都市モデルで再現した街をパルクールで飛び回るゲーム。作品のねらいとして、実際の街をモデルに、道路ではなく建物の上を駆け回ることで、建築物の並び方や街の構造を理解できる、と考えたという。

今後の展望として、「今回は時間の限りもあって浸水した水面の表現ができないまま地形のテクスチャをそのまま用いたが、このゲームを通じてリアルな体験ができるように、具体的な浸水被害のデータなども利用して水面を表現する方法を探求したい、あわせてゲーム性も高めたい」と語った。

各チームの発表が終了後、ファシリテーターを務めた久田智之氏が全体を総括した。
「今回は、短い時間だったにもかかわらず、参加者のみなさんにとてもおもしろいものを作っていただきました。個々の作品としてはもちろんのこと、今回のアイデアをすべて組み合わせて『チーム金沢』としての作品に仕上げることもできるのではないか、とも感じました。
また、それがGISの魅力のひとつでもあると思います。地図という共通のものの上にいろいろなコンテンツ――防災情報だったり、まちづくりだったり、ゲームだったり、いろんな人の多様なアイデアが3Dのデータ上でひとつになっていく。そんなおもしろさがあります。また機会があれば、もう少し時間を増やして、そうした試行錯誤もしてみたいと思わせてもらった、すてきなハッカソンになりました」と、久田氏は語り、イベントを締めくくった。