j027-Report

子ども向けマイクラ災害マップや3D空間思い出アプリ、都市でマウントなどが登場!仙台で今年最後のPLATEAUハッカソンを開催

「PLATEAU Hack Challenge 2022 in enspace(仙台)」レポート


国土交通省が主導する、3D都市モデルの整備・活用・オープンデータ化プロジェクト「PLATEAU(プラトー)」では、今年度、各地のエンジニアコミュニティとの交流に力を入れてきた。2022年度ハッカソンシリーズの最後を飾ったのは、11月12日・13日に開催された「PLATEAU Hack Challenge 2022 in enspace(仙台)」。会場となった宮城県・仙台市のシェアオフィス・コワーキングスペース「enspace」には、県内外からエンジニア、デザイナー、マーケターらが集まり、3D都市モデルを活用した作品開発に挑んだ。

文:
大内 孝子
編集:
北島 幹雄 (ASCII STARTUP)
撮影:
高橋 智
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PLATEAUが使いやすくなる「PLATEAU SDK」2023年3月公開予定!

過去のハッカソンでのメンターや審査員のコメントで幾度となく言及されていたのが「PLATEAUデータを扱う際のハードル」だ。そこで本プロジェクトでは、PLATEAUの使い方をより広く知ってもらうため、インターネット上でのコンテンツ展開にも力を入れている。公式サイトのリニューアルに伴い、開発チュートリアルのコンテンツを拡充し、また2022年度に実施したハンズオンイベントのアーカイブ動画も公式YouTubeにて公開中だ。

PLATEAU公式サイト-「Learning」
https://www.mlit.go.jp/plateau/learning/

さらに、ゲームエンジンでPLATEAUの扱いをアシストしてくれるツールとして「PLATEAU SDK」の開発が進められている。前回の呉開催ハッカソンに続き、今回も関連技術として参加者に公開されることとなった。また会場にSDKを開発するシナスタジア社から崎山和正氏を招き、参加者をサポートした。

簡単にSDKについて紹介しておこう。PLATEAU SDKは、Unity、Unreal Engine用が用意されており、3D都市モデルのインポート、メッシュ統合、属性情報の取得といった機能を提供する。

都市モデルインポート機能

まず、G空間情報センターからダウンロードしたCityGMLを入力して読み込む。地図上でインポートしたい範囲を指定すると、シームレスにゲームエンジンのシーン上に3D都市モデルが読み込まれるようになる。

属性情報取得機能

ゲームエンジンのシーンに読み込んだポリゴンメッシュから、CityGMLに含まれるほぼすべての属性情報へのアクセスが可能となっている(ハッカソン開催時点ではUnreal Engine版は未対応)。

2023年3月公開に向け、使い勝手の面での作り込みやドキュメント周りの整備などを進めており、OSSとして公開する予定だ。

崎山氏は、「実際に使っていただいた方からさまざまなフィードバックがありました。例えば、『ゲームで使うために最適化したうえで、属性情報がわかるようにしたい』というニーズがあると聞き、豊富な属性情報にアクセスしながらゲームエンジンで使えるように、今後、別の仕組みを入れることで対応できないか検討したいと考えています」と語っている。

PLATEAU SDKなどツール群が整備されていくことで、アイデアと実装のバランスが取れたPLATEAUの活用方法が増えていくことが期待できる。これまでのハッカソンの作品でも、アイデアに実装が追いついていないというケースが少なからずあった。SDKの公開が技術的なハードルを下げることになれば、それらも解消されていくだろう。

PLATEAU SDKなどツール群が整備されていくことで、アイデアと実装のバランスが取れたPLATEAUの活用方法が増えていくことが期待できる。これまでのハッカソンの作品でも、アイデアに実装が追いついていないというケースが少なからずあった。SDKの公開が技術的なハードルを下げることになれば、それらも解消されていくだろう。

今回のハッカソンでは、7チーム中、4チームがこのSDKを使って実装を進めていた。アイデアは、防災のような社会課題の解決を目指したものからエンターテイメントまで幅広い。2日間でどのように仕上がったのか、以下詳細をお届けしたい。

グランプリはマインクラフトを活用した「キッズ向けさいがいMAP」

2日目の成果発表会では、7チームによる各5分間のプレゼンとデモが行われた(うち1チームはオンラインで発表)。審査委員は、柴山明寛氏(東北大学災害科学国際研究所)、Kula Takahashi氏(TIS株式会社)、簗瀬洋平氏(ユニティ・テクノロジーズ・ジャパン株式会社)、内山裕弥氏(国土交通省)の4名。審査基準は以下のとおり。

・3D都市モデルの活用
・アイデア
・デザイン
・技術力
・地域貢献

審査の結果、TeamMの「キッズ向けさいがいMAP」がグランプリを受賞した。

「TeamM」チーム-キッズ向けさいがいMAP

「キッズ向けさいがいMAP」は小中学生向けの防災教育コンテンツ。小学生が親しみやすい『マインクラフト』にPLATEAUの3D都市モデルを変換して取り込むことで、ゲーム上に街並みを再現している。ゲーム感覚で洪水による浸水被害について学べる作品だ。

住んでいる地域の洪水の危険度を学ぶための流れは、3D都市モデルを活用してマインクラフトに再現したワールドの中で任意の場所に自宅をブロックで配置し、大雨を降らすことで洪水による浸水被害状況を再現してみる、という手順だ。デモでは福島県郡山市のデータが用いられた。ここは近年、逢瀬川の浸水被害が出ている地域だ。

デモ画面。マインクラフト上に福島県の郡山駅周辺地域を再現、ここに家を作ってもらう(中央が「家」)
洪水(想定最大規模(L2))が起こった状態。このエリアのこの家では床下浸水が起こるレベルだということがわかる
手前に見えているのが逢瀬川でその画面奥が郡山駅周辺。このように浸水の範囲、深さなど状況がわかる

実装で工夫した点は、建物などのテクスチャの色だという。CityGMLのテクスチャデータはRGBだが、それを点群データとしてマインクラフトのブロックに持ってくると、色数が多すぎる。そこでHSVに変換し、マインクラフト上で街らしく、建物らしく見えるようにしたとのこと。CityGMLからRGBの点群データ、HSVへの変換にはTransformerが提供されており、すべてFME Desktopで処理しているそうだ。

※参考
CityGMLからRGBの点群データへの変換
RGB点群データからHSVへの変換

テクスチャのRGBデータの取り扱いを工夫

マインクラフトを使っていることから、その利用規約に則り、今後は非営利の防災教育用コンテンツとして展開していきたいという。

審査員のKula氏はその完成度を認めたうえで、子どもがマインクラフトの世界で起こることとリアルな防災を頭の中で結び付けられるのか、と疑問を呈しつつ、防災教育の研究者と組んで開発を進めてはどうか、とアドバイスした。また、「自分で作ること」を楽しむマインクラフトの特性を活かす仕掛けも欲しい、と付け加えた。

災害科学を専門とする芝山氏も非常に面白いしすぐに使えそうだ、と高評価。さらに災害を起こす側と防御する側を設定し競い合う形にすると、ゲーム性が出て、どうすれば被害を抑えることができるか、などのシミュレーションにもなると指摘した。

グランプリ受賞のポイントとして内山氏は、「PLATEAUのデータをマインクラフトのような既存のプラットフォームにどう落とし込むか、子どもをターゲットにどのようにまちづくり、防災について教育をしていくかということは国交省としても取り組んでいるテーマ。『キッズ向けさいがいMAP』はそうした問題意識を見事に形にしている、実装力・アイデア・ソリューションの部分で他チームを抜いた形だった」と評価した。

3D都市モデルの属性を活用し都市の発展度合いを定量評価・比較

続いて、Unity賞を受賞したのはCityPeopleの「都会マウント」だ。

地元や居住地をネタに「うちのほうが都会だ/田舎だ」といったマウント合戦がよく起こるが、この作品では、都市の発展度合い「都市マウント指数」を定量化してみよう、というもの。

「CityPeople」チーム-都会マウント

都市の発展度の目安としては、駅周辺が発展しているかどうかを「圧迫感」「建物の数(量)」「お店の数(量)」で評価する。計算方法は、それぞれCityGMLの属性情報から「高さ・面積」「面積」「用途・面積」を使って計算し、偏差値で比較するというもの。相対的に比較することで、その場所をもっと知ることにもつながる。

発展度の標準偏差はPythonを使って計算している。今回のデモでは、CityGMLから地図を作って表示するにはUnityよりも軽くて扱いやすいということで、STYLYを使った実装になっている。

ちなみに、UIの見せ方に関しては、Kula氏からのアドバイスでポップな仕上がりにしたという。

発展度の計算
都市を選択すると、都会マウント指数が表示される
都市の都会マウント度の比較結果を表示

審査員の簗瀬氏は、「いろいろな都市の違いはその場所に行くと感じるが、数字で見てもそこに差が表れるというのは面白い。マウントという方向ではなく、たとえばどの都市にも必ずほかの土地にはない良いところがある、それを視覚化できるという方向にすれば、誰もが楽しめるエンターテイメント作品になるのでは」とコメント。Unity賞は「これをマウントという争いではなく、各都市の価値を感じられるような皆が幸せな方向で使うのであれば……」という条件付きで授与された。

自分だけの観光マップで思い出を保存

MIERUNE賞を受賞したのは、突貫工事チームの「PLATEAUげっちゅ」。観光地で写真や動画を撮るように、PLATEAUデータを用いて3Dで思い出を保存するアプリだ。観光名所のモデルを取得して自分の仮想空間への設置や、仮想空間に配置したモデルを現実空間にAR表示が楽しめる。また、仮想空間は他の人と行き来ができ、自分の思い出の建物を見せたり、誰かの思い出の建物を見ることができる。

「突貫工事」チーム-PLATEAUげっちゅ
PLATEAUの3D都市モデルを使った新たな旅の記録を提案

Geospatial APIを用いて、現実の建物とPLATEAUモデルの重ね合わせを行ない、AR画面上から取得するPLATEAUモデルを選択。該当のPLATEAUモデルをプレハブ化して、画面遷移で消えないオブジェクトとして保存する、という仕組みだ。建物の名前など詳細情報は、CityGMLから取得し、仮想空間の共有はPhotonを用いて実装している。

ただし、前半のPLATEAUモデルをARアプリ側に持ってくる箇所の実装が終わらず、デモは、Photonを使った仮想空間の共有と、ARアプリとして観光名所の取得・表示部分のみとなった。

スマートフォンアプリで作成した環境を同期することでPhoton上に仮想空間を設置する。ホストとゲストに分かれており、ゲストはホストの仮想空間に入り、自由に動き回れる
アプリ上で自分で配置したモデル(最終的にはこれがPLATEAUモデルとなる想定)をARで表示

今後の発展として、NFTでの収益化を考えているとのこと。例えば、イベントなどによって手に入るモデルが変化することでコレクション性を持たせたり、現地でしか入手できないという制限を持たせることにより経済活性化・地域活性化につながる。

内山氏は発表後のコメントで、「Ingress的な何かになりそうな可能性を感じる。実装面でがんばってほしい」とアイデアを高く評価した。

メンターとして参加した西尾悟氏(株式会社MIERUNE)はMIERUNE賞受賞のポイントとして、「GIS的な解析を加えるとおもしろくなりそう」とサービスとしてのポテンシャルを挙げた。人気のある建物や名所がヒートマップ的に表示される、あるいは、NFTで展開するのであれば、そこでの人気(価値)と組み合わせてVR空間上の価値を明示するなど、おもしろい発想ができそうだ。

また、惜しくも受賞を逃したが、その他にも個性的な参加作品が発表された。

「逃げるは恥じゃない!」チーム-避難先ど~こだ?超人ロボでぜ全力避難!(避難先探しゲーム)

カーソルの移動キーで黄色の閃光が目印になっている避難先に向かい、建物に到着したらジャンプして屋上に避難するというゲーム。ゲーム中の軌跡を振り返ることで、より近い避難経路などの検討にも使える。将来的にプレイデータが大量に集まれば、災害対策にも役に立つとする。

内山氏は、「災害時の避難訓練などにおいて3次元の特性を活かせる仕組みになっている」と評価。また、柴山氏は「避難場所は複数あるので場所による得点だったり、障害物や殺到する群衆など、時間などの要素を入れてもっとゲーム性を出すとおもしろい」とコメントした。

「デジタルツインカーレーシング」チーム-AI搭載ラジコンカーと連動! 仙台市街デジタルツインレース

都市をジオラマと見立てたコースを走るAI搭載のラジコンカーと連動し、仮想空間上でバーチャルな車が走る作品。デモではミニ四駆ベースのAIカーTatamiRacerを使用し、仙台市街の周回コース(仙台駅前通り→青葉通り→愛宕上杉通り→広瀬通り)を走行した。仮想空間としてはPLATEAUの仙台市街の3Dデータを使って構成している。

今回はカメラを使ってラジコンカーをトラッキングするシステムまでは作りきれていない。ラジコンカーの走るジオラマコースと地図に4つのチェックポイントを設置し、同時にチェックポイントを通過することで同期させている形だ。将来的には仮想空間側を大画面に移したラジコンカーレースを開催するなど、地域の活性化につながるイベント開催なども考えているとのこと。

簗瀬氏からは、「デジタル空間とリアルな空間がつながるというところがおもしろい。だからこそオーバルコースになっているのが残念」とのコメントがあった。街並みの広がりが活かせるような見せ方があればもっとよいだろう。

Kula氏は、「ハードとソフトの双方が絡むプロジェクトで、ハッカソンで作るには非常にハードルが高い作品だが開発を続けて欲しい」とエールを送った。

チーム「街のキモチ」-Y SHE

3D都市モデルで作られた空間内で、ビルなどの建物が街の情報を話したり、ユーザーからの問い掛けに答えたりしてくれるサービス。実現した機能としては、「通り過ぎるとビルが発話する」機能と「発言しているビルが動く」機能、そしてユーザーからの問いかけにアクションを返す「コール&レスポンス」機能だ。

今後、インタラクティブなチャットボットやビル自体のAR装飾(看板やポップなど)を行うAR広告プラットフォームを目指すという。

簗瀬氏からビルのキャラ付けがあるともっとおもしろいのではないかとの指摘があった。またKula氏からは、ARでビルのアクションを組み合わせるとよいのではないかとのコメントがあった。内山氏も「発想が突き抜けていて良い。これまでにない街紹介アプリ、ご当地PRアプリになるようなポテンシャルを感じる」と評価した。

「未満建築デザイン・ファーム」チーム-(仮)どいてよ、そのビル!by Plateau

花火大会の鑑賞をサポートするアプリ。仙台七夕前夜祭である花火大会は都市の中心部で行われるため、場所によっては高い建物で花火は見えないことがある。それをAR技術を用いてビルを消し、リアルタイムの花火映像を投影して解決しようというもの。建物は繰り返しタップすると消えるが、築年数が古いものほど消しやすく、新築に近いと連打が必要、文化的価値のある建築物は消せないなど、消す難易度も段階的になっているのがおもしろい。

内山氏からは「おもしろそうだが、実装が難しいのではないか」との指摘があった。また、Kula氏からは、「見えないことも含めて街全体で花火大会という体験を楽しめる展開にしてはどうか」とアドバイスした。

社会実装に向けたアイデアが多数誕生した

今回の仙台ハッカソンにメンターとして参加していた常名隆司氏(ユニティ・テクノロジーズ・ジャパン株式会社)が指摘したのは、参加者のモチベーションの高さだ。

「(2022年度の各地のPLATEAUハッカソンでは)地域活性化や観光集客など、いろいろな方がいろいろな思いで参加されていました。ただ、『PLATEAUでどう作るか』という主題が一番強いのはここの会場だったのではないかと思います。手段としてPLATEAUのデータを使うのと同じようでいて、結論は決して同じにはならないのです。この会場は、PLATEAUと自分たちの技術力を掛け合わせて何かを生み出そう、という人たちばかりだった気がします」と常名氏は評した。

同じくメンターの石丸伸裕氏は「メンターとして会話した2チームは、いずれも事前によく勉強され、やりたいことや問題意識を持った向上心の高い方々でした。話していると開発内容とは直接関係のない質問もどんどん出てきて、PLATEAUの裾野が広がり、日々の業務に活かしたい、と普段から自然に考えているのだなと思いました。ハッカソンに参加しているけれど、目的はハッカソンそのものだけではなく、広範な知識の習得という人が多いと感じました」とコメントした。

ハッカソンは出会いや知識が一気に広がる場でもあり、形にしたプロトタイプを見せることでいろいろな人に影響を与えられる。

PLATEAU Hack Challengeを通して感じるのは、1つの技術的テーマで年単位で継続して開催することのおもしろさだ。1年目、特に最初のほうのPLATEAU Hack Challengeは高いスキルや技術的知見を持つ、いわゆる「濃い」ユーザーが集まって、PLATEAUデータで何ができるかを探っていた。できあがったプロトタイプに触れることで裾野が広がった今年度のPLATEAU Hack Challengeでは、より日常的にどう使えるか、という段階になってきている。あるいは、やりたいことを持って会場にやってくる。ただし、まだアイデアと実装力のバランスが十分ではない部分もある。

メンターとして参加した宿院卓馬氏(ライゾマティクス)は、「実装よりも、ややアイデアドリブン寄りなハッカソンだったのかな、というイメージでした。今後、PLATEAU SDKが公開されることで、アイデアと実装のバランスがよくなっていき、またPLATEAUがもつセマンティクス性をもっと活用したアイデアがあるとよいなと思います」と話している。

西尾氏は、「PLATEAUデータは3Dモデルという面も大きいが、GISベースの情報を活用することにも目を向けてほしい」とコメント。また簗瀬氏も「PLATEAUというデータが持つ、建物の大きさや用途などのさまざまな情報を活用してコンテンツを作ることができるのがおもしろさ。それによって、これまで言語化できなかったものを表現できる可能性が生まれる。ものを多角的に分析することで見えてくることは多いのだから」と期待を寄せた。

これまでのハッカソンから蓄積されてきた知見に、今後公開されるPLATEAU SDKなど開発ツールが加わることで、次なる発展に期待したいところだ。