3D都市モデルの開発環境を構築した「PlateauKit + PlateauLab」がPLATEAU AWARD 2023グランプリ獲得
「PLATEAU AWARD 2023 最終審査会・表彰式」レポート
2024年2月24日、東京・竹芝のポートスタジオにて「PLATEAU AWARD 2023」最終審査会が行われ、最終審査に残った12組がプレゼンテーションを行った。
- 文:
- 大内孝子(Ouchi Takako)
- 編集:
- 北島幹雄(Kitashima Mikio)/ASCII STARTUP
- 撮影:
- 平原克彦
ファイナリスト・12チームがPLATEAU作品をプレゼン
2022年度に続き、第2回目となるPLATEAU AWARD。ハッカソンやライトニングトーク、ハンズオンほかさまざまなイベントを行ってきたPLATEAU NEXT 2023の集大成であり、約半年という募集期間が設けられていた。今回の最終審査会には、2023年12月の一次審査を通過してファイナリストとなった12チームが集結した。
審査は、各チーム5分のプレゼンテーションと質疑3分を行い、6名の審査員が評価を行う。審査員は齋藤精一氏(パノラマティクス主宰)、川田十夢氏(開発者 / AR三兄弟 長男)、千代田まどか:ちょまど氏(IT エンジニア兼漫画家)、小林巌生氏(Code for YOKOHAMA 共同代表)、松田聖大氏(Takram Japan 株式会社 デザインエンジニア/ディレクター)、内山裕弥氏(国土交通省 総合政策局 情報政策課 IT戦略企画調整官 / 都市局 都市政策課 デジタル情報活用推進室)。審査委員長は齋藤氏が務めた。
当日は、地域に新たな視点をもたらす各種ゲームアプリ、交通事故防止やドローンの利活用など社会課題に対するソリューション、PLATEAUをより便利に活用するためのユーティリティといった、さまざまな作品がグランプリを競った。
評価の基準は次の5点。
(1)3D都市モデルの活用
(2)アイデア
(3)UI/UX/デザイン
(4)技術力
(5)実用性
司会は、Project PLATEAUにも関わりの深い伴野智樹氏(一般社団法人MA 理事)、加茂春菜氏(株式会社ホロラボ/すまのべ!)が務めた。
グランプリはPLATEAUを誰もが使える未来へつなぐ「PlateauKit + PlateauLab」
栄えあるグランプリは、小関健太郎氏の「PlateauKit + PlateauLab」が受賞。トロフィーと賞状、賞金100万円が贈られた。
PlateauKit + PlateauLab(プレゼンテーション資料)
本業は哲学分野の研究者であり、デジタルツインの思想と技術にも関心があるという小関氏が目指したのは、誰もが気軽に触れられる都市空間プログラミング環境の実現だ。3D都市モデルの持つジオメトリ(形状を示す幾何情報)とセマンティクス(意味を示す属性情報)の双方をPythonで扱うためのライブラリやコーディング環境を開発した。
PLATEAUのデータフォーマットであるCityGML形式のファイルを変換して扱うための手段としては、ゲームエンジン用のSDKやGISソフト向けのコンバータが提供されている。しかし小関氏は、3D都市モデルのジオメトリ情報とセマンティクス情報をPythonで統合的に扱うことで、新たなユーザー体験の実現や潜在的なユーザー層へのリーチ、より広い領域での活用ができるのではないかと考えた。
体験のイメージはプレゼンでのデモ動画を参照するとわかりやすい。「PlateauKit + PlateauLab」では非常にシンプルかつインタラクティブなプログラミング体験を実現している。3D都市モデルのダウンロードから表示までは数行のコードで即時に完結する。また、コードによる解析にも対応しており、JupyterLabやJupyter Notebook(Pythonのコーディング環境)向けに実装したウィジェット上で、3D都市モデルの解析結果を即時に反映し表示できる。
PLATEAUのデータを内部にどう持たせるのかという点では、1つの建物に関する情報を1個のレコードとして持ち、Pythonから直接、その表を操作する。階層構造を持つ情報についてはJSON形式に変換する形になっているが、元の構造が使いやすいとは限らないケースもあるため、そのあたりはバランスを考えているという。
汎用的なプログラミング言語であるPythonのプログラミング環境にPLATEAUを統合することで、Pythonのさまざまなライブラリはもちろん、外部のAPIとの連携が容易となる。すでにPlateauKitとしてMITライセンスで公開されており、ドキュメント類も整備済みだ。
グランプリ授賞の理由を、審査委員長・齋藤氏は次のように述べた。
齋藤氏:デジタルの領域がフィジカルな領域にどうつながるかというところ、それがこれからのデジタルツイン時代に重要になると思っています。審査員の川田さんからは「プロンプトとプログラミングがバランスされた状態が、これから生成AIをどう活用していくかというところですごく重要になるだろう」という話があり、またちょまどさんからも「PythonでPLATEAUを使う上でのチュートリアルとして重要になる」という話もあり、審査会では満場一致でこの作品がグランプリになりました。
小関氏は次のようにグランプリ受賞の喜びを語った。
小関氏:昨年もファイナリストとしてここに来ていたので、今回の受賞は喜びも2倍という感じでとてもうれしいです。本当におもしろいからやっていることなので、そういったことを評価してもらえてすごくありがたいです。いつも新しいことをしよう、PLATEAUの本質を見ようということを思っているのですが、そこもいろいろ見ていただいた上での評価だと考えています。やはりコミュニティが非常に重要だと思うので、こういった形でこれからも貢献していけたらと思っています。
イノベーション賞は「360°歩行映像のPLATEAUへの動的なプロジェクションと洪水可視化-Floodeau-への応用」
グランプリ以下、7つの部門賞が贈られた。各部門賞の受賞作品を紹介していく。
イノベーション賞は東京大学 相澤研究室 360-CV班の「360°歩行映像のPLATEAUへの動的なプロジェクションと洪水可視化-Floodeau-への応用」が受賞。
360°歩行映像のPLATEAUへの動的なプロジェクションと洪水可視化-Floodeau-への応用(プレゼンテーション資料)
同研究室が研究対象としてきた360°映像をPLATEAUと組み合わせた新たな応用例を提案した。相澤研究室には、秋葉原などの各地域を360°カメラで撮影し構築してきた360°映像のデータベースがある。それらを動画版ストリートビュー「ムービーマップ」として公開してきたが、あくまで映像であったため実世界の3次元情報は持っていなかった。
一方で、現在公開されている3D都市モデルはLOD1の地域が多い。そのため、バーチャル空間に実世界の景観を再現しようとしても、テクスチャがない白い箱が並んだ形となり、十分なリアリティが得られない。提案した作品では、簡易なモデルであるPLATEAUの建築物モデルLOD1に対して、リアルな外観情報を持つ360°映像を組み合わせることで新たなバーチャル空間の創造を可能とする。
仕組みとしては、バーチャル空間内のアバターの位置に応じて、360°映像中の該当する画像フレームをPLATEAUの建築物モデルに貼り付けるイメージだ。対象地域の360°映像から、画像フレームごとに建物の領域を抽出し、PLATEAUと映像側の位置合わせを自動で行っている。
建物領域の推定は機械学習で行うが、技術的なキモは「映像の相対的な動きと建築物モデルの位置合わせ」の部分になる。Visual SLAMで求めた映像中のカメラ軌跡を用いて、映像と3D都市モデルのズレが最小となるように最適化処理を行うアルゴリズムになっており、PLATEAUと360°映像を正確に組み合わせることが可能となっている。
応用として、このシステムを使ってPLATEAUの3次元浸水リスクデータを可視化するアプリケーション「Floodeau」を開発した。洪水のリスクをPLATEAUのジオメトリ情報によって整合性を持った形で合成でき、さらに360°映像のビジュアルがあることによって現実の文脈の中で浸水リスクを捉えられる。
イノベーション賞授賞の理由を川田氏は次のように述べた。
川田氏:技術的に突き抜けているということと、我々がコンピューティングの次の段階として相手にしなければいけない生成AIや空間コンピューティングといわれる領域を視野に入れた有用な作品だということで、イノベーション賞に選出いたしました。Floodeau(フラドー)のネーミングもよかったです。
エモーション賞は東京上空でバーチャルランニング体験できる「Beat Running over the city」
続いて、エモーション賞はおなかソフトの「Beat Running over the city」が受賞。この作品は、運動のテンポに同期した音楽とVR映像の中でランニングできるVRアプリ(Meta Quest 3で実装)だ。
Beat Running over the city(プレゼンテーション資料)
iPhoneアプリ「BeatRunning」を介して歩行テンポを検知し、音楽のテンポに反映する。例えば、BPM120程度の歩行テンポであれば、BPM100の音楽を1.2倍で再生するというイメージだ。また、ランニングマシンから取得した移動距離によってVR映像を動かし、音楽、運動、映像が一体となった体験を提供する。
3D都市モデルを使うことで、どこでもバーチャルランニングの舞台とすることができる。今回は東京全域のデータを読み込んでおり、東京上空ならどこでも好きな場所でバーチャルランニングができるようになっている。
狙いは、飽きさせない運動体験。音楽や背景などを変えることで運動を持続することができるとする。
プレゼンではランニングマシン(トレッドミル)を持ち込み、走る速度に合わせたBMPの変化や、東京上空のバーチャルランニング体験の様子を自らデモ形式で紹介した。
今後は、コースの選択、曲調に合わせた映像などをブラッシュアップしていく予定だ。また、リアルとバーチャルを行き来する仕掛けも考えていくという。
審査員のちょまど氏はエモーション賞授賞の理由を次のように語った。
ちょまど氏:選定理由としては、作品自体の持つ爽快感です。音楽に合わせて東京上空を走るというコンセプトが非常にすばらしい。エモーショナルだなと思いました。今すぐ使いたいアプリです。会場にトレッドミルを持ってくる人を初めて見ました。発表も作品自体も、もうすべてがエモいです。すばらしい作品発表をありがとうございました。
オンライン参加だったちょまど氏に代わり、会場で代理プレゼンターとなった椿優里氏(国土交通省都市局)も次のようにコメントを寄せた。
椿氏:私も一次審査に参加させていただきましたが、審査チームの中でも、これは面白そうだと高い評価でした。おめでとうございます。
データ活用賞はドローン運航基盤システム「PLATEAU DIPS-4D」
データ活用賞は株式会社大林組の「PLATEAU DIPS-4D」が受賞した。
PLATEAU DIPS-4D(プレゼンテーション資料)
PLATEAU DIPS-4Dは大林組DX本部が開発したドローン運用の基盤システムだ。現在、ドローンの情報基盤システムとしては国土交通省が提供するDIPS 2.0が使われており、ドローンの利用者はここから各種申請や飛行計画の登録を行う。DIPS 2.0はあくまで現在のドローン運用(同地域に1機)のルールをベースにした静的なものだが、今回大林組DX本部が提案するのは、複数のドローンが飛び交う将来のドローン運用を支える基盤システムだ。
人手不足をはじめとする産業界全体の課題に対して、将来的にドローンの都市間飛行が期待されるという背景がある。PLATEAU DIPS-4Dではドローンを中心としたさまざまな情報をPLATEAUの3D都市モデルを元に再現したバーチャル空間に統合し、飛行シミュレーションから飛行経路計画の作成、申請まで行うことができる。また、飛行の開始地点と終了地点の2点を平面上で入力するだけで、飛行規制領域を3次元的に回避する最適経路を自動生成することも可能だ。
同地区同時刻帯に飛行予定のドローンの経路を可視化し、物理演算により近接飛行の有無を判定する機能も備えており、各利用者の申請内容を一括管理・共有することでより安全な運用をサポートできるとする。
審査員の小林氏によるデータ活用賞の授賞理由は次のとおり。
小林氏:審査員一同、高く評価しました。一方で、ドローンの規制データ、飛行計画のデータ、ひょっとしたらリアルタイムの管制データといったものも組み合わせないとなかなか実用化までいかないのではないかと思います。確実にニーズはあると思いますので、ぜひ、そういったデータを組み合わせて、引き続き実用化に向けて取り組んでいただけたらと思っております。
UI/UXデザイン賞にはドライビングシミュレータ「ぷらっとドライブ in 沼津」
UI/UXデザイン賞を受賞したのは、 九州産業大学合志研究室による安全運転学習用Unity版ドライビングシミュレータ「ぷらっとドライブ in 沼津」。沼津のLOD3のモデルを使って実装した、実在の街を舞台にしたシミュレータだ。実行環境はWindows版とWebGL版の2つ。PLATEAUのジオメトリだけではなくセマンティクス情報も活用し、実際の走行データを使ったシミュレーション体験ができる。
安全運転学習用 Unity版ドライビングシミュレータ 「ぷらっとドライブ in 沼津」(プレゼンテーション資料)
PLATEAUCityGMLSharpをフォークしたPLATEAUCityGMLUnityを使って、PLATEAUのCityGML形式のデータを直接Unityのモデルに変換している。Unityでストレスなく扱えるようテクスチャは軽量化。信号機についてはモデルを分離し、Unity側で点灯制御している。また、道路モデルLOD1は高さ情報を持たないが、PLATEAUCityGMLUnityにより平均化した地形の高さを与えることで道路データを生成している。
あるべき箇所に信号機がないなどのデータ不足は手作業で修正している。また沼津ということで、背景に地理院地図の3Dモデルも活用して富士山を表示させるなど、リアルさを追求した。
今回は交通事故で一番多い追突事故の対策として「車間距離の維持」を教育テーマにし、安全運転学習用のドライビングシミュレータに仕上げた。スピード違反や通行区分違反、信号無視などの違反にはパトカーが登場するなどの演出も入っており、コンテンツとしても楽しめる。
実車の走行データの活用については、その緯度経度の位置情報を使って他車の走行経路のほか、シミュレータ上でのリプレイに用いる。この走行データのリプレイは、PLATEAUにより実在の都市を再現しているからこそ容易に可能となる。なお、シミュレータ上での交通量(他車の量)はPLATEAUの持つ交通量に関する属性情報を元に(多い/少ないレベルで)制御しているという。
今後、追突事故防止以外の交通教育への対応とともに自動車学校や病院(リハビリ)での実証実験等を行っていく予定だ。
審査員の松田氏は授賞理由を次のように語った。
松田氏:そもそも交通の物理シミュレーションは非常に難しい分野です。こちらの作品、私も実際に触ってみましたが、慣性が車にも効いているし、車の周りの風景が普通に自然に流れていく。そうしているうちに、不条理に前の車が止まる。今回テーマが体験を通して交通学習を行うというところで、全体の体験がしっかり考えられているなと思いました。それがいい方向に向かっていると思いまして、UI/UXデザイン賞に選ばせていただきました。
学生部門としてPLATEAUユース賞が新設! 受賞は「スカイランナー 高層の冒険者」
今年度から学生を対象に新設されたPLATEAUユース賞。受賞はチーム「KND-3」の「スカイランナー 高層の冒険者」(以下、スカイランナー)。KND-3は2023年11月に開催された「KYOTO PLATEAU Hack 2023」で初めてUnityにチャレンジした、嵯峨美術大学観光デザイン領域の学生6人からなるチームだ。
スカイランナー 高層の冒険者(プレゼンテーション資料)
スカイランナーは、PLATEAUの3D都市モデルの魅力の1つである「普段見られない視点に立つことができる」をコンセプトにした3Dアクションゲーム。制作にあたってはゲーム『Only Up!』の何度も挑戦したくなるゲーム性を参考にしたという。
プレイヤーは、冒険者となって実際にある建物とその都市特有のオブジェクトが配置されたステージを駆け巡り、ゴールを目指す。ステージは東京都と京都・先斗町の2つ。プレイヤーの動作は「走る」「つかむ」「ジャンプする」「登る」の4つ。落下しないようにオブジェクトの間をジャンプして、指定されるアイテムを集めていき、アイテムを集めることで一番高い建物に登ることができる。ただし、地域ならではのアイテム、例えば東京都のステージでは発祥とされるあんみつや大福、京都では鴨や抹茶など以外にふれると一番下まで落下してしまう。
今後も、47都道府県のフィールドの作成、VRでのプレイ、対戦モードでの同時プレイの実現を目指し開発を続けていく予定だ。いずれはSteamに配信することも考えているという。
PLATEAUユース賞授賞の理由を審査委員長の齋藤氏は次のように述べた。
齋藤氏:今回PLATEAUユース賞が新設されたということで、激励賞としてお贈りします。もちろんゲームとしてどれだけ面白いかというところも重要なのですが、その地域にあるものをどう表現して、どう知ってもらうかというところが、荒削りなんですけれども非常に面白く表現されていたと思います。この賞をお渡したからには、ぜひ今後も開発を続けていただきたいです。おめでとうございます。
PLATEAU賞は「Machi Plus」、ゲーム感覚でPLATEAUのテクスチャ作成!
PLATEAU賞は同じ会社の有志によるチーム「IRODUKURI」の「Machi Plus」が受賞した。
Machi Plus(プレゼンテーション資料)
同アプリは、「開発者は、作りたいエリアのテクスチャがなく、満足のいくゲームが作れない」、「ユーザーは、自分たちの街のおもしろいゲームで遊びたいが、それがない」、「国や地方公共団体は、よりよい3D都市モデルを整備したいが、整備にお金がかかる」という三者のPLATEAUにまつわる課題を同時に解決するというもの。
建物の写真を撮影・登録すればゲームで使えるポイントを獲得できる、というインセンティブを与えることで、3D都市モデルのテクスチャ改善によるPLATEAUの価値向上、3D都市モデルを活用したより魅力的なゲームのリリース、ユーザーによるさらなる建物の写真の撮影・登録、というサイクルの循環を狙っている。
システム構成図は次のとおり。
まず、ユーザーがMachi Plus for USERで建物の写真を撮る(インセンティブとして、よりゲームが楽しめるポイントを獲得できる)。必要なのは建物の壁面部分であり、ユーザーは撮影する建物および撮影する建物の壁面を選択し撮影する。撮影後、写真の台形補正を行って登録する。
ユーザーから集まった画像を建築物モデルのテクスチャに反映するツールがMachi Plus for Developer。PLATEAU SDK for Unityをインストール済みのUnity上でテクスチャを反映したい建築物モデルを選択し、実行することで画像と合成されたUV展開図をマップに自動で反映する。
そして、クオリティーの上がったマップを使って魅力的なゲームを開発し、Machi Plus for APP上にリリースするという流れになる。
プレゼンではサンプルゲームとして開発した「GRAY ZONE」が紹介された。GRAY ZONEはPLATEAUを活用したMRタワーディフェンスゲーム。ユーザーは写真撮影で獲得したポイントを使ってキャラクターを仲間にしてゲームを有利に進めることができるというもの。
Machi PlusおよびGRAY ZONEはすでに一般向けにリリースされている。
PLATEAU賞の授賞理由を審査員の内山氏は次のように述べた。
内山氏:PLATEAU賞にはPLATEAUを使って新しい価値を生み出すという意味もあるし、PLATEAU自体の価値を引き出すみたいな意味もあるのですが、この作品は後者にぴったりだと思っています。テクスチャがないというのはPLATEAUを触ったことある人がよく思うことで、「クラウドソーシングでたくさんの人が撮影したものを貼り付けられるようにすればいい」といったアイデアはたくさん聞いてきました。ですが、実装するとなるとなかなか難しい。みんながほしいなと思ったことをちゃんと動くところまで作り込んだというところがすばらしい。ぜひ開発を継続してもらって、PLATEAUにもっとテクスチャを供給してもらえるとうれしいです。
スケールアップ技術「Scaling Up PLATEAU」が「逆激励賞」を受賞
Scaling up PLATEAU(プレゼンテーション資料)
京都に住んで十年になるというSagar Patel氏がプレゼンテーションを行ったのは、都市全域など大規模なスケールでPLATEAU3D都市モデルを扱うための技術。ビジュアルクオリティを維持しつつ、いかにレンダリングパフォーマンスを向上させるかに主眼を置いたものだ。
Patel氏は自身のデジタルアート作品を制作するためにPLATEAUの3D都市モデルをUnityで利用してみたが、アート作品においては不要になるデータが多く、データサイズの観点から満足に扱えないという問題に行き当たった。そこで、新たなUnity Mesh APIを開発し、とにかくデータの軽量化を図った。Unity Mesh APIを使うことでデータに持たせる情報を「Vertex Attributes」と「Format」のみにし、その後、単一のハイポリメッシュにマージしてアセットファイルに書き出す。これにより、建築物モデル、地形モデルも半分以下のサイズになったという。
デモでは、京都、金沢、渋谷などさまざまな地域のデータを使った作品が紹介された。
逆激励賞の授賞理由を川田氏は次のように述べた。
川田氏:普通、奨励賞は審査員から激励という意味で授与するものですけど、今回はPLATEAUの運営側が逆に激励してもらったプレゼンテーションでした。そのため、特別賞として「逆奨励賞」を贈りたいと思います。軽量化したビューアやデータの整備も進んでいるのですが、僕がいいなと思ったのは「データが軽くなったらこんな見せ方ができるんだよ」というのをビジュアルで見せてくれたこと。次にPLATEAUを使ってビジュアルを作る人のヒントになったと思うんですね。この点が賞に値するということで選ばせてもらいました。おめでとうございます。
ファイナリストの4作品
受賞には至らなかったが、ファイナリストとして壇上に上がった4つの作品を紹介する。
「PLATEAU Window:Horizon」(PLATEAU Windows)
PLATEAU Window:Horizonは、3D都市モデルを用いてまだ見ぬ風景を可視化するシミュレーションシステム。なお、遠景はCesiumデータを用いて描写している。時間帯や天候などを設定できる景観シミュレーションのほか、CADやBIMデータをインポートすることで室内の什器配置シミュレーションも可能。スマホで簡単に操作できるため、建物が竣工する前からテナント営業を行う不動産業界の支援ツールとして開発された。
「Echoes of the PLATEAU」(河野 円)
これまでにもTouchDesignerとPLATEAUを組み合わせた映像作品を生み出してきた河野氏が開発した、TouchDesignerでの3D都市モデル利用を容易にするツールを紹介した。TouchDesignerでPLATEAUのデータを読み込む際のトラブルを回避するもので、インポート範囲の指定や座標変換、センタリング処理を行う。オブジェクトデータのパスとセンタリングの情報をCSVにまとめて書き出すことができ、このCSVファイルを他のプロジェクトで読み込めば必要な範囲のモデルを容易に再現できる。また、QGISを介しPLATEAUのCityGMLデータを読み込み、TouchDesignerの映像表現に活用するという作例も紹介した。
観光ルート作成ゲーム 「Kyoto Itinerary」(まつだす)
「KYOTO PLATEAU Hack 2023」で開発した、京都の観光課題である渋滞対策を楽しみながら学ぶゲームをベースに、ハッカソン後も開発を継続。ゲームの流れは、京都に次々とやってくる観光客を、他の観光客とバッティングすることなく、制限時間内に目的地まで誘導するというもの。穴場スポット探しや人探しをするミニゲームなど遊びのポイントも充実させた。現在、Webブラウザで遊べるデモ版が公開されている。将来的には英語版のリリースも考えているという。
「ぐりぐりインフォメーション」(株式会社ウィーモット)
ぐりぐりインフォメーションは観光客向けの地図サービス。クライアントは自治体の観光課や観光施設を想定している。ブラウザ上で3Dマップを“ぐりぐり”動かしながら情報を閲覧できる。観光スポット、観光アイテムなどのコンテンツ紹介がポップアップで表示されるほか、地下鉄などの公共交通機関のリアルタイムデータから時刻表を閲覧できる。クライアントが使う管理画面ではGLBファイルの読み込みも可能で、ユーザーが準備したモデルを使うことも可能。観光以外にも不動産への活用も期待できる。
以上が当日の最終審査対象作品だが、このほか今回のPLTEAU AWARDではファイナリストに残らなかったものの今後のさらなる可能性が期待される作品に対して奨励賞が授与され、会場ではそのうち3作品がプレゼンテーションを行った。
「AI Texture Generator」(武村 達也)
AI Texture GeneratorはPLATEAUのテクスチャをOpenAIのAPIを使って自動生成するスクリプトをまとめたUnityパッケージ。現状、対象とするのはCityGMLのLOD2のみ。軽量な動作、および簡単な操作で人間には考えつかないようなデザインを大量に作成できる。
「STYLY(スタイリー)を使った地域メディアプラットフォーム NIIGATA XR PROJECT」(STYLY × 新潟市)
現実の街にいくつもの"楽しみ"を重ねていくプラットフォーム。PLATEAUを使った3Dマップを作成し、その上に多層的に設置されたレイヤーにXRコンテンツを配信できる。新潟市とのプロジェクトでは新潟市がXRコンテンツ作成のスクールや補助金といった体制を整備し、新たな産業として定着させることを狙いとしている。
「月島・西仲通り商店街の ARアプリ製作」(花本 想良)
もんじゃ専門店が軒を連ねる月島・西仲通り商店街の観光案内ARアプリ。PLATEAUの3D都市モデルで商店街のNavMeshを作成、目的地を設定するとそれに従ってエージェント(「明太もちチーズもんじゃ」を模したキャラクター)が案内するというもの。
「PLATEAUを使った何か」という可能性から「PLATEAUを"どう"使うか」の確信へ
最後に、本イベントの審査員からの総括を紹介する。
内山氏:AWARDは2回目で、PLATEAUは4年目になりますが、やはり年々進化を感じます。PLATEAUのプロジェクトに仕事で参画している企業の方々も多くいらっしゃると思いますが、ちょっと負けてられないなと思われたことでしょう。みなさんの力でPLATEAUの価値を引き出して、いいものを世の中に出していくという展開を間近で見ることができてとてもうれしかったです。新しいプロダクトを世に出すというのは、我々国土交通省だけではなく、参画していただいているみなさんの力あってのことだと、改めて御礼申し上げます。引き続き、来年度以降もPLATEAUを触ってもらって、いろいろ参加してもらえるとうれしいです。今日はどうもありがとうございました。
松田氏:今回はビジュアルとか表現のクオリティが高い作品がとても多かったなと思います。もともとPLATEAUはGIS関連だけではなく、クリエイティブ業界やもっと広いところで使われることをビジョンとして持っていたので、それが叶いつつあると実感しています。来年度、4月以降にPLATEAU本体のほうもまた大きく前進していきます。今日みたいな逆激励も含めて、いろいろと試してみてフィードバックがいただけるとコミュニティとして発展していくと思いますので、引き続きよろしくお願いします。
小林氏:いろいろな作品を見せていただいて、PLATEAUの可能性は多様に広がっていると改めて感じることができました。オープンデータを推進している立場として、PLATEAUのデータがハブになってさまざまなデータがひもづくことでどんどんイノベーションが起こっていく、そういう予感がしました。みなさん、また引き続き、ぜひ新しいイノベーションをどんどん起こしていただきたい。どこか仕事でご一緒できる場面もあるかもしれませんし、非常に楽しみにしております。今後とも、よろしくお願いいたします。
ちょまど氏:どの作品も本当にすばらしかったです。会場の空気からも、本当にみんな心から楽しんでいる様子がわかりました。こうしてPLATEAUを使って、クリエイターのみなさまがすばらしい作品をこれからもどんどん作り続けていくことを私も非常に楽しみにしています。すばらしい機会をありがとうございました。
川田氏:本当に全ての作品が、今回賞にもれた方の作品も本当によくて、僕もいちクリエーター、開発者として多くのヒントをもらえました。参加してとても良かったと思います。賞にもれた方もここまで残ったファイナリストですからね。ぜひまた来年度も挑戦してもらいたいと思います。みなさん、お疲れ様でした。ありがとうございました。
齋藤氏:ユーティリティ系、表現系、エンタメ系といろいろありますが、今年はそれが、全部ユーティリティだけとか、そういうことではなくて、デザインであったり、もしくはエンターテインメント性であったり、それこそメディアアートやコンテンツビジネスでも使えるというものが非常に多かったと思います。賞を取れなかった4作品も、やはり相当レベルは高いので、ぜひ来年度以降も挑戦いただければと思います。
PLATEAUの活用ということで言うと、僕は企画書を書いているだけでは成立しないと思っています。手を動かして、実際に社会実装していく、もしくはプロトタイプを作ってみる。それが、おそらくオープンデータの真の使い方であり、こういうコミュニティベースのディベロップメントの仕方なのだろうと思います。AWARDの役割はそこにあって、いろいろな方が開発をしている中で、「いや、僕のほうがレベルが高いからAWARDに応募してみよう」みたいに切磋琢磨しながらレベルを上げていく。要は、いろいろな地域で、もしかしたら全世界で取り組んでいる方々が、この場所を介して1つのコミュニティになっていく。そのための大事なプラットフォームなのかなと思います。
できるだけ裾野を広げていろいろな方々に使ってもらう、参画してもらえるというのがこのPLATEAUの良さでもあり、なかなか伝えたくても伝わりにくいところなのですが、それがこのAWARDの中に全部つまっていたのではないかなと思っています。来年度以降もぜひ、我こそはと思う方々は、ぜひご参加をお待ちしています。