岩手と香川の2拠点でオンライン合同開催 3D都市モデルを活用した花火シミュレーター、VR文化財アートなど、地域おこしに役立つアイデアを具現化
「PLATEAU 2024 ハッカソン by 日本Androidの会」レポート
2024年10月13日、日本Androidの会が「PLATEAU 2024 ハッカソン by 日本Androidの会」を開催した。同イベントは岩手県と香川県の2会場をオンラインでつないで行われ、「花火」、「文化財」、「3Dから2Dへの変換」をテーマに、PLATEAUを活用したアイデア創出やアプリ開発に取り組んだ。
- 文:
- 松下典子(Matsushita Noriko)
- 編集:
- 北島 幹雄(Kitashima Mikio)/ASCII STARTUP

日本Androidの会は、Android関連の技術情報の共有や開発者養成などを目的としたユーザーコミュニティで、2023年から各地でPLATEAUのアイデアソンやハッカソンを開催している。今回は、岩手県の宮古市地域創生センターと香川県の香川短期大学の2会場をオンラインでつなぎ、アイデアソン/ハッカソンイベントが開催された。
本イベントに先立ち、9月28日にはオンラインでアイデアソンを実施。今回はその中で出た「花火」「文化財」「3Dから2Dへの変換」という3つのアイデアをもとに、チームに分かれてアイデアのブラッシュアップやアプリ開発に取り組んだ。
都会のナイトショーを再現する「花火シミュレーター」

香川会場のチームは、PLATEAUを活用した「花火シミュレーター」を作成。東京都千代田区の3D都市モデルをUnityに読み込み、街中に花火が打ちあがる様子を再現したものだ。
今回作成したプロトタイプでは、花火の色は数色だが形状の種類としては1種類で、建物の影に隠れる設定などまでは作り込めなかった。作成したエンジニアは「もっとたくさんの種類の花火を出せるようにしたい。同じ仕組みを使って、例えばドローンショーのシミュレーションにも使えるだろう」と話していた。都市部の空に浮かぶ花火イベントやドローンショーをリアルに再現できれば、花火大会の穴場スポット探しや訪日旅行者への案内にも役立ちそうだ。

VR上で街に自由にお絵描きして演出する「VR文化財アート」

香川会場を運営した日本Androidの会 香川支部⻑の岩倉洋平氏も発表に参加。3D都市モデルをVRペイントアプリ「Open Brush」に取り込み、街にお絵描きするアイデアを実践し、紹介した。3D都市モデル上にOpen Brushのブラシ機能を使って、歴史的建造物に色を付けたり、雪が降る光景や光が立ち上るような表現を加えたりできる。
岩倉氏は「もともとのアイデアとしては、失われた歴史的建造物を3D都市モデル上に描いて再現することなどを考えていたが、昔話に出てくる竜宮城など空想上の建造物を3D都市モデル上に描くのもおもしろいだろうと思った。全国各地にはそれぞれの地域に伝承がある。それをもとに、子どもや若い人に『面白い、可愛い。行ってみたい』と思ってもらえるような文化財アートをつくれば、まちづくりや観光振興に活用できるのではないか」と提案した。

文化財を3Dスキャンし、デジタルで加工した作品を3D都市モデル上で公開

岩手会場のチームは文化財の3Dデータ化と活用のアイデアを発表した。同チームのメンバーはPLATEAUに触れるのが初めてだったとのことで、今回はPLATEAUについての勉強会をメインに実施。加えて、3Dをキーワードに文化財に関して何ができそうか、アイデアを出した。
既存の事例として挙げたのは、文化財を3Dスキャンしてデジタルデータ化し、研究や修復に活用するというもの。また、3Dスキャンした仏像を3Dプリンターで出力し、色付け体験ワークショップを行った博物館もあるそうだ。本格的な高精度の3Dスキャナーは高価だが、最近はiPhoneのハイエンドモデルに搭載されている3Dスキャン機能もあるため、今後はより手軽に3Dデータ化できるようになりそうだと述べた。そうして取り込んだ文化財のデータを、アプリ上で自由に色付けや加工し、いろんな作品を3D都市モデル上にマッピングできたら、地域の文化財への興味喚起、観光振興にもつながりそうだとアイデアを語った。

3D都市モデルとQGISの2D地図を組み合わせて立体地図イラストを生成する

最後に発表したのは、香川会場にソロで参加した3DCAD/3Dデザイナー。企業などのWebサイトなどに掲載されている「アクセス情報」でよく見かける立体地図イラストを、PLATEAUの3D都市モデルから簡単に生成する手法に挑戦している。まだ完成はしていないが、今回はその取り組みについて発表した。
まず、PLATEAUのCityGMLから抽出した建築物や道路といったオブジェクトのデータを3DCADに展開して線画にしたが、道路データの精度が低かったという。そこで、QGISの2D地図から道路のデータを取り出し、重ね合わせて補完したところ、データとしての精度を高めることができたそうだ。現在は高松駅および高松港周辺のデータで試作を繰り返しているところだが、将来的には、PLATEAUの3D都市モデルの利点を生かして、どの都市のどの場所でも、どの角度からでも、現実に忠実な立体地図のイラストを手軽に生成できるようにし、観光地周辺のマップやアクセスマップの制作に生かしたいとのこと。今後も開発を続けていくという。

各チームの発表後には、岩手会場を運営した日本Androidの会の杉山由朗氏から総評があった。杉山氏は、「3Dデータを扱うハッカソンはビジュアルや技術的な側面が強くなりがちだが、今回はどのチームも、より現実的な側面――実際に具体化したら、まちづくりや地域おこしに生かせそうな側面を持つアイデアが多く、どれも素晴らしいと思い、興味深く聞いていました。今後、アイデアをぜひ具現化し、完成させていってほしいです」と語った。

杉山 由朗氏
香川会場の岩倉氏も、「PLATEAUというとテクノロジーに詳しい開発者のためだけのものと、みなさんも最初は思ったかもしれません。しかし、本日みなさんが出してくれたアイデアのように、自分たちのまちづくりや地域の魅力発信などにも大いに生かせるものだと思います。市民活動やその仕組みづくりに、こうしたデジタルテクノロジーもうまく活用することで、さらにより良い活動ができるのかと思います」と語り、イベントを締めくくった。

香川短期大学 経営情報科 准教授
岩倉 洋平氏