uc20-018

都市計画基礎調査情報を活用した都市構造の可視化

実施事業者アジア航測株式会社 / パナソニック株式会社 / 株式会社日立製作所
実施場所愛知県名古屋市(平成3年~平成29年の各調査時点)
実施期間-
Share

過去20年以上に渡る都市構造の変遷を3D都市モデルを用いて可視化。都市の変化を分析することでそれぞれのエリアの特性を導き出し、まちの将来ビジョンの検討材料を提供する。

実証実験の概要

都市計画基礎調査は、都市計画法に基づき各地方公共団体が定期的に実施する、都市における現況及び将来の見通しを把握し、客観的・定量的なデータに基づいた都市計画の運用を行うための基礎となるものである。本ユースケースでは、定期的に調査・蓄積されている都市計画基礎調査情報を活用して、PLATEAU VIEW上で過去からの都市構造変遷の可視化を試みた。

実現したい価値・目指す世界

都市計画基礎調査は、都市計画法第6条に基づき、都市における人口、産業、土地利用、交通などの現況及び将来の見通しを定期的に把握し、客観的・定量的なデータに基づいた都市計画の運用を行うための基礎となるものである。国土交通省では、各地方公共団体が都市計画基礎調査を通じて把握した土地利用や建物等、都市に関する豊富な情報について、利活用ならびにオープン化に向けた取組を推進している。

愛知県名古屋市では、「名古屋市都市計画マスタープラン2030」において、駅を中心とした歩いて暮らせる圏域(駅そば生活圏)に多様な都市機能を適切に配置・連携されるなど、「大都市における集約連携型都市構造」の実現を目指して、それぞれの地域特性に応じた土地利用の誘導などのまちづくりの取組みを推進している。

今回の実証実験では、都市計画基礎調査情報を用いて過去からの都市構造の変遷を可視化することで、それぞれの地区の特性を分析し、地区の将来イメージの検討に資することを目指して、PLATEAU VIEW上で過去の都市構造変遷を可視化することを試みた。可視化に際しては、都市計画基礎調査の「建物利用現況」 と「土地利用現況」の情報をCityGML形式へデータ変換を実施したうえで、属性情報に応じて塗り分けた建物・土地の変遷を時系列で切り替える機能を実装した。

都市構造変遷を可視化した成果は、今後、地方公共団体においてコンパクトなまちづくり(都市機能の立地適正化、土地の高度利用促進、スプロールの抑制等)や公共交通網の分析・検討(都市間比較)に活用することが期待されるほか、都市構造を可視化することで再開発等のまちづくりに対する合意形成が図られるなど、民間投資の促進が期待される。

対象エリアの一部(名古屋市中区)の建物モデル
対象エリアの一部(名古屋市中区)の建物モデル

検証や実証に用いた方法・データ・技術・機材

名古屋市が1991年(平成3年)~2017年(平成29年)に実施した都市計画基礎調査の調査結果から、「建物利用現況」と「土地利用現況」の情報を対象に、CityGML形式へのデータ変換を実施した。データ変換に際しては、二次元の建物外形線に一律の高さを与えることでLOD1相当の建物モデルを立ち上げることとし、建物階高(3m)×建物階数を建物高さとして定義することで、都市計画基礎調査の情報を活用して簡易かつ効率的に建物モデルを作成する方法を試みた。

検証で得られたデータ・結果・課題

今回の実証実験では、CityGMLの「建物単位で構造化された建物データと図形データが紐づく」セマンティクスの特徴を生かして、都市計画基礎調査のデータを個々の建物に紐付けることで都市構造の可視化を試みた。従来から、建物利用現況や土地利用現況のデータは三次元地図上で重ね合わることで都市計画の現況図としての活用が進められてきたが、これが三次元になることにより、例えば、用途地域指定の状況と実際の建物用途の情報をクロス表示するなど、データの掛け合わせによる高度な分析・可視化が可能となる。

一方で、課題として、同一の地方公共団体において実施された都市計画基礎調査であっても、調査時点ごとに属性情報のコーディングが異なることが挙げられる。複数時点のデータを比較可能な形で可視化する際には、各時点のコーディングと共通のコードリストとの対照表を整備することが必要である点は、都市計画基礎調査情報を活用するうえでの今後の課題である。

土地利用現況の塗分けイメージ
建物利用現況のと土地利用現況の同時表示イメージ
建物利用現況に基づく建物形状等の時系列変化(1996年)
建物利用現況に基づく建物形状等の時系列変化(2016年)

今後の展望

建物現況調査における建物用途の変遷や、土地利用現況における土地の用途の変遷などを可視化することで、地区ごとの地域特性や土地利用の誘導による都市機能の集約状況など、まちづくりの検討や分析に必要となる情報を把握することが可能になる。

例えば、名古屋市では「名古屋市都市計画マスタープラン2030」において、駅を中心とした歩いて暮らせる圏域(駅そば生活圏)に多様な都市機能を適切に配置・連携することを掲げている。過去の都市計画基礎調査情報を可視化した成果は、これまでの都市機能立地の状況をわかりやすく把握し、今後の都市機能の配置・連携方針の参考情報として活用することが期待される。

また、今回の実証実験のように、都市計画基礎調査情報を有効活用する事例を確立することで、他都市においても都市計画基礎調査のオープン化や利活用の機運が醸成され、客観的・定量的なデータに基づいた都市計画の運用が図られることが望ましい。