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PLATEAUを使わない理由がない。渋谷区で必要だった合意形成のデジタルツイン ~スタートアップ企業での開発事例~【前編】

デジタルツイン渋谷プロジェクトは、行政や企業が持つさまざまなデータを集約し、企業や団体、そして市民が、デジタルツインとしてビジュアライズされた3Dの渋谷区を見ながらスマートなまちづくりを目指す取り組みだ。一般社団法人渋谷未来デザインを中心に、各種企業・団体が参加しており、目下開発中である。このデジタルツインの実現には、PLATEAUの3D都市モデルが使われている。開発に携わったSymmetry Dimensions Inc.の沼倉正吾氏、高田知典氏に、その成り立ちとPLATEAUにまつわる開発工程を振り返ってもらった。(前編 / 全3編)

撮影:
森 裕一朗
文・編集:
大澤 文孝
編集:
北島 幹雄 (ASCII STARTUP)
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  • 沼倉 正吾
    沼倉 正吾
    Symmetry Dimensions Inc.(シンメトリー・ディメンションズ・インク) Founder, CEO
  • 高田 知典
    高田 知典
    Symmetry Dimensions Inc.(シンメトリー・ディメンションズ・インク) CTO

街をデジタルツインで再現して、再開発の課題や要望を集約する

――デジタルツイン渋谷プロジェクトについて、教えてください。

沼倉

渋谷区が持つさまざまな情報を集約し、それを使って住民の方がまちづくりに参加することを目標にしたプロジェクトです。2021年からスタートしました。

渋谷区は、「人の動き」「区内で活用されている電動自転車のデータ」「ワーキンググループで登録された街の中の改善点や問題点」など、さまざまな情報を持っています。これらをPLATEAUの3D都市モデル上に登録していき、どこにどのような情報があるのかを、市民の方が見られるようにしていきます。

画像提供:Symmetry Dimensions Inc.

沼倉

このプロジェクトには3次元の点群データを提供する企業も参加していて、笹塚、幡ヶ谷、初台の「ササハタハツ」と呼ばれている渋谷区の再開発エリアの点群データも取り込んでいます。実際にこれからどういう再開発が行われるのか、その再開発が行われる際に、住民側が、例えば「こういった施設を作ってもらいたい」「ここにはこういった問題がある」といった課題や要望などを、さらに集約していくことで、住民の方が自ら街の開発に参加できるようにしていきます。

――集められたデータは、どこで見られるのでしょうか?

沼倉

現状はまだ開発中で、ワーキンググループの方と参加されている企業のみに限っています。行政のデータと企業のデータを組み合わせて、どのような使い方ができるのかを検討する分科会を行っている状況です。 最終的には、皆さんに自由にアクセスしていただける環境の構築を目指しています。またエリアについても、第一弾としてのスタートはササハタハツからですが、今後、渋谷区の全体が対象となる予定です。

デジタルツインならわかりやすく、合意形成しやすい

――さまざまな情報があるとのことですが、具体的に、どのようなものがありますか?

沼倉

例えば渋谷区の情報としては、土木部の公園管理課が持っている、再開発する公園の植物の管理情報などがあります。ほかにも、区にはどのような情報があるかを、現在ヒアリングしている状況です。

企業側の情報を挙げると、たとえば保険会社さんのヒヤリハット情報があります。車に乗っているときに、どこで急ブレーキをかけたのか、どこで急加速したのかというような情報です。他にも、街の中のどの場所で、どういう皆さんがエモーショナルな感情を抱くかというような、都市の中の空間の数値化されたデータを取得している会社もあります。

こうしたデータを、我々Symmetry Dimensions Inc.のプラットフォームに集約しています。地図上に表示できるようになっているものもあれば、まだ加工中のものもあります。これらを今後、どのような形で使っていくのかを検討している段階です。

画像提供:Symmetry Dimensions Inc.

――集めたデータを、どのように活用する予定でしょうか?

沼倉

公園管理課の情報は行政側で使う前提ですが、市民目線の活用という面から見ると、合意形成をするためのデジタルツインに利用できる役割があります。 これから再開発されるササハタハツの全長2.6キロの公園が、どのようなコンセプトで、どこにできるのか。都市に緑道ができることで、5年間でどのくらいの二酸化炭素の排出を抑えられるのか。再開発に伴うイメージコンセプトや、実際に皆さんのQoL(生活の質)をどう高めるか。このような情報に、皆さんがアクセスして確認できます。

そもそも、住民の方々にこの再開発に関する情報をもっとわかりやすく、簡単にアクセスできるようにするというところからスタートしたのが、このプロジェクトです。
渋谷区では、街の再開発をするときに説明会をしているのですが、来られる方の大半が高齢者であり、紙の資料で配っていて、若い方にはあまり読んでもらえないということがありました。

今回のササハタハツは、住んでいる方の5割以上が若い方なので、「若い方の意見をもっと取り入れたいんだけど、どうしたらいいだろう」という課題がもともとあったのです。

――実際に利用しているユーザーの意見や感想があれば教えてください。

沼倉

ワーキンググループで出たものだと、ブラウザでアクセスして3Dで見られることで、現地がどう変わっていくのか、よりわかりやすいという意見がありました。

今後、さまざまなデータを入れていくことで、たとえば、「ここに公園ができることによって、実際にその場所でどんな効果が表れるのか、どういう影響が出てくるのか」などを見られるようにすることで、「この再開発は、やはり僕らの生活を高めるね」という合意形成につながるデータをどんどん載せていけられる構成にしてあります。

精度が高いPLATEAUのデータを使わない手はない

――今回のプロジェクトでPLATEAU採用した理由やメリットについて教えてください。

沼倉

逆に、PLATEAUを利用しない理由がありません。こんなにいいデータを提供いただいて、むしろ使わない手はない。都市の3Dモデルは、地図メーカーさんからも販売されていますが、これを国から提供いただいて、しかも精度の高いデータが出ているので、我々としてはぜひ使いたいというのが、まずありました。 データの扱いもオープンで、二次利用もその商業的な利用も可能(基本的にCC BY 4.0等のオープンライセンス)だというところも、価値として、とても高いです。

PLATEAUやデジタルツインをきっかけにデータ連携が加速化する

――今後、デジタルツイン渋谷プロジェクトをどのように良いものにしていきたいと考えていますか。

沼倉

デジタルツイン渋谷プロジェクトには、2つの目標があります。ひとつは、住民が自分たちの街を自分たちで作っていく、参加する都市開発です。もうひとつは、新しいアプリケーションや新しいサービスを生み出すデータのエコシステムを作ることです。渋谷区に関わるオープンデータも企業のデータもこの中で連携をしていく仕組みです。

渋谷区では、今年度からデータの公開が始まっています。データ分析や可視化が可能なBIツールのようなものを今年度から公開しているのですが、あくまで現在は、データが閲覧できるだけです。やはり最終的には、これを使った価値あるサービスだったり、今まで行政側が提供していたサービスを民間側から提供していくような流れを作ったりするのが、我々が目指している目標です。

――デジタルツイン渋谷がデータ連携のプラットフォームとして公開されていくことも、将来的にはあり得るということでしょうか?

沼倉

そうですね。今、このプロジェクトとは別に、PLATEAUのユースケースを検討しているのですが、扱うデータをどうやって企業間で連携していくのかというところが、やはりこれから必要になるという認識です。 1つのプラットフォームで全部やるわけではないと我々は考えています。さまざまなプラットフォームやサービスが登場するけれども、そこで扱うデータは、相互にやり取りできるようにしていく。データの相互利用をどうやって高めていくかがポイントだと思っています。企業間でこうした話が出てきたのは、去年ぐらいからです。PLATEAUやデジタルツインという仕組みが出てきたのがきっかけだと感じています。

――地理データと絡めたデータを扱うことに知見がないような企業でも、PLATEAUを活用できる場面はありますか?

沼倉

ものすごくあると思っています。データって結構いろいろあるんですよ。でも、今はそれをどのように使えばよいのかわからない企業さんも多くて、自社のデータですら、完全に利用できていないのです。

データマネジメントプラットフォームやBIツール、そして、GISのさまざまなシステムもあるのですが、やはりまだ一部の方しか使えていない。習熟している人しかいじれていないのが今の状況です。これを一般の層まで広められれば、今までそういうデータを扱っていなかったような人でも活用できます。たとえば街中での広告の見せ方なども、3Dモデルのデータを使って検討するような、そうした事業での使い方が、これからどんどん出てくるであろうと考えています。

高田

そもそも我々Symmetry Dimensions Inc.は、デジタルツインのプラットフォームを提供することに軸足を置いています。沼倉が言ったように、データがたくさんある。おそらくニーズもたくさんある。けれども、それを使いこなすツールが普及していなかったり、スキルを持っている人がいなかったりというのが課題です。

我々は、それを解決するためのプラットフォームシステムを提供して、データを持っている企業がもっとそのデータを世の中の人に活用できるようにする。もちろん我々からすれば、PLATEAUもそういった位置づけのひとつです。 我々のプラットフォームによって利用者がデータを使いやすくなると、我々のビジネスも成立するような、Win-Winの関係になるのではないかという仮説でやっていきたいと考えています。