uc20-019

都市空間に関する情報の集約による行政事務の効率化

実施事業者株式会社三菱総合研究所 / アジア航測株式会社
実施場所長野県茅野市 市内市外地 / 住宅地など
実施期間-
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開発行為に関連する多様な情報を3D都市モデルに集約し可視化するプラットフォームを開発。デジタルソリューションによる官民の情報収集コスト低減を目指す。

実証実験の概要

都市空間に紐づく情報は極めて複雑かつ多様であるが、その情報を集約し、三次元上で一覧化するような仕組みは存在せず、各種申請手続きにおける行政事務上の負担となってる。今回の実証実験では、開発許可に必要となる各種情報を3D都市モデル上に集約し、WEBアプリで一覧性をもって確認できるようにすることで、3D都市モデルを活用した行政事務の効率化や立地誘導政策への期待効果の検証を行う。

実現したい価値・目指す世界

市街化調整区域等で行われる開発行為については、その開発が対象エリアの土地利用の計画や災害リスク等の状況と適合しているかを審査する必要がある。こうした開発許可手続きにおいて、茅野市では対象エリアに関する詳細な情報を調査収集する必要があるため、申請者において多岐に渡る資料収集や市関係課へのヒアリングなどの事務負担の重さが課題となっている。また、申請を受け付ける行政側においても、当該申請の内容を確認するための負担が大きい。関係者が多岐に渡る情報を把握しきれないため、市のまちづくり施策と整合しない開発や、土砂災害や洪水など災害リスクを看過した開発が行われてしまうことも懸念されている。

今回の実証実験では、3D都市モデルを活用し、開発行為に関係する多様な情報を収集・集約し、WEBアプリで一覧性をもって把握することができるようにし、一般に公開する。これにより、これまで現地を確認したり、関係各所への問い合わせにより入手したりしていた情報を一覧化し、開発申請を行う民間事業者側の情報収集コストを低減するとともに、市当局が都市構造を俯瞰して把握したうえで申請の適合性を審査可能とすることで、審査に要する行政事務の効率化を目指す。さらに、都市構造に関する情報を一覧化し、俯瞰的な把握が可能となることにより、コンパクト・プラス・ネットワーク等の目指すべき都市の姿と整合した開発許可、立地誘導施策等の推進に貢献することも期待される。

対象エリアの地図(2D)
対象エリアの地図(3D)

検証や実証に用いた方法・データ・技術・機材

今回の実証実験では、開発許可に必要となる都市関連情報を3D都市モデル上に集約し、WEBアプリ上で一覧性をもって確認できるようにすることで、開発許可に係る行政事務の効率化や立地誘導政策への期待効果を検証した。具体的には、都市計画規制に関する情報(用途地域、高度地区など)、過去に開発を許可したエリアの情報、災害リスク情報、立地適正化計画に関する情報(都市機能誘導区域、居住誘導区域)などを3D都市モデル上で一元化し、開発許可の申請者及び承認事務を担当する行政職員の双方に閲覧可能な環境を提供することで、手続きに係る負担軽減効果などを検証した。

建物情報×災害リスク情報
建物×立地適正化計画に関する情報

検証で得られたデータ・結果・課題

WEBブラウザベースの3D都市モデルビューアの利点は、GISソフト等の特別な環境を必要とせず、一般のPCで情報を一覧的に確認できることにある。今回の実証実験では、行政職員と民間事業者の双方に開発したWEBアプリを体験してもらい、業務効率化の効果をヒアリングした。

行政職員からは、開発初期の計画・相談段階での現地確認の省略による負担軽減、都市空間情報の一覧的な把握による問い合わせの減少、コンパクト・プラス・ネットワークや防災まちづくり等のまちづくり施策と開発との整合性の確認のしやすさなどのメリットが挙げられた。また、開発事業者からは、今回集約した情報に詳細な地質想定や地形情報(造成高さ、道路の中心高さ)、地下占用物件の情報(上下水道、雨水渠)、降雨時の雨水の流れなどの情報が加わり、3D都市モデル上で開発行為に係る影響のシミュレーションが可能となれば、事前調査や計画に係る負担の軽減につながるという意見も寄せられた。実用化に向けた課題としては、参照する情報が最新の状態となるような更新の担保、3D都市モデル上に表示される都市計画関連情報の境界線の精度などが挙げられた。また、開発許可以外にも建築確認申請や景観まちづくりなど様々な分野で応用できる可能性があり、多方面での活用に向けて、わかりやすく使いやすいユーザインターフェースの設計も重要な課題である。

建物×都市計画に関する情報
建物×災害リスク情報×開発許可エリア

今後の展望

従来から、まちづくりにおける地理空間情報の分析・可視化は二次元地図をベースに行われてきたが、今回の実証を通じ、行政職員や事業者などが直感的に都市空間を把握するのに、建物の形状や現地の風景が直感的にわかりやすくなるなど、三次元での可視化が有用だと確かめられた。今後は、建物が持つセマンティクス(用途や建設年などの属性情報)と人の流れや経済活動などのデータを掛け合わせて分析することで、これまでの2Dデータの重ね合わせだけでは見えてこなかった都市構造の実態把握、新たな都市施策の提案・検討につながることが期待される。

例えば、開発許可申請の審査にあたっては、本来、行政の都市計画や立地適正化計画などと整合しない開発や、土砂災害や洪水などの災害リスクを考慮しない開発に対して適切な指導を行うことが求められる。この点、開発許可の時点で開発後の経済活動の状態や居住誘導の結果がシミュレーションできれば、コンパクト・プラス・ネットワークなどの目指すべき都市の姿に対して開発がどのような影響を与えるのかを予測することができる。3D都市モデルは申請者と行政の双方が現在の都市構造を共有しやすくすることに加え、目指すべき都市の実現に向けて今後どのような開発を行っていけばいいのか、将来を見据えた検討の一助になることも期待される。