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カメラ映像の解析による混雑状況の可視化

実施事業者パナソニックシステムソリューションズジャパン株式会社 / パナソニック株式会社 CNS 社 イノベーションセンター
実施場所東京都新宿区 モザイク通り(新宿駅西口~南口間)
実施期間データ計測:2020年12月~2021年1月 / データ解析:2020年1月~3月
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既設のカメラ画像を用いた人流解析と視覚的にわかりやすい混雑状況の可視化手法を検証。3D都市モデルを用いた情報提供技術の確立により人々に行動変容を促す。

実証実験の概要

既設カメラを活用した⼈流解析技術は、既に整備されている機器環境を用いることができるため、比較的容易に多くの地域で都市活動モニタリングを可能とする技術として期待されている。今回の実証実験では、新宿駅の「モザイク通り」を対象エリアとして、画像解析技術によって把握した通行者の人数を用いて混雑状況を可視化し、一般に提供することで、利用者に過密状況を回避するための行動変容を促すことを目的に、技術検証を行った。

実現したい価値・目指す世界

新型コロナウイルスの影響により、都市活動には「3密を避け、一方で経済活動は維持」という命題が課せられている。この命題の実現のためには、商業施設などの賑わい箇所において利用者へ混雑状況を提供し、人々に行動変容を促すことが一つの解となる。

今回の実証実験では、利用者に混雑を避けたルート選定等を促すことを目的に、既設のカメラ画像を用いた画像解析技術を活用し、3D都市モデル上で公共空間の混雑状況を一般に提供することを試みた。

対象エリアは新宿駅周辺のうち、往来の多い新宿西口から南口を繋ぐ導線となる「モザイク通り」とし、地権者との協力・連携によって既設の防犯カメラ及びカメラネットワーク、管理サーバーを活用して人流を把握した。西新宿におけるスマートシティの取組推進に寄与することを目指す。また、既設カメラを活用した⼈流解析結果を3D都市モデル上でわかりやすく可視化する技術を確立することで、多くの地域・都市で都市活動モニタリングを展開することに寄与することも目指す。

実証箇所(モザイク通り)
人流計測エリア(青色部分)

検証や実証に用いた方法・データ・技術・機材

新宿駅の「モザイク通り」の既設カメラ4台から取得したカメラ画像を用いて、AIによる深層学習を用いた画像解析技術によって人物を検出し、時間帯別の通行人数をカウントした。この際、個人情報に配慮した処理とするため、画像解析をカメラシステム内で完結させたうえで、個人情報を含まない人数カウントデータのみをカメラシステムから抽出した。

また、実証場所となる新宿駅の「モザイク通り」は南北に勾配がある細い通路であり、通常の3D都市モデルの精度ではディテールを再現することはできない。このため、ハンディレーザースキャナーを用いた個別の測量を実施し、半屋内の通り抜け通路、階段、坂道等の形状をモデリングし、3D都市モデルに統合した。

防犯カメラの例(パナソニック製)
計測イメージ

検証で得られたデータ・結果・課題

今回の実証実験では、既設カメラの画像解析によって得られた人数カウントデータを3D都市モデル上に重ね合わせて可視化を試みた。可視化に際しては、4台のカメラによる人流の計測範囲を立方体とし、その範囲内で取得した人の数については人型オブジェクトによって表現した。人の混雑度については色分けした表現とし、両者の組み合わせによって公共空間内の混雑状況を直感的でわかりやすく表現した。

また、階段や坂道等の複雑な地形の上で3Dオブジェクトを描画する場合、オブジェクトが壁面や地形にめり込むなど、利用者に違和感を与えうる表現となることを防ぐことが必要である。このため、人流データ取得時に高さ方向を含む精度の高い位置データを取得することや、データ加工時に3D都市モデル上の描画位置を微調整することなど、データ取得時および加工時の工夫が必要であることも明らかになった。

このほか、既設カメラを用いた場合の課題として、計測期間中の機器不良による画像データの欠損が生じる場合があることを把握した。画像データの欠損に対しては、複数の既設カメラを活用する等の対策によって対処することが考えられる。また、既設カメラの設置個所は必ずしも人流計測に適しているとは限らないため、設置個所によっては通路幅すべてを画角に収められていない等、統計上有意なデータが取得できない場合がある。今回の実証実験では、画角不足のカメラ画像に対しては、画角の不足を解消するために他のカメラ画像から計測した人流の傾向の補正処理を実施することで、より多くの人流データを確保することができた。

実証箇所(モザイク通り)
実証箇所(モザイク通り)
実証箇所(モザイク通り)
実証箇所(モザイク通り)

今後の展望

今回の実証実験では、既設カメラを用いた画像解析によって、公共空間内の時間帯別の通行者数及び混雑度を把握することが可能であることが把握された。また、実証期間中に新型コロナウイルス感染症緊急事態宣言が発出されたが、宣言の前後で明らかに人流の傾向が増減することが把握されるなど、今回のモニタリング技術は実際の人流や施策の効果を的確に捉えられる技術であることも明らかになった。

今後の展望としては、比較的安価で継続的にデータの取得が可能であるという既設カメラを用いた人流解析技術の特徴を生かし、施策の効果把握や検討に資する基礎データを恒常的に収集・活用していくことが考えられる。計測した人流データを常に蓄積していくことによって、都市活動を継続的にモニタリング可能となり、実態に即した細やかなまちづくり施策の立案や施策効果の評価が機動的に可能になることも期待される。なお、今回の実証実験で実施した通り、個人情報に配慮した対応としてカメラ画像の取得時において画像の解析目的を掲出すること等が必要であることには留意が必要である。