uc20-006

異なるモニタリング技術の併用による人流解析

実施事業者日本電気株式会社
実施場所沖縄県那覇市 国際通り
実施期間データ計測:2020年12月~2021年1月 / 解析:2021年2月~3月
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カメラ画像を用いた年齢や性別といった歩行者属性の分析技術を検証。さらに、このデータとスマートフォンから取得される広域人流データを組み合わせた拡大推計を試みた。

実証実験の概要

都市活動をモニタリングする技術には様々なものがあり、メリット・デメリットやコストなどを考慮したうえで、解決したい課題に応じて適切な技術を導入することが重要である。また、市街地ではセンシング機器の設置場所が限られている場合なども多く、複数の技術を組み合わせたモニタリング手法の確立が必要となる。

今回の実証実験では、那覇市の中心市街地である国際通りを対象エリアとして、既設のカメラを用いたAI画像解析技術と機器設置を必要としないWi-Fiパケットセンサーを併用することで、限定的なカメラ画像を用いた人流解析の技術検証を行う。

実現したい価値・目指す世界

まちづくり計画の策定・見直しや、賑わいの創出、商業活動の活性化等を目的とした施策効果の把握において、都市の活動を把握するためのデータを収集・分析することは重要である。これまでも、歩行者交通量調査等の実施によるデータ収集や小売販売額等の統計作成によってまちづくり等の施策のための基礎データが把握されている。

今回の実証実験では、那覇市の中心市街地である国際通りを対象エリアとして、既設のカメラ画像を用いた画像解析技術を活用し、個人情報保護に配慮した上で対象エリアにおける通行者数や年齢・性別等の通行者属性を把握する。また、カメラ画像解析では局所的にしかデータが取得できないことから、対象エリアを含む広域スケールのWi-Fi人口統計データを用いて取得データを補完することで、取得した解像度の高い人流データ(属性情報付きで実測値に近いデータ)の拡大推計を試みる。

また、通行者数および通行者属性を定量的に捉えた⼈流解析結果を都市の賑わいを捉えるデータとして活用することで、中心市街地の商店街や市場(マチグヮー)が賑わうまちづくりの検討や、中心市街地の再整備等による魅力的なまちづくりなど、那覇市のまちづくり等の施策の検討や効果測定に役立てることを目指す。

国際通り周辺の建物モデル
カメラ設置位置とカメラ向きを示した図

検証や実証に用いた方法・データ・技術・機材

カメラ画像をもとに歩行者の性別や年齢層等を分析することが可能な人物分析ソフトウェア「FieldAnalyst for Gate」を用いて、那覇市国際通りの人流を計測・分析した。分析に用いた画像は保存せず人流計測後に破棄することで、個人情報やプライバシーに配慮した処理を行った。分析に用いる画像の取得は既設カメラを利用することで計測コストの低減を図った。

カメラ画像解析データによる人流計測の範囲はカメラ設置個所周辺に限定される。そこで、カメラ画像による計測範囲を補完するため、年齢・性別を含む広範囲の人流推定データであるWi-Fi人口統計データも活用した。性質の違うこれら2種類のデータを組み合わせた拡大推計によって、広範囲に高精度な人流推定を実施した。

検証に用いた機材(既設カメラ)
人流解析ソフトウェア(Field Analyst for data )の処理手順

検証で得られたデータ・結果・課題

カメラ画像解析データから得られた国際通りの歩行者通行量等のデータをカメラ画像範囲外に拡大するため、メッシュ単位で取得されるWi-Fi人口統計データに一定の係数を掛けた拡大推計を行った。これによる人流分析の結果から、平日・休日で歩行者通行量のピーク時間帯の傾向が異なることのほか、歩行者の属性の傾向も時間帯によって異なることが明らかになった。データ計測期間中に新型コロナウイルス感染症に関する緊急事態宣言が発出されたが、宣言以降において20時以降の通行量が減少傾向にあることや、日別通行者数が右肩下がりに推移する傾向が把握されるなど、今回のモニタリング技術は実際の人流や施策の効果を的確に捉えられる技術であることも明らかになった。

カメラ画像解析によって属性(年齢・性別)が推定できた通行者は全体の半分未満にとどまった。これは、新型コロナウイルス感染症対策によるマスク着用によって、属性推定に必要な顔の特徴点抽出が妨げられたことが要因と想定される。一方で、カメラ画像解析結果の補完に用いたWi-Fi人口統計データは、Wi-Fi接続用のアプリケーションへの登録情報に基づいて属性を推定したデータであるため、カメラ画像解析において推定できなかった属性の補完に用いることができた。このように、画像解析による属性値の推定が困難な状況下においても、複数のデータの組み合わせによって属性値を補完することで、人流を的確に捉えることが可能であることが明らかになった。

人流モニタリング結果の可視化イメージ
拡大推計の結果例

今後の展望

人流モニタリング結果は、街中の回遊性向上や地域経済活性化への施策検討に活用可能である。例えば、属性付きの人流測定結果把握した時間帯別・属性別の通行者の傾向に基づき、まちづくりの施策を精緻化することができる。具体的には、那覇市国際通りにおいては、平日の通勤時間帯の通行量の集中を踏まえ、分散通勤の呼びかけなど都市の混雑回避に向けた施策が考えられる。ほかにも、昼時間帯に通行量が多い女性をターゲットとした地域活性化施策など、時間帯別の通行量に着目した地域活性化施策の検討にも活用可能である。

また、今回の実証実験では1台のカメラの画像解析結果を、Wi-Fi人口統計データによって国際通り全体の人流を拡大推計によって把握した。今後、人流モニタリング技術を横展開するエリアにおいて機材調達コストや機材設置個所に制約がある場合も、複数のデータを組み合わせることで、広範なエリアのデータを取得することが可能であることが明らかになった。