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Wi-Fiパケットセンサーによる地点間移動のモニタリング

実施事業者株式会社社会システム総合研究所
実施場所岐阜市中心部及びJR高槻駅北側エリア
実施期間2020年12月~2021年3月
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低コストかつ設置が容易なWi-Fiパケットセンサーを用いた人流データの可視化を検証。回遊・流動状況を把握し、まちづくりや施策検討への活用を目指す。

実証実験の概要

スマートフォン等の急速な普及により、Wi-Fi機能を持つ端末を持ち歩く人が急増している。Wi-Fiパケットセンサーは、端末が発信する信号(パケット)を受信・解析することで、人の移動・滞留などを推定することができる。今回の実証実験では、Wi-Fiパケットセンサーを岐阜県岐阜市及び大阪府高槻市の中心市街地の歩行者用デッキや駅舎、観光施設などに設置し、センサーから取得した地点間の移動を3D都市モデル上で可視化する技術検証を行う。

実現したい価値・目指す世界

まちづくりにおける賑わい創出のためには、都市全体で人の移動を把握することが有用となる。

今回の実証実験では、岐阜県岐阜市の中心部や大阪府高槻市における中心拠点の一つであるJR高槻駅北側エリアにWi-Fiパケットセンサーを設置し、取得される人流データを3D都市モデル上に重ねて可視化することで、市中心部の回遊、流動状況を把握することを目的とする。Wi-Fiパケットセンサーは、低コストかつ電源がある場所であれば設置可能であるため、比較的容易に人流データを収集できるのが特徴である。また、2階のデッキ部分と地上部分の移動などを、3D都市モデル上で立体的に分かりやすく表示することができるため、都市空間における複雑な人の流れを把握しやすい。

これらのデータは、賑わいづくりを支える駅前デッキ空間と地上駅前広場が連携した拠点整備のあり方等の検討に活用することが考えられる。例えば、人流解析によって得られたデータを今後の都市づくり(再開発や道路整備等)の検討や住民説明、産業振興、観光分野等の施策の検討に活用することが期待できる。また、商業施設のイルミネーション時、商店街イベント時などの滞留時間、滞留人口の可視化による効果計測を行うことも想定される。

JR高槻駅北側周辺
岐阜市中心部

検証や実証に用いた方法・データ・技術・機材

スマートフォンや携帯ゲーム機の急速な普及により、Wi-Fi機能を持つ端末を持ち歩く人が急増している。Wi-Fi機器の多くは、スタンバイ状態でも常時、基地局と接続するためのビーコン信号を発信している。この信号(パケット)には、Wi-Fi機器それぞれに固有のアドレスを含むため、パケット受信機(Wi-Fiパケットセンサー)を設置し、その受信データを解析することで、人の移動・滞留・回遊などを計測することができる。

パケットを受信するWi-Fiパケットセンサーは、低コストかつ電源がある場所であれば設置可能であるため、市街地の主要な地点ごとにセンサーを設置することで比較的容易に地区・街区スケールでの人流データを収集できるのが特徴である。今回の実証実験では、屋内・屋外など設置箇所の環境に応じた3タイプのセンサーを岐阜県岐阜市の中心市街地に21か所、大阪府高槻市のJR高槻駅北側エリアには10か所設置し、15分ごとに計測されるデータを各地点間の人の移動量として1時間ごとに集計した。

なお、パケットには、名前やメールアドレス等の個人を特定する情報は含まれないが、悪意を持って解析する者にデータが漏洩した場合のリスクを想定し、今回の実証実験では、取得データに高度な匿名化処理を行った上で解析した。

Wi-Fiパケットセンサ
Wi-Fiパケットセンサの仕組み

検証で得られたデータ・結果・課題

今回の実証実験では、岐阜市と高槻市に設置したセンサから取得した地点間の移動を3D都市モデル上で可視化した。

岐阜市では、中心部全域をカバーするスケールの地点間の移動については弧(アーク)で、JR岐阜駅のデッキから名鉄岐阜駅及びバスターミナルなどへの移動については主要な経路に沿った線(ライン)で表すことで、3D都市モデル上でJR岐阜駅からデッキを通って乗り換える様子を立体的に分かりやすく表示した。この結果、JR岐阜駅からデッキを通り、岐阜バスターミナルや名鉄岐阜駅に乗り換える人流について、朝夕の通勤時間帯に増加している様子が3D都市モデル上で立体的に確認できた。

高槻市では、地点間の移動をアークで示すことで、駅前のデッキから商業施設(アクトモール)を経由して、芥川商店街へ向かう人流が、時期でみるとクリスマスに、1日の時間でみると日中に増加している様子が確認できた。

他方、Wi-Fiパケットセンサーのセンシング範囲はおよそ見通し距離で30ⅿ程度と狭いため、精緻に人数や移動経路を計測するためには、施設の出入り口等を網羅するように複数センサを設置することが望ましいが、電源の有無などで設置場所が限定されることが今後の課題となる。今回の実証実験においても、設置場所の制限のため、特に駅からの人流はすべてを計測できず、実際よりも少ない移動量となった。

JR高槻駅北側周辺における アークによる人流表現(日中に商店街への移動が増加している様子) 
JR岐阜駅周辺における 乗り換え移動の可視化
JR高槻駅北側周辺における移動量の可視化
岐阜市においてWi-Fiパケットセンサを 設置する様子

今後の展望

今回の実証実験のように、2階のデッキ部分と地上部分の移動などを、3D都市モデル上で立体的に分かりやすく表示すれば、まちづくりの計画立案や合意形成に活用することはもちろん、例えば駅における人の流れにあわせて、駅から行先までを把握することで観光・商業振興等の施策の検討に寄与することが期待できる。

このように、Wi-Fiパケットセンサは、低コストかつ電源がある場所であれば設置可能である。センサを複数設置することで、広い範囲の人流の計測が可能となり、イベント時などの滞留時間、滞留人口の可視化による効果計測を行うことが考えられる。
なお、自動車交通流を把握・分析するためには、Wi-Fiだけではなく、車両が発するBluetooth パケットを受信する方式もあり、今後そのようなデータを収集し、まちづくりを行っていくことも期待される。