uc20-012

垂直避難可能な建築物の可視化等を踏まえた防災計画検討

実施事業者株式会社三菱総合研究所
実施場所福島県郡山市 郡山駅周辺等
実施期間-
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浸水リスクを3D都市モデルを用いて三次元的に可視化することで、「垂直避難」が可能な建物を都市スケールでピックアップ。流域治水への転換に向けて、防災施策の高度化を目指す。

実証実験の概要

全国には、「想定最⼤規模」(L2)の洪⽔が生じた場合、中心市街地のほぼ全域が浸⽔するエリアも少なくない。こうしたケースで有効な防災手法の1つとされるのが、住⺠が⾃宅や周辺の「⾼い」建物に避難する「垂直避難」の⼿法である。今回の実証実験では、浸⽔想定区域図の3D化とあわせて、「垂直避難」可能な建物のピックアップを試みた。

実現したい価値・目指す世界

現在、近年の自然災害の激甚化・頻発化を踏まえ、あらゆる関係者(国・都道府県・市町村・企業・住民等)により流域全体で行う治水「流域治水」への転換に向けた取組みが各地で進められている。また、安全なまちづくりを実現するため、立地適正化計画に新たに「防災指針」を位置づけるなどの取組も始まった。

これらの取組みに3D都市モデルを活用するため、今回の実証実験では、福島県郡山市を対象に、郡山駅周辺等をモデル地域とした3D都市モデルを活用した防災政策の高度化の実証実験を実施する。

具体的には、3D化した浸⽔想定区域図を活用し、「垂直避難」が可能な建物のピックアップを実施し、3D都市モデル上に可視化を試みる。また、ハザードマップ等既存の防災施策と本実証結果を踏まえ、「防災指針」の検討等に活用することを目指す。全国には、「想定最⼤規模」(L2)の洪⽔が生じた場合、中心市街地のほぼ全域が浸⽔するエリアも少なくない。こうしたケースで有効な防災手法の1つとされるのが、住⺠が⾃宅や周辺の「⾼い」建物に避難する「垂直避難」の⼿法である。今回の実証実験では、浸⽔想定区域図の3D化とあわせて、「垂直避難」可能な建物のピックアップを試みた。

郡山駅周辺
郡山駅周辺

検証や実証に用いた方法・データ・技術・機材

今回の実証実験では、CityGML形式の3D都市モデルの特徴であるセマンティクス(属性情報)を活用して、建物モデルに洪水からの垂直避難に関する属性情報を付与することで、垂直避難可能な建物の可視化による防災施策の高度化を目指した。

具体的には、郡山市が都市計画基礎調査等により把握していた「建物高さ」、「地上階数」、「浸水深」、「構造種別」、「家屋倒壊等氾濫想定区域内木造建物」を建物属性として活用。浸水によって流出するリスクが懸念される木造建物を除いた上で、浸水位と建物の高さ及び階数を比較し、浸水が最大値となっても最上階が浸水しない建物を抽出して、建物の最上階へ緊急的に垂直避難が可能と判定するアルゴリズムを作成。これを3D都市モデルに適用することで、郡山駅周辺等で垂直避難可能な建物の可視化を実現した。

検証で得られたデータ・結果・課題

今回の実証実験では、地域の洪水による災害リスクを3Dで可視化するだけでなく、垂直避難可能建物を示すことにより、自宅等が垂直避難可能か否か、あるいは周辺に垂直避難可能な建物があるか否かを事前に把握することが可能となった。このように、単なる建物や災害リスク情報の3D化だけではなく、「建物高さ」や「地上階数」、「浸水深」、「構造種別」といった属性情報を建物ごとに持たせることのできるCityGMLのセマンティックモデルの特長を活かすことで、より分析的で高度な防災対策の立案・実施が可能となる。

今回は、さらに避難所・避難場所も合わせて表示したことにより、想定浸水深が深く、かつ、周辺に高い避難所が少ない地域の住民等に対しても、早めの適切な避難行動を促すきっかけづくりにも寄与することが期待される。

一方、本実証による課題としては、住民説明等で活用する際に、「垂直避難可能」と判定されたことが逆に安心材料となってしまい、原則である避難所等への適切な避難行動が取られない可能性が生じることがあげられる。こうした課題には、従来通り、災害想定はあくまで想定に過ぎないことや、また近年の頻発化・激甚化する災害被害の状況などを丁寧に住民へ説明し、地域の防災意識の向上を図っていくことが重要である。

垂直避難建物可視化(着色)結果
垂直避難建物可視化(着色)結果(郡山駅周辺)  避難所旗揚げ有り
垂直避難建物可視化(着色)結果 郡山駅周辺拡大

今後の展望

現在、近年の自然災害の激甚化・頻発化を踏まえ、あらゆる関係者(国・都道府県・市町村・企業・住民等)により流域全体で行う治水「流域治水」への転換に向けた取組が各地で進められている。また、安全なまちづくりを実現するため、立地適正化計画に新たに「防災指針」を位置づけるなどの取組も始まった。

国土交通省の調査では、我が国における災害リスクエリア内の人口は2015年で約8,603万人にのぼり、これは総人口に対して約67.7%を占める高い割合である。

今回の実証結果を踏まえ、垂直避難を取り入れた防災政策の高度化が期待できる。具体的には、「浸水リスクエリアから垂直避難の可能性を有する建物を抽出し災害時における垂直避難に関わる防災協定の締結の検討」、「居住誘導区域内における防災・減災に資する取り組み方針の検討」、「災害リスクの高い地区の抽出及び地区ごとの課題の整理」、「地域における垂直避難可否の可視化による早期避難の必要性の検討、早期の避難行動に係る防災意識啓発への活用」、「住民によるマイタイムライン作成時の活用」等の各種防災施策への活用を想定している。

また、他都市においても同様の取組を展開可能であり、今後ベストプラクティスを組成し、これを全国に横展開していくことが期待される。