uc20-025

空間認識技術を活用したAR観光ガイド

実施事業者株式会社JTB / 株式会社JTB総合研究所 / 凸版印刷株式会社
実施場所北海道札幌市 狸小路商店街
実施期間2021年3月
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3D都市モデルを用いて構築された、VPS技術を活用して画像から現在の位置を推定するARガイドアプリを開発。ニューノーマル時代における新たな観光・飲食体験の提供を目指す。

実証実験の概要

画像から現在の位置を推定するVPS技術は、近年、AR(拡張現実)を利用したサービス拡大に向けて発展が期待されている技術である。

今回の実証実験では、3D都市モデルのデータを用いたVPSを構築し、この技術を用いたARガイドとモバイルオーダーシステムを開発することで、ニューノーマル時代における観光・飲食体験の検証を行う。

実現したい価値・目指す世界

JTBでは、観光産業などにおいて地域経済のデジタルトランスフォーメーション(DX)を支援しており、データ活用などで後れをとる地域観光業の底上げを図ることで、新型コロナウイルス後を見据えた地域経済の活性化を実現するべく、各地の自治体と様々な取り組みを実施している。

新型コロナウイルス感染症拡大に伴う消費者の生活様式の変化に合わせて、飲食店のお店選びの基準も「安心安全の食体験が約束されているかどうか」が最優先事項へと変化している。このような変化の中で、感染症対策などの店舗の情報をストレスなく取得できるシステムや、店員と接触することなくオーダーできるシステムを実装することが求められている。

今回の実証実験では、観光地でありグルメの宝庫である札幌市の狸小路商店街を対象として、3D都市モデルをバックデータとして活用しVPSを構築することで、高精度なAR飲食店ガイドとモバイルオーダーシステムを組み合わせたスマートフォン向けスーパーアプリを開発し、お店探しからメニューの注文まで自身のスマホで可能となる「非対面・非接触」サービスを提供する。これにより、3D都市モデルを活用した観光・飲食体験サービスが地域経済の持続的な発展と安心安全な都市生活の実現に寄与するかを検証する。

対象エリアの地図(2D)
狸小路商店街イメージ

検証や実証に用いた方法・データ・技術・機材

AR飲食店ガイドに用いるVPSについては、3D都市モデル(LOD2)をバックデータとし、三次元測量により取得した特徴点を補完情報として統合することで構築した。さらに、このシステムにモバイルオーダーシステムを組み合わせたスマートフォン向けアプリを開発した。

3D都市モデルのVPS活用検証においては、あらかじめ丁目ごとにエリアを設定し、まずGPSの位置情報から数十メートルの範囲でエリアを特定(絞込み)。その後、スマホのカメラで捉えた画像から建物等の特徴点を抽出し、VPSで位置推定を行ってユーザーの現在位置を特定できるか実証を試みた。

また、ARアプリの画面上には、新型コロナウイルス感染症対策に取り組む「新北海道スタイル」への対応の有無や、グルメ情報サービスRettyによる飲食店情報を表示させるとともに、「非対面・非接触」サービスであるモバイルオーダーシステム(Nice to meal you)と組み合わせることで、「ニューノーマル」に対応し、アフターコロナを見据えた安心・安全な観光・飲食体験の検証を行った。

これらのサービスを実証期間10日間、パブリックベータテストの形で一般ユーザーも巻き込み延べ200人程度の被験者に体験してもらい、その効果を検証した。

実証実験の様子
実証実験の様子

検証で得られたデータ・結果・課題

今回の実証実験により、3D都市モデルをバックデータとして構築したVPSが一般利用者向けのAR飲食店ガイドとして十分な精度を発揮できることが確認できた。また、VPSとモバイルオーダーシステムを組み合わせたアプリの提供により、非対面・非接触による安心安全な観光・飲食体験を提供でき、アフターコロナにおけるインバウンドの回復を見据えた地域活性化につながる可能性が示唆された。

他方で、均質な建物が密集するため特徴点が捉えづらい商店街においては、明るさの変化や視線位置の影響により、3D都市モデルのみをバックデータとしたVPSでは十分な位置精度を確保できないことも明らかとなった。このため、今回の実証実験では、3D都市モデルをベースとした位置測位を補完するための追加の三次元測量を実施している。

このように、3D都市モデル単独によるVPSの構築には一定の課題があるものの、3D都市モデルを活用することにより従来必要とされていたVPS構築のための高精度測量等は不要となる。3D都市モデルを活用した簡易迅速なVPS構築手法の確立により、これを活用した多様なソリューション開発が期待される。

今後の事業化に向けては、3D都市モデルのみを用いたVPS構築手法の検討、AR技術を用いた観光アプリのマネタイズ手法の確立、モバイルオーダーシステムの普及、非対面・非接触と観光地におけるコミュニケーション体験という相反する価値を両立するための方法等の論点について検証を深めていく必要がある。

ARガイドアプリ チュートリアル画面
ARガイドアプリ チュートリアル画面
ARガイドアプリ ホーム画面・店舗情報画面
ARガイドアプリ Nice to meal youメニュー画面

参加ユーザーからのコメント

・自分のスマホで直感的にお店探しができるだけでなく、モバイルオーダーや「新北海道スタイル」対応の有無まで確認できるため、コロナ禍においても安心して飲食店選びができた
・ARガイドとモバイルオーダーのおかげでコロナ後のインバウンド需要を取り込めるポテンシャルを感じた
・入り口や店舗のカテゴリーが分かりにくいお店もARで正確に表示されたので入りやすかった
・モバイルオーダオーダーで事前に注文できれば、お店での滞在時間が減りもっと安全かもしれない。

今後の展望

本実証実験の結果を踏まえ、より満足度が高く思い出に残る旅行体験を提供するニューノーマル時代の新たなサービスとして、全国地域での事業化に向けて検討を進めていく。

今後の検証ポイントとして、ARとVPS技術を組み合わせた観光体験を様々な領域に広げていくことが考えられる。例えば、寺社仏閣やお城、観光施設等に対象施設を拡大し、観光型MaaS等の他サービスとの連携を実装していくことで、安心・安全を確保しつつ魅力的な体験価値を提供し得るサービスの可能性を検証していきたい。また、インバウンド需要の回復に備えた多言語対応などの機能拡充を行うことで、土地勘がない、あるいは言語が通じない観光客に対しても安心感を与え、満足度の高い思い出に残る旅行体験を提供していきたい。

さらに、VR空間を活用した観光ソリューションの領域でも3D都市モデルを活用し、バーチャルな観光体験の提供や目的地の魅力発信を行い、サイバー空間とフィジカル空間の双方を横断的に活用して観光を盛り上げていくことも想定している。

3D都市モデルを基盤として観光領域におけるDXの取組みを進め、より満足度の高い思い出に残る旅行体験の提供、地域経済の再活性化、地域の持続的な発展と安心・安全な都市生活の実現を目指していく。