uc21-001

太陽光発電のポテンシャル推計及び反射シミュレーション

実施事業者株式会社三菱総合研究所 / 国際航業株式会社 / 株式会社フォーラムエイト / Pacific Spatial Solutions株式会社
実施場所石川県加賀市 都市機能誘導区域・居住誘導区域
実施期間-
Share

3D都市モデルを用いて建築物の屋根に太陽光パネルを設置した際の発電量と反射光のシミュレーションを実施することにより、カーボンニュートラルの実現に向けた、太陽光発電の効率的な設置を目指す。

実証実験の概要

カーボンニュートラルの実現に向けては、都市内の建物屋上スペースを活用した太陽光発電パネルの設置が有効な手法となる。このため、効率的なパネル設置を促進するための屋根面のピックアップや、反射光による周辺建物への光害発生の確認、都市スケールでの発電量の可視化が重要となる。

今回の実証実験では、3D都市モデルを活用した太陽光発電量の推計を試みる。また、パネル設置に伴う光害発生の有無についてもシミュレートし、設置の実現性の確認を行う。これらの推計・シミュレーション結果を活かし、都市内における太陽光発電普及に向けた施策検討への有用性を検証する。

実現したい価値・目指す世界

近年、世界的に地球温暖化対策が喫緊の課題とされており、我が国も2020年10月に、2050年カーボンニュートラルの実現を目指すことを宣言した。令和3年6月に策定された「地域脱炭素ロードマップ」では、地域内の再エネポテンシャルを最大限活用した再エネ発電設備の導入を進めるため、3D都市モデルを用いたシミュレーション結果を活用することとされている。

都市において屋上に太陽光発電パネルを設置する場合、周囲の建物による入射光の阻害など、周囲の環境に発電量が左右される。そのため、日射量が十分に得られる屋根を選定し、効率よく太陽光パネルを設置することが求められる。一方、太陽光パネルの設置により、周辺の建物に反射光が及ぶこともあり、設置前に周囲の建物への影響を確認できることが望ましい。

そこで、今回の実証実験では、3D都市モデルが持つ建物の屋根面積、傾き、隣接建物による日陰影響等の情報や日射量等のデータを用い、太陽光発電パネルを設置した場合の発電量の推計及び太陽光パネルの設置時の反射シミュレーションを都市スケールで行う。また、この結果を活用し、地域における太陽光発電パネルの普及のための施策の検討、特定エリアでのRE100化の推進、都市部での面的なエネルギー計画策定等につなげていくことを目指す。

対象エリアの地図(2D)
対象エリアの地図(3D)

検証や実証に用いた方法・データ・技術・機材

今回の実証実験では、LOD2の3D都市モデルが持つ屋根形状の特徴を活用し、太陽光発電ポテンシャル推計及び反射シミュレーションを行った。具体的には、各建物の屋根面積、傾き、形状などから、屋根面ごとに太陽光発電パネルの設置可能箇所を抽出。傾きや周辺建物の日陰等を考慮して屋根面ごとの年間予測日射量を推計。JIS C 8907「太陽光発電システムの発電電力量推定方法」(2005年)を参照し、屋根面ごとに年間予測発電量を推計のうえ、建物ごとに太陽光発電ポテンシャルとして表した。また、公共施設を対象に、夏至、春分、冬至の各3日について1時間ごとに太陽光発電パネルを設置した場合の反射シミュレーションを行い、自建物以外の建物に太陽光が反射する到達先を抽出し、反射光が当たる時間(1時間単位)を集計。当該建物の光害発生時間として算出することに加え、反射光による光害発生の影響を光跡として可視化した。

年間予測日射量結果のイメージ
年間予測発電量結果のイメージ

検証で得られたデータ・結果・課題

3D都市モデルが持つ建物の屋根面積、傾き、建物による日陰影響の情報などを活用することで、屋根面ごとの精細な年間予測発電量を推計し、これを総計することで地域の再生可能エネルギーのポテンシャルを算出することができた。また、都市スケールでの反射シミュレーション及び結果の可視化により、パネルを設置したと仮定した場合の都市内での光害発生の建物数、時間、箇所を確認することが可能となった。こうしたシミュレーション結果を活かし、地域にカーボンニュートラルを実現するためのエビデンスを提供することができる。

さらに、災害リスクや土地利用等の都市計画に関する情報と組み合わせて活用することで、太陽光発電の最適なエリアの設定や公共施設での太陽光パネルの設置位置の判断への活用などが期待される。

一方、今回の実証実験では、パネルの設置向きや角度などについて予め定めた条件でシミュレーションを実施した。地域によって、日照量、気象条件(積雪の有無など)、建物や屋根形状の比率などは異なり、太陽光発電パネルの最適な設置条件は異なる。今後、全国の地方公共団体や事業者で実用化するには、任意の条件を設定し、様々なパターンをシミュレートできるシステムとする必要がある。また、同様のニーズや課題を抱える他の地方公共団体への横展開に向け、現状は特定ソフトウェアの利用を前提とした本シミュレーション結果をもとに、今後太陽光発電の適地判定を自動で行う汎用性の高いシステムをオープンに開発していく。

反射シミュレーション結果のイメージ
地域別の年間予測発電量

今後の展望

近年、世界的に地球温暖化対策が喫緊の課題とされており、我が国も2020年10月に、2050年カーボンニュートラルの実現を目指すことを宣言した。国土交通省、経済産業省、環境省が連携して設置した「脱炭素社会に向けた住宅・建築物の省エネ対策等のあり方検討会」では、公的機関が取り組むべき課題として、公共施設への太陽光発電設備設置の標準化を挙げた。また、改正温対法において、市区町村は促進区域の設定に努めることとされており、2022年1月以降に脱炭素先行地域の公募が行われるなど、施設単体ではなく、エリアとして脱炭素を進める動きが加速している。

3D都市モデル(PLATEAU)は今後全国に展開されるオープンなデジタル・インフラである。これを活用して地域の太陽光発電量ポテンシャル及び太陽光発電パネル設置による光害の影響を算出するための方法論を確立することで、全国どこでも、建物から都市までの多様なスケールで分析が可能となる。また、これらの分析結果と災害リスクに関する情報などを組み合わせて、太陽光発電が有効なエリアを明らかにすることで、太陽光発電促進の重点エリア、将来の土地利用、コンパクトシティのあり方の検討へ活用するなど、3D都市モデル×カーボンニュートラルの具体化な政策が全国に展開されることが期待される。