JSTB 運輸安全委員会

委員長からのメッセージ

運輸の安全文化醸成への継続的な貢献を目指して

(写真)武田委員長
 この二年間近くに渡る新型コロナ禍において、現場調査や事故等関係者との面接調査に際し、密閉空間や密集、密接の回避、飛沫防止といった感染拡大防止対策の徹底が求められるなど、当委員会の事故調査活動も少なからぬ影響を受けましたが、事故調査官とこれをサポートする事務局職員の地道な努力により、昨年もほぼ通常に近い事故調査活動を継続してまいりました。
 コロナ禍によって社会や経済は大きな影響を受けましたが、航空、鉄道、船舶の事故や重大インシデントは極端に減っている訳ではありません。このような状況においても、これまで日本において培われてきた運輸分野の安全性が損なわれてはなりません。事故等の原因を究明し、再発防止、被害軽減のための施策・措置を提言することにより、公正・中立の立場から、運輸の安全を守る要となる運輸安全委員会の重要な役割を着実に果たしていきたいと考えています。

 このような使命から、当委員会は、国土交通省の外局として独立した人事権を有しており、事故調査官のみならず、事務局内の他の職務についても、必要に応じて行政系、技術系の職員を独自に、かつ継続的に採用しています。令和3年度も3名の職員を採用し、令和4年度以降も同数程度の採用を見込んでいます。事故調査官以外の採用であっても、事務局内で様々な経験を積むことにより事故調査官になるキャリアアップルートも用意して人材育成に取り組んでいます。また、昨年成立した航空法等の改正法の施行に伴い、当委員会では、今後の利用拡大が見込まれるドローン等の無人航空機の事故調査を新たに行うこととなります。このため、航空事故調査官2名を新たに採用し、新しい分野の事故調査にもしっかり対応するべく準備を進めています。

 さて、我々の扱う事故やインシデントには、社会的に大きく注目されるものもあり、こうした事案について着実に原因の究明と同種事故等の防止、被害軽減のための提言を行っております。一方、事故等の防止、被害軽減に寄与するという目的において、調査対象であるすべての事故、インシデントの重要性に変わりはありません。
 例えば、航空モードでは、超軽量動力機や滑空機などの個人の運航する小型機の事案や、機体動揺による旅客や客室乗務員の負傷事故についても、一つ一つを丁寧に調査して原因を明らかにし、有益な情報を提供して同種事故等の防止を図ることにより、航空レジャーや空の旅を安全に楽しめるようにすることも、航空分野の安全に寄与するうえで重要であると考えています。
 鉄道モードでは、遮断機のない第3種、第4種踏切道における死亡事故を中心に、当委員会のホームページに「踏切事故を起こさないために」と題する項目を設け、調査によって得られた情報とともに、第3種、第4種踏切道の廃止や第1種踏切道に変更した取組事例を掲載しています。未だ約3,300カ所にも及ぶ第3種、第4種踏切道における死亡事故は後を絶たず、当委員会としては、今後とも、適確な調査に基づく原因の究明と事故防止の提言を着実に行うとともに、ホームページの充実なども含め、情報発信に努めてまいります。
 船舶モードでは、近年、関係船舶のAIS(自動船舶識別装置)の記録に基づく定量的な衝突リスク解析・評価手法を用いて原因の究明を行っています。今後とも、より科学的な調査の充実の観点から、定量的解析の積極的な活用も進めていきたいと考えます。 また、当委員会の8つの地方事務所では、合わせて毎年数百件の船舶事故等を調査し報告書を公表しております。プレジャーボートなどのマリンレジャーに関する事故は継続的に発生しており、地方事務所の調査結果を活用して、事故予防に資する取組を続けていきたいと考えています。

 運輸安全委員会としては、いずれの事案についても事実情報を着実かつ地道に積み重ねつつ、定量的解析など、より科学的かつ客観的な分析を行い、早期に報告書を取りまとめて必要な提言を行うことにより、事故等の防止、被害の軽減に寄与するとともに、安全上必要な情報は随時提供するなどして、日本の運輸安全文化の醸成に積極的に貢献してまいる所存です。

 今後とも、皆様のご理解とご協力を賜りますようお願い申し上げます。

 

     令和4年1月

運輸安全委員会委員長 武 田 展 雄