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「PLATEAU✕ストーリーテリング」で、都市の面白さを伝える“自分だけのストーリー”を作る

青山学院大学・フェリス女学院大学合同「PLATEAU ストーリーテリングハッカソン 2023」レポート

物語のチカラで何らかのメッセージを伝える、新たな体験を生み出す手法として、注目されているのが「ストーリーテリング」だ。「PLATEAU✕ストーリーテリング」で新たなコンテンツを作るハッカソンが、青山学院大学とフェリス女学院大学の合同で行われた。

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大内孝子(Ouchi Takako)
編集:
北島幹雄(Kitashima Mikio)/ASCII STARTUP
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2023年7月6日~20日、青山学院大学・フェリス女学院大学合同「PLATEAUストーリーテリングハッカソン2023」がオンラインで行われた。このハッカソンでは、国土交通省が公開しているPLATEAUの3D都市モデルと主観的な自分の思いを組み合わせて、都市の面白さを伝える新たなストーリーを自分の手で組み上げる。ストーリーには最低1点以上のPLATEAUのデータと、最低1点以上のオリジナルコンテンツを入れることが条件だ。

特徴的なこととしてもう1点、今回用いるツールは「PLATEAU VIEW 2.0」あるいは「Re:Earth」となる。最終の提出形式が、作成したコンテンツを埋め込んだWebサイトであるためHTMLのコードを編集する必要はあるが、基本的にはノーコードでストーリーテリングのコンテンツが作れる。技術的なハードルを下げることで、「アイデアを形にすること」と「コンテンツとしての見せ方」を競う。

青山学院大学 地球社会共生学部 教授の古橋大地氏は「デジタルアーカイブとしてストーリーテリングのコンテンツが当たり前になっていく未来を見据え、特に今回参加する学生の多くが大学1・2年生ということもあり、オンラインツールを用いたコミュニケーションやデジタルコンテンツの扱いについて慣れることも主眼に置いている」とその主旨を語った。また、学生には「PLATEAU VIEW 2.0」あるいは「Re:Earth」の改善につながるフィードバックを出すという観点も持ってほしいと語った。

青山学院大学 地球社会共生学部 教授 古橋 大地氏
キックオフ当日は新潟のキャンプ場からオンラインで今回のハッカソンについて説明

ハッカソンは7月6日にキックオフし、7月13日にオンラインハンズオン、7月20日が成果発表会というスケジュールで行われ、16チーム(個人あるいは3人までのチーム)がエントリー。20日の成果発表会には、審査員として古橋教授のほか、フェリス女学院大学の内田奈津子氏、国土交通省Project PLATEAUの内山裕弥氏、「Re:Earth」の開発元である株式会社Eukaryaから岡田未知氏が参加した。

美術鑑賞をもっと楽しくする「特別展 名所江戸百景深川さんぽ」が最優秀賞

成果発表会で最終プレゼンを行った11チームのうち、オンライン美術館をテーマにしたチーム「Re:Earth Museum」が最優秀賞を受賞した。歌川広重の『江戸名所百景』を取り上げ、国立国会図書館が公開する「江戸切絵図」を使って広重が描いた江戸の様子と今の東京の街を巡っていく。

「特別展 名所江戸百景深川さんぽ」(チーム「Re:Earth Museum」)

古地図のデータを「Re:Earth」上に重ねることで広重が描いた場所を推定し、ストーリーテリング機能でプロットしてある。鑑賞者は、作品とともに関連する現在の東京の場所を見ることができる。「Re:Earth」のインフォボックスにリーフレットとして解説や関連情報を提示している。

また、「特別展 名所江戸百景深川さんぽ」として深川周辺の12枚をピックアップして紹介しており、紹介した順番で実際に各所を回って散策できるようにもなっているという。

古地図をデータ化し、「Re:Earth」上でPLATEAUの3Dモデルと重ねている
解説や絵とともに、その場所の現在の様子が3Dモデルで表示される

全会一致での受賞となった。描かれた角度も含め場所を設定するなど、空間情報をしっかり生かした形に仕上がっている点など、デジタルコンテンツとしての見どころが圧倒的だったと古橋教授は指摘する。「情報の見せ方のうまさとオリジナルコンテンツの作り込みの部分で圧倒的な差があった。また、コンテンツを正しく取り扱っている点が評価のポイントになった」と古橋教授は述べた。

自分の思いをコンテンツにして伝えた各作品

最優秀賞のほか、各審査員の個別賞が発表された。それぞれの作品を紹介する。

PLATEAU賞:チーム「富樫待ち」

PLATEAU賞は「PLATEAUでめぐる花火大会の穴場スポット」。青学とフェリス混合チームによる作品で、PLATEAUの建物データを使って花火大会の穴場スポットを巡ることができる。

「PLATEAUでめぐる花火大会の穴場スポット」(チーム「富樫待ち」)

打ち上げられる花火の大きさ(直径)と高度を赤い球体で表し、その赤い球体が見えれば花火が見えるということになる。花火が見えるスポットをストーリーテリング機能でプロットした。花火大会を楽しむアシストツールとして考えられているほか、参照可能な動画のリンクも提示するなど、このコンテンツだけでも楽しめるよう工夫されている。

たとえば隅田川花火大会であれば、汐入公園からだとこのように見える

内山氏はPLATEAU賞の選出ポイントとして、「建物の3Dモデルをうまく使えていた」という点を挙げた。また、「"花火大会の穴場スポット探し"はいろんな人が考えてきたアイデアでもあり、そういう意味ではソリューションとしても完成されているものかと思う。今回、短い時間の中でうまくストーリーテリングとして見せていた。実際に見つけた穴場にみんなで行ってみてほしい」と述べた。

国土交通省  総合政策局/都市局 IT戦略企画調整官 内山 裕弥氏

岡田賞(ユーカリア賞):チーム「K-POP Lover」

岡田賞(ユーカリア賞)はチーム「K-POP Lover」。自分の好きなK-POPをテーマに、K-POPアイドルが来日時に訪れた場所をストーリーテリングで紹介する。こちらも個人参加の作品だ。

チーム「K-POP Lover」の作品

有名なスポットから有名でもない意外な場所まで、K-POPのアイドルが訪れた場所がファンの間で聖地として大きな話題になっている。その数々の聖地を、K-POPの来日コンサートがよく行われる東京と大阪に絞って紹介。それまで普通に通っていた場所でも、「推しが◯◯した」と文脈が加わることで印象が変わってくるのだという。

K-POPアイドルに人気のラーメン店「一蘭」。味だけでなく、席が仕切られていることも人気の理由ではないかと考察する

岡田氏は受賞の理由として、自分の思い入れを強く押し出し、臆さずにコンテンツを作っている点を挙げた。「本人が実際にその場所に行って感じた所感を入れるなど、私小説やインスタグラム的な表現に昇華する可能性を感じた。場所から逆引きしたりとかタグ付けして絞り込みしたりといった拡張機能もあるので、いろんなツールを使って今後も臆さずにコンテンツをつくってもらいたい」と述べた。

株式会社Eukarya 岡田 未知氏

古橋賞:チーム「ラテグミ」

古橋賞はチーム「ラテグミ」の作品。アニメ映画『バケモノの子』をコンセプトにして、渋谷を舞台に映画のシーンに登場する場所を巡っていく。

チーム「ラテグミ」の作品

スクランブル交差点、渋谷駅、そして主人公とバケモノが出会う高架下、渋谷図書館、渋谷氷川神社というように、映画のシーン(スクリーンショット)とともに見ていくことができる。

映画のシーンに登場するスポットを地図上に重ねた

古橋教授は選出のポイントとして、土地柄も含めて、その場との組み合わせをうまく表現している点を挙げた。また、データの扱いという点での試行錯誤を評価したという。「PLATEAUのデータにコンテンツを組み合わせるということで、どのチームのみなさんも(掛け合わせるコンテンツの)ライセンスの壁に悩まされたと思う。この作品は"引用"という形で切り抜けようと悩み、なんとかしようと苦しんだところが見えた」と、その理由を語った。

内田賞(コンテンツ賞):チーム「GIS研究会オタク部」

内田賞(コンテンツ賞)はチーム「GIS研究会オタク部」。歌の聖地巡礼をテーマにした作品で、ゆずの『駅(恵比寿〜上大岡)』の歌詞に出てくる歌や場所のデータをスポットにしてストーリーが展開する。

チーム「GIS研究会オタク部」の作品

作品内で使用している画像イメージは、実際に自分たちで、恵比寿から上大岡まで回って撮影してきた写真を使っている。歌唱も自分たちで行ったという徹底ぶりだ。

受賞の理由として内田氏は、現地に撮影に行くなど真摯にコンテンツ作りに向き合っている点を評価した。「次回はPLATEAUのデータに歌と写真を融合させて、さらに空間をうまく使ったコンテンツ作りに励んでもらいたい」と期待を寄せた。

フェリス女学院大学 内田 奈津子氏

これらのほか、受賞には至らなかったが、さまざまな作品が誕生した。中にはPLATEAUのデータをうまく扱えなかったチームもあるが、いずれも自分の好きなものを伝えるという点で、どれもユニークな作品に仕上がっている。

チーム「松浦寿治」

チーム「松浦寿治」の作品

乃木坂46の元メンバー齋藤飛鳥の卒業をテーマにした作品。主にミュージックビデオに出てくるロケ地と卒業するぎりぎりまで行われていたイベントの会場を追いかけるというストーリーだ。

チーム「Iberis」

チーム「Iberis」の作品

昔話をテーマにした作品。昔話からは、昔の日本人が何を大切に生きていたのかを読み解くことができる。現代を生きる私たちにとって、それは先達からの教訓であるとする。桃太郎、浦島太郎、因幡の白兎など、おなじみの昔話がその舞台と推測される場所とともに紹介されている。

チーム「原朱里」

チーム「原朱里」の作品

シンガーソングライター・藤井風のミュージックビデオをテーマにした作品。メインとなる渋谷の街並みがモノクロで描写されており、まるで違ったような場所にいる感じがしたことに惹かれたという。

チーム「奈阿(ナア)」

チーム「奈阿(ナア)」 の作品

城をテーマにした作品。全国の城を巡りながら、写真撮影のスポットや城から見える景色を紹介する。また、それぞれの城の入場者数を赤い球体で表示している。本来は高さで比較したかったというが、今回はここまでとのこと。

チーム「鈴木希美」

チーム「鈴木希美」 の作品

自分の好きなK-POPの男性グループ「NCT」を取り上げた作品。来日時に彼らが訪れたスポット、コンサートやステージなどを行った場所をピックアップして紹介している。

チーム「富嶽三十六景 江戸巡り」

チーム「富嶽三十六景 江戸巡り」の作品

お気に入りの浮世絵だという葛飾北斎の『富嶽三十六景』をテーマにした作品。江戸日本橋から始まり、江戸名所のひとつだったという「青山円座松」や、江戸時代は農村地帯だったという現在の原宿近辺の「隠田の水車」などを巡っていく。

総評として古橋教授は、「2週間という短い期間だったが、みなさん何とか形にすることができた。今回で終わりということではなく、この経験も踏まえて、より良いコンテンツに仕上げていくことにぜひ挑戦し続けてほしい」とまとめた。

「PLATEAU VIEW」や「Re:Earth」といったツールもバージョンアップを続けている。こうしたデジタルコンテンツを作成するノウハウ、Tipsの類いはまさにこれからナレッジ化されていこうという段階だ。