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災害時の避難からバリアフリーまで。PLATEAUとDoboXを活用した地域課題解決型ハッカソン

「DoboX×PLATEAU Hack Challenge 2023 in 広島」レポート

2023年9月、広島県で「DoboX × PLATEAU Hack Challenge 2023 in 広島」が開催された。データを活用した地域課題解決について、PLATEAUを活用したグループの成果を紹介する。

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園田 遼弥(Sonoda Ryoya)
編集:
北島 幹雄(Kitashima Mikio)/ASCII STARTUP
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国土交通省は、2020年度から「Project PLATEAU (プロジェクト・プラトー)」として、3D都市モデルの整備・活用・オープンデータ化を推進し、日本の都市デジタルツイン実現を目指している。2023年度のPLATEAUでは日本全国の各都市で地域と協力したハッカソン、アイデアソンを開催している。

2023年9月16日・17日、広島県と国土交通省により、広島県独自のシステム基盤「DoboX(ドボックス)」とPLATEAUを掛け合わせた「DoboX × PLATEAU Hack Challenge 2023 in 広島」が開催された。会場は広島県が運営し、スタートアップ支援なども行うイノベーション・ハブ・ひろしまCampsが活用された。

会場となったイノベーション・ハブ・ひろしまCamps

「DoboX」は広島県の公共土木施設などに関する情報の一元化やオープンデータ化、官民でのデータ連携を可能とするシステム基盤だ。災害リスクや公共土木施設の点検結果などが開示されており、都市計画の策定や交通、防災、観光といった地域課題の解決に活用されている。

広島県独自のインフラマネジメント基盤「DoboX」

PLATEAU、DoboXを活用し広島県の地域課題を解決

イベント開催にあたっては、学生を中心に、データの利活用や地域課題の解決に興味がある人を募集し、22名の参加者が集まった。初日は参加者に向けて、広島県の地域課題やPLATEAUとDoboXで取得できるオープンデータ、データを活用した地域課題に対する取り組み事例などが説明されたほか、オープンソースの地理情報システム「QGIS」を使ったデータ分析・可視化手法をハンズオン形式で紹介した。その後チームビルディングが行われ、ハッカソンに取り組む5グループにメンバーが分けられた。

2日目は朝からグループに分かれ、参加者はテーマ設定やデータ分析、課題解決デザインなどに取り組んだ。その後、グループごとに開発したサービスやアプリケーションについて成果発表を行い、メンターからのフィードバックを受けた。本記事ではPLATEAUを活用した4グループの成果発表を中心に紹介していく。

メンターは、岡崎太一氏(広島県)、内山裕弥氏(国土交通省)、高橋忍氏(ユニティ・テクノロジーズ・ジャパン株式会社)、太田恒平氏(株式会社トラフィックブレイン)、西尾悟氏(株式会社MIERUNE)の5名が務めた。

次世代ハザードマップ(岩瀬組)

岩瀬組による発表

グループ「岩瀬組」は、災害発生が発生した際の危険度が一目でわかる「次世代ハザードマップ」を開発した。着目した地域課題は、住民が居住地域の土砂災害リスクを自分事として認識できていないことだ。2018年に発生した西日本豪雨の際には、住民の84%が避難行動をとらなかったという。

住民が災害リスクを自分事として認識できていない要因のひとつに、ハザードマップのわかりにくさがあるという。一般的にハザードマップは危険レベルなどに合わせて色分けがなされているが、実際の災害時に避難するべきかどうかの判断基準としては活用しにくいと、岩瀬組は定義した。

居住地域の災害危険度をマップ上でわかりやすく表示する

そこで開発したのが居住地域の災害危険度が一目でわかる「次世代のハザードマップ」だ。DoboXから点群データ、PLATEAUから構造物データを取得、Unityでデータを統合しマップアプリに落とし込んだ。

具体的には、土砂災害の危険性がある場合、アプリに表示した地図上に、土砂災害警戒区域や土砂が流れるであろう範囲を視覚的にわかりやすく表示する。また、台風や集中豪雨の際に崩壊しやすい急傾斜地も表示することで、安全なルートでの避難も促す。

内山氏は「PLATEAUとDoboXを組み合わせたソリューションが素晴らしい。3次元データを使うことで土砂災害リスクをわかりやすく可視化しており、実装レベルも高い」と評価した。

広島県土木建築局の建設DX担当主査を務める岡崎氏も広島県の2~3割が土砂災害警戒区域であることに触れ、「災害時に視覚的に危険な箇所がわかるアプリは、次世代ハザードマップと呼ぶにふさわしい」とコメントした。

はよう逃げんさい!(おんぶにだっこ)

「おんぶにだっこ」による発表

グループ「おんぶにだっこ」が開発したのは、災害時に住民の避難を促すアプリケーションだ。解決を目指すのは、上述の「岩瀬組」と同様に、住民が主体的に避難行動をとらない意識面の課題である。

また被災者のなかで高齢者の割合が高いことにも着目した。そこでテーマには、高齢者が自主的に避難するための解決策を設定。その鍵となるのが危機感の醸成(自助)と周囲からの働きかけ(共助)の2つになると定義した。

複数のデータを掛け合わせ、避難が必要な住民に直接呼びかける

活用するデータは、PLATEAUの3D都市モデルやDoboXの災害リスク情報、マイナンバーに登録された住民情報などだ。これらで取得した情報をもとに「マイナポータル」アプリのプッシュ通知やテレビを通じて、ダイレクトに要避難者に避難を促す。また、共助の取り組みとして、近隣住民が、近くに住む高齢者の避難が完了しているかどうかを確認できるサイトも設置する。

内山氏は「PLATEAUとDoboXのデータを掛け合わせることで、高台やマンションの高層階など、災害時に逃げこめる場所の特定や避難誘導が実現できるかもしれない。さまざまな可能性が感じられるアイデアだった」と述べた。

太田氏も「シミュレーションと個人情報、個人端末を掛け合わせることで、的確に住民に避難を促すアイデアが画期的だ」と評価した。

Forecast Hazard Map(キッスアーミー)

「キッスアーミー」による発表

グループ「キッスアーミー」は、災害時に住民の避難が遅れる原因を、自治体が公開している避難計画書が「住民が避難情報を取得してからすぐに避難行動をとる前提」で作成されていることだと仮定した。

実際の災害発生時、住民は近隣住民の行動を観察したり、SNSの情報を確認したりしてから避難するため、避難計画書どおりに避難が進まず、被害が拡大してしまう恐れがある。

「キッスアーミー」は、情報取得のタイミングの前倒しや、地理的に効率的な避難行動の提示により、避難計画書に近いかたちで避難行動をとれるようにすることが重要だと提案した。

3Dモデルで浸水を予測し視覚的に危険を認知できるようにして避難行動を促す

時間あたり降水量のデータから、浸水をシミュレーションするiRIC(International River Interface Cooperative)のソルバー「Nays2DFlood」とPLATEAUの3D都市モデルをQGIS上で重ね合わせ、立体的に浸水予測を行うものだ。これにより降水量を予測する段階で、自分が住む地域がどれくらい浸水するのか、どのルートを通れば被害に遭わないかなどが視覚的に確認できる。この結果を将来的にはDoboXに入れて活用できるのではないかと提案した。

高橋氏からは「視覚的に危険を認知しやすいところが非常に良い。事前のシミュレーション結果を各戸に配布しておくなど、伝え方を工夫することで子どもや高齢者などの迅速な避難も可能となりそうだ」とフィードバックがなされた。

バーチャル点字ブロック(ユニバーサルマップ)

「ユニバーサルマップ」による発表

グループ「ユニバーサルマップ」が着目した課題は、目の不自由な人が移動しにくいというものだ。Googleマップの音声案内を頼りに移動する場合、「何十メートル先を右折」というような指示では行動を起こすタイミングがわかりにくい。また、点字ブロックが途切れている箇所では、杖を使っても進行方向がわからなくなる問題もある。

「ユニバーサルマップ」は、PLATEAU上にバーチャル点字ブロックを表示することで、点字ブロックがない箇所を補えるのではないかと提案した。具体的には外出前にアプリ上で目的地までのルートを設定すると、PLATEAU上で点字ブロックがない箇所の情報が抽出される。それをデバイス連動型の白杖やARグラスなどに接続することで、移動をサポートするものだ

点字ブロックのないエリアをバーチャル点字ブロックで補い移動をサポートする

実現すれば日常の移動だけではなく、災害発生時でも、目の不自由な方が安全に移動できる。また災害の影響で停電やネット回線のダウンが発生した場合に備えて、道案内のデータをスマホデバイスに保存できるようにしたいという展望も述べた。

内山氏は、データを活用したバリアフリーの取り組みというアイデアを評価したうえで「点字ブロックがない箇所をフィジカルではなくサイバー上で解決することは、他のバリアフリー施策へのスケーラビリティがありそうだ」とその可能性にも言及した。

「PLATEAU AWARD 2023」参加者募集中!

イベントの最後には、メンターを務めた国土交通省の内山裕弥氏より「PLATEAU AWARD 2023」の概要が説明された。PLATEAU AWARDの目的は、3D都市モデルのまだ見ぬ可能性を引き出すことだ。

応募作品はPLATEAUが提供する3D都市モデルを活用したものであれば、アートやエンタメ、社会課題解決のためのツールなど、ジャンルは問われない。グランプリや部門賞を含め、総額200万円の賞金も予定されている。

参加者に対しては「今回のイベントで生まれたアイデアを発展させ、AWARDに応募してほしい」と期待を寄せた。応募締切は2023年11月30日だ。PLATEAUの3Dモデルを活用した開発に興味があれば参加してみてはどうだろう。

また、広島県では、独自のインフラマネジメント基盤「DoboX」のデータ利活用コンテスト「DoboXデータチャレンジ」の作品募集を行っている。応募期間は10月2日から11月30日まで。PLATEAUを活用した地域・社会の課題解決に向けた取り組みが、さらに広がっていきそうだ。