ビー玉転がしで街歩きを体験。地元を舞台に多様なアイデアが登場した静岡・香川の3D都市モデルハッカソン
「PLATEAU2023 アイデアソン・ハッカソン by 日本Androidの会」レポート
日本Androidの会とProject PLATEAUによるハッカソンが2023年9月17日に、静岡会場(浜松)と香川会場(高松)をリモートで結んで行われた。8月20日に行われたアイデアソンに続くハッカソンイベントとして、PLATEAUを活用した開発の成果が発表された。
- 文:
- 大内 孝子(Ouchi Takako)
- 編集:
- 北島 幹雄(Kitashima Mikio)/ASCII STARTUP
さまざまな地域発コミュニティとの開発イベントに取り組んでいる2023年のProject PLATEAU。アプリ開発者が集まる日本Androidの会と、8月にはアイデアソンを、9月にはハッカソンを開催した。9月17日の成果発表では静岡・香川合わせて計8チームがプレゼンテーションを行い、最優秀賞、優秀賞、審査員賞が発表された。
審査員は久田智之氏(株式会社アナザーブレイン)、野口英司氏(株式会社STNet)、戸塚芳之氏(Code for Kakegawa)、春名慧氏(国土交通省)、審査員長は杉山由朗氏(日本Androidの会)が務めた。
最優秀賞は「ビー玉転がし」
見事、最優秀賞を受賞したのは、アイデアソンから参加し成果物を練り上げた「ビー玉転がし」(チーム「ビー玉」)。
「ビー玉転がし」は表示される指示に従ってビー玉を転がしていくことで高松市の地理を覚えてもらうゲームアプリ(Windows版とAndroid版)。たとえば、「瓦町駅に行ってください」の指示のとおりビー玉を転がして瓦町駅へ行くと、次は「◯◯◯◯に行ってください」と指示が出る。ビー玉を転がしていくことで名所を巡っていく。スマートフォンでは本体を傾けた方向にビー玉が転がる仕様になっている。
工夫したのは道路の表現だ。高松市のPLATEAUの建築物モデルにはLOD1とLOD2のデータ(LOD:Level of Detail、詳細度)があるが、道路モデルはLOD1のみで高さ情報がないため、地表データの高さ情報を上書きして道路を表現している。今回は高松市が舞台だが、LOD1のデータさえあれば成立するため、いろいろな場所で展開可能だ。今後、ビー玉が大きくなって建物を壊していく機能などを考えているという。
プレゼンの質疑では、PLATEAUの属性データを使ったゲーム要素が加わるとおもしろいという提案があった。たとえば久田氏は、建物を壊す際に木造・鉄筋などの属性情報による違いを出すとおもしろいのではないかと述べた。
最優秀賞の受賞理由はアイデアと完成度だ。審査員長の杉山氏は、楽しみながら地域のことを知ってもらう良いアイデアだと評価した。
優秀賞は「META Quest2で街歩き」と「ガーディアン・オブ・カケガワ」、審査員賞は「ARジオラマ(仮)」が受賞
優秀賞は「META Quest2で街歩き」(チーム「tan」)と「ガーディアン・オブ・カケガワ」(「神チーム」)の2作品が受賞した。
チーム「tan」の「META Quest2で街歩き」は文字どおり、META Quest2を装着した街歩きが楽しめるVRアプリ。地元・愛知県名古屋市のいいところを宣伝したいというモチベーションで作った作品だ。
街歩きの舞台は、愛知県名古屋市中区の大須商店街。使っている技術はUnity、XR Interaction Toolkit、Occulus XR Plugin。PLATEAU SDK for Unityを用いてUnityに3D都市モデルを読み込み、3D上に配置した大須商店街内で街歩きを体験する。昼夜の再現、影の動きも再現されている。大須商店街にはおよそ150から200の店舗があるとのこと。今後、テクスチャなどの表現を作り込む予定だという。
春名氏は受賞の理由として、視野内のオブジェクトだけを描画することで滑らかな動作を実現した点と、パッケージを共有すれば日本各地でデータが作成され、訪れたことがない地域でも仮想空間上で街歩きができるようになる拡張性を挙げた。
同じく優秀賞となった「ガーディアン・オブ・カケガワ」もアイデアソンから参加したチームの作品。アイデアソンでは「災害を止める神視点のゲーム」というアイデアで高い評価を得た。当初の案は、津波が来たら壁を召喚して津波を止める、隕石が落ちて来たときにはパンチで破壊するというアクションゲームだったが、最終的にシミュレーションゲームに落ち着いたという。
掛川市を舞台に、プレイヤーは神として災害・防災に対する計画を詰めていく。例えば計画時に避難訓練の回数を増やしすぎると信仰する人が減っていくが、一方で、避難訓練の数を減らすと災害時に被害人数が増えるという具合だ。堤防の高さ・長さ、避難訓練の回数などのパラメーターを変えることができる。今後は、パラメーター変更によるシミュレーションだけでなく、何らかの災害が発生した際に神が計画を実行することで人が減るのを防ぐゲーム性を追加したいという。
戸塚氏は受賞理由として、アイデアソンから短期間でしっかり形にしてきたところを挙げた。また、春名氏はPLATEAUの属性情報や国勢調査のデータを活用することで、津波などによる被害範囲や被害人数の精度を向上できるのでは、と期待を述べた。
そして、審査員賞は「ARジオラマ(仮)」(チーム「krohigewagma」)が受賞。ARを使って、現実世界のフィギュアを臨場感にあふれた背景に立たせてみようという作品。使っているのは、Flutter、model_viewer_plusライブラリに、コンビニで購入した食玩のフィギュアだ。
使ったのは、東京23区の3D都市モデルだ(当初、LOD2のデータを使おうとしたがクラッシュしてしまったためLOD1のデータに変更)。今後の改善としてARを扱う別のライブラリの採用を検討する予定だという。
久田氏は、街の中にキャラクターなどの3DモデルをAR表示するという、よくあるPLATEAUを活用したARアプリの「逆を行っている」と、その発想を高く評価した。街を召喚するという発想もできるし、「仮にフィギュアを猫にしたら何ができるか?」など、違うもので想像することで新しい表現が生まれる可能性もあるとコメントした。
地元の街を舞台に多様なアイデアが登場した
受賞には至らなかったが、その他の4作品も紹介しよう。
「トランスポーター」(チーム「tara」)
チーム「tara」は、道路の情報を使ってゲームや映像で使われるカーチェイスなどの表現をリアルなものにできないかというアイデアを発表した。たとえば映画などで「消火栓に車がぶつかって水が吹き出る」シーンを見かけるが、3D都市モデルでも消火栓の位置がわかれば再現できる。道路の損傷が激しい区間では走行時に振動を与える、あるいは、走行する自動車の速度を制限するなど、PLATEAUの道路モデルなどをリッチにすれば、よりリアリティを追求した表現ができるのではないかとする。
プレゼン後の質疑で春名氏は、道路モデルをどのように詳細化するかについて言及したうえで、細かい段差などの情報は車椅子利用者のための通行シミュレーションにも応用できるのではないかとコメントした。
「PLATOR」(チーム「スーパードシロウト」)
「スーパードシロウト」チームは、PLATEAUの3D都市モデル空間上に自分の分身(アバター)を出力して生活させるプラットフォームを提案。今回は実装には至らなかったが、アイデアの発表という形だ。SNSの投稿履歴や会員登録時のアンケートといった情報から作成したプロファイルをアバターに与え、AIでアバターの行動を生成する。次世代SNSとしての活用や都市マネジメントの最適化に使えるとする。
春名氏は、アバターが自由に行動することで自分では気付かなかった趣味が見つかるなど、仮想空間上の結果が現実空間に反映される可能性がある点を非常におもしろいと評価した。
「ブラックアウト」(チーム「ブラックアウト」)
高松市内の海に近いエリアにおける洪水・浸水時の避難シミュレーション。高松で一番高いビル「サンポート高松」に人が避難している様子であったり、船の救助、車による避難などをUnreal Engineを使ってPLATEAUの3D都市モデルで表現した。
久田氏は、ゲーム『レミングス』(※) 的な表現、ブラックな要素を入れたりするとゲーム的な面白さが出るのではないかと述べた。
<注>
※:放っておくと行進を続けて崖から落ちるなどしてしまうレミングス(ネズミの1種)の集団に指令を与えてゴールに導く、1991年に発売されたゲーム。
「ユニティちゃんとかくれんぼするゲーム」(チーム「かくれんぼチーム」)
高松の街を舞台に、ユニティちゃんをプレイヤーが探すゲームを構想した。ハッカソン当日は、Unityに取り込んだPLATEAUの3D都市モデルの中をユニティちゃんが歩くというところまでの実装となった。何か色の着いたものを探す、何か宝物を探すという形にしてもおもしろいのではないかと、ゲーム性をどう盛り込むかを考えているという。
審査委員長を務めた戸塚氏は総評で「PLATEAUについては、どちらかというと3次元での都市モデルという見え方のほうが前に出ているが、実は中にいろいろな属性データが入っているのだということがよくわかった。データがより充実していけば、もっと可能性が見えてくるのではないか」と述べた。
3D都市モデルの活用として街歩き・観光用途はこれまでも多くでてきたが、地形の高低差によるビー玉転がし(スマホの傾きで操作)で街歩きを体験する、また、防災という堅くなりがちなテーマに「神のおつげ」という要素を持ってくるなど、新たな切り口が見えていた印象だ。ブラッシュアップした作品によるPLATEAU AWARDへの応募に期待したい。