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PLATEAUはサービス実装のフェーズへ。産学官連携でエコシステム構築を促進する「PLATEAUコンソーシアム」設立

Project PLATEAU(プラトー)は、「3D都市モデルの整備・活用促進に関する検討分科会」を改組し、「PLATEAUコンソーシアム」を設立。2023年12月15日には「PLATEAUコンソーシアム第1回定例会議」が行われた。アドバイザリーボードのメンバーや国土交通省都市局担当者をはじめ、オンラインではさまざまな企業/自治体が参加し、2時間半にわたって議論が繰り広げられた。

文:
松下 典子(Noriko Matsushita)
編集:
北島 幹雄(Kitashima Mikio)/ASCII STARTUP
撮影:
曽根田 元(Soneda Gen)
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産学官連携の「PLATEAUコンソーシアム」を設立、PLATEAUエコシステム構築を促進

会議では、PLATEAUコンソーシアム事務局長の関本義秀氏(一般社団法人社会基盤情報流通推進協議会代表理事)がPLATEAUコンソーシアム設立の経緯と体制について説明した。

PLATEAUコンソーシアム事務局長 関本 義秀氏

産学官の連携による3D都市モデルの整備と活用のエコシステム構築に向けた環境整備を目的とした「3D都市モデルの整備・活用促進に関する検討分科会」は、「スマートシティ官民連携プラットフォーム」の下部組織として2020年度に設置し、国土交通省都市局が事務局として運営してきた。

他方でPLATEAUの取り組みは4年目を迎え、データ活用の技術や産業領域は、スマートシティの枠組みを超えてきている。また、これまでは国土交通省の主導で全国の3D都市モデルデータの整備を中心に、ユースケース開発やコミュニティ形成を進めてきたが、この先は、3D都市モデルを活用したサービスを社会実装していくフェーズに入る。そのためには、国のみの取り組みでなく、産学官がそれぞれイニシアティブを持ち、持続可能な形で3D都市モデルの整備・活用・オープンデータ化にコミットすることが必要だ。

国、地方公共団体、企業、大学などの研究機関、地域コミュニティなどのプレイヤーがそれぞれの役割を明確化し、持続的に役割を果たすための新たな体制として、分科会を改組しPLATEAUコンソーシアム(正式名称:3D都市モデルの整備・活用・オープンデータ化促進に関する産学官連携協議会)が設立された。

アドバイザリーボード、ワーキンググループに加え、新たに8つの会員部門を設置

PLATEAUコンソーシアムは、一般社団法人社会基盤情報流通推進協議会(AIGID)が事務局として運営を担い、国土交通省都市局は運営協力として引続き関与する形となる。

AIGIDは社会インフラに関わる情報の収集・配信・利活用等の流通環境の整備を目的に2011年に設立、2014年に一般社団法人化された組織だ。2016年11月からはG空間情報センターを開設し、3D都市モデルデータの品質検査・オープンデータ化を支援している実績から本コンソーシアムを主催することになった。

コンソーシアムには、アドバイザリーボードとワーキンググループが設置される。アドバイザリーボードには、古橋大地氏(青山学院大学 地球社会共生学部 教授)、饗庭伸氏(東京都立大学 都市環境学部 教授)、瀬戸寿一氏(駒澤大学 文学部地理学科 准教授)、南政樹氏(PwCコンサルティング合同会社 シニアマネージャー)、吉村有司氏(東京大学 先端科学技術研究センター 特任准教授)、渡邉英徳氏(東京大学大学院 情報学環・学際情報学府 教授)の6名が参加※。2024年度のワーキンググループは、自治体ワーキンググループ、ビジネスワーキンググループ、標準化検討ワーキンググループの3つが提案されている。
※第2回定例会議より、豊田啓介氏(東京大学生産技術研究所 特任教授)も参加予定

また、多種多様な業界からの意見を集めるため、新たに「会員部門」制度を設置。「公共ユーザー部門」「民間ユーザー部門」「スタートアップ部門」「ソリューション部門」「デベロッパー部門」「グローバル部門」「インベスター部門」「アカデミック部門」の8つの部門が設けられ、12月14日現在の会員数は312会員。部門ごとに会議体やイベントを実施する予定だ。

今後の活動計画として、定例会を四半期に1回開催(併せてアドバイザリーボードを開催)。ワーキンググループは、それぞれ年2回程度、関心を有する会員が参加して開催する。第2回定例は2024年3月15日に開催し、2023年度の取組状況の共有および、2024年度の活動計画の報告を予定している。

情報共有の場として、PLATEAUサイト内にPLATEAUコンソーシアムのコンテンツを開設。コンソーシアムや分科会の会議資料や議事概要、コンソーシアムへの入会方法などが掲載されている。

https://www.mlit.go.jp/plateau/consortium/

以降、今回の議題の中からいくつかのトピックをレポートする。

PLATEAU VIEW 3.0、PLATEAU SDK 2.0、PLATEAU QGISプラグインの開発状況

Project PLATEAUの進捗状況共有の議題では、株式会社Eukarya 馬場英道氏(オンラインで参加)、株式会社シナスタジア 有年亮博氏、株式会社MIERUNE 久納敏矢氏(オンラインで参加)がそれぞれ2023年度に開発するPLATEAU VIEW 3.0、PLATEAU SDK 2.0、PLATEAU QGISプラグインの仕様と開発状況について報告した。

株式会社Eukarya 馬場 英道氏

馬場氏はオンラインで参加。PLATEAU VIEW 3.0は、PLATEAU関連データセットを管理する「PLATEAU CMS」、ビューアーの見た目を作成・編集する「PLATEAU Editor」、PLATEAUデータをWEB上で手軽に表示する「PLATEAU VIEW」の3つで構成される。

3.0の目玉機能として、「PLATEAU CMS」に各都市のデータ登録状況を管理できるステータス管理機能、G空間情報センターとの連携機能、Editorとのアカウント基盤の統合機能を搭載。「PLATEAU Editor」は地物や凡例表示をカスタマイズするコンポーネント機能のアップデート、「PLATEAU VIEW」はUIを大幅に改善したほか、レイヤーショートカット機能、作図機能、ヒートマップ機能、Google Street Viewとの連携機能、建築物の複数選択機能などが追加される。「PLATEAU CMS」は2023年12月にリリース済みで、「PLATEAU Editor」と「PLATEAU VIEW」は2024年1月中にリリースされる見込みだ。

PLATEAU VIEWに追加搭載したヒートマップ機能。人口・世帯、標高によるヒートマップ表現が可能
株式会社シナスタジア 有年 亮博氏

有年氏はPLATEAU SDK 2.0の追加機能について説明。追加となった機能は、①属性情報へのアクセシビリティ改善、②テクスチャの結合機能(描画速度の向上)、③3D都市モデルのマテリアル改善機能(テクスチャが提供されていない地物へのデフォルトのマテリアルの付与)、④オブジェクトの結合・分割機能、⑤標準製品仕様書3.0への対応の5つだ。

PLATEAU SDK 2.0で追加された3D都市モデルのマテリアル改善機能。マテリアルが提供されていない地物にデフォルトで衛星写真等のマテリアルを設定可能

またUnity上でのアプリケーション開発を支援するツールキット「PLATEAU SDK-Toolkits for Unity」として、レンダリング品質を向上させる「Rendering Toolkit」、3D都市モデルを用いてゲームや映像を直感的に開発するためのカメラの配置、人や乗り物の配置などのアセットを提供する「Sandbox Toolkit」、GIS開発向けの「Maps Toolkit」、ARアプリ開発ツール「AR Extensions」の4つを提供する。SDKおよびツールキットはGitHubで公開中だ。

PLATEAU SDK-Toolkits for Unity

https://github.com/Project-PLATEAU/PLATEAU-SDK-Toolkits-for-Unity

PLATEAU-SDK-AR-Extensions-for-Unity

https://github.com/Project-PLATEAU/PLATEAU-SDK-AR-Extensions-for-Unity

PLATEAU SDK-Toolkits for Unityの一部であるRendering Toolkit。テクスチャの自動生成・高解像度化、時候に合わせた環境光の調整等を実現
株式会社MIERUNE 久納 敏矢氏

久納氏はPLATEAU QGISプラグインについて説明。QGISはオープンソースのGISソフトで位置情報データの可視化や分析ツールとして世界中で利用されている。しかし、QGISはCityGMLのLOD2以上データや属性値の読み込みなどに制限があり、PLATEAU QGISプラグインはこれらを改善するためのものだ。

PLATEAU QGISプラグインを使用することで、LOD2以上の読み込み、選択したLODの読み込み、属性情報の読み込みに対応。そのほか、地物を構成する部分ごとにレイヤーを分けた読み込み、3次元データの強制的な2次元化などの機能が追加される。標準仕様書2.0によって整備されたデータの読み込みについては対応済み。現在は標準仕様書3.1以降の改定内容の反映を進めている。

QGISプラグインによる3D都市モデルの読込み。(左図)建物を1つのレイヤとして読み込んだ場合、(右図)壁、屋根、車道、歩道など地物を構成する部分ごとにレイヤを分けて読み込んだ場合

民間におけるオープンデータ利用の現状と課題

MS&ADインターリスク総研株式会社の芝田達郎氏は、損保業界における活用事例として、「事故発生リスクAIアセスメント」と「洪水被害推定システム」を紹介した。

MS&ADインターリスク総研株式会社 芝田 達郎氏

「事故発生リスクAIアセスメント」は、交通事故の過去データや、人口・人流、ドライブレコーダー、道路、地形などさまざまなデータから事故発生リスク値を算出・可視化し、安全対策へとつなげるサービス。3D都市モデルから死角データを生成し、死角情報を加味した事故発生リスク評価を3D Viewerで表示する取り組みや、住民向けスマートフォンアプリにて注意喚起を実施する取り組みも行っている。

事故発生リスクAIアセスメントのイメージ
3D都市モデルから数値化した死角情報を加味した事故発生リスク評価を実現

「洪水被害推定システム」は、洪水による被害規模をシミュレーションするサービスだ。LOD1の建築物情報と国土地理院の浸水範囲情報を組み合わせて、被害調査の負担軽減、被害住民への罹災証明の迅速な発行への活用を目指している。

一部の県警から県単位でリスク値を評価したいという要望があることから、課題として県や全国単位でのデータ整備、リスク値の精度を向上させるためLOD2以上の実装を挙げた。

2022年度のPLTEAU AWARDでPLATEAU賞を受賞したチーム「PLATEAU Window’s」の鈴木裕之氏と河野円氏は、ゲームエンジン利用における活用事例と課題を発表した。

チーム「PLATEAU Window’s」の鈴木 裕之氏と河野 円氏

「PLATEAU Window」は、高層ビルから見える風景をシミュレーションできるアプリケーションだ(参考資料:https://speakerdeck.com/kohno/plateau-window)。スマートフォンによる操作で、日照シミュレーション、天気の再現、建物の内観/外観シミュレーション、風景シミュレーション、指定したビルのマーキング、動画の書き出しといった機能を持つ。今後のProject PLATEAUへの要望として、低階層の再現性を向上するため点群データの公開、「PLATEAU SDK」の拡充などを求めた。

大林組の湯淺知英氏は、建設業界における活用事例・課題として開発中のデジタルツインアプリ「CONNECTIA」(コネクティア)の概要を紹介した。

株式会社大林組 湯淺 知英氏

3D都市モデルデータ上に必要な建設機械や人のモデルなどを配置することで、発注者や周辺住民への説明や施工関係者への協議資料として活用できる。課題として座標変換の難しさを挙げたほか、地下空間情報の提供、事業者の持つデータをPLATEAUのオープンデータに統合できる仕組みなどを求めた。

会の最後には事務局から、引き続きコンソーシアムの会員を募集している旨の案内があった。入会希望者は、PLATEAUコンソーシアムのサイトから入会届等を入手・記載のうえ、事務局(plateau-office@aigid.jp)に提出することで会員となれる。2024年度からはワーキンググループの活動も予定されており、これまでPLATEAUと関わりがなかった自治体・事業者も一度検討してみてはいかがだろうか。