TOPIC 1|3D都市モデルでできること[2/2]|3D都市モデルの特徴と活用法
PLATEAUが公開している3D都市モデルには、建物などの精緻な3Dモデルが含まれています。その特徴であるLODや情報量についての解説ほか、シミュレーションやGIS、ゲームやVRなど、さまざまな活用法を概説します。
【目次】
1.3 3D都市モデルの特徴
1.3.1 ジオメトリとセマンティクスの統合モデル
1.3.2 LOD
1.3.3 情報量の違い
1.4 3D都市モデルの活用法
1.4.1 シミュレーションとして
1.4.2 GISとして
1.4.3 ゲームやVRの舞台、AR、映像作品として
1.4.4 必要なデータを取り出してコンバートして利用する
1.5 まとめ
1.3 _ 3D都市モデルの特徴
3D都市モデルには、建物などの精緻な3Dモデルが含まれています。
【メモ】
3D都市モデル以外にも、3D GISのデータ(OSMやFGDBなど)がありますが、ここではPLATEAUの3D都市モデルについて説明します。
1.3.1 _ ジオメトリとセマンティクスの統合モデル
3D都市モデルは、「ジオメトリとセマンティクスの統合モデル」とも呼ばれます。
ジオメトリ(Geometory)とは幾何のことで、建物などの物理的な位置や形状のことです。セマンティクス(Semantics)とは意味情報のことで、先に説明した、地物の種類や地物に与えられた「用途」「構造」「築年」などの属性情報のことです。3D都市モデルでは、建物全体に属性が付いているだけでなく、ひとつひとつの面(ポリゴン)に対しても、属性が付けられています。そのため、データによっては、屋根・床、内壁・外壁などの区別が付いていることもあります。
1.3.2 _ LOD
3D都市モデルに含まれている地物の詳細度を示すのが、「LOD(Level of Detail)」です。
表 1-2 に示すように、建築物についてはLOD0からLOD4までが定義されています。LOD0は高さ情報がないモデルで、LOD1以降では高さ情報が付きます。
LOD1は最も単純な高さ情報が付いたモデルで、地物に対して同じ高さを付け、直方体の組み合わせで定義したものです。LOD2では外観の凸凹が表現され、屋根や壁などの情報も付けられます。航空写真を用いたテクスチャ画像も付けられるため、より精細に再現されます。
LOD3では、さらに、ドアや窓などの開口部、道路の立体交差なども表現されます。そしてLOD4では、建物の外観だけでなく、内部もモデル化されます(図1-7)。
都市によって、どのLODまで提供されるのかが異なります。
本稿の執筆時点において、提供地域全域で対応するのはLOD1までです。LOD2やLOD3が提供されているのは一部のエリアに限られます。
LOD | 提供されるエリア | 解説 |
---|---|---|
LOD0 | 対象のすべてのエリア | 平面に投影したもの。高さ情報がない |
LOD1 | 対象のすべてのエリア | 直方体の組み合わせで構成されたもの。箱モデル |
LOD2 | 特定のエリア | 屋根や壁などを再現したモデル |
LOD3 | 限定されたエリア | LOD2をさらに詳細に表現し、 開口部や立体交差などを表現できるようにしたモデル |
LOD4 | 一部の建築物 | 建物の内部までモデル化したもの |
PLATEAUの3D都市モデルでは、1つの地物の中で異なるLODを並列して保持するマルチスケールなデータ構造となっています。例えば建築物LOD2に対応している地物には、LOD0とLOD1とLOD2の3種のデータが含まれています(同様にLOD1はLOD0とLOD1の2種)。このため、用途に応じて異なるLODで表現・利用することが可能です。
1.3.3 _ 情報量の違い
LODの違いは、見栄えだけでなく、含まれているセマンティクスも違います。
例えばLOD2では、建物の形状を構成するポリゴンに対して屋根・壁・床、もしくは、それ以外の付属物なのかが区別されています。そのため、「屋根だけの面積を集計する」「壁だけの面積を集計する」ということができます。こうした情報を利用すれば、屋根に太陽光パネルを置いたときの発電量などを計算できます。さらにLOD3では、開口部も定義されているので、避難経路のシミュレーションなどにも活用できます。
道路についても同様です。LOD2では車道と歩道が区別されていますし、LOD3以上では、道路と歩道の段差や、車道を車線ごとに区分する表現ができたりします。
図 1-9 LOD1、LOD2、LOD3の違い
【メモ】
開口部とは、窓や扉など、建物に穴が空いている部分のことです。
各地物のLODは、「3D都市モデル標準製品仕様書」(https://www.mlit.go.jp/plateaudocument/)で定義されています。
1.4 _ 3D都市モデルの活用法
これまで説明してきたように、3D都市モデルは3次元のデジタル地図です。地理空間情報の一種であり、正確度が高く、都市の理解に有用な属性情報も含んでいます。そして3D都市モデル以外の、従来の地理空間情報との重ね合わせもできます。
こうした特性を利用して、次のような活用法が考えられます。実際、さまざまなユースケースが開発されるとともに、ハッカソンなどでもアイデアが次々と具現化されています。
1.4.1 _ シミュレーションとして
3D都市モデルは3次元形状や属性情報といった「都市のデジタルツイン」としての豊富な情報を保持しているため、これを活用した都市スケールでのさまざまなシミュレーションに利用可能です。
例えば、人口動態や交通ネットワークなどを考慮した都市の将来シミュレーションや、水、熱、風を対象とした流体解析(CFD)、ネットワーク情報や施設情報などを組み合わせた人流シミュレーション、建物形状や材質等を考慮した太陽光発電シミュレーションや電波伝搬シミュレーションなどに用いることができます。
また、3D都市モデルが保持する属性情報に着目することにより、より高度なシミュレーションも可能です。例えば、建築物モデルが保持する建物の建築年、階数、構造、災害リスクといった情報や住民情報などに浸水シミュレーションを組み合わせることで、より具体的なリスク解析を行うことが可能となります。
1.4.2 _ GISとして
3D都市モデルは、地理空間情報であるため、各種統計や交通データ、災害リスク情報等の多様なデータと組み合わせ、可視化、データ分析、空間解析などに用いることができます。
例えば、「ある地点から見える範囲を調べる」「ある地域で再開発を行った場合の交通や人口動態への影響を予測する」といったことも可能となります。
1.4.3 _ ゲームやVRの舞台、AR、映像作品として
3D都市モデルには、建物などの精細なモデルが含まれています。これを利用すれば、現実世界とそっくりな空間をゲームやVR(バーチャルリアリティ、仮想現実)の舞台として作れます。また映像作品などのコンテンツとしての利用も考えられます。
また地物の形状が正確に表現され、経緯度の情報を持っているため、ピッタリ重ね合わせることが必要とされるAR(Augmented Reality)分野での応用もしやすいのが特徴です。
1.4.4 _ 必要なデータを取り出してコンバートして利用する
3D都市モデルは、CityGMLと呼ばれるXML形式のデータで記述されています(詳細は【3D都市モデルデータの基本】にて説明)。これはGML(Geography Markup Language)という地図を記述するためのXML形式を、3D都市モデルの記述及び交換に向け拡張した汎用的なデータ形式です。データ交換のための標準フォーマットであるため、データの確認や加工はしやすいのですが、ソフトウェアによっては、直接扱えない場合があります。
そこで、実際にさまざまなソフトウェアで利用するときは、このデータから必要な情報を抜き出したり加工したりしたうえで、各ソフトウェアが扱いやすい形式に変換して活用する場合が多いです。その方法については、このチュートリアルのなかで、逐次説明していきます。
1.5 _ まとめ
・3D都市モデルは、デジタル地図です。基準に従った品質をもつ地理空間情報であり、他の地理空間情報と重ねて表示することもできます。
・建築物や道路、地形などは地物として記述され、そこには属性が付与されています。とくに建造物には、都市計画基礎調査の調査結果などが属性として付与されています。
・地物の詳細度を示すのがLODです。LOD2であれば屋根と壁との区別がわかり、LOD3であれば開口部もわかります。
・PLATEAUが公開しているデータ(CityGML)は、3D都市モデルの全データが入った汎用的なデータ構造をしています。そのうち必要なものを取り出し、ソフトウェアで扱いやすい形式に変換して活用します。
【文】
大澤文孝
【監修】
石丸伸裕(OGC CityGML仕様策定WG副議長)
黒川史子(アジア航測株式会社)
小林巌生(インフォ・ラウンジ株式会社)
於保俊(株式会社ホロラボ)