uc22-032

地域エネルギーマネジメント支援システム

実施事業者株式会社日建設計総合研究所 / 株式会社フォーラムエイト
実施場所東京都日本橋エリア
実施期間2022年4月~12月
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3D都市モデルを活用した地域エネルギー需給予測およびREMメニューの効果予測システムを開発。地域エネルギーマネジメントの普及拡大を目指す。

実証実験の概要

カーボンニュートラルや分散型電源の普及などの背景により、建物単位から街区・エリア単位での地域エネルギーマネジメントのニーズが高まっている。

今回の実証実験では、3D都市モデルを活用し、地域全体のエネルギー需給予測や地域の省エネ対策の効果分析・可視化などを行う地域エネルギーマネジメント(REM)の支援システムを開発する。

実現したい価値・目指す世界

近年、SDGsやESGを背景としてカーボンニュートラルや分散型電源の普及、電力市場の創設などの取り組みが活発化しており、エネルギー領域においても「建物単位」から「街区単位」、さらには「エリア単位」でのマネジメントのニーズが高まっている。地域のエネルギー需給を見える化するシステムとしてメーカーのCEMS(Community energy management system)などの活用が拡がっているものの、街区内の数棟を纏めただけでエリア全体を俯瞰するようなものはなく、様々な都市情報との連携やエネルギーマネジメントを考慮した将来のエリアの在り方を考えるツールもないのが現状である。

今回の実証実験では、3D都市モデルのジオメトリとセマンティクスを活用し、エリア内の建物の時刻別エネルギー需要と太陽光発電システムの発電ポテンシャルを含めた地域エネルギー需給を予測するシステムを開発する。さらに、地域エネルギーマネジメントの対策メニュー(面的融通、デマンドレスポンス等)の効果を予測するシステムをあわせて開発し、地域エネルギーマネジメント(REM)支援システムとする。この活用により、エリア全体を俯瞰したエネルギー需給の予測とこれに基づく地域エネルギーマネジメントの実現を目指す。

将来的には、汎用性を備えた地域エネルギーマネジメントシステムを開発・普及させることで、様々なエリアでカーボンニュートラルに資するソリューションを提供できると考えている。

対象エリアの地図(2D)
対象エリアの地図(3D)

検証や実証に用いた方法・データ・技術・機材

本実証実験では、3D都市モデルの属性データやジオメトリデータを活用し、地域エネルギーマネジメントを普及・実現するための検討ツールを開発した。開発したツールは、エネルギーマネジメントのベース機能(エリアのエネルギー需給把握、省エネ対策やデマンドレスポンスの実施等の効果分析、可視化など)を具備し、簡易な操作でエリア単位の分析を可能としている。

エネルギーの需給把握については、3D都市モデルの建物の属性情報(用途分類、面積、階数)を用いて、建物ごとの年間・時刻別エネルギー消費量を推計するモデルを作成した。このモデルではDECC(非住宅建築物の環境関連公開データベース)を用いて建物用途別一次エネルギー消費量を予測する重回帰モデルに加え、利用動態に合わせた消費エネルギーの補正を行うため、人流データと建物別のエネルギー実績値を用いた推計モデルを構築した。地域エネルギーマネジメント対策(REMメニュー)効果推計モデルとしては、エネルギー消費における公知情報(優良特定地球温暖化対策事業所の認定基準、照明や冷暖房のカタログスペック値等)に基づいて、建物の省エネ、デマンドレスポンス、地域エネルギーシステムの導入、行動変容など、様々な手法の効果予測をモデル化し、これらを組み込んだエネルギーマネジメントシステムを構築した。例えば建物消灯による電力逼迫時のピークカット効果や地域エネルギーシステム(CGS:Co-Generation Systemなど)を導入した際の省エネ効果などをモデル化した。

エリアのエネルギー需給量とREMメニューによる省エネ効果等の可視化システムでは、エネルギー需給量のグラフや表での表示機能に加え、推計したエネルギー需要や削減効果に応じた色を3D都市モデルに着色することで、より直感的にエネルギー削減効果やエネルギー需給分布などを把握することを可能とした。さらに、ユーザーが任意のエリアの3D都市モデルを読み込み、REMメニューを選択して省エネ効果等をその場で演算・可視化することで、システムの汎用性を確保した。また、エリアの人流データや建物の環境認証など関連する情報を画面上で統合して表示が可能であり、より総合的な地域エネルギーマネジメント対策の検討が実施できるシステムとしている。

人流データの重ね合わせ表示
環境価値の重ね合わせ表示

検証で得られたデータ・結果・課題

本実証ではエネルギー予測モデルの精度検証、可視化ツールの有用性と効果について検証を行った。

エネルギー予測モデルの精度検証では、3D都市モデルを活用したエネルギー需給推計モデルは、導出された推計値と実績データを比較検証することで類似研究以上(*)の予測精度を達成し、地域エネルギーマネジメントに使用するのに十分な精度である事が確認された。また、開発したシステムにより電力逼迫時の節電要求に応じるための施策を検討した結果、十分な電力消費抑制を実現するための時間帯とREMメニューの組み合わせを予測・導出することができた。

エリア一体となったエネルギーマネジメントの促進という観点からは、日本橋エリアのデベロッパー、自治体、ビルオーナーとエネルギー団体を対象に、ワークショップを開催することで有用性の検証を行った。ワークショップでは、開発したツールを体験していただき、ツールに関してアンケート・ヒアリング調査を実施した。デベロッパーや自治体等のユーザーにとっては、「在宅誘導によるエリア内需要の削減」や「照明の利用の抑制」といった様々なREMメニューの効果検証をリアルタイムに行い、比較検討できる点が非常に有効であることがわかった。また、エリア単位で対策をすることの意義等の理解も深まり、地域で協働して取組みを展開するためのファーストステップに寄与することに有効といえる。

システムの操作性や視認性に関しては、非専門家でも比較的容易に操作でき、グラフ・表やバルーン等を活用することで見えない情報が可視化されて分かりやすいという評価や、対策前後のエリア全体のエネルギー消費量の分布、環境への取り組み(環境認証)など複数の情報を一覧化し確認できることが重要であるという意見が聞かれた。

また、検証を通じて得られた全体的な意見として、ツールの活用主体によって目的が異なること(例えば自治体は、管轄エリア全体、町内会は街区など)、地方都市の自治体をターゲットとした場合には、地方都市で適応可能なREMメニューの実装が必須であることが分かった。

* DECCの概要とその活用、J. IEIE Jpn. Vol. 34 No. 6

エネルギー需給量とREMメニューの削減効果(シミュレーション計算結果)表示
REMメニュー設定画面、シミュレーション計算結果の詳細表示画面、一覧表示画面
ワークショップでの地域エネルギーマネジメントの説明
ワークショップでの可視化ツールの説明

参加ユーザーからのコメント

・省エネ効果など目に見えない情報の見える化というアイデアが面白い、先進的な取組で参考になった。
・ビルオーナーや企業経営者としても省エネに興味が無い人はいないはずなので、地域で取り組めたら良いと感じた。
・エリアエネルギーマネジメントに取り組んでいる地域として、地域の価値向上につなげたい。
・本実証で開発したツールでは省エネ時のエネルギー数値が見える化されていたが、今後、メタバース等でREMメニューを適応した際のユーザー体験の変化がわかると合意形成につながる。(例えば、共有部の消灯などで室内の環境がどう変わるかを体験できる)

今後の展望

地域エネルギーマネジメントに関する検討は、従来は専門家によるエネルギー消費量の計測や数値シミュレーションの分析などによって行われてきたが、これらの分析を平易なユーザーインターフェースによって実現し、かつ、その結果を直感的に理解可能とする本システムにより、シミュレーション結果の妥当性を維持しつつ、一般の人が操作して簡易にエネルギー需給量や分布を把握できることが確認できた。このようなシステムの導入が、地域エネルギーマネジメントの普及につながると期待される。

本システムでは、3D都市モデルの建物の属性情報(用途分類、面積、階数)と人流データをインプットデータとして予測値を算出するモデルのため、大規模建物の削減ポテンシャルが多い傾向がある。将来的には、LOD3以上の3Dモデルの活用し、建物の外装を考慮したエネルギーの負荷計算や、スマートメーターの実績データ(街区単位での電力消費量データなど)との融合などより高精度の推計方法を目指したい。また再エネの予測機能を実装することによって、エネルギーの地産地消など地方都市に適応できるようなメニューの実装も開発していきたい。さらに、省エネやデマンドレスポンスのメニューの最適化支援に向けて合意形成のプラットフォームとの連携により参画者を増やし、地域エネルギーマネジメントの実現・普及拡大を目指したい。