uc22-006

ドローンによる建築物外壁検査の支援

実施事業者株式会社フォーラムエイト
実施場所埼玉県さいたま市 / 埼玉県熊谷市 / 神奈川県川崎市
実施期間2022年4月〜12月
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3D都市モデルを利用した建物外壁への日照シミュレータを開発。外壁タイル点検のための調査計画策定を効率化させ、ドローンによる赤外線調査の普及・拡大を目指す。

実証実験の概要

マンションの外壁タイルの点検は、多くは人力による打診で実施されているが、近年ではドローンによる赤外線調査の手法が実用化されはじめている。一方、ドローンによる赤外線調査では建築物の外壁温度が品質・精度に影響を与えるため、建築物への日照環境を事前に把握することが重要である。

今回の実証実験では、3D都市モデルを活用した建物外壁への日照・反射光シミュレーションによりドローンにおける赤外線調査の調査計画の効率的な立案を支援するシステムを開発する。

実現したい価値・目指す世界

建物外壁のタイルは剥落防止のために定期的な全面点検が求められており、主に打診での点検が行われている。打診は人力での実施となるため、足場設置等の費用負担が大きく調査期間も長期を要する。そこでコスト削減・効率化のため、代替手段の一つとしてドローンによる赤外線調査が実用化され、令和4年度から実運用が本格的に開始された。

赤外線装置による外壁点検は外壁タイル剥落の原因となる「浮き」がある部分において、日照によりタイル表面の温度が周囲の健全部と差異が生じる特徴を利用している。したがって、剥落の予測精度を確保するためには最適な日照条件で調査を実施する必要があり、現状では現地に赴き日射の状況及び日照の時間経過の確認を行っている。

今回の実証実験では、事前の現地調査の中で大きい割合を占める日照の確認作業を、3D都市モデルを活用したシミュレーションによって机上による調査で実現することで、現地調査を軽減できるシステムを開発する。

本実証の成果を活かし手法・ツールの実用化と高度化を図り、関係団体に普及させることによって、ドローンによる適切な赤外線調査の拡大普及および合理化を狙う。

対象エリアの地図(2D)さいたま市
対象エリアの地図(3D)さいたま市

検証や実証に用いた方法・データ・技術・機材

任意の時刻における外壁への日照の有無および周辺建物による反射光の有無をシミュレーションするシステムを、3次元リアルタイム・バーチャルリアリティソフトであるUC-win/Roadが持つ日照シミュレーション機能をカスタマイズして開発した。シミュレーション結果は0.5mなどの大きさのグリッド(『定期報告制度における赤外線調査(無人航空機による赤外線調査を含む)による外壁調査ガイドライン』に基づくサイズ)で分割した対象外壁に対して得られ、CSVファイルと立面図に日照または反射光の有無をプロットした画像ファイルとして出力するようにした。合わせて、日照と反射光が継続して当たっていた時間に応じて立面図を色分けした画像ファイルも出力するようにした(例えば、1日のうち2時間以上継続して日射が当たっているグリッドは赤色となる)。これらの画像ファイルを3次元空間上で建築物モデルに貼り付けて表示し、時刻をスライドバーで操作し、日照と反射光がどのように時刻変化するかを確認できるようにした。

精度検証では、対象外壁を持つ 3D 都市モデル(LOD1)およびこのジオメトリ情報を活用して、形状の精度を高めるために細部を再現したモデルを対象として、実際の日照・反射状況をそれぞれシミュレーションし現実との比較だけでなくモデル精度による違いも確認した。現実との比較は実建築物の対象壁面を撮影した可視画像から実際の日照・反射状況を特定しシミュレーション結果と照合し、グリッド単位での日照・反射の有無の一致度を算出した。

また、赤外線調査実施者 5 名や有識者 1 名に操作感や実用性、有用性などについてアンケート形式でヒアリングを実施し、本システムの実務利用における価値を検証した。

可視光および赤外線による日照・反射の確認
可視光による日照・反射の確認

検証で得られたデータ・結果・課題

今回の検証では、加工モデルに対する日照シミュレーションから判定される日照の有無と可視画像から特定される実際の日照状況とが 90%程度一致したことから、本システムの日照シミュレーションは高い精度であることを示せた。加工前の LOD1 のモデルに対する結果の比較では、最大外形と実形状に差がある箇所においては一致度が 50%程度まで落ち込むケースがあり、最大外形と実形状が異なる建物ではより高い LOD のモデルが求められる。ただし、差異の程度によっては、結果に影響のある時間帯、影響がある箇所を確認し注意して利用することで、LOD1 の結果でもある程度の活用は可能であると考えられる。

さらに、実務者へのヒアリングの結果では、日照の状況を事前に把握できることで赤外線による調査と打診による調査のどちらの手法が適切かを選択できたり、建築物所有者への調査時期の説明を効果的に行えたりと、有用であるという意見を多く得られた。反射シミュレーションについても、調査後の画像分析の参考となるとの意見や赤外線装置の設置場所の検討に活用できるとの意見があり、一定の有用性があると考えられる。特に、調査後にも活用できるという意見は当初想定していなかった活用ケースであり、より多様な場面で利用できる可能性にも期待ができる。

一方で、反射シミュレーションについては、現実とシミュレーション結果との一致度はあまり高くなく、建築物の隅角部の湾曲などの形状やガラスなどの材質の再現性が課題となることが分かった。

日照・反射結果の表示(立面図への投影)
日照・反射結果の表示(3D可視化)
反射結果の表示(全光束)
反射結果の表示(単光束)

参加ユーザーからのコメント

・日照状況を確認できることで、事前調査において所有者等に対して適切な実施時期、時間等を説明するのに有効である。また、調査後の赤外線熱画像分析にも参考できる資料である。
・ドローンに搭載された赤外線装置によって外壁調査を行う場合に、日照時間に基づきおおよその調査開始・終了時刻の目安が分かることで、ドローン機器の事前準備や安全対策などの設定(通行制限など)をより緻密に行うことができる。
・反射状況を確認できることで、シミュレーション範囲にある複数の建物からの反射の影響を、時間を追って確認できるようになるため、調査計画立案に有効である(どの建築物の影響が出てきそうか、あたりを付けられるのは効率的な調査計画の立案時に都合がよい)。

今後の展望

実証実験の結果を踏まえ、誰でもが扱いやすいようにソフトの操作性を向上するとともに、事前調査の計画策定時を含めた、ドローンによる外壁調査の各工程で参考にできる様々な情報を提示できる新たな機能の検討を進めていく。

今回の実証実験では、精度の高い建築物モデルを使用することで、正確な日照シミュレーション結果を得られることを確認できた一方で、反射シミュレーション結果の精度には課題が残った。そのため、今後の検証ポイントとして、シミュレーションの精度を上げるための条件の特定と整理を行う必要がある。それにより、ソフトの利用者がデータを用意する際に、例えば建築物のどのような形状や部位のモデル化を特に詳細に行うとよいのかといったことなどを考慮できるようになる。

今後は日照シミュレーションをベースとして、輻射熱の算出等のシミュレーション機能やその結果を赤外線カメラ画像に模した画像で出力し、実際の撮影結果と突き合わせて浮き判定を支援する等の出力内容の拡充によって、事前調査にとどまらず本調査における打診検査が必要な箇所の特定や撮影後の浮き判定の支援などに利活用できるシーンを増やしていく。また、今年度スタートしたドローンによる外壁調査を、本システムにより現地確認が必要な事前調査を机上で完結させるコスト削減価値により普及拡大を目指す。