uc22-007

3D都市モデルの更新優先度マップ

実施事業者株式会社パスコ
実施場所全国8都市(東京都23区 / 福島県郡山市 / 神奈川県横浜市 / 静岡県沼津市 / 静岡県掛川市 / 大阪府大阪市 / 大阪府豊中市 / 福岡県久留米市)
実施期間2022年4月〜2023年2月
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3D都市モデルの鮮度を衛星画像を使って可視化するAIモデルを開発。低コストかつ迅速な差分検出を実現することで3D都市モデルの更新を促進する。

実証実験の概要

インフラ維持管理や災害復旧等の多様な領域で課題解決に貢献する3D都市モデルの活用を更に進めるためには、3D都市モデルの更新頻度を高め、現実の都市空間との同一性を保つことが重要である。

今回の実証実験では、3D都市モデルの整備に利用した航空写真と撮影頻度が高い衛星画像を比較し、建物等の新築・滅失等の変化を抽出するAIモデルを開発する。これにより、3D都市モデルと現実空間の差分を低コストで迅速に可視化し、3D都市モデルのデータの更新を促す。

実現したい価値・目指す世界

3D都市モデルの活用を進めるには、日々変化する現実空間をリアルタイムで仮想空間上に再現することが求められる一方で、3D都市モデルは既存測量成果を利用して整備するため、更新を頻繁に行うことが難しい事が課題である。

今回の実証実験では、3D都市モデル整備に利用した航空写真と衛星画像を比較し、差分を検出するAIモデルを開発することで、低コストでの差分検出・更新優先度マップの構築・現実空間との差異の可視化を実現し、自治体へ3D都市モデルの更新を促す情報の提供が可能か検証する。

2023年から運用予定であったALOS-3衛星の衛星画像を活用することで、3D都市モデルの変化情報の取得を低コストで実現し、自治体による能動的・継続的な運用と民間領域での利活用による3D都市モデルのエコシステム活性化を目指す。

対象エリアの地図(2D)8都市(東京都23区、郡山市、横浜市、沼津市、掛川市、大阪市、豊中市、久留米市)
対象エリアの地図(3D)

検証や実証に用いた方法・データ・技術・機材

本実証実験では、3D都市モデル作成の元データとなる航空写真と、より撮影頻度が高い衛星画像とを比較し、建築物の変化を判定してメッシュ単位で評価することで、3D都市モデルの更新優先度を判別できるシステムを開発した。全国での利用を想定し、都市部と地方部での建物密度の違いなどを踏まえて、3つの地域メッシュ(3次メッシュ:1辺約1km、4次メッシュ:1辺約500m、5次メッシュ:1辺約250m)から選択可能とした。

3D都市モデルは、都市計画法に基づき自治体が行う5年に1回の基礎調査や固定資産等の撮影成果を基に作成されているため、特に都市開発が活発な地域では最新状態との乖離が大きい。本システムでは、航空写真と衛星画像から建物変化領域を抽出する深層学習モデル(U-NETベース)によって、メッシュ単位で建物の変化面積(新築・滅失・建替え等の変化)を求め、既存の3D都市モデルの建物面積やメッシュ面積に対する変化率を算出する。その上で、検証エリア内の変化規模を5段階の自然分類(データ値の差異が比較的大きい部分に境界が設定されるクラス分割の手法)で閾値処理する機能を実装した。深層学習モデルは、検証8都市における2つの時期の画像から作成した変化箇所のポリゴンデータを教師データとして学習し、変化抽出結果が教師データに近づくようチューニングを繰り返した。

インプットデータとなる衛星画像は、解像度80cmで日本全域を高頻度(年5~8回)で撮影可能なALOS-3光学衛星画像を選定した。ALOS-3衛星は、観測幅70km幅の直下撮影により、広域で建物の傾きや地形の歪みが少ない画像を取得できることが特徴で、2023年から運用予定であった。本実証においては、ALOS-3衛星のデータ利用が実証期間に間に合わないことから、最新の航空写真やASNARO-1衛星画像を元にシミュレーション画像を作成して利用した。

一方、3D都市モデル作成の元データとなる航空写真は解像度40cmが一般的であるため、この差異を解消するため、ALOS-3衛星画像をシミュレーションした画像を超解像処理(機械学習による超解像技術の一つであるESRGANベースのRRDB構造を採用することで品質向上を図りながら、検証8都市の画像を教師データとしてチューニングを実施)し、解像度40cmとすることで検出精度の向上を図った。

これらの処理は、産業技術総合研究所ABCI(AI橋渡しクラウド)を利用してAIモデルを学習させ、オンプレミス環境(UbuntuをOSとしてPyTorch、OpenCV、GDAL等のライブラリを使って構築)で動作確認を実施しながら開発を行った。本実証実験ではTellus APIの実装には至らなかったが、PLATEAU配信サービスから航空写真・ALOS-3衛星シミュレーション画像の取得をプログラムとして実装し、AI判読処理画像をメッシュで空間集計してGeoJSON形式で出力した。

出力データは更新優先度マップとしてPLATEAU VIEWに掲載し、新旧2時期画像と各メッシュの更新優先度を確認しながら3D都市モデルの整備・更新に関わる自治体・民間事業者に実務における有用性をヒアリングした。

実証実験のアーキテクチャ全体図
実証実験(ヒアリング)の様子

検証で得られたデータ・結果・課題

検証にはPLATEAU配信サービスで航空写真が配信されており、ALOS-3衛星シミュレーション画像が作成可能な都市として8都市(札幌市/郡山市/東京都23区/横浜市/沼津市/掛川市/大阪市/豊中市)を選定した。これらの都市について、航空写真と衛星画像のペアから建物変化をメッシュ単位で確認可能な更新優先度マップを作成した。ALOS-3衛星のシミュレーション画像の分解能では、戸建建物の1棟1棟の詳細な変化を得ることは難しいが、集合住宅・団地・大型の開発エリア等の変化は、高い更新優先度として判定された。精度評価として、目視判読を元にした評価データに対して、メッシュサイズ別・地域別等の評価を行い、84%程度の分類精度が得られた。

有用性の検証として自治体・民間事業者へのヒアリングを実施し、更新優先度マップを利用した3D都市モデルや地図情報の部分更新についてニーズを確認することができた。特に自社で地図情報を更新・販売している民間事業者では、地図の更新用に航空写真を購入しているため、調達効率化へ大きな期待が寄せられた。また自治体においては、固定資産業務等での撮影成果を利用した3D都市モデルの部分更新の可能性を確認することができた。さらに、災害発生時における建物変化検出への期待もみられた。

一方で、更新優先度の高いメッシュを特定した後で、実際に3D都市モデルのデータ更新をする際には高解像度衛星・航空写真・ドローン画像等のデータが必要になるため、ユーザーの業務要件に合わせた更新業務全体のソリューション提案が必要であることが示唆された。また、建物変化の詳細な属性付与(新築・滅失等や工場・商業施設等の情報)や、建物以外の道路や植生等の変化検出のニーズも高いことが確認できた。

ALOS-3衛星シミュレーション画像のサンプル
AIモデルを用いた異動判読の中間データのサンプル
更新優先度マップのサンプル(5次メッシュ:250m)

参加ユーザーからのコメント

【自治体からのコメント】

・3D都市モデルの利用では、現時点ではピンポイントのエリアでの利用ケースが多いので、部分更新は有効だと思う。一方で、どこかのタイミングでは行政全体で一斉更新する必要もある
・変化箇所が確認できたメッシュ内の都市計画基本図修正図化では、予察業務を簡略化することの可能性がある
・年1回程度の更新情報が欲しいが、災害発生時には災害前後の変化を把握したい

【民間事業者からのコメント】

・自社で把握している変化箇所の情報を基に、航空写真を調達しているので、更新優先度マップがあると航空写真の調達コストを抑えることが期待できる
・自社コンテンツの更新頻度が低くなっている郊外地域の方が、更新優先度マップの利用ニーズが高い

今後の展望

本実証期間後、この成果を発展的に他地域に適用を拡大し検討を進めていく。利用拡大を図るにはユーザー負担の軽減が必要であるため、入力画像の選定や分析処理等がクラウド上で提供されることが望ましい。例えば、ALOS-3衛星に近い解像度の画像がTellusマーケット等で流通されるようになれば、更新優先度マップの出力処理をTellus API・アドイン等として実装することにより、ユーザーがより容易に更新優先度マップにアクセス可能になる。これにより、PLATEAU・Tellusのプラットフォームを跨いだ相互利用も促進されると考えられる。

また、ユーザーの業務要件に合わせた更新業務全体のコスト低減や付加価値の拡大(建物ごとの更新の要否の可視化や不動産IDとの連動化等)へソリューションをブラシュアップしていくことで、民間事業者における3D都市モデルの利用価値の拡大を図る。これに伴い民間事業者の需要喚起により自治体の3D都市モデル整備・更新もさらに加速していくことが期待される。この取り組みを継続することで、3D都市モデルの発展、普及拡大に寄与していきたい。