ゲーミフィケーションによる参加型まちづくり
実施事業者 | パナソニック コネクト株式会社 |
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実施場所 | 茨城県鉾田市 |
実施期間 | 2022年10月~2023年1月 |
“3D都市モデル×シミュレーションゲーム” で、市民参画によるまちづくりの促進と自治体職員の業務効率改善を目指す。
実証実験の概要
都市計画・まちづくりの分野における自治体内部の計画検討や、市民を対象としたワークショップ、教育の現場における地域学習等においては、専門的な図面や計画図では直感的な理解が難しく、議論が深まりにくいという課題があった。
今回の実証実験では、オープンデータとして提供されているPLATEAUの3D都市モデルを市販のシミュレーションゲームに取込み、まちづくりのシミュレータとして利用することで、市民のまちづくりへの理解・ 関心、参加意識の向上や、自治体職員の業務効率の改善に関する有用性を検証する。
実現したい価値・目指す世界
まちの将来ビジョンを検討する場面において、市民の意見を取り入れる方法として、行政等が主催する市民参画のワークショップ方式が用いられている。ワークショップにおける参加者は専門家ではないため、イメージ共有のために、図面やゾーニング図だけでなく、スケッチやCGパース、CG動画といった視覚的に分かりやすいツールの活用が望まれている。他方、それらツールの制作コストは高価であり、容易に導入することはできなかった。
今回の実証実験では、市販のシミュレーションゲームと3D都市モデルを組み合わせて活用することで、専門知識を持たない職員が簡単に操作可能な都市のビジュアライゼーションツールを安価に導入することを目指す。ワークショップの参加者は高齢層の割合が多くなる傾向にあり、まちづくりの担い手となりうる若年層に楽しみながら参加してもらうことで、若者のまちづくりへの参画を促すことにもつながる。
また、行政内部でまちづくりの検討を行う場面においても、地図等の紙面を用いた検討では、時間がかかるという課題がある。そこで、同ツールを庁内協議や説明時において、施設の配置を自由に変更・操作できるツールとして活用することで、施設配置の検討等の庁内業務の効率化を目指す。
検証や実証に用いた方法・データ・技術・機材
本実証実験では、市販の都市のシミュレーションゲームであるCities:Skylines(以下C:S)の変更プログラムである「MOD」を活用して、3D都市モデルをゲーム内にインポートし、現実の都市を舞台にした都市経営シミュレーションができるシステムを開発した。C:Sは、道路や公共施設の設置及び用途区画の設定を行い、都市を形成・成長させるゲームである。また、C:Sでは、MODを導入することで、ユーザー自らゲーム上で様々な機能の拡張を行うことができる。
本ユースケースでは3D都市モデル(LOD1)を参照し、既存の都市を再現するMODを開発した。具体的には、マップデータとして、3D都市モデルの地形モデル(dem)の形状及び土地利用モデル(luse)の用途から地形を再現するとともに、道路モデル(tran)の形状・機能から高速道路と一般道路を分類し、高速道路については、ポリゴンの形状から道路中心線を算出し、その中心線に沿ってアセットを配置することで再現した。一般道路については、高速道路と同様の処理を行い、幅員・道路中心線をもとにアセットを割当てた。建築物については、建築物モデル(bldg)の形状・用途・高さに応じて建築物の区画を割り当てるとともに、モデルの名称・建物IDを参照して学校や図書館等の公共施設を中心とした建物を配置できる仕様とした。ゲーム内の線路は、国土地理院ベクトルの鉄道の中心線・構造等を参照し、敷設位置や高架部を再現した。さらに、都市計画決定情報モデル(uro)に含まれる用途地域の区分を参照して、ゲーム内の区画用途を割り当てた。また、市役所等のランドマークとなる一部の建物は、テクスチャー付きの現地建物モデルを作成することで、都市の再現性を高めた。
MODの開発はC:Sを発売するParadox社が運営するWikiサイト「Cities:Skylines Wiki」の開発者向けページの仕様に従い、C#でソースコードを記述・コンパイルし、MODのdllを作成した。また、鉄道情報の切り出しはMapboxのライブラリであるvector-tile-csを使用した。
本システムの有用性検証として、行政職員を対象とした政策検討における活用と、高校生を対象としたまちづくりワークショップ(以下WS)における活用を行い、まちづくり分野における3D都市モデルとゲームの組み合わせによる有効性を確認した。
検証で得られたデータ・結果・課題
行政職員を対象にした実証では、公共施設移転の協議場面といった都市開発の検討において本システムを活用し、公共施設の移転先をはじめとする様々な意見のビジュアライズや景観等のシミュレーションを行った。検証項目は、会議や検討会等の運営の効率化と、まちづくり分野以外での活用可能性とした。その結果、60%以上の職員が、「通常、まちづくりの検討で用いられるパースやCG等のツールに比べて、イメージ共有や運営を効率化できた。」と回答し、まちづくり分野(公共施設移転等の検討)以外の活用可能性については、90%以上の職員が「活用できる」と回答し、具体的には、観光プロモーションや農業分野での活用が提案された。
高校生を対象にした実証では、個人またはグループ単位で操作PCを用意し、「市内人口等の増加」や「魅力的な駅前づくりと市役所の跡地利用」をテーマに、ゲーム上で様々な都市開発行為を試行し、その結果を発表するWSを開催した。検証項目は、「まちづくりへの関心と参加意欲の向上」とした。90%以上の高校生が、「ワークショップへの参加を通して、今後のまちづくりへ関心を持った。」と回答し、全ての学生が「まちづくりへの参加意欲が高まった。」と回答した。
特に、ゲームを活用したことに対する高校生の評価は高く、駅前の施設イメージや車窓から見たランドスケープの創り方といった、詳細なデザイン検討を行う学生がいる等、若年層と親和性が高い手法であると確認できた。
一方、課題としては、行政で通常使われる事務用PCでは、ゲームの起動・動作が難しく、ハイスペックPCの準備が必要となる点や、参加者の意図をゲーム上に十分に表現するには、ゲーム内のカメラ移動や建物の削除・再配置といったゲーム操作に慣れが必要である点が挙げられる。このため、WSの開催に当たっては、十分なスペックのPCを用意することに加え、参加者に事前に操作に慣れてもらうことや、グループワークのメンバー編成の際にゲーム操作に長けたメンバーを分散させる等の運営面の工夫が必要である。
参加ユーザーからのコメント
実証に参加した行政職員からのコメント
・3Dで様々な視点やアングルから街が見えるためイメージしやすい。
・ゲーム内の街が機能している様子が見えることで、街の生活イメージを想起できる。
・施設移動等のシミュレーションが簡単にできる。
・まちづくりを自分の手で操作して取り組める点が良かった。
実証に参加した高校生からのコメント
・街の問題点や課題が、すぐに分かりやすく可視化される点がゲームの良さだと思った。
・ゲーム感覚で街を発展させられて面白かった。
・やりたい施策が増えて、もっとゲームを活用してまちづくりをしたいと思った。
・(まちづくりを)真剣に考えて、ここにこの建物を建てたら、どのような問題が発生するかまで考えて取り組めた。
今後の展望
本実証では、3D都市モデルとゲーミングシミュレーションを組み合わせることにより、まちづくり検討における行政職員のWS運営の効率化や市民のまちづくりに対する関心や参加意欲が向上することを検証し、いずれも非常に有用であることが分かった。
特に、高校生を対象としたWSでは、当初の想定以上に詳細なデザイン検討に踏み込んだ参加者もいたことから、自治体内で検討される公園計画や道路整備などの具体的な計画検討においても活用可能性がある。
また、今回開発したMODと既存MODやアセットを組み合わせることにより、街の再現性を高めていけば、市民説明の際に、具体的な施策イメージがさらに市民に伝わりやすくなることに加え、まちづくりや農業関連分野での検討のほか、観光プロモーション分野など様々な分野に活用できるようになる。
加えて、教育現場だけでなく、社会人や高齢者にも興味関心をもってもらえるようなシナリオ設定の工夫を行うことで、市民のまちづくりへの参加を幅広く促すことも可能になる。ゲーミングシミュレーションを活用したまちづくりは、複数都市で取り組まれているが、3D都市モデルの整備エリア拡大と併せてWSの運営ノウハウを蓄積し、それを横展開することにより、今後様々な地域や目的での活用が期待される。