XR技術を活用した市民参加型まちづくりv2.0
実施事業者 | 株式会社ホロラボ/株式会社日建設計/株式会社日建設計総合研究所 |
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実施協力 | 東京都立大学饗庭伸研究室 |
実施場所 | 東京都八王子市北野地区/広島市中区及び南区(紙屋町・八丁堀・相生通り) |
実施期間 | 2023年6月〜11月 |
3D都市モデルとXR技術を組み合わせた、まちづくりワークショップを運営するシステムを開発。複雑な都市開発を直感的に理解可能とすることで、まちづくりへの市民参加を活性化させる。
実証実験の概要
大規模な都市開発においては、開発構想や計画を行政や事業者のみならず地域住民を交えて議論し、関係者間で理解を深める説明会やワークショップが行われることが通例である。しかし、開発計画は複雑になりがちであり、専門知識を持たない地域住民がその内容を深く理解し、行政等とまちの将来像について活発な議論を行うことは困難な場合が多い。
今回の実証実験では、2022年度のユースケース開発事業「XR技術を活用した市民参加型まちづくり」で構築した市民参加型まちづくり支援ツールの利便性と汎用性を高めるためのシステム改善と運用プロセスの見直しを行う。これにより、本ツールを様々な地域における様々なフェーズの都市開発で運用可能なソフトウェアとして再構成し、全国の市民参加型まちづくりの活性化を目指す。
実現したい価値・目指す世界
大規模な都市開発においては、開発事業者や行政、地域住民等の様々なステークホルダがまちの将来像について討議を重ね、合意形成していくことが重要であるが、従来の紙媒体による図面や計画の説明では、開発における複雑な情報をわかりやすく市民に伝えることが困難である。
これに対して、ARやVR等のXR技術を組み合わせた市民参加型まちづくりの支援ツール・システムを開発することで、地域住民が複雑な開発計画や構想を「楽しく」、「わかりやすく」理解することが可能になる。加えて、システムを用いて様々な意見やアイディアを可視化することで、事業者や地域住民等、計画に関わる全ての人々の関心と理解度を高め、ステークホルダ間のコミュニケーションを活性化させることができる。
2022年度に実施した八王子市北野地区の市施設再編計画をテーマに行ったユースケース開発「XR技術を活用した市民参加型まちづくり」においては、3D都市モデルとXR技術を組み合わせた市民参加型まちづくり促進ツールを開発し、これを用いた新たなまちづくりワークショップ手法を開発することで、一定の成果を得ることができた。
一方で、ワークショップの運用のためのウェブシステムやXRアプリケーション操作に専門のオペレータが必要となることや、ARで表示する様々なコンテンツ(これを用いて参加者は新しいまちづくりをAR上で提案する)の管理が手作業となりスケーラビリティに欠けるなど、様々な課題が浮き彫りとなった。今回の実証実験では、これらの課題を解決し、システムの汎用性やオペレーション上の利便性を向上させるため、システム再設計による操作性向上、ARアプリで利用するCGをネットワーク経由で取得しシステム内で共通化、データ管理ツール開発などの追加改修を行う。
改修したツールの有用性を検証するため、八王子市と広島市の2都市で実証実験・ワークショップを実施する。八王子市では、昨年策定された北野下水処理場・清掃工場跡地活用事業における基本構想の周知とそれに対する住人の具体的なリクエストやフィードバックを得るための市主催のワークショップに採用され、自治体の意思決定プロセスに組み込まれた。広島市では、原爆ドーム前など市の中央部を走る相生通り沿道の事業者や地権者を中心としたエリマネ団体「カミハチキテル」によるウォーカブルな街を目指したトランジットモール化の計画について、イメージ具体化のためのワークショップを実施し、自治体への実施提言のための議論を支援する。これらの検証を通じて、自治体が主導する大規模再編計画におけるまちづくりや、地域住人や事業者、エリマネ団体など民間主導型まちづくりなどにおける、本ツールを用いた新たな住人参加型まちづくりワークショップの手法確立を行う。
これにより、本ツールを全国のまちづくりワークショップで展開できる汎用ツールとして再構成し、XR技術を活用した市民参加型まちづくりの活性化を目指す。
検証や実証に用いた方法・データ・技術・機材
今回の実証実験では、XRを活用した市民参加型のまちづくりワークショップを開催するため、3D地理空間情報Webプラットフォーム「①torinome Web」と管理者用の「②torinome管理ツール」、「①torinome Web」上のデータを現実世界に投影するARアプリケーション「③torinome AR」、画像マーカーが印刷されたカードを使って3Dモデルで可視化しながら、誰でも簡単に議論やプランニングができる「④torinome Planner」の4つのツールの開発・改修と、ワークショップ運用プロセスの見直しを行った。これらシステムやアプリ開発、特に管理ツールの充実によって専門のオペレータを設置することなく、XRを活用した市民参加型のまちづくりワークショップが様々な地域の多様なスケール感やテーマで実行できることを目標とした。
「①torinome Web」は、ワークショップ主催者がデータやコンテンツ管理のために利用するCesiumJSベースのWebアプリケーションである。3D都市モデルの3DTilesデータを表示する機能と、様々な形式のGISデータ(GeoJSON、CZML)や2D/3Dデータ(jpg、png、mp4、las、glb)をウェブ画面から簡単に登録する機能を具備し、Google Cloud Platform上に構築されている。今回の実証実験では、昨年度の開発速度優先の実証用
システムを大幅に再設計し、操作性やユーザビリティの向上を図った。具体的には、登録されたデータの管理・調整用にPostGIS(DB管理ツールPostgreSQLのGIS対応拡張モジュール)をベースとしたコンテンツ管理機能を開発することで、主催者によるデータやコンテンツ管理をウェブ画面上の操作と設定で実現することでの容易化を目指した。ま
た、後述のARアプリケーション「③torinome AR」とデータの相互連携を可能とした。
「②torinome管理ツール」は、ワークショップ主催者が登録データの編集等のために利用する Webアプリケーションである。「①torinome Web」に登録されたデータの一括管理・編集や、後述のARアプリケーションにおいて必要となる画像マーカー、その緯度・経度情報、画像マーカーに対応するカードの設定を行う機能を備えたNext.jsをベースに構築している。本ツールは、昨年度の実証実験で構築したシステムを活用した。
「③torinome AR」は、ワークショップ参加者がフィールドワークに用いるUnityベースで構築したiOS向けのアプリケーションである。「①torinome Web」に登録された3Dモデル、テキスト、画像、動画などを現実世界に重畳してAR表示させる機能と、写真・動画を撮影し、任意のコメントを追加した上で、緯度・経度情報を付与して「①torinome Web」に登録する機能を備えた。現実世界との位置合わせはARコンテンツのより正確な位置合わせを実現するために、昨年度開発した2次元バーコード認識により位置合わせするQRモードに加え、新たにGoogle ARCore Geospatial APIを用いたVPS(Visual Positioning System)により位置合わせをするVPSモードを追加開発した。前者は2次元バーコードを印刷したQRマーカーさえあれば屋内外場所を選ばずに相対的なARコンテンツ表示が可能となる汎用性を持ち、後者はGeospatial APIのサービス対象地域であればマーカーすら不要で高精度に位置合わせが可能となり、主として屋外で効果を発揮し台湾など国外でも実用が出来た。
「④torinome Planner」は、ワークショップ参加者がワークショップにおいて3DモデルをAR表示し空間をデザインするために利用するUnityベースのiOS向けのARアプリケーションである。ワークショップではテーブル上にまちづくり対象エリアの白地図を敷き、地図の4辺に位置情報カードを配置した。参加者がこの位置情報カードを「④torinome Planner」が動作するiPadのカメラで認識することで、白地図上に3D都市モデルをベースとした3DのまちがARで浮かび上がる。
位置情報カードと別に、50枚ほどの画像マーカーカードを使った。画像マーカーカードには「①torinome Web」に登録された3Dモデルが紐づけられており、iPadカメラが画像認識することでAR表示が実現する点では位置情報設定カードと同じだが、画像マーカーカードは地図上で自由に動かして活用する。
画像マーカーカードには、理想のまちを実現する建物やアクティビティと呼ばれるまちを活用するイメージなど、これまでの参加者の意見を取り入れた3Dモデルが紐づけられており、3D都市モデルをベースとしたデジタルツイン空間における配置やスケール感、全体の印象などを物理のカードを動かすことだけで実現した。参加者は画像マーカーカードに描かれた絵を楽しそうに眺めつつ、iPadを通して表示される3Dモデルに驚き、地図上にたくさん配置したり動かしたりしながら自分たちの手で創り出したまちの風景を見ながら参加者同士で未来について語り合った。
白地図の上に配置された画像マーカーにより具象化されたワークショップ参加者の皆さんの理想のまちは、位置情報設定カードに設定された緯度経度情報と、画像マーカーの相対位置により、「①torinome Web」に登録を可能とした。
3D都市モデルをベースとしたデジタルツインを、カード型のインターフェースで操作をする感覚だ。
検証で得られたデータ・結果・課題
上記①〜④のシステムの有用性や、本システムを用いたワークショップの効果を検証するため、八王子市と広島市の2都市で以下のワークショップを実施した。
八王子市主催の北野下水処理場・清掃工場跡地活用をテーマにしたワークショップでは、まず市が作成した再開発の基本構想を基に、東京都立大学饗庭研究室の学生がエリア別の再開発方針や再開発時のスケール感を把握する基礎的な3Dモデルなどのデータを作成して「①torinome Web」の3D地図上にマッピングした。属性によってグループ分けされたワークショップ参加者には、再開発方針のマッピングと昨年度のワークショップの成果と重ね合わせながら市の基本構想の理解を促した。また、再開発エリア内の建物の屋上等、予め現地でARを利用する視点を複数設定することで、「③torinome AR」によって現地まちあるきにおいても開発エリア全体像やスケール感を直感的に理解できるようにした。
次に、「④torinome Planner」を使い、各グループが実現したいまちづくりの方針を議論した上で、その方針に沿った建物や施設のツールカードを選択し、地図上の再開発エリア内に配置しながら都市空間をデザインした。選択肢として必要な建物や施設については、初回のワークショップで参加者から出たアイディアを基に市が50程度の建物や施設を選定し、それらに対応するツールカード及び表示されるARモデルを饗庭研究室の学生が製作した。各グループには市役所職員等の専門家が入り、周囲との関係性や収益性等を踏まえた実現性についてアドバイスを行いながら、計画としてより実現性の高いアイディアの構築に向けて議論した。
最後に、将来的に八王子市が市民の意見のとりまとめとして具体的なビジュアルを作成することを目的とし、より解像度の高い添景や景観を作成した。議論のたたき台となる計画は3つテーマごとに2パターンを作成し、参加者が考える再開発の方向性等でグループ分けした各グループでその中の1つを選択した上で、「①torinome Web」上で可視化しながら調整を行った。その後、ワークショップを開催した「たま未来メッセ」前の広場に議論の場を移し、「④torinome Planner」を用いて1/20スケールのビジュアル案をAR表示し、再開発エリア内を自由に歩き回り視点を変化させながら完成したビジュアルを確認した。
広島市でのワークショップでは、まずエリアマネジメント団体「カミハチキテル」が製作したトランジットモールのパース図を基に、将来案・中間案の2パターンの3Dモデルを製作し、「①torinome Web」に配置した。その上で、「③torinome AR」を用いて対象エリアとなる相生通りで現実世界に重畳することで、「カミハチキテル」の関係者を中心に
トランジットモールの広さや景観を体感した。その後、「①torinome Web」を見ながら、将来を見据えたあるべき姿について議論を行い、得られたコメントを「①torinome Web」上にリアルタイムで登録した。
次に、「カミハチキテル」が実施した交通量調査の結果を基に周辺駅の利用者数等のGISデータを制作し、「①torinome Web」上で可視化した上で、相生通り周辺の状況や課題について議論し、トランジットモール化した際の具体な利用シーンについてアイディアを創出した。その際、あらかじめ用意したアクティビティの画像やWeb上で検索して得た画像などを「①torinome Web」に配置して可視化し、イメージの共有を行った。
最後に、上記の「カミハチキテル」の関係者内でのワークショップの検討内容を基に、一般市民に向けたワークショップを開催した。小学生や70代の方、海外留学生などの幅広い参加者が「④torinome Planner」を使い、参加者属性等によって分けられたグループ内で、「地元のクリエーター」「カープファン女子」「小学生」「老舗商店の三代目店主」などロールプレイング方式で選ばれた役割になり、トランジットモールで実現したいアクティビティを地図上に配置しながら議論を行った後、現地の相生通りに行ってARにより等身大で可視化されたトランジットモールを体験した。
全てのワークショップの結果は、「①torinome Web」上にデータとして保存した。このため、必要に応じてイベントやフォーラムなどにおいて、本取組の成果が、「①torinome Web」、「③torinome AR」、「④torinome Planner」を用いてデモンストレーション可能となっている。
これらのXR技術を活用したワークショップにより、主催側の自治体やエリアマネジメント団体が再開発等の構想を参加者(住民)により視覚的に分かり易く伝えることができたか、参加者(住民)はまちの将来像を検討する際により具体的なイメージを持ちながら議論することができたか、3D都市モデルを活用したビジュアライズにより参加者間の合意形
成は容易となったか、等の検証を行った。
昨年度の取組では、概念実証に耐え得る水準のシステムを短期間に最低限の機能に絞って開発したため、データ連携も限定的であり、カードから表示される3Dモデルは固定のものであり、結果としてその実証実験のみでしか利用できない仕様だった。このため、今回は大幅な汎用化を実施し、全国各地の様々なテーマのまちづくりワークショップで活用可能とするべく再設計した。具体的には、「①torinome Web」と「③torinome AR」・「④torinome Planner」間での登録データの連携を実現することで、「①torinome Web」側に配置した 3D モデルなどのデータが「③torinome AR」や「④torinome Planner」側ですぐに活用可能とし、また、「④torinome Planner」で卓上の白地図に配置した3Dモデルを「①torinome Web」側に位置情報と合わせて登録可能とした。その結果として、3D都市モデルで構成されるデジタル空間を直感的、かつ自由に編集して体験できる、インタラクティブで楽しくも実用的な仕組みが実現した。
また、まちづくりワークショップの側面では、昨年度の実証と同様に、市民参加に必要となる直感的な情報提示とアイディア創出や対話の活性化が実現している。さらに、八王子市と広島市におけるワークショップのプロセスと結果が、詳細に、かつ3Dのボリュームを持ったデジタルデータとして「①torinome Web」上に、いつでもアクセス可能な状態で記録されたことも本実証実験の成果と言える。
一方で、機材準備やワークショップ会場の通信環境に応じたシステムの稼働調整については改善が求められる状況となったものの、昨年度からの課題であるシステムのオペレーションについては、本年度の取組において一定の改善を実現した。特に、昨年度の取組においてアイディア可視化のため多種多様な3Dモデルが必要となることが分かっていたため、支援を担当する大学研究室や自治体関係者向けに3Dモデル制作ツール「Blender」の講習会を実施した。その結果、アイディアワークショップの最中に、参加者のアイディアをワークショップ支援担当の学生が3Dモデルに起こし、「①torinome Web」や「④torinome Planner」で即時に利用する場面も見られ、参加した学生の3D関連のITツール活用スキルが向上する副次的効果も得られた。
このようなケースに限らず、全体を通じて参加者の発言や議論の結果が「①torinome Web」を中心とした3D都市モデル空間に逐次デジタルデータとして蓄積されて可視化されていくため、参加者の満足度は高かった。
参加ユーザーからのコメント
ワークショップ参加者からは3D都市モデルやXR技術を活用することで楽しさ、新鮮さ、わかりやすさが得られたとのポジティブな回答が多い一方で、システムの使い勝手や性能面、オペレーションなどの課題についてのコメントも見られた。
【ワークショップ参加者】
八王子市
⚫ 3D都市モデルを活用した具体的な成果物を見ながら議論できる点に新しさを感じた。本システムを活用することで、地方自治体等のワークショップ主催者と、近隣住民等のワークショップ参加者によるコミュニケーションの意味がいい方向に変わっていくような気がする
⚫ 3D都市モデルの活用によって再開発の構想等をタブレット等で可視化することができ、具体的なイメージと共に議論できるため、行政と住民の合意形成には有効なツールだと思う
⚫ ARにより現物を作る前からスケール感や出来栄えを可視化して伝え得るなど、まちづくりにとって役に立つ技術と感じた
⚫ 従来型ワークショップのように意見を出して終わりではなく、その場でモデル化されて可視化、共有されるなど成果が目に見える一連の流れのおかげで、すごく楽しめた
⚫ ARを活用するため、いかに遅延なく3D都市モデル等が表示されるか、が重要な点である。今回のワークショップでは操作と可視化の間にラグがある場面があったため、通信環境の補強は今後の課題になると思う
⚫ システムの操作性がやや難しく感じることがあった。再現性の向上や素人でも簡単に使えるような技術革新に期待する
⚫ 今後の検討がどう進むのか、今回のワークショップの成果がどのように行政に反映されるのかが気になる。本システムを用いて、マイルストン的にリモートでもXRで見ることができるようになるといい
⚫ 今まで作ったデザインモデル等をネット上に公開し、自由にアクセスして見学できるようになったら良いと思う
広島市
⚫ 本システムを活用することで、こんなに簡単に再開発の構想等を3Dで表現できることに驚いた
⚫ 実際に関係者とその場で「今後の姿」を可視化して議論することができるため、議論が具体化し、とても素晴らしいと感じた
⚫ ARを活用することで視覚情報も得られ、子供でも楽しめるイベント内容だったため満足している
⚫ ARを活用していて、とてもわくわくしました。また、3D都市モデルの可視化によって、未来のまちの姿が想像しやすかった
⚫ 今回はタブレット端末を利用したが、より没入感のある体験のために、まちを歩く際はARグラスを使えばよいなと思いました
⚫ システムは面白かったが、操作性に気をとられて話し合いが今一つ深まらなかった。操作性を改善することで、今後は議論に割く時間をより増やせると良いと感じた
ワークショップ主催者からは、ワークショップ自体が多様な参加者を得て楽しいものになり盛り上がった点や、アウトプットのイメージが分かりやすいものになった点で大きな評価を得た。一方で、3Dモデルの整備を含めた事前準備の負荷の高さやオペレーションの複雑さなどの課題も指摘された。
【ワークショップ主催者】
八王子市(市職員)
⚫ 3D都市モデルを活用することで、参加者によるアウトプットが多様化・複雑化した印象を受ける。「Wow」(驚きと楽しさが同時に沸き起こる様)を感じられるアウトプットが得られた
⚫ 行政が考える再開発案に対して、参加者からの意見として否定ではなく前向きな提案ばかりで良かった
⚫ 3Dデータを用意するにあたり、準備段階のマンパワーがかなり必要だった。今後はオブジェクトを汎用化するなどして、準備にかかる工数が削減されると良い
⚫ 行政で運用する場合、効果的なワークショップを開催するには職員のモデリングスキルとPCスペックの強化が課題になると思う
⚫ 今回のワークショップでのアクティビティを通じて、自分でかっこいいモデリングを作ってtorinomeに置いたり、現地でARを見せたり、プレゼンテーション等で積極的に使えるようになりたいと感じた
広島市(カミハチキテル構成員)
⚫ 3D都市モデルや最先端のXR技術を活用するワークショップを開催し、参加者が楽しそうだったことで、ファシリテーターとしての満足度が高かった
⚫ 3D都市モデルやARを活用して「楽しく考える」という意味で、従来の机上での議論が中心のワークショップとは一線を画した
⚫ 再開発等をテーマとしたワークショップでは参加者の属性が偏ることが多かったが、今回のワークショップでは子供から中・高年まで積極的に参加できているのがよかった
⚫ デジタルとアナログの最適なバランスを考えることが今後は重要になると感じた。すべてデジタルで対応とせず、議論の際のホワイトボードや付箋の活用等、アナログのメリットも活かしつつ、ベストミックスを探りたい
⚫ ゲームのように手順がプログラム化されていたので、参加者もわかりやすかったと思うしファシリテーターも進めやすく、グループ間の進捗に差がでにくく、総じてよいワークショップを開催できたと感じる
⚫ 屋内で議論し作成した成果物を、実際に屋外でARを活用して現在の風景と重ねて見ることができることは、従来のワークショップではできないことであり、体験できてよかった
⚫ 「WSで考えた内容をARで見てみよう」という説明は、参加者にも魅力を訴求しやすく、集客がしやすかった
⚫ デジタルオペレーターの負荷が高かったと思うので、今後はオペレーション上の工夫も必要になるのではないか
今後の展望
3D都市モデルで構成されるオープンなデジタルツインの世界に、まちづくりワークショップ参加者の創意がインタラクティブに重なっていった本システムやワークショップの取組に、多数の自治体やまちづくり関連事業者、学術界から大きな注目が集まっている。
一方で、実施のために必要な人材や工数やシステムの操作性、ワークショップ会場における通信環境、自治体・エリマネ団体等の主催者の機材スペックなど、本実証実験を通じて本システム・ワークショップの実装・実現と普及に向けての課題が特定された。今後、データ公開機能やコミュニティ/SNS連携などの更なるシステムの改善、異なるまちづくりテーマに関するワークショップの試行や準備を含めたオペレーション負荷軽減を目指したマニュアル整備やトレーニングなどの施策を実施した上で、本システム・サービスをサービスパッケージ化し、他地域への横展開を図っていく必要がある。
まちづくりにおける自治体・事業者と市民は合意形成が困難な場合があるが、その原因は利害が異なることだけでなく、お互いのまちづくりに対する目的やこだわりへの理解不足や未知への恐れがあると考えられる。今回の3D都市モデルとXR技術を活用した市民参加ワークショップにおいては、デジタル上で作成したコンテンツを実際に現地でARとして確
認することができる等、新しい技術を介して次々と可視化される将来の空間をともに覗き込みながら、両者が立場を超えて楽しそうに語り合う場が多く見られた。
まちづくりにおいて市民参加の重要性が高まっているなかで、自治体・事業者と市民が立場や世代を超えて協力する必要性が高まっている。3D都市モデルやXR技術を活用したワークショップは、検討イメージの可視化とそれによる議論の具体化や合意形成の容易化といったアドバンテージが大きく、今後このような取組とシステムが実装されまちづくりの現場で活用されることで、まちづくりの議論が活性化されることが期待される。