uc22-014

三次元データを用いた土砂災害対策の推進

実施事業者Symmetry Dimensions Inc. / 株式会社パスコ
実施場所静岡県掛川市
実施期間2022年4月〜2023年3月
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3D都市モデルと3D測量データを組み合わせた被災状況の迅速な把握システムを開発し、災害救助等のオペレーションへ貢献する。

実証実験の概要

土砂災害等の災害が発生した際に、どの場所でどの程度の土砂が流出し、どの程度の家屋が被害を受けているのかといった被害状況の把握は、現状では現地における目視や写真確認による方法が主に用いられており、迅速かつ的確な情報共有の課題となっている。

今回の実証実験では、自治体の持つ住民情報を3D都市モデルに統合し、ドローン等を用いて取得した3D測量データを用いた解析を行うシステムを開発することで、被害家屋等の迅速な把握を可能とし、地方公共団体における応急対策や救助等における有用性を検証する。

実現したい価値・目指す世界

多くの自治体では、土砂災害等が発生した場合の被害状況を把握する方法として、測量機を用いた調査や、自治体職員による現地確認の方法が用いられている。他方、家屋等の地図情報やそれに紐づく住民情報等と現地で収集した情報を統合する手法は乏しく、流出土砂の下にどの程度の家屋が存在し、行方不明者がどの程度発生し得るのか、といった情報の迅速な把握に課題がある。

3D都市モデルは建築物等の位置と三次元的な形状をデータとして保持しているため、これらと流出土砂の3D測量データを組み合わせて解析するシステムを開発することで、どの程度の家屋が被害を受けているのか迅速に把握することが可能となる。また、このシステム内で地方公共団体が保有する住民情報と3D都市モデルの建築物を紐づけることで、被害を受けた家屋等にどの程度の世帯が存在し得るのかを即座に解析できる。さらに、これらの情報をAR技術を用いて可視化する機能を開発することで、現地における救助オペレーションに活用できる。これらのシステムを活用することで、迅速かつ的確な災害対応への貢献を目指す。

対象エリアの地図(2D)掛川市上西郷石ヶ谷地区
対象エリアの地図(3D)掛川市上西郷石ヶ谷地区

検証や実証に用いた方法・データ・技術・機材

本実証実験では、土砂災害等によって被災した建物を自動検出し、被害状況を把握するためのウェブシステム(被災住居可視化システム)と、その結果をARアプリによって被災現場で可視化するスマホアプリ(AR被災状況可視化アプリ)を開発した。

被災住居可視化システムは、Cesium.jsをベースにSymmetry Dimensions Inc.が開発したGISデータ統合・可視化システムSymmetry Digital Twin Cloud(以下、SDTC)に機能を付加する形で開発した。SDTCは都市の様々なデータを統合・可視化しデジタルツインを構築することのできるウェブアプリで、ドローン等から取得された点群データをアップロードする機能なども備えている。本システムでは、SDTCをベースにドローンにより取得した点群データと3D都市モデルを空間解析することで流出土砂の被害を受けた建築物を検出する機能、被害を受けた建築物に居住する住民の情報を一覧で表示する機能などを開発した。

被害建築物を検出する機能は、3D都市モデル(被災前)と取得した点群の差分比較を行い、建築物の流出、倒壊、横滑り等を検知する仕組みとしている。具体的には、建築物の差分検出の手掛かりとしてドローンによって計測可能な「屋根」に着目し、点群データから建築物の「屋根」を自動で検出するセグメンテーション機能を開発した。これを用いて、3D都市モデルの「屋根」と点群データの「屋根」の比較を行い、各「屋根」の面積比を閾値として点群データの「屋根」が地表に対して水平・垂直方向に移動している又は屋根が消失していることを検知し、「被災住居」判定を行うアルゴリズムを構築した。

被害状況を把握するためのシステムは、あらかじめ建築物モデルに付与されている「建物ID」と住民基本台帳の住居情報(地番及び住居表示)を紐づけたデータベースを構築し、「被災住居」の判定を受けた3D都市モデルの「建物ID」を集計することで、被害を受けた可能性のある住民の人数、住居、氏名、年齢等を把握できる仕組みとした。

AR被災状況可視化アプリは、被災住居可視化システムと連携し、3D都市モデル及び「被災住居」の判定を受けた建築物をAR画面上で表示し、被災現場で位置や住人情報を確認できるものとした。ゲームエンジンUnityをベースに構築し、スマホカメラを用いた位置合わせはVPS(Visual Positioning System)としてGoogleが提供するARCore Geospatial APIを活用して構築した(補足的にGPSによる位置合わせも実装した。)。「被災住居」の判定を受けた建築物は赤色に着色して投影することで視認性を向上させている。土砂災害等発生時には、周辺環境の変化によりVPSを用いた位置情報推定が難しい状況も想定されるため、2D地図データをベースにした手動で位置を補正する機能も開発しており、災害時でも利用可能なシステムとしている 。

本システムを用いて、分析精度の検証と、掛川市役所及び掛川市中央消防署・消防隊の協力を得た有用性検証を行った。

ARでの被災状況の確認
実証実験の様子(AR被災状況可視化アプリ体験)

検証で得られたデータ・結果・課題

本システムの精度検証は、住居が土砂災害により流されたパターン、住居が土砂を被ったパターン、住居が消失したパターン(ドローンから観測不可)の3つに分け、その状況を再現した住居の点群データを編集して用意した。これを用いて本システム上での「被災住居」検知を試みたところ、検出率83%を確認することができた(被災前後の面積比一致の閾値は90%以下とした)。また、誤検出(被災していない住居を被災したと判定するケース)は山沿いの斜面に隣接したいくつかの住居のみであり、高い精度で検出ができていることが分かった。

本システムの有用性検証として、防災業務に関連する掛川市職員16名、同市中央消防署・消防隊2名を対象にデモ・体験をいただきアンケート・ヒアリング調査を実施した。被災住居可視化システムについては、消防隊などの災害救助を行うユーザーから、被災住居・被害者数が一覧で確認できる点、被害住居と共に住民基本台帳の情報が紐づいて確認できる点において、被害状況の迅速な把握に活用できる可能性があるという評価を得た。AR被災状況可視化アプリについても、被害住居が赤色で強調表示されることで、従来の目視による被害状況の把握に比べ、被害状況の把握に係る時間短縮の可能性があるといった評価を得た。

一方で、分析精度については「住居が土砂を被る」という被害パターンの検出が難しく課題として残った。改善策として、同一地域の過年度の点群データとの地盤高の比較や3D都市モデルの建物の地面からの高さデータを現況点群データの値と比較を行い、被害住居検出率を向上させることが必要である。

また、被災住居の検出漏れを防ぐためにユーザー側で被害建物の検出率に影響するパラメータをユーザーが変更できることが望ましいという意見が挙げられた。このパラメータは検出率に影響することから、システム内部で設定していたが、実際の災害発生時は目的や被害状況によって求められる検出率が異なる可能性があることから、ユーザーインターフェース上での変更が求められていることが分かった。加えて、使い方が複雑であるという意見から、今後災害発生時に救助を行うあらゆる利用者が使いやすいようなエクスペリエンス設計が必要であることが分かった。

AR被災状況可視化アプリによる被災住居可視化の様子(平常時)
AR被災状況可視化アプリによる被災住居可視化の様子(被災時)
被災住居可視化システムによる被災住居の可視化及び被災住民情報可視化の様子
被災住居可視化システムでの被災住居検出結果の表示

参加ユーザーからのコメント

被災住居可視化システムへのコメント

・3D都市モデルと点群データとの比較で、被害状況の迅速な確認ができると思う。
・データを用いた被害住居検出は完全ではないが、把握できる可能性はわかった。
・3D都市モデルと住民基本台帳のデータを連携することで、優先度の判断などの手助けになると思う。
・マイナンバーの整備が進み、連携が可能になることで、より精度の高い情報連携が可能になることが考えられる。
・データとして被災範囲、被害状況を把握できることで、災害救助の初動を早めることができると思われる。

AR被災状況可視化アプリへのコメント

・アイコンなどが見づらく、使いやすさには改善の余地があった。
・被災住居が色分けされ表示されており、使いやすかった。

今後の展望

本実証実験から、昨今活用が進むドローンにより撮影された点群データと3D都市モデルとの比較により被害住居の検出を行う本システムは、被害状況把握及び災害救助活用に有効であることが確認できた。さらに、非専門家でも簡単に利用できるUI/UX設計、住民基本台帳連携のための事前協定の検討といった課題を解決し、システムの完成度を高めることで、年々増加する自然災害における人的被害を最小限に抑える手立てになると期待される。

本システムでは、土砂災害にフォーカスした被害住居検出アルゴリズムの構築を行ったが、洪水や津波など様々な自然災害での活用に合わせた被害住居検出方法の検討等の開発を進めていきたい。また、将来的には災害発生後の被害状況の把握のみでなく、シミュレーション機能による災害時避難方法の事前検討や、気象情報との連動による適切なタイミングでの避難指示の発令を支援するシステムなど、災害による被害を最小限に抑えるためのシステムの拡張を目指したい。