uc22-017

防犯設備設置計画支援ツール

実施事業者株式会社パスコ / セコム株式会社 / 株式会社日建設計総合研究所
実施場所東京都渋谷区
実施期間2022年4月〜2月
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3D都市モデルを活用し、防犯設備の有効範囲等を可視化するツールを開発。最適な防犯設備の設置計画策定を支援する。

実証実験の概要

地域の安心・安全の向上を目的とした防犯設備(防犯カメラ、防犯灯)の設置検討を効率的かつ効果的に行うためには、定量的な分析結果に基づいた配置場所の選定や設置効果を確認できる可視化手法の確立が必要となる。

今回の実証実験では、3D都市モデルを活用し、防犯設備の監視範囲・照射範囲の死角や遮蔽を三次元的にシミュレートし、地域の安心・安全度を評価するツールを開発することで、地域の防犯対策を推進することを目指す。

実現したい価値・目指す世界

多くの地方公共団体では、地域の安心・安全の向上のため、防犯対策として防犯設備(防犯カメラ、防犯灯)の整備を推進している。他方、設備の設置場所の検討に当たっては、自治会からの要望や地方公共団体担当部局における経験則的な判断による場合が一般的である。地域の安心・安全をより一層高めていくためには、定量的な分析に基づく効率的かつ効果的な防犯設備の設置が必要である。

今回の実証実験では、3D都市モデルを活用し、建築物による死角や遮蔽を考慮した監視カメラの可視範囲や防犯灯の照射範囲の3次元解析を行うツールを開発。さらに、これらの情報と人口、警察署、空き家の有無等の情報を統合した地域の安心・安全評価モデルを作し、ツール上で解析可能とする。これを活用することで、地方公共団体が最適な防犯設備の設置計画を立案するための支援を行うことを目指す。

対象エリアの地図(2D)都市部
対象エリアの地図(3D)都市部

検証や実証に用いた方法・データ・技術・機材

今回の実証実験では、渋谷区内の都市部と住宅部を対象に、ArcGIS Proを用いて、防犯設備(防犯灯及び防犯カメラ)の有効範囲の3次元解析を行うツールと、道路および公園の安心・安全度を評価するツールを開発した。

防犯設備の有効範囲の3次元解析については、データ収集、防犯設備GISデータ作成、遮蔽物を踏まえた有効範囲の算定の順に行った。まずデータ収集として、渋谷区が管理する防犯設備については渋谷区の管理台帳より、その他の防犯設備についてはWeb調査および現地調査より、防犯灯の設置位置・高さ・照射能力、防犯カメラの設置位置・高さ・方向・上下角等のデータを収集した。次に、ArcGIS Proを用いて、これらのデータから防犯設備の位置と遮蔽物がない状態での照射範囲を表すGISデータを作成した。このGISデータと3D都市モデル(建築物LOD1及びLOD2)を重畳した3Dマップに対して、ArcGIS Pro 3D Analystエクステンションの見通し解析機能を用いて、建築物による死角や遮蔽を考慮した防犯灯・防犯カメラの有効範囲を計算する三次元解析を行った。

安心・安全度の評価については、評価項目の選定、評価項目毎の影響度の設定、モデル化及び評価値の算出の順に行った。まず、評価項目の選定について、防犯環境設計※1の要素のうち、「監視性の確保」(人の目が周囲に行き届くような環境をつくり犯罪の発生を未然に防止すること)と「領域性の確保」(住民相互の活動や交流を促して部外者が侵入しにくい雰囲気を地域で形成すること)の2つの考え方に着眼し、それぞれ9つの評価項目を選定した。例えば監視性の評価項目は「街中が明るいこと」「近くに交番や警察署がある」、領域性の評価項目は「カメラに監視されていると感じられること」「目立った空き家がない」等を選定した。次に、評価項目毎の影響度の設定について、感覚的な判断基準を定量的に捉えるAHP(階層化意思決定法)の手法を用いて、34名のセキュリティコンサルタントへ各評価項目の重要度を確認するアンケートを行い各評価項目の重み付けを設定した。そして、各評価項目の判定結果に対し重み付けを乗じて合算したものを安心・安全度とする安心・安全評価モデルを構築した。

本実証の安心・安全度の評価では、防犯設備の有効範囲と、渋谷区等から収集した町丁目別年齢人口等の集計データや交番、空き家等の位置データを安心・安全評価モデルの評価項目の判定※2に使用することで道路区間および公園ごとの安心・安全度を算出した。

これら開発した手法を活用して、防犯設備の配置最適化シミュレーション及び安心・安全の強化につながる対策実施前後の評価を行い、地域の防犯対策の検討への活用可能性を検証した。

※1犯罪が発生しにくい環境を創るために、人的な防犯活動(ソフト面)とあわせて、建物、道路、公園等の物理的な環境(ハード面)の整備、強化等を行い、犯罪の起きにくい環境を形成するという考え方をいい、防犯性を向上する4要素として、対象物の強化、接近の制御、監視性の確保、領域性の確保が挙げられている。

※2監視性の評価項目「街中が明るいこと」は、防犯灯の有効範囲の結果から各評価区間の照度の平均値を求めJIS規格が定める基準値を満たしているかを確認している。また、「近くに交番や警察署がある」は、交番・警察署が評価区間から100m圏内(警察が1~2分でかけつけられる範囲として)に存在しているかを交番や警察署の位置情報から確認している。領域性の評価項目「カメラに監視されていると感じられること」は、評価区間からカメラが5m範囲(カメラに気づき易い範囲として)に存在するかを確認している。また、「目立った空き家がない」は、評価区間が空き家から30m圏内の有無を確認している。

防犯灯照射範囲の3D可視化(1)
防犯灯照射範囲の3D可視化(2)

検証で得られたデータ・結果・課題

3D都市モデルを活用することで、建築物等の立体形状と防犯設備の設置高さや設置方向を考慮した正確な有効範囲を再現し、設置場所や設置効果の検証が可能となった。防犯設備の有効範囲の検証結果と地方公共団体が保有する情報を統合した安心・安全評価モデルによる評価結果を可視化することで、地方公共団体が地域の安心・安全度の傾向を把握し、適切な防犯対策を検討するための判断材料となる可能性が確認できた。

例えば、周囲よりも安心・安全度の評価が低い区間では、明るい照明器具への交換等の最少コストで評価値を向上させる方法を採用したり、評価が高い区間では高評価が維持される範囲で、エネルギーコスト低減のため一部の防犯設備を未使用とする運用の見直しを実施するなど、防犯設備の新設に留まらず、複数の観点から防犯設備の配置や運用を最適化するための検討が可能となった。

一方で、安心・安全評価モデルを用いた評価を実施するにあたり、評価項目に適用する情報の収集や電子化、データ処理の煩雑さが明らかになった。地方公共団体が保有する情報を収集するにあたり、所管する団体・部署の把握、管理者・形式の異なるデータの集約、収集データの仕様に応じたデータ処理方法の検討等の作業が必要となる。今後3D都市モデルに都市の各種データが集約されることで、多角的な分析・検証の実現性・効率性の向上が期待される。

今回の検証では、安心・安全評価を実施するためのデータ処理やGISによる解析を手作業により実施した。安心・安全評価モデルを普及させるには、これらの作業を誰もが効率的に実施できるようになることが重要であり、一連の処理と解析を容易に実行可能なパッケージ化・ツール化を検討する必要がある。

また、より現実に即したシミュレーションの実施に当たっては、照射範囲計算における店舗等の周囲の明るさや樹木による影響の考慮が課題である。

安心・安全度が高いエリア
現状の防犯設備の有効範囲(上)と最適化配置した防犯設備の有効範囲シミュレーション(下)

参加ユーザーからのコメント

渋谷区の職員から以下のコメントがあった。

・各地方公共団体において安心・安全を評価するための情報の電子化が進んでないことが、本実証を実装段階に引き上げていく際のボトルネックになると考えるため、アナログで情報が整備されている台帳情報等を電子化する取り組みや、必要なデータの種類や形式を全国的に標準化し、データ化を推進する後押しが必要と考える。
・本実証成果や収集データを安心・安全の評価だけに利用するのではなく、環境に配慮した開発計画の検討等、多面的に活用できるようになることで利用が促進されていくと考える。
・本実証のような解析を地方公共団体単独で実施するのは難易度が高いが、防犯設備の整備事業で開発事業者等が本実証の解析手法を活用した精度の高い提案を行い、地方公共団体が提案を参考に防犯設備の整備検討する仕組みができると実効性を高められると考える。
・地方公共団体では防犯設備情報の管理が複数部署に跨る可能性がある。本実証で3D都市モデルを基盤に安心・安全度等、様々なデータが可視化されることにより部署間での調整等に有効に利用できると考える。

今後の展望

従来、地方公共団体による防犯設備の配置検討は、主に自治会からの要望や担当部局における経験則的な判断により実施されてきた。本実証では3D都市モデルを活用し地域の安心・安全度を定量的に評価する手法を確立し、防犯設備の最適化を図るべきエリアを把握することを可能とした。今後は、安心・安全評価モデルの納得性・合理性を向上させ、多くの地方公共団体で活用される仕組みとしていきたい。

さらに、3D都市モデルを活用した地域の安心・安全評価の仕組みが、防犯まちづくりへの活用のほか、防犯灯配置の最適化によるエネルギー対策、都市開発における歩行空間の構造物や植樹等の配置シミュレーションなど、多面的に活用できることを効果検証し、地方公共団体での利用促進を図りたい。今後、3D都市モデルで取り扱う都市のデータの種類が拡充し、これらが相互利用可能な規格で集積されていくことで、多角的なシミュレーションの実現性や分析の効率性が大きく向上していくことが期待される。