uc22-021

壁面太陽光発電のポテンシャル推計

実施事業者東急不動産株式会社 / 国際航業株式会社
実施場所神奈川県横浜市
実施期間2022年4月~2023年3月
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壁面太陽光発電パネルの発電量を推計するアルゴリズムを開発。都市部における脱炭素まちづくりを推進する。

実証実験の概要

カーボンニュートラルの実現に向けて太陽光発電パネルの設置が進められているが、都市部では太陽光発電パネルの屋上設置スペースが限られている建物が多い。こうしたエリアにおいては、外壁で発電する壁面太陽光発電パネルの設置が有効となるが、壁面発電は実例データも少なく、設置後の発電効率や費用対効果を推計することが難しいという課題がある。

今回の実証実験では、3D都市モデルを用いて壁面に太陽光発電パネルを設置した場合の発電ポテンシャル推計のアルゴリズムを開発。推計発電量を可視化することで、壁面太陽光発電パネルの普及に向けた施策検討への有用性を検証する。

実現したい価値・目指す世界

地球温暖化対策推進法では、市区町村は地域脱炭素化促進事業の促進区域の設定に努めることとされており、2022年には環境省が脱炭素先行地域を選定するなど、エリアとして脱炭素を進める動きが加速している。建物が密集している都心部でも再生可能エネルギーの導入による環境負荷低減の取り組みが進められている一方で、太陽光発電パネルを設置可能な屋根付きの戸建住宅が少ない、あるいはビルなどの屋上にも室外機等が設置されており、太陽光発電パネルの設置スペースが限られる建物が多いなどの課題がある。こうしたエリアにおいては、外壁に設置する壁面太陽光発電パネルを設置することが有効と考えられる。

今回の実証実験では、太陽光発電を中⼼に再⽣可能エネルギー設備の導⼊拡⼤を⽬指している横浜市を対象として、3D都市モデルの外壁データを活用し、個々の壁面の面積や角度、周辺建物による日影等を考慮した壁面太陽光発電パネルの発電量推計のためのアルゴリズムを開発する。また、算出結果を横浜市と共有し、太陽光発電パネルの普及のための施策の検討や、都市部での面的なエネルギー計画策定の検討など、地域の脱炭素社会実現に向けた有用性を検証する。

対象エリアの地図(2D)
対象エリアの地図(3D)

検証や実証に用いた方法・データ・技術・機材

今回の実証実験では、3D都市モデルの建築物モデルLOD2が持つ位置や形状の特徴を活用し、建物の屋根面(uc22-032)に加え壁面での日射量推計および太陽光発電ポテンシャル推計を行うシステムを開発した。

年間日射量を推計するアルゴリズムは、コンピュータグラフィックス (CG)技術をベースとし、毎時の太陽方位・太陽高度データと、各建物面の面積・傾き・形状などを基に、周辺建物の日陰等を考慮して各建物面の年間日射量を推計する仕組みとした。このアルゴリズムでは、対象壁面に設定した格子点への日照の有無を太陽視点から判定することで、各建物面視点から太陽を見て日照有無を判定するよりも計算速度を向上させている。具体的には、CG技術のZバッファ法(投影画像の各画素に、奥行きに関する情報を持たせることで、視点から隠れた部分を除外する方法)を用いて太陽から見た投影画像を作成することで、複数の格子点の日照有無を同時に判定することで計算速度を向上させている。また、日射量の推計で用いる散乱光モデル(太陽からの日射のうち、大気中で散乱する成分のモデル)はNEDO日射量データベースにも利用されているPerezモデルを採用した。

得られた建物面ごとの日射量に対し、太陽光発電パネルの設置可能箇所を抽出した上で、各建物面の年間太陽光発電ポテンシャルを推計した。太陽光発電パネルの設置個所の抽出は、設置最小面積、設置許容傾斜角等の設置条件に適合する建物面を抽出することで行った。発電量の推計方法はJIS C 8907「太陽光発電システムの発電電力量推定方法」(2005年)を参照し、環境省が提供する「再生可能エネルギー情報提供システム REPOS(Renewable Energy Potential System)」における発電ポテンシャル同様、「平成22年度再生可能エネルギー導入ポテンシャル調査報告書」(2011年)における設置可能面積算定条件の基本的な考え方に基づき、建物面ごとおよび建物ごとに年間予測発電量を推計した。年間予測発電量は、推計に当たって付番したSurface ID、建物ID、年間日射量などを含むCSV形式で出力される。実装は、C++言語で記述されたWindows用プログラムで行った。ライブラリとしてはWindowsシステムライブラリ、C++STL、OpenCVを利用している。コマンドベースで動作する実行ファイルとしており、テキストで記載された設定ファイルへのパラメータ記載を変更することで、データを格納するフォルダや処理パラメータを自由に変更することができる。計算結果を可視化するために、年間日射量と年間発電ポテンシャル推計値をCityGMLの属性値に格納するとともに、日射量分布のテクスチャ画像を作成した。これらの結果はPLATEAU VIEW上での表示が可能であり、これにより年間予測日射量を視覚的に確認することができる。

各建物面における日射量推計値の可視化画像
各建物面における発電ポテンシャル推計値の可視化画像(パネル設置イメージ)

検証で得られたデータ・結果・課題

3D都市モデルが持つ建物の屋根面及び壁面の位置や形状などを利用し、建物による日陰の影響を考慮することで、建物面ごとの精細な日射量分布を求めることが可能となった。さらに求められた精細な日射量分布を利用することで太陽光パネルの配置に基づく発電量を推計することができた。また、それを総計することで、これまで数値化されてこなかった、建物の屋根面及び壁面が持つ再生可能エネルギーのポテンシャルを月次・年次ベースで算出することができた。推計範囲全体の屋根面を対象に、得られた年間推計発電量と、「令和3年度再エネ導入ポテンシャルに係る情報活用及び提供方策検討等調査委託業務報告書」(環境省)の計算方法に従って計算された年間発電量を比較した。環境省の報告書は、水平面の計算方法であることから、屋根面のみを対象として比較した。この結果、本システムが適切に屋根面の発電量を推計できていることが確認できた。今回開発したシステムは、壁面の発電量を屋根面と同じ手法で推計しており、壁面の発電量も適切に推計できると判断できる。

高層建築物が密集するみなとみらい21地区を含む横浜市中区および西区の一部エリアを対象にシミュレーションを実施したところ、単位面積あたりの日射量や発電量は壁面より屋根面の方が大きいものの、年間の総量では屋根面よりも壁面の方が大きいことが分かった。これは、今回の実証範囲は高層建築物が多く含まれており、壁面の総面積が屋根面の総面積よりも大きいためと考えられる。また、冬場や朝夕など、屋根面での発電量が少ない、太陽高度が低い時期や時間帯においても壁面は一定量の発電ポテンシャルを有するということが結果として得られた。これは、日の出の時間付近では東壁面が、日の入りの時間付近では西壁面が、太陽の位置に対してや屋根面よりも鉛直に近いためだと考えられる。

現状、建物壁面での太陽光発電は、屋根面と同様のシリコン太陽電池が主に使われており設置荷重が大きいという課題があるが、ペロブスカイト太陽電池等の、より軽量・柔軟な次世代太陽光電池の技術革新が進むことで、太陽光発電の設置場所として更なる活用が期待されている。今回行ったポテンシャル推計は、一般的なシリコン系の太陽パネルを想定しているが、他の発電能力が異なる太陽電池においても、容易に発電容量等の設定を変更しポテンシャルを推計できる設計となっており、実用化に向けて研究・開発を進められている次世代太陽光パネルにおいても活用が可能である。

また、開発したアルゴリズムと出力結果の有用性を確認するため、一般社団法人再生可能エネルギー長期安定電源推進協会(REASP)との意見交換や、地球温暖化対策実行計画を策定し2050年までの脱炭素化に取り組む横浜市、ペロブスカイト太陽電池を発明した桐蔭横浜大学、ペロブスカイト太陽電池の事業化に向け開発を進める東芝エネルギーシステムズ株式会社を交えた有識者会議を開催したところ、壁面太陽光発電ポテンシャルの定量的な推計について高い評価を得られたとともに、推計結果を基に壁面太陽光発電実現に向けた技術及び制度について議論することができた。個々の屋根面・壁面について推計・分析が可能なため、集計次第で建物スケールから都市スケールまで幅広いスケールでの活用が期待される。

一方、課題としては、実際にはパネルを設置できない箇所(例えば窓面など)が考慮されていないことが挙げられる。

推計範囲全域の日射量および発電ポテンシャルの月次グラフ
みなとみらい21地区における日射量および発電ポテンシャルの月次グラフ
CityGMLに付与された属性

参加ユーザーからのコメント

・太陽電池パネルの性能やコスト、法規制等の課題はあるものの、建物全体を発電所化することで、地域の脱炭素化と地産地消の促進につながると感じた。(REASP 意見交換会でのコメント)
・ペロブスカイト等の次世代太陽光には大いに期待しており、様々な用途での展開や、国産の再生可能エネルギーとして大きく意味があると考える。今回の有識者会議での意見交換も踏まえ、今後の取り組みの参考にしたい。(有識者会議でのコメント)
・3D都市モデル上では設置可能であっても、実際には設置できないというケースもあると思われる。こういったものが考慮されると良い。(有識者へのヒアリング結果)

今後の展望

現在、我が国では再生可能エネルギーの導入が進む一方で、国土における再生可能エネルギー導入適地は減少傾向にあり(資源エネルギー庁「エネルギーの安定供給の再構築に向けた再エネ政策の方向性について」(2022年))、未活用の場所や空間を活用した次世代の再エネ利用への期待が高まっている。内閣官房が2022年12月22日に開催したGX(グリーントランスフォーメーション)実行会議においても、再生可能エネルギーの導入拡大に向け、軽量・柔軟で建物壁面などでの発電が期待されている次世代太陽電池の国内外市場での社会実装を目指し、2025年までに技術確立、2030年までに導入促進策の具体化や関連ルール整備を進めていく見通しが立てられている。

今後、より精緻なポテンシャル推計や壁面太陽光パネル設置検討を可能とするため、窓面などの開口部を考慮することができる建築物モデルLOD3を推計に用いる手法の開発などが必要となると考えられる。また、建築物モデルLOD2の整備がより進むと、屋根面同様、自治体全域での壁面発電ポテンシャルを定量的に把握することが可能となり、建物壁面を含めた都市の太陽光発電ポテンシャルを把握することができると考えられる。システム面では、再開発など新しく建築する建物のポテンシャルを推計するため、特定の位置の3D都市モデルの差替えや編集が可能なUIを持つアプリケーションを開発することで、壁面太陽光発電の導入具体検討に役立てられると考えられる。みなとみらい21地区などの脱炭素先行地域においては、建物から街区、そして都市までのマルチスケールで分析し、壁面太陽光発電の導入促進施策に活用することが期待される。