uc22-028

エリアマネジメント・ダッシュボードの構築

実施事業者アジア航測株式会社 / 復建調査設計株式会社
実施場所広島県広島市
実施期間2022年10月~12月
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エリアマネジメント活動の高度化により、地域価値の向上に資する地域情報プラットフォームを構築。

実証実験の概要

地域の安心・安全・快適な環境づくりや価値向上を目的として、全国でエリアマネジメント団体が活動している。活動の継続性を担保するには、団体メンバー間の円滑な情報共有や、外部に向けて効果的に活動内容を発信するためのツールが必要である。

今回の実証実験では、エリアマネジメント活動状況や効果の可視化、災害発生時を想定した帰宅困難者避難計画の策定支援、イベント情報の配信等に活用可能な地域情報プラットフォームを構築。エリアマネジメント活動の運営の高度化、地域防災力の向上、地域の賑わい創出等における有用性を検証する。

実現したい価値・目指す世界

広島駅は中国・四国の両地方において最大の乗降客数を持つターミナル駅であり、近年は駅ビルを含む駅周辺の再開発が急速に進んでいる。持続可能で活力ある地域を形成していくため、民間主導のまちづくり活動であるエリアマネジメントが重要であり、駅周辺では数年前から駅の南北それぞれで2つのエリアマネジメント団体が地域の安心・安全・快適な環境づくりや、地域の価値向上を目的として活動している。一方で、エリアマネジメント団体や活動の認知度向上、収益事業の構築による運営資金の確保、活動に参画する企業や個人のモチベーション向上等が持続可能なエリアマネジメント活動の課題となっている。

今回の実証実験では、3D都市モデルをベースに地域のイベント情報、バリアフリー情報、災害リスク情報、避難施設情報、来訪者ログ等の様々な地域情報をダッシュボードとして統合・管理することで、エリアマネジメント活動状況の可視化・情報共有や効果分析・評価、帰宅困難者避難計画の策定支援や防災訓練支援、イベント開催時の来場者動線検討やイベント情報の配信等に活用可能な地域情報プラットフォームを開発する。

過去データも含めた様々な地域情報を蓄積し、関係者で共有・活用するための地域情報プラットフォームの構築手法を確立することで、エリアマネジメント活動の高度化、効果的な情報発信、地域の防災力向上、賑わい創出等を実現し、持続可能な地域づくりを目指す。

対象エリアの地図(2D)
対象エリアの地図(3D)

検証や実証に用いた方法・データ・技術・機材

本実証で開発した地域情報プラットフォームは、イベント情報やバリアフリー情報、災害リスク情報などの地域情報を3D空間上で確認できる「3D都市モデルビューワ」と、各地域情報の一覧や集計結果を表やグラフ形式で確認できる「地域情報ダッシュボード」で構成され、建物や場所に紐づいた地点の情報と、地域単位で集計した情報を相互に連携し閲覧できるシステムとして構築した。具体的には、エリアマネジメント活動の実施場所や避難施設情報といったミクロな地点情報と、地域統計情報や災害リスクの集計結果といったマクロな地域データを相互に抽出できるよう、連携・表示させ、可視化を図ったことが特長である。

3D都市モデルビューワはPLATEAU VIEWと同様に3Dデータの描画を行うCesium.js及びその描画機能のUIとなるTerriaJSをベースに構築した。ビューワ上では、広島市3D都市モデルに加え、JR広島駅南北自由通路や帰宅困難者一時滞在施設に指定されている建物等のLOD3建築物モデル、歩行空間ネットワークデータ等を閲覧することができる。また、PostgreSQLのpgRoutingを用いてビューワ上で段差等を考慮した経路検索が可能な機能を開発し、健常者や身体の不自由な方等を含めたイベント時や災害時の移動経路の検討を可能とした。また、ウェブ上のビューワからエリアマネジメント団体が活動情報、写真、コメント等を投稿し、共有できるインタラクティブなシステムとした。

地域情報ダッシュボードはさまざまなデータソースに対応し集計可視化が容易であるMetaBaseを使用して構築した。ビューワ上で登録されたエリアマネジメント活動をダッシュボードとして一覧することができる機能のほか、地域統計情報や災害リスク情報、イベント時の回遊性情報など、地域の状況やエリアマネジメント団体の活動状況を把握するためのデータを確認することができる。また、ビューワとダッシュボードは連携しており、ダッシュボードで選択したエリアマネジメント活動等の位置をビューワで確認することができる。

広島駅周辺LOD3
WGの様子

検証で得られたデータ・結果・課題

民間事業者や行政、町内会などから構成されるエリアマネジメント団体会員に向けて地域情報プラットフォームを体験するワーキングを開催した。その上で、3D都市モデルビューワと地域情報ダッシュボードの操作性や各機能性の良否を把握するアンケート調査を実施した。その結果、会員の7割以上から3D都市モデルビューワと地域情報ダッシュボードを連携したことで、知りたい情報を瞬時に把握できて良かったと高い評価を得た。

LOD3建築物モデルとともに災害リスクが3D表示された点は、会員の6割以上から従来のハザードマップよりわかりやすいと評価を得た。歩行空間ネットワークデータによって移動経路が3D表示された点については、建物のどこを通るべきかまで詳細に把握できるとともに、従来の経路検索にはないバリアフリーな視点による経路検索機能であるとの評価を得た。

一方で課題として、3Dの画面操作や見たい情報の表示方法が複雑であるため、誰でも簡単に操作出来るようUI・操作性の改善を求める意見があった。経路検索機能については、発災時に安全な避難経路を選択できるよう、浸水情報等の災害関連情報をリアルタイムに反映してほしいとの要望もあった。また、エリアマネジメント団体が主催するイベント結果を定量的に分析するために搭載データの充実が求められた。

今後、システムの高度化に向けて詳細な人流データ、既存アプリデータとの連動など、エリアマネジメント団体会員のニーズを踏まえた機能強化を図っていく必要がある。

3D都市モデルと浸水リスク情報
エリアマネジメント活動登録画面
経路検索結果
エリアマネジメント活動表示画面(3D都市モデルビューワ/地域情報ダッシュボード)

参加ユーザーからのコメント

・様々な情報が一元化され、かつ定量的データが視覚的に整理されていて分かりやすい点がよい。
・ダッシュボードと3Dビューワの情報を同一画面で表示される方が利用しやすい。
・浸水の様子など防災に関する情報は災害時の駅周辺のイメージがつかめるため、3Dで再現する価値がある。
・回遊分析情報はエリアマネジメント団体が開催したイベントの効果検証という点で有用である。
・経路検索機能はペデストリアンデッキや駅の南北自由通路の中も3D都市モデルと組み合わせて経路を見られる点はよいが、鉛直方向の移動の表示を色分けするなど工夫してほしい。スマホアプリで検索できると利便性が向上する。
・気象情報のリアルタイム表示があれば、発災時に危険な箇所をさけた経路検索ができるのではないか。

今後の展望

エリアマネジメントにおける地域社会の課題解決には行政、民間事業者、町内会が連携して取り組むことが求められており、組織の枠を超えて合意形成を図ることが重要である。今回構築した地域情報プラットフォームは、エリアマネジメント活動を持続的な活動につなげるための幅広い機能の実装に加え、地域に関する様々な情報を集約しているため、立場の異なるエリアマネジメント会員間における認識の共有や、迅速な合意形成への活用が期待される。

また、実施したアンケートからはシステムの改善点も見えた。誰にでも使いやすいシステムを目指し、チュートリアル等を整備するなど、操作方法等をわかりやすく説明する機能の付加を検討する。さらに、より手軽で容易なシステム利用に向けて、スマホで操作できるよう機能実装を図りたい。

併せて、様々な実態を把握する上で、各種データとのリアルタイムな連携も目指したい。例えば、建物フロア別の人流データのリアルタイムな分析が可能になることで、商業施設のマーケティングなど多面的な応用にも期待できる。

その他、各エリアマネジメント団体において、活動情報の登録が継続的に実施されることで、エリアマネジメント活動情報の2次利用も容易になる。今後も、エリアマネジメント団体が利用しやすいシステムの構築に向けて改善を図っていく。