まちづくり教育ツール
実施事業者 | 東日本旅客鉄道株式会社 / インフォ・ラウンジ株式会社 / 株式会社日建設計 / 特定非営利活動法人放課後NPOアフタースクール |
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実施協力 | 一般社団法人高輪ゲートウェイエリアマネジメント / 株式会社JR東日本建築設計 / 港区教育委員会 |
実施場所 | 東京都港区 高輪ゲートウェイ駅周辺地域 |
実施期間 | 2022年5月〜12月 |
子どもたちのアイディアを形にするまちづくり教育ツールを開発。市民参加型まちづくりの促進を目指す。
実証実験の概要
都市における生活や働き方が多様化する昨今、様々な市民が主体的にまちづくりに関与していく市民参加型まちづくりの重要性がますます高まっている。参加意識の向上の観点からは、特に次世代のまちづくりを担う子どもたちに対するまちづくり教育の充実が重要である。
今回の実証実験では、地域の子どもたちを対象として、3D都市モデルを活用したまちづくり学習ツールを開発し、市民参加型まちづくり促進を目指す。
実現したい価値・目指す世界
まちづくり教育を充実させるためには、子どもたちがまちの創り手となれるような体験を提供し、子ども目線の多様なアイディアやコンセプトを可視化・共有しながら議論することができる環境を用意するなど、楽しみながらコミットメントを引き出す仕組みが必要となる。
今回の実証実験では、3D都市モデルをベースに高輪ゲートウェイ駅周辺地域の街並みがわかるデジタルツインを構築し、子ども向けにARタグ付けアプリと3Dモデリングツールを整備する。ARタグ付けアプリでは、フィールドワークをしながら「お気に入りの場所」や「まちの気になるポイント」などをAR画面上から建物等の地物に紐づけたタグとしてコメントできる体験を提供し、子どもたちのまちを見る視点を可視化する。3Dモデリングツールでは、ARタグ付けアプリから収集したコメントやワークショップを通じて生まれたアイディアなどを3D都市モデルをベースに再現し、臨場感や手触り感のある教育プログラムを提供する。これらを通じて、3D都市モデルを活用したまちづくり教育の有用性を検証する。
検証や実証に用いた方法・データ・技術・機材
本実証実験では、港区立高松中学校の協力のもと、3D都市モデルを活用したまちづくり教育の課外授業を行った。この授業で利用するツールとして、「ARタグ付けアプリ」を開発した。このアプリを用い、フィールドワークで収集したARタグを可視化するためのPLATEAU VIEWを構築した。
ARタグ付けアプリは、現実の都市空間に紐づけてユーザーがコメントや写真などを「タグ」として投稿できるスマートフォンやタブレット向けアプリであり、それらのデバイスのブラウザ上で動作するウェブアプリとして構築した。バックエンドに firebase 、フロントエンドに next.jsと3D の描画に AR.js及びThree.js を採用しており、GPSの情報をもとにしてカメラ映像上に3D都市モデルを重ねて投影できる。タグ付け操作には2D地図モードとARモードを用意しており、いずれも画面上からタグ付けする建物を選択して、分類、コメント、画像等をアップロードする。アップロードされた情報はデータベースに蓄積され、ユーザーが相互に閲覧したり検索したりすることができる。タグ付け対象の建物は3D都市モデルを加工して作成した。また、収集したタグ情報をPC上でも一覧表示できるようにするため、GeoJSONで情報を出力するAPIを実装し、PLATEAU VIEW上で3D都市モデルとあわせて表示できるようにした。なお、寺院の建物や碑文など3D都市モデルに含まれない地物も対象にする必要があったため、タグ付け専用のオブジェクトを3D空間内に配置して、周囲の情報をタグ付けできるようにした。
また、収集したタグ情報をもとに、まちをより魅力的にするためにはどのようなまちづくりが必要かを考えるまちづくりワークショップを開催した。ワークショップでは、生徒が都市に紐づけられた様々なタグ情報を参考にしながら、都市開発の提案を行った。生徒の提案内容をわかりやすくビジュアライズするため、生徒がデザインした建物を3Dモデル化し、3D都市モデル内に配置してプレゼンテーションに利用した。生徒は展開図のテンプレートを用いて建物のデザインを描き、それを画像として取り込み、Blenderでモデル化しfbx形式に貼り付け、Twinmotionに取り込み表現した。
上記ツールを使った課外授業は全4日程を開講し、21名の有志生徒が参加した。全体のテーマを「つなぐ」として、高輪ゲートウェイ駅前の開発に寄せ、5班にわかれて高輪のまちにあったら良いと思う建物をデザインし、3D都市モデル内に再現する内容とした。初日は座学による地域学習、2日目はフィールドワーク、3日目は建物のアイディアを議論しデザインを作成、4日目はグループでつくりあげた成果を開発事業者(JR東日本)や行政(港区等)、エリアマネジメント団体、教育関係者に向けてプレゼンテーションを実施した。
検証で得られたデータ・結果・課題
ARタグ付けアプリを用いたフィールドワークでは、まちの良いところ、悪いところ、将来に向けたアイディアをARタグとして収集した。約1時間で各班平均35個、一人平均8個のタグが付けられ、各生徒が主体的にフィールドワークによる地域理解や魅力の発見に取り組む様子がうかがえた。従来のARアプリと異なり、今回のアプリでは現実に存在する建築物等の地物に紐づけて情報を作成・管理できるため、タグ付けの意図や狙いをより解像度高く表現することができた。
また、生徒がタグ付けした内容をPLATEAU VIEW上で相互に一覧で閲覧することができることで、都市の構造を俯瞰で把握しつつ、同じような意見が多く集まった箇所や、逆にユニークな着眼点が示された箇所など、情報を共有しつつ議論を進めることができた。
都市開発のアイディアをTwinmotion上でビジュアライズしたデザインワークでは、Twinmotion上で三次元空間としてビジュアライズされた静止画や動画を活用することで、生徒たちのプレゼンテーションの幅を広げることができた。成果発表会の参加者にとっても、発表内容の理解を深める助けとなった。また、展開図からオリジナル建物をデザインし、3D都市空間上に簡単に表示できる仕組みは多くの生徒から好評であり、これにより、体験価値の向上だけでなく、アイディアのオリジナリティが増すなど、先生から普段の授業でアイディア出しを伴う場面と比較してアウトプットの質・量ともに向上したという評価を頂き、アウトプットの質・量の改善に対する有用性が確認できた。
一方で、当初予定していたプログラムスケジュールのうち準備期間の3日間(計5時間)ではディスカッションやアイディア検討、発表準備の時間が足りず、追加時間の確保が必要となった。ARタグ付けアプリにより直感的かつ簡単に気づきを記録することができたことから、得られた様々な情報から班ごとにインサイトを得るにはより時間が必要であり、さらに建物デザインに昇華させるまでに時間を要したと考えられる。また、オリジナル建物のデザインでは、3Dモデリングツールの利用が困難であると想定し展開図を紙に印刷したものを配布し、手書きでデザインを施してもらったが、実際には各自が授業で使っているiPadのカメラを使って展開図を取り込み、iPad上でデザインをする生徒もいたことから、iPadを使って3D上でデザインをさせるなどの生徒たちのデジタルリテラシーに合わせたワークショップ作り込みの必要性も明らかとなった。技術面では、ARの位置合わせは端末のGPS精度に依存しているため、実風景に建物等の地物モデルを重ねる際のズレが生じるという課題も見つけられた。
参加ユーザーからのコメント
【生徒からのコメント】
・自分の住む街についてあらためて考えることができ、とても楽しいプログラムだった。
・PLATEAUを活用したタグ付けアプリのおかげで発表の幅が広がった。
・まちづくりの色々な視点を知ることができて良かった。
・再開発を自分たちの手で考えられることがすごくワクワクしてとても楽しかった。
・3D上に表現するという経験がとても貴重で楽しかった、また参加したい。
【教育関係者からのコメント】
・子どもたちにとって充実した学びの機会となった。
・「高輪」というテーマで行われたが、港区立中学校10校すべてで同様の取り組みが可能だと思う。今回の取り組みが広くいきわたることを期待している。
【保護者からのコメント】
・課外授業で地域を学ぶだけでなく、子どもたちにとって身近なものとなりつつあるデジタル技術についても学習できる環境はありがたい。
・自分と異なるバックグラウンドを持つ人にとってどの様なまちであるか、あるいはどの様なまちにしたいか、という視点で街を見られるようになり、子どもたちにとって大きな学びがあった。
【港区からのコメント】
・市民参加型のまちづくりの場で、市民の声を拾う際に具体のイメージを貰うことも可能と感じた。
【学識からのコメント】
・まちのことをいつもと違う視点で考えるツールとして面白い、活用可能性があると感じた。
・本教育プログラムは、学習指導要領に沿ったカリキュラム等に組み込める可能性があり、全国のさまざまなまちづくりの授業での活用が期待される。
今後の展望
本実証実験にて得られた結果から、今後はより親和性の高い歴史や地理等の学習テーマと絡めたプログラムを設計し、検証を進めていきたい。また、子ども用の玩具ブロックや粘土を使うなどして形状を作成したものを3Dスキャンし、3D都市モデル内に再現するというような手法によって参加者の自由な発想を表現してもらうことで、多様な成果が得られるような取組へと発展させていきたい。
今まで図面や模型を用いて検討していたまちづくりの過程に、3D都市モデルを活用したARタグ付けアプリ、ARタグ可視化ツール(PLATEAU VIEW)、3Dモデリングツール等を組み合わせることで、意見伝達・集約と、アイディアを3次元空間上に即座に可視化することが容易になり、参加者同士のわかりやすいコミュニケーションや合意形成に寄与し、市民がまちづくり検討に参加しやすくなると考えられる。
また今回の教育プログラムがデジタルリテラシー向上及び街への愛着醸成に対して有用であることが確認された。今後はまちづくり教育プログラムとして広く展開していくとともに、教育現場以外でも多様な市民参加型のまちづくり検討用ツール・プログラムとして応用範囲の拡大を目指していきたい。